大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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二人の世界に入り浸った結果。

 翌日、体調は少し回復したが、今日も大事を取って仕事は休み。てか、まだ熱下がり切ってないし。

 またちょっと頭が寝ぼけているが、とりあえず廊下は歩ける。ぼんやり下に向かい、ぼちぼち朝飯でも食うかーなんて思ってリビングに入った。

 

「はよーっす……母ちゃん、朝飯食った?」

「あら、おはよう。ヒデ」

「ヒデちゃん、おはよー☆」

「はよ、なー。食ってないなら、リハビリがてら俺が作るよ。……っげほっ、ぇほっ……!」

「衛生面。甘奈が作るから席でマスクして待っててね?」

「ゔっ……す、すまん……」

 

 クッ……朝起きて自分の飯も用意できないとは……我ながら情けない。

 仕方ないので、すごすごと食卓につき、しばらく待機。台所では、母親となーが楽しそうに料理をしている……いや、母親がなーに指導しているのだろう。

 なんつーか……花嫁修行? でも見ている気分だ。

 にしても……なーが、花嫁か……。あいつのウエディングドレス姿は、それはさぞ似合うことだろう。なんか、今から見るの楽しみになって来た。

 ……あれ? つーか、俺今……なんで俺があいつの花婿みたいな妄想してんの? なんか、余りにもうちの台所に立つ甘奈がしっくりきてて……。

 

 ──つーかなんでなーがうちで朝飯作ってんの? 

 

 俺の疑問の直後、朝食が完成したのか、エプロンを身に纏ったなーが、朝ご飯を俺の前に運んでくれる。味噌汁、焼き鯖、白米、お漬物とオーソドックスなメニューだ。

 

「お待たせ、ヒデちゃん。冷めないうちに食べて?」

「お、おう……?」

 

 ……いや、食べて? じゃなくて。

 

「お前なんでここにいるの?」

「……ふふっ、勿論ヒデちゃんの看病だよ?」

「いや勿論とか言われてもな……」

「朝早くあなたのお見舞いに来てくれたのよ。ホント、良い子ね」

 

 母親が付け足すように言う。ホント、そういう気持ちは嬉しいけど……良いの? 甜花の事は放っておいて。あいつまた一人で家で拗ねてるんじゃ……。

 

「なーちゃん……甜花もご飯、食べる……!」

 

 お前もいんのかよ……。てかお前は本当何しに来たの? 人の家のテレビ占領してゲームやってんなよ。

 甜花がそそくさと俺の隣に座り、甘奈は俺の向かいに腰を下ろす。

 甜花の前にも料理が運ばれた。

 

「じゃあ……えっと、いただきます……?」

「にへへっ……ヒデくん、緊張してる……」

「う、うるせーな……」

 

 なんか、こう……女の子に朝食作ってもらうのは初体験なんだよ。いや、だって普通、朝食作ってもらう機会なんかないし。ましてや、出来立てホカホカのご飯なんてあり得ない。

 そんな話をしながら、俺は早速、朝飯に手をつける。まずはお味噌汁から。

 ズズズッ……と、汁を口に含む。白味噌の控えめな甘み、ワカメとネギ、ナメコとシンプルな具は、俺の好みを知り尽くしている母親らしいチョイスだ。

 思わずほっと一息付いてしまう一品。そんな俺の顔色を伺うように、甘奈が緊張気味に頬を赤らめて聞いてきた。

 

「ど……どう?」

「なーちゃん……ヒデくんより緊張してる……」

「て、甜花ちゃん……!」

 

 茶化すように言われ、甘奈は頬をさらに赤くする。可愛いなほんと……っと、うっとりしている場合ではない。言うべきことは言わないと。

 

「お、美味しいよ……」

「え、えへっ……えへへっ……」

 

 あ、やばっ……ダメだ。かわい過ぎて直視出来ない。おい、ホント何度も思うけど、本当にこれが初対面で「夜道に気をつけてね?」とか言ってきた大崎甘奈かよ。

 

「ま、まぁ母ちゃんがレクチャーしたんなら、それくらいできて当然なんだけどな! あはっ、あははっ……」

「……そ、そっか……」

「……あーあ……」

 

 っ、い、言わなくて良い事、だったか……? 

 思わず冷や汗が頬を流れ落ちる。すると、母ちゃんがため息をつきながらなーに声をかける。

 

「ごめんなさいね、甘奈ちゃん。そんなダメ息子で」

「い、いえいえ……照れ隠しって分かってますし、それが分かれば可愛いものですから」

「……おい、なー……けほっ、けほっ……」

 

 くっ……このタイミングで咳はやめろ……。

 案の定、なーはニコニコしながら俺に正面から声をかけてくる。

 

「ほらほら、ちゃんと食べないと治らないよ?」

「っ……わ、分かったよ……」

「っ、も、もし……食づらかったら……食べさせて、あげようか……?」

「っわお」

「なーちゃん……本当に大胆……」

 

 外野がうるせえんだが……でも、俺よりも恥ずかしいはずの甘奈が、顔を赤くしたまま耐えて俺の返事を待っているのだから、文句は言えないし言うわけにもいかない。

 何より……これ「恥ずかしいからいいです」とか絶対言えないよね。

 

「じ、じゃあ……よろしく……」

「う、うん……あーん……」

「っ、あ、あーん……」

 

 お漬物を口まで運ばれる。……俺は母親の前で何をさせられてるんだろうな……。

 そんな考えが頭に浮かんだまま、なーの手で朝飯を完食した。

 

 ×××

 

 その後、一度寝てから、改めて目を覚ました。しかし……改めて甘奈と甜花には迷惑をかけた。また何か埋め合わせしないとな……。

 さて……もうほとんど体調も戻ってきたし、チョコ食うか。そう決めて身体を起こすと隣にはまだ、なーがいてくれた。

 

「あ、起きた?」

「……まだいたんだ」

「っ、め、迷惑だった……かな……」

 

 っ、さ、些細なセリフで傷つくなよ……。

 

「な、なわけないだろ……」

「そ、そっか……にへへ……」

 

 甜花の笑い方移ってる! あーもうっ、なんだこれ。やりづらいなぁ! 

 

「今、何時?」

「まだ11時だよ」

 

 昼には少し早いな……朝も割とガッツリ食べて腹は減ってないし……今こそ、チョコレートの出番なのでは? 

 

「……あー、なー?」

「……穴?」

 

 うん、いつかそういう聞き間違いが出ると思ってた。

 

「あの……そろそろこのあだ名やめても良い? 普通に『甘奈』じゃダメ?」

「……つーん」

「あの、じゃあせめて代案ない?」

「え……自分のあだ名を自分で考えるって……や、まぁ良いけど……」

 

 頬を赤らめながらも、甘奈は顎に手を当てて考え始める。正直、甘奈って名前クソ可愛いから、それで良いと思うんだけどなぁ……。

 

「あ、じゃあ……あまにゃんっていうのは⁉︎」

「メイド喫茶に憧れでもあるの?」

「ごめん……自分で言ってて恥ずかしくなった……」

 

 あずにゃんかよ、というツッコミが浮かぶのは俺だけじゃないはず。甜花でも同じこと思っただろうな。

 でも……まぁ、さっきはああ言ったけど、俺も特別な呼び方、というのは理解出来る。どうしようかな……。まぁ、他の人はもう下の名前で呼んじゃってるし……。

 ……なら、いっそのこと……呼び方より関係を進める他ないのか……? でも、俺は甘奈のことをどう思っているのだろうか……。好きなのかな……初恋もまだだからいまいち分かっていないんだけど……。

 でも、顔を見るだけで最近、少し緊張して、挙動の一つ一つに胸が高鳴る事もあって、ずっと一緒にいたいと思えるのは確かに甘奈だけ……。

 あれ……これひょっとして俺……だとしたら、まさか相思相愛? なら、付き合っちまった方が……。

 

「な、なぁ、甘奈……」

「な、何?」

「もし、俺が……」

「? 俺が?」

 

 ……いや、まて。まだ甘奈に俺が好きだって言われたわけじゃなくない? いやチキったわけじゃなくて、もしかしたら俺の思い込みである可能性はゼロじゃないわけで……そもそも一緒にいて一番楽しい相手ってだけで、甘奈のことが好きだと決まったわけじゃないし……うん、勢いで告白するのはよそう。別にチキったわけじゃないけど。

 

「な、なんでもない……」

「な、何⁉︎」

「あ、じゃあ……えっと……な、なんだ。わざわざ名前をもじらなくても良いんじゃない? 例えば……甘奈の特徴を捉えた呼び方、みたいな……」

 

 追撃は面倒だったので、代案を出してみた。まぁ、割と悪くない聞き方なんじゃないの? 

 

「たとえば……大崎妹とか」

「その例えは却下」

「あ、う、うん……」

 

 甘奈の特徴、か……ジッ、と甘奈を眺める。ぱっちりとした瞳、ギャルっぽく見える反面、何処か純粋無垢で幼い顔立ち、長いまつ毛、形の良い唇、健康体そのもののほんのり赤い肌、腰まで伸びた綺麗なチョコレート色の髪と、右側で分けられたオシャレな前髪、全てが特徴と言えるから、ここからあだ名を考えるのは……と、思っていると、いつの間にか顔を赤くした甘奈は、俺の顔面を奥へ押しのける。

 

「っ、み、見過ぎだから……!」

「いや、綺麗な顔してるなって……」

「ば、バカ……!」

 

 っ、や、ヤベッ……なんでそんなナンパみたいなこと言った俺……⁉︎

 

「ご、ごめっ……」

「いや……謝らなくても良いよ……普通に、嬉しいし……」

「っ、う、嬉しいって……」

「それより……そ、その……綺麗な顔から、あだ名は浮かんだ……?」

 

 自分で言ったー! なんておちょくる気にはならなかった。だって先に言ったのは俺だし……本当に、綺麗だし。

 そうだ、とりあえずさっきの特徴からあだ名を考えないと。

 

「じゃあ……パッチリお目目甘奈とか?」

「だ、ダメ!」

「うーん……なら、純粋まっすぐちゃん甘奈は?」

「ダメに決まってるったら!」

「ロングまつ毛甘奈」

「まつ毛くらい英語で言いなよ! ダメ!」

「じゃあ……えっち唇甘奈とか……」

「あ、あのっ……ま、待って! お願いだから!」

 

 あれ、なんだろ……なんかさっきより急激に顔が真っ赤になって……あれ? つーかこれ……俺、甘奈の顔で見てたとこを言ってただけじゃね……。

 俺も顔が赤くなった……つーか何なら熱が上がった事さえ感じた中、甘奈が真っ赤になった顔を片手で隠しながら答えた。

 

「……甘奈で良いので、これ以上は勘弁して下さい……」

「……ご、ごめん……」

 

 思わず謝っちゃったよ……。なんか、俺マジで少し頭回ってないな……。なんか気まずくなっちゃったし……話逸らさないと……。

 

「あ……そ、そうだ! 昨日のチョコ、食べて良い?」

「あ、そ、そうだね! 食べよっか! 今、取ってくるね。冷蔵庫に入ってるから!」

「お、おう!」

 

 そのまま甘奈は、部屋を出て行った。

 ふぅ……危なかったな。あの様子だと、ドン引きしてるわけじゃなかったと思うけど……でも、少し辱めちゃったし、謝った方が良いよな……。

 そうこうしている間に、甘奈が引き連れて戻ってきた。

 

「お待たせー☆」

「そういや、甜花は何してんの?」

「下でお昼寝してたよ」

「え、いや……あの、ここ俺ん家……」

 

 すごいなあの子。お構い無しだな。

 

「……そういえば、この中に甜花のチョコも入ってるの?」

「入ってるけど……どうして?」

 

 あれ、目が笑ってない。なんでだろ。

 

「いや……甜花がチョコを作る姿をいくら想像しても、ボウルを頭から被ってココアパウダーまみれになってる姿しか思い付かなくて……」

「あ……あー、そういう意味ね☆ その甜花ちゃん可愛いね。……絵で表現できる?」

「甜花の許可さえ降りれば余裕」

 

 少しいつも通りの様子に戻しながら、甘奈が早速紙袋からチョコを取り出す。

 

「じゃあ、まずは誰の食べる?」

「甘奈の」

「え、い、いきなり……?」

「そりゃそうでしょ。……甘奈のを、一番味わって食べるって、約束したし……」

「っ、そ、そっか……」

 

 その嬉しそうで恥ずかしそうな顔やめて……ガノトトスの腹を鬼哭斬破刀・真打で掻っ捌いてるようなもんだから……。

 

「で、どれが甘奈の?」

「あ、あー……ど、どれかな……?」

 

 紙袋を床に置いて、甘奈は両手を突っ込んで探す。

 

「あ、あれあれ……? なんか、見当たらないや……間違えて置いてきちゃったかなー……うん、そうかも……」

 

 え、そ、そうなの? てか、何その棒読み……と、思っていると、ふと甘奈の左手が動いていないことに気付く。紙袋を固定しているのかな? とも思ったが、どうもそんな感じには見えない。

 ……もしかしてこいつ……。

 ふと思い、ベッドから身を寄せて、甘奈の左手首を掴んで持ち上げると……ハート型にラッピングされた箱が出てきた。箱の表面には「ヒデちゃんへ♡」と書かれている。

 

「……あ、あははっ……バレちゃってた、かな……?」

「一応、聞くけど……桑山さんからのって事は?」

「はっ?」

「う、嘘だよ……」

 

 そもそもお前が誤魔化そうとするから……。

 

「……ありがとう、甘奈」

「あ、あの……目の前で、開ける感じ……?」

「だめか?」

「だめじゃ、ないけど……」

 

 なら良いよね。……あれ、これもしかしてデリカシー問題か? じゃあ……後にしようかな? 

 

「やっぱめぐるさんのにし」

「は?」

「あ、嘘です」

 

 違った。普通に照れ隠しだった。

 とりあえず、甘奈からもらったチョコをあげる。箱をパカっと開くと、中から現れたのはハート型の生チョコが複数。しかも、味が違うのか、色合いがカラフルだ。

 

「わっ……す、すごい……美味そう!」

「そ、そうかな……えへへ」

「全部ハート型だし、綺麗……食べて良い?」

「う、うん……!」

 

 まずは茶色の生チョコを手に取り、口に含む。舌の上に乗せ、口内で圧迫。蕩けてて、甘味と苦味が同時に広がる。

 

「うまっ……」

「っ、ほ、本当⁉︎」

「ひとつ食べる?」

「うん! ……あっ、いや……甘奈は作った側だから……全部、ヒデちゃんのだよ」

「いや、たくさんあるから。てか、俺がもらったもんなら俺に使わせてや」

 

 そうだ、さっきの仕返しだ。今度はこっちからやってやろう。

 そう決めると、俺はチョコをひとつ摘み、甘奈の口前に差し出した。

 

「ほれ、あーん……」

「ふえっ⁉︎」

「人に散々やったのに、自分は嫌だって言うのか?」

「っ……」

 

 言うと、甘奈は頬を赤らめて俯いてしまう。そして、少し悩んだ後、俯きがちに髪を耳にかけながら、半開きにした口を少しずつ近づけて来た。

 

「あ、あーん……」

 

 甘奈の唇が、チョコを覆い、若干俺の指に触れ……っ、や、柔らかっ……やべっ、つか普通に口がついちゃって……あっ、下唇も少しあたった……。

 唇が触れたのは、ほんの一瞬。にも関わらず永劫の時に感じるほど長かった。

 

「っ、え、えへへ……おいひい……」

「っ、そ、そう……」

 

 思わず、食べさせるために伸ばした手を伸ばしたままにしてしまったのが、俺の最大のミスだった。

 何を思ったのか、甘奈は俺のその手を見て、手首を掴み、親指に舌を当て……。

 

「何してんの⁉︎」

「っ、指に付いてるココアパウダー、勿体無いから……嫌?」

「嫌じゃ、ありませんけど……」

「ふふっ、なんで敬語……?」

 

 なんで勝ち誇った顔? 顔真っ赤なのバレてんぞお前。

 そのまま綺麗にパウダーを舐め取られた時だ。部屋の扉が開いた。入って来たのは、甜花だった。

 

「なーちゃん……そろそろ、お昼作らないと……あえ?」

「「……あっ」」

「……ご、ごゆっくり……」

「「……」」

 

 リアクションさえ起こせなかった俺と甘奈は、そのまま固まるしかなかった。

 もちろん、その日は一睡も出来ず、翌日に熱が普通に上がった。

 

 

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