大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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どんなに安直な努力でも、やらないで終わった後に愚痴るよりはマシ。

 バレンタインの日が近くなるに連れて、俺の計画も加速して行った。チョコを貰うアピールは、何も金だけじゃないことを学んだ。

 しばらく、仕事に対する取り組みを人一倍の力でこなす。事務所のどこを舐めても良い、と思えるくらいまで綺麗にゴシゴシと掃除に力を入れる。

 力を入れるのは掃除だけではない。たまにくるプロデューサーさんからの無茶振りも全て応えた。

 

「小宮くん、今日お客さん来るから、お茶菓子の準備を手作りで頼む! 先方は君の手作りがお気に入りだ! あと10分で!」

「了解です!」

「小宮くん、悪いけど俺の代わりに恋鐘を迎えに行ってくれ! 20分以内に!」

「分かりました!」

「小宮くん、結華の髪を頼む! 三つ編みとサイドテールで!」

「任されて?」

 

 ゾーンに入った俺を止められる奴はいない。片っ端から仕事を片付けていく。特に、20分以内に迎えに行った時は死ぬかと思った。近くの現場とはいえ、タクシーの運ちゃんを引くほど急かさせた。

 そのうち「283プロダクションには、幻のアルバイトマンがいる」とか言われそうだ。てか、言われないかなー。

 そんな俺に、大崎がニコニコしながら褒めてくれる。

 

「さ、最近すごいね……ヒデちゃん」

「まぁな。大崎もすごいじゃ……んむっ⁉︎」

「……何?」

「な、なーも……すごいですね?」

「うん。良し」

 

 未だにそこだけは慣れねえ。だって、なんかバカっぽくない? なんだよ、なーって。猫の鳴き声かっての。

 現在、俺となーは二人でカフェに来ている。あれから数日が経過し、今日は学校が休みの日なので、二人で外に飯食いに来た。

 ボンヤリとパスタを啜っている俺に、大崎が心配そうに声を掛けてくる。

 

「でも、無理してない? 大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「と言うか、なんでそんなに頑張ってるの?」

「え?」

 

 そんなん決まってるでしょ。チョコのためだよ、と言いたかったが、堪えておいた。ていうか、冷静に考えると、もしなーが俺の事、本当に好きなのだとしたら、たくさんの女の人からチョコをもらおうとしてたら俺は、かなり悪いやつになってるんじゃ……。

 ……でも、友チョコとか義理チョコ貰うくらいなら別に良いんじゃないの? ダメなのかな? 

 

「……なんでだと思う?」

「もしかして……バレンタインでチョコたくさん欲しいから?」

「……」

「ふーん……そうなんだ?」

 

 あ、これあかん奴だ……。やっぱり、ダメですか……? 

 

「べ、別に良いだろ! 俺今まで一回もチョコもらった事ないんだから! 紙袋いっぱいに持って帰るチョコとかやってみたいんだよ!」

「別にダメなんて言ってないよ?」

「え?」

「ヒデちゃんのことは一応、分かってるつもりだし、男の子な事も分かってるから」

「……」

 

 ……え、ちょっ、分かってるって……そんな、思いが通じ合ってる、みたいな言い方するなよ……。少し、緊張するだろうが。

 もう既に心音が高鳴り始めていたが、そんな俺に追い討ちを掛けるかのように、なーは俺の腕にしがみつき、上腕二頭筋に頬を置く。

 そして、少し恥ずかしそうにしながらも、俺の耳にしっかり届くようハッキリと言った。

 

「そ、その代わり……甘奈が作ったチョコレートを……一番、味わって食べて、ね……?」

「……」

 

 浄化された。何もかもが。まるで超巨大扇風機を浴びたかのように吹っ飛ばされるかと思った。いや本当に。

 しかも、さりげに「チョコあげる」って言われちゃってるし……なんか、もうこれ、なーのチョコひとつで俺満足しちゃうのでは……? 

 味わって欲しい、とか言っちゃってるし……も、もしかしたら……俺の好みとか、知りたかったりする、のかな……。

 

「……なぁ、なー……?」

「っ、な、何? どうしたの、ヒデちゃん?」

「俺は……こ、こう見えて……生チョコが、好きだったりするんだけど……」

「……え?」

 

 あ、やべっ。バレンタインチョコのリクエストとか俺何言ってんだ? キモ過ぎだろ! 

 

「な、なんてな! 冗談冗談! 別になーからのチョコならなんだって良いかな! ハハッ、ハハハッ……!」

「……わ、分かった」

「な、何が?」

「頑張ってみるね。ヒデちゃんのためだから☆」

「……」

 

 ……な、なんて良い子なんだ……本当に大崎甘奈かお前……? もうなんか思いっきり、心臓を射抜かれたような、そんな感覚だ。

 

「……」

 

 俺も、バレンタインだからって貰うばかりで良いのかなぁ……。逆チョコ、みたいなのってありそうだけど、無いのかな? 

 まぁ良いや。とりあえず聞いてみるか。

 

「あ、あー……なー。なーも、食べたい?」

「? 何を?」

「チョコ」

「えっ、逆チョコくれるのっ⁉︎」

 

 あら嬉しそう。そんなキラキラした笑みをされると、思わず心が汚れている俺は目を逸らしてしまう。

 

「……ほ、欲しいなら……みんなの分、作るけど……」

「うん! 欲し……あ、いや……やっぱいいかも……」

 

 えっ、な、なんで……? あれ、もしかして最近の俺の料理不味い……? 何それ死にたくなってきた……。

 そんなのが少し顔に出ていたのか、なーは慌てて弁解するように言った。

 

「……あ、ううん。違うの! ヒデちゃんのチョコがいらないとかじゃなくてね? ……その、普通に……ホワイトデーもある、から……逆チョコを用意してくれるなら、甘奈だけに用意して欲しいなって……」

「……」

「……ダメ、かな」

 

 ……クッソー。ホント、なんかこう……これだよ。俺が求めてた青春みたいな奴は。最初こそ、仲悪かったけど……でも、なんかこう……男女で仲良くしているのがもうとても楽しくて……嬉しくて、なんか心地良くて……。

 ああああ、これが「友達と親密になる」って奴か! サーヴァントの絆レベルが上がるより、余程有意義だ! 

 

「わ、分かった……」

「や、やった……! えへへ……」

 

 嬉しそうにはにかむのやめてー! 可愛いからマジでー! 

 

「じゃあ、バレンタイン当日は、仕事終わったら何処か行こっか?」

「えっ、ど、何処かって……?」

「例えば……そうだな。ナイトデ○ズニーとか」

「っ……」

 

 そ、それは高校生の青春を超えてやがる……! 良いのか? 本当に良いのか⁉︎

 

「い、行く、か……?」

「ヒデちゃんさえ、良ければ」

 

 にこりと微笑んだなーは、少し恥ずかしそうに頷く。ナイトデ○ズニー、大学3年〜4年の少し落ち着きが出てきた学生や、20代の社会人のカップルがしていそうなデート……おそらく、その夜にはリゾートで泊まり、大人の時間を……。

 

「死ね俺ッ‼︎」

「どしたの急に⁉︎」

 

 こんな純情な女の子を穢れた目で見るな! そもそもまだ付き合ってもねえだろ! ……あれ? じゃあ俺となーの距離感ってなんなんだ? 付き合ってないけど……でも、なんか友達と呼ぶも違う気が……というか、俺自身が嫌だな、なんか知らんけど。決して友達以下とか、そういう意味ではないが。

 ちょっと、聞いてみるか。

 

「なぁ、なー……」

「ふ、二人とも……お待たせ……にへへ」

「あら、もう食べ終えちゃったのね」

 

 声をかけた直後、後ろから聞き馴染みのある声が割り込んでくる。甜花と桑山さんがなーの隣に座った。

 

「うん。……あ、二人とも! バレンタインの日ね、ヒデちゃんとナイトテ○ズニー行くんだ。二人も行かない?」

「にへへっ……た、楽しそう……」

「でも……良いの? 甘奈ちゃん」

「何が? みんなで行った方が楽しいし……それに、甘奈とヒデちゃんだけじゃ、年齢的に止められちゃうよー」

「そっか……そうね」

 

 っ、あ、だ、だよね……なんか、勝手に二人きりだと思ってたわ……。そもそも、俺と二人きりが良かったら、もっと別の場所を指定してるよな……。なんか、舞い上がっていたかもしれない。

 ま、なんだ。何も悲観することは無いよ。大さ……なーと一緒にいられるだけで、俺は楽しいし心地良い。

 

「……ヒデちゃん、どうしたの?」

「何でもないよ」

 

 なーに聞かれたが、首を横に振るう。大した事じゃない。

 

「それより、ヒデちゃん。さっき甘奈に何か言おうとしてた?」

「いや、全然?」

「嘘。甘奈が、ヒデちゃんが呼ぶ『なー』を聞き逃すわけないじゃん」

「っ」

「あらあら♪」

「な、なーちゃん……すごい乙女力……!」

 

 直球やめろ、照れちゃう、なんて思ったが、そんな俺の逃げをさせないように、なーは目の前に顔を近づける。もうホント、鼻と鼻がくっ付くくらい目前まで迫られてる。お嫁に行けちゃう。

 

「ねぇ、なんて言おうとしたの⁉︎」

「っ、な、なんでもないって……!」

 

 言えるわけないじゃん! 自分とお前の距離感を聞こうと思った、なんて! さっきなんで何となく聞いてみようと思ったのかさえ分かってないんだから! 

 ちょっ、桑山さん、甜花! 助けて……! 

 

「……(ワクワク)」

「……(ソワソワ)」

 

 お前らぶっ飛ばすぞほんと! 二人揃ってなんだその顔⁉︎

 どうしよう、と迷っていると、電話がかかって来た。プロデューサーさんからだ。

 

「ちょっ、ごめん。電話」

「あっ、逃げちゃダメ!」

「いや仕事だから」

 

 適当に誤魔化しながら、店の外に出て電話に出た。

 

「もしもし?」

『すまん、小宮くん! 悪いけど結華の事、迎えに行ってあげてくれないか? 電車賃はあとで渡すから!』

「アイアイサー!」

 

 よっしゃ、ナイスタイミンっ! カフェで食う飯なだけあって、会計は商品引き換えと共に終わっている。つまり、このまま出られる! 

 でも黙って行くのは申し訳ないので、電話してから行くことにした。メッセージだと少し素っ気ない気もするからね。

 

「もしもし、なー?」

『あ、ヒデちゃん? どうしたの?』

「いや、悪い。ちょっとすぐ仕事行かないとだから、このまま行くわ」

『えっ、いやさっきの話は……』

「え、なんだって? ノイズが酷くて何も聞こえないよ!」

『わざとらしい! 嘘つ……』

「桑山さんと甜花によろしくっ」

 

 電話を切って、早足で迎えに行った。いや迎えに行くのはほんとの事だし。

 

 ×××

 

 三峰さんのお迎えを終えて事務所に戻ったときには、なーも甜花も桑山さんもいなくなっていた。

 現場に行ったのか帰ったのかは知らないけど、まぁひとまず助かった。俺もそのあとは夕方くらいまで仕事を終えて、終業時間になった。……になったのだが、まぁもう少し頑張る事にした。チョコ欲しいから。

 頑張っている姿を見せれば、もらえるかもしれないしね? 果穂も、まだ同じユニットのメンバーと談笑でもしながら着替えている最中みたいだし、ギリギリまで頑張っていこう。

 事務所の階段下で掃き掃除をしていると、横から歩いてくる人影に声をかけられる。

 

「あれ、小宮さん。もう終業時間過ぎてますよ?」

「あ、はづきさん。お疲れ様です」

 

 相変わらずなんでこの人もアイドルやらないんだろうってくらい綺麗な人だな。マフラー超似合うし。……この人からもチョコとかもらえるかな。

 

「いや、まだ妹着替えてるみたいなんで、待ってる間だけでもお手伝いしようと思いましてね」

「待っている間くらい、体を休めてください。最近、忙しいでしょう?」

「大丈夫ですよ。こう見えて根性は誰にも負けた事ないので」

 

 そんな話をしている時だった。上から「お兄ちゃん!」と声が聞こえて来る。顔を上げると、果穂が降りて来ていた。

 

「お待たせ!」

「あ、きた。10秒待ってて。ほうきとちりとり片付けるから」

「あ、いえ。私が片付けておきますので、小宮さんは休んで下さい」

「え……良いんですか?」

「はい」

 

 ……じゃあ、お言葉に甘えるか。

 

「じゃあ、はづきさん、お疲れ様でした。お先に失礼します」

「はい。果穂さんも、お疲れ様です」

「お疲れ様です!」

 

 それだけ話して帰宅し始めた。さて、とにかく頑張るぞ。俺! 

 

 

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