大学の春休みは長いと聞くが、高校はそうでもない。長く見えて長くないのだ。
でも、正直あれだよね。二週間弱も休みがもらえれば十分だよね。一ヶ月ちょっと休める夏休みくんが強過ぎるだけで、冬休みさんや春休みどんも十分過ぎるほど強力だ。
さて、そんな日の中、本日は夕方から283事務所総出でお花見である。それに備えて、みんな仕事に励んでおり、それは俺も例外ではない。
気合を入れて表の掃き掃除を完了させ、2階に上がった。もう直ぐ、昼頃。お昼になると、今日の俺のお仕事は変わる。
それは、俺だけではない。可能な限りスケジュールを合わせたメンバーで、料理係、場所取り係、買い出し係に分かれて行動開始。割り振られていないメンバーはお仕事で夕方から参加、という具合だ。
さて、そんなわけで、料理メンバーは次の四人。
「よし、じゃあみんな、力合わせて頑張るばい!」
「うん! 私、お菓子作り以外も得意だから任せて!」
「私も……餃子なら任せて下さい……!」
「……がんばりまーす」
恋鐘さん、園田さん、風野さんが気合を入れる中、一人だけテンション低い奴がいる。
「甘奈、一体どがんしたと? なんでそがん元気なか?」
「ヒデちゃんも料理係だと思ってた……」
「……あー」
おい、二人してそんな目で見るなよ。仕方ないでしょ。
「花見の場所取りを女の子だけで行かせられんでしょうが。料理なら、俺以外にうまい奴はたくさんいるでしょ」
「うう……でも、ヒデちゃんがいると思って、料理にしたのに……」
……うるせーな。でも、他の人にあんま仲良いとか関係バレない方が良いだろうし、仕方ねーでしょ。
でも……かなり甘奈はしょんぼりしちゃってるな。何か声をかけてやった方が……。
「おーい、ヒデ。場所取り行くぞ。早くしろよー」
ヤンキー西城さんから声が掛かる。あんまり時間がないようだ。
仕方ないので、しょんぼりしている甘奈の頭に手を置き、耳元で囁いた。
「花見で食う甘奈が作った飯、楽しみにしてるから」
「っ……う、うん……! 任せて!」
よし、解決したな。そうと決まれば、俺はさっさとヤンキー西城さんに合流した。
「……やるじゃん、小宮くん……」
「……あれで他の子達に隠してるつもりなんですから、正直驚きですよね」
「隠す? 何ば?」
「恋鐘さんですら気付いていますしね」
……なんか話しているが、よく聞こえなかったので無視した。
×××
さて、改めて場所取りメンバーを見た。
「むんっ。皆さん、頑張って良い場所とりましょうね……!」
むんっと気合、ほわっと抜ける、櫻木真乃さん。
「ああ。私達の頑張りで、今日の宴は大きく変化するんだ。各々、絶景とも言える場所を探そう」
男の敵、白瀬咲耶さん。
「もう既に埋まりつつあるし、手分けした方が良いわね」
高身長高収入、有栖川夏葉さん。
「じゃ、あたしはあの辺見てくるから。なんかあったら連絡くれ」
唯一貧乳、西城樹里さん。
……アグレッシブな人達が集まったなぁ。いや、だからこのメンバーなのか。何にしても……少しいづらいな……年上の人の引率も俺が兼ねてるわけだし。
いや、いかんいかん。ヒヨってどうする。引率兼護衛として、仕事は全うしろ。
「あー……すみません。実はプロデューサーさんから、5人纏まって動くようにと言われてるので……」
「あら、どうして?」
「別行動して騒ぎになったら、面倒だからです。お花見どころじゃなくなりますよ」
「あら……確かにそうね」
まだデビューから間もないメンバーだが、それでも知っている人は知っているだろう。WINGとかいうのに出場、或いは優勝している人もいる。
今だって、仮装してはいるけど、美人のオーラは隠れていない。せめて花見が始まるまでは、姿を隠してもらわないと。
「……けど、まぁ確かにチンタラ見て回ってたら日が暮れそうではあるので、手分けはしましょうか。俺と櫻木さんと有栖川さん、西城さんと白瀬さんで」
「? なんであたしと咲耶なんだよ?」
「あんたら二人が一番、ナンパされなさそうだから。なんなら、ナンパしそうな奴を止めてくれそうだから」
「厄介ごとをあたしに押し付けてるだけじゃねーか!」
「じゃあよろしくね、樹里」
「ほわっ、樹里ちゃん。がんばってくださいねっ」
「お前らも早々と身を引いてんじゃねえ!」
なんてツッコミを入れる西城さんの手を取る白瀬さん。手の甲にキスをすると、目前まで近づいてウインクをした。
「ふふっ、こんな愛しい乙女とデート出来るとは、私はなんて幸せ者なんだ。では、参ろうか。お姫様?」
「おーい! 早速ナンパされてんぞ! 大丈夫なんだよなこれ? あたし平気なんだよな⁉︎」
「大丈夫、西城さんが白瀬さんに食われる分には問題ないから」
「食われるのかよ⁉︎ ちょっ、マジで待っ」
置いていった。
×××
「中々、空いてる場所ないですね〜」
ほわほわゆるゆるぽわぽわした声でそう言うのは、櫻木さんだ。頭悪い擬音を三つ並べてしまったのだが、実際ゆるゆるな声なので仕方ない。
場所は公園なのだが、プロデューサーさんから聞いた条件は、花が見える上で人が少ない場所。んなとこあるかよって感じだが、広い公園ではあるので、あると信じるしかない。
「そうね……やっぱり、何処も人でいっぱいね」
「既にチラホラと出店も出てますからね。……まぁ、俺らは自分で持ち込むから、あんま関係ないわけですが」
「と言うと、出店が少ない辺りが良いんじゃないかしら? 食べ物を持ってきていない人にとっては、出店が近い方が良いじゃない?」
「なるほど……では、そっちの方を探してみましょう」
その辺はA○EXと同じか。初動の際、なるべく敵プレイヤーとかち合いたくない人は、物資が少ない場所に降りる。そういう場所を巡って、ちょっとずつ集めるのだ。……まぁ、俺と甜花はキル厨なので、例え甘奈が一緒でも激戦区に降りるが。
でも今は、その物資が少ない場所を探す必要がある。
何となく「こっちは少なそうじゃね?」という場所に向かう。
……せっかくこういう機会なんだし、少しは声掛けた方が良いかな。でも、どう声をかけたら良い。二人とも初対面ではないが、あんまりゆっくり話とかしたことないし……。
そうだ、お互いの趣味とかどうだろう? と、思って、まずは有栖川さんに声をかけてみようと横を見た時だ。
……なんか、ダンベル持って肘を視点に上げ下げしてるんですが。
「……何してるんですか?」
「? トレーニングよ?」
いやそんな「見てわからない?」みたいな言い方されてもな……。
「いやあの……なんで歩きながら?」
「ただブラブラしてても、時間が勿体無いでしょう? トップアイドルを目指すためには、こういう隙間時間もしっかりと自分を追い込むのが大切なの」
「あの、外でアイドルとか言わないでくれません?」
「真乃もそう思わない?」
いやこの人は少なくとも歩きながらダンベル担ぐような人には見えないだろ……と思って横を見ると、櫻木さんの頭上には鳩が止まっていた。え……や、だから何してんの?
「ほわっ……? 私は、こういうのんびりお散歩する時間も大好きですよ?」
「いや、これお散歩じゃないんで……てか、その鳩どこから連れて来たんですか?」
「連れて来てませんけど……?」
や、だから「野生に決まってるでしょ」みたいな顔されてもな……。どうしよう「ナンパされそうな人達」という理由以外にも「顔見知りではあるから」という理由で選んだ二人だけど、なんか早くも俺が知らない一面が見え隠れしてるんだが……。
「ふふっ、そうね。真乃は歌、上手だものね」
「へぇ、そうなんすか」
「そんな事ないですっ……! 夏葉さんこそ、ダンスがお上手で……私では、あのキレは出せないので」
「お上手、なんて言われるほどの事じゃないわ。昔から身体を動かすのが好きだったから、それが活きているだけだもの」
「体育会系なんすねー」
適当に会話に混ざったのが、運の尽きだった。唐突に、有栖川さんは俺の方を見る。なんだ? と視線で聞くと、俺にそのまま聞いてきた。
「あなたはどうなのよ」
「え?」
「男の子なのに、見たところ全然、筋肉ついてないわよ。両腕だけ少し逞しいようだけど……もう少し運動したら?」
「え、嫌です……」
「良い機会ね。3人で軽く走りながら場所を探しましょう!」
「なんで⁉︎」
なんか変なスイッチ入ったああああ!
「い、嫌ですよ! なんで急に走り込みになるんですか⁉︎」
「あなたには根性が足りないわ。甘奈にいつになったら告白する気? いつまでヒヨっているの?」
「はっ⁉︎ こ、告白って何の話ですか⁉︎」
「そんなんだから、いつまでも恋人未満、恋人以上……あれ? なんか、そんな……曖昧な関係になるのよ! 私が、しっかりと教育してあげるわ!」
なんでこんな、スポコンなんだこの人⁉︎ 俺が想定してたアイドルとなんか違う!
「疲れるのは嫌だ! しんどいから!」
「堂々と情けないこと言わないの! 真乃はやる気満々なのよ⁉︎」
「はっ⁉︎」
横を見ると、アキレス腱を伸ばしている櫻木さんが目に入る。
「……なんで?」
「むんっ、頑張ります!」
「いや、頑張らなくて良いから!」
「私、お散歩する時に鳥さんを追いかけたまま、気が付いたら県を跨いだ事もあるので大丈夫です!」
「大丈夫じゃねえよ⁉︎」
「ほら、男なら覚悟を決めなさい」
「いーやーだー!」
そのまま連行された。
×××
「おお〜、良い場所見つけたなぁ」
そう言うのは、西城さん。小さな丘のようになっているそこにビニールシートを複数、敷いて、とりあえず場所取りは完了させた。
「ああ、とても美しい場所だ……特に、夜桜は綺麗に映りそうなものだね」
白瀬さんも感慨深そうに呟く。喜んでもらえたのは普通に嬉しい。頑張った甲斐があったというものだ。
ところで、と西城さんが声を漏らし、こっちを見る。
「あいつはなんで行き倒れてるんだ?」
「走り込みをしながら場所を探してて、すぐにバテたのよ。情けない」
「ふふっ、走り始めて5分でしたね」
こ、こいつらめ……でも、甘奈より体力ないのは情けないし……確かに鍛えた方が良いのかな……?
「とにかく、良い時間だし、そろそろみんなを呼んでこようじゃないか」
「だなー」
「私とヒデがここに残る。3人はみんなを呼んできてくれ」
「分かりました」
と、サクサクと役割が与えられていく。ほんとは俺の役目なのに……。でもダメだ、ほんとに死んじゃう……あのスパルタスポコン女、疲れたって言ってもやめさせてくれないし、歩き始めても背中を押して走らせてくれやがる……。
グデっと息倒れている俺の肩に、西城さんが手を置いて一言はなった。
「……お疲れさん。後で飲み物くれてやる」
「……ありがとう、ございます……」
どうやら、あの阿呆の暴走はいつものことのようだ。優しさが胸の奥まで沁みて、普通に泣きそうになった。この人、ヤンキーはヤンキーでも人情派ヤンキーだった。
そのまま三人は事務所に戻り、俺はそのままうつ伏せで突っ伏した。あー……だめだ。疲労が、ちょっとエグいな……死んじゃいそう。
「ふふ、お疲れ様。ヒデ」
そんな中、優しい声と共に頭を撫でられた。
「何、夏葉も悪気があったわけじゃないさ。君を思ってのことだから、どうか嫌いにならないであげて欲しい」
「……」
ダメだ、疲れで……意識が……。
「ふふ、眠いのかな? なら眠れば良い。……でも、地面は硬いだろう? そうだ、頑張った君にご褒美を差し上げよう」
ご褒美……? ふわっ、なんか顎と頬に柔らかい感触が……あっ、でもダメだ……心地良すぎて、寝ちゃう……。