大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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未遂になってしまった日

 たくさんお弁当を作った甘奈は、歩きで公園に向かっていた。後ろには、買出係、料理係がお弁当を担いで歩いている。プロデューサーは仕事組のお迎えだ。

 秀辛は、咲耶と一緒にとった場所で待っているらしい。喜んでもらえるだろうか? 

 

「〜♪」

「な、なーちゃん……楽しそう、だね……」

 

 甜花が横から控えめな声を発する。それに、甘奈は笑顔で答えた。

 

「うん。頑張って作ったから。ヒデちゃんが好みの味も、この前お義母さんが教えてくれたし」

「にへへっ……もう、なーちゃんったら……まだ、結婚まで行ってない、よ?」

「あっ……え、えへへ……恥ずかしい……」

 

 ……と、いうバカ姉妹の会話を聞きながら、恋鐘と夏葉は真顔で前を歩いていた。

 

「……ねぇ、私達は何を聞かされているのかしら?」

「耐えるしかなかばい。例え、色んな意味で聞くに耐えんでん」

 

 何故、片割れがいないのに惚気話が展開される? そして何故、甜花は平気でいられる? 

 

「……はぁ、というかあの二人はそもそもどういう関係なの?」

「うちに聞かれてん分からんばい。お互いに好き合うとってイチャイチャしとって、それば他人に隠せとー気になっとって……ばってんいざ関係ば聞くと顔ば真っ赤にしてウブな反応ばするけん……」

「そうね……わけがわからないわね……」

 

 というか、お互いにお互いの気持ちに気付いているのではないだろうか? 甘奈に至っては、その自覚もある。

 何にしても、その手の話が日常的に聞こえてくるのは少し辛い。いや、普通に鬱陶しい。なんか胸焼け起こしそうで。せめて自分達が同じ立場なら、少しは緩和されそうなものなのだが……。

 

「……」

「……」

 

 まぁ、何にしても気にしないようにする他ないのだ。それに、胸焼け以外を除けば、普通に甘奈は楽しそうにしているのだし、文句を言うのは野暮というものだろう。

 そんな話をしている間に、公園に到着した。

 

「着いたー!」

「甜花、もうギブ……」

「甜花ちゃん、もうちょっと! 頑張って!」

「ひぃん……体育会系……」

 

 よりにもよって、入り口から遠い場所なのだ。まぁ出店が少ないが故に人が少ない場所なのだから、当然と言えば当然だが。

 とにかく、全員を引き連れ、目的地に到着した。直後、先頭を歩いていた二人が立ち止まり、半眼になる。

 ……何故なら、事務所一のイケメンが、事務所唯一の男子高校生に膝枕をしていたから。

 

「……恋鐘」

「……夏葉」

 

 すぐに頷き合い、真後ろの双子の進路を塞ぐ事にした。

 

「甘奈、そういえば私、プロテイン飲むの忘れてたわ。買ってきてもらえる? あなたの荷物、持ってるから」

「甜花、うちもプロテインが飲みたか!」

「えっ……月岡さん、プロテイン飲む、の……?」

 

 あまりにも嘘が下手過ぎた。思わず、夏葉が肘で脇腹を小突いてしまう程に。

 そんな時だった。後ろの甘奈が、ふと眉間にシワを寄せる。ドキッ、とした夏葉の反応は正しかった。

 

「……ヒデちゃんの香りに、女の子の匂いが混じってる……?」

 

 普通にゾッとするしかなかった。なんだ、ヒデちゃんの香りって。そして女の子の匂いって。

 が、それが一瞬の隙だった。気が付けば、甘奈は横から抜けてシートの上を見てしまった。

 

「なっ……!」

 

 甘奈が声を漏らすのと、恋鐘と夏葉が片手で顔を覆うのが同時だった。

 その後、メンバーが来たことに気づいた咲耶が、ウインクをしながら全員に対し、人差し指を立てて口元に近付ける。起こすな、という事だろう。

 しかし、それこそ甘奈にとって一番のキレポイント。羨ましい上に現状維持を望むとは、甘奈の発狂を望むことと同意だ。

 靴を脱いで、弁当をその場に置いた甘奈は、すぐに咲耶の方へズカズカと歩く。

 

「やぁ、甘奈。君の大切な可愛い王子様は、お眠のようだ。この場所を譲……」

「ヒ〜デ〜ちゃ〜ん〜……ッ!」

 

 あ、ヤバい、と察した咲耶は耳を塞ぐ。直後、ヴォルガノスに音爆弾が炸裂した。

 

「なんで私以外の人に膝枕されてるのッッ‼︎‼︎」

「ッピィィィィィィィィンッッ‼︎⁉︎」

 

 どんな悲鳴だよ、とほぼ全員が思ったが、唯一思わなかった甘奈が、ガクガクと秀辛の胸ぐらを掴み、揺する。

 

「ねぇ、ヒデちゃん! なんでいつもそうなの⁉︎ 酷いよ!」

「ぐぼっ……ちょっ、何がっ……てか、寝起きのシェイクはやめて……!」

「毎度毎度……もしかして、甘奈を嫉妬させて楽しんでるの⁉︎ それとも、嫉妬されてる事に快感でも得てるの⁉︎ アニメだと可愛いとか思うかもだけど、実際にやるのは最低だよ!」

「待っ……な、何の話っ……! てか、待っ……目ん玉飛び出……!」

「そういうことするんなら、甘奈にだって考えあるんだからね! もう今日はずっと甜花ちゃんと千雪さんと一緒にいるんだから!」

「死んじゃう、出ちゃう……口から、内臓がそのまま……!」

「知らないっ!」

「あうっ! ……ぐふっ」

 

 最後に押し飛ばして、逃げ出した。

 

 ×××

 

 お花見とはいえ、秀辛は仕事中。なるべくシートの端の方で見張りをしている。

 プロデューサーは参加すれば良いと言ってくれたが、なんだか気まずかったから逃げてきてしまった。

 甘奈とは話せない……かと言って、他の女の子と話すと甘奈が来る……その結果、一人で警備の真似事をするしかなかった。

 ……そんな秀辛を、後ろから甘奈は眺めつつ、ふいっとそっぽを向く。

 

「……なーちゃん、良いの?」

「っ、な、何が?」

「あのままにしておいて……」

「……」

 

 言われて、甘奈は少し黙り込む。

 

「知らないもんっ……膝枕なんて、甘奈もした事ないのに、なんて思ってないし……」

「なーちゃん……分かりやす過ぎて逆にツライ……」

「……」

 

 そこまで典型的な拗ね方、中々なかった。どうしたものか甜花が考えていると、ふと秀辛の隣に女の人が歩いて行った。

 

「ふふ、ヒデちゃん」

「あ……桑山さん……」

「一緒に食べない?」

「いえ……俺は見張りですので」

「そんなこと言わないの。プロデューサーさんだって、そこまでしなくて良いって言ってたし、おいで?」

 

 強引に秀辛の腕を引いて連行していった。……胸に肘の先端が当たっているのは偶然か、それとも気にしていないだけか……なんにしても、すぐに甘奈は唇を波のように歪ませて憤慨する。

 

「〜〜〜っ、い、行ってくる!」

「にへへ……千雪さん、さすが大人……」

 

 早くも扱いに慣れていた。

 手元にあった唐揚げが入ってる弁当箱を一つ手に取り、のっしのっしと歩いて行った甘奈が、その二人の間に割り込んだ。

 

「ヒデちゃん、甘奈と話そう!」

「えっ、いやお前さっき怒って……」

「怒ってない!」

「いやそれはだいぶ無理が……」

「嫌なの⁉︎」

「嫌じゃないです……」

「じゃあ、決まり!」

 

 そう言うと、甘奈は切り離した千雪に「べっ」と舌を出す。しかし、そんな甘奈に千雪は何一つイラっとする事なく、むしろニコニコしたまま受け流すと、こう返して来た。

 

「せっかくなら……二人きりになれるところ行ってきたら?」

「「えっ……」」

「大丈夫。お花見、多分9時ごろまでやるから。少しの間くらい、抜けてきても平気だよ」

「「……」」

 

 それはアリかも……なんて思っている間に、ちらっと秀辛を見るが、秀辛は表情を引き攣らせている。さっきまで怒ってた奴(というか今も少し怒ってる奴)と二人きりになるのだ。

 気まずいのはわかる……が、それが余計に甘奈の強引さを引き立たせた。

 

「ありがとう、千雪さん。行こ? ヒデちゃん」

「二者面談……勘弁して……」

「は?」

「嘘です……」

 

 そのまま連行した。

 

 ×××

 

 狭い場所だけど、桜に囲まれ、切り株という自然の椅子がある場所に来れた。甘奈がそこに腰を下ろすと、半分だけ空けてポンポンと空いてる部分を叩く。

 

「……え、狭くない?」

「……良いじゃん、別に。まだ、少し肌寒いし……」

 

 そんなに大きな切り株ではない。二人で座れないこともないが、お尻の半分はお互いに落ちてしまうような大きさだ。

 しかし、甘奈は逃げを逃さない。ジッと顔を眺めると、観念した秀辛は大人しく隣に座った。左半身がピッタリと密着する。肌寒さは確かに残る季節のはずだが、やたらと熱く感じた。心臓の鼓動が肩越しに伝わり、頬が紅潮する。

 

「食べる前に……さっきの、聞いても良い……?」

「え、さっきのって……白瀬さんの?」

「そう……」

 

 やはりか、と秀辛は冷や汗を流す。……いや、今なら話を聞いてくれるのだ。話すならむしろ今しかない。

 

「や、あの……まぁ、櫻木さんと有栖川さんと走りながら場所探しさせられて……バテて、シートの上で寝てたら、いつの間にか白瀬さんが膝に頭乗せててくれて……」

「……じゃあ、ヒデちゃんの意思じゃないの?」

「そりゃそうだろ。俺には……」

「……には?」

「……お、お前がいるし……」

「っ……そ、そっか……えへへっ」

 

 嬉しさで口元が緩む甘奈と、言ったことに後悔して恥ずかしさで爆発しそうな秀辛。

 ニコニコと素敵な笑みを浮かべている甘奈は、お弁当箱から唐揚げをつまみ、秀辛の口元に運んだ。

 

「はい、あーん……?」

「っ……あ、あーん……」

 

 もう抵抗をやめた秀辛は、照れながらも口を開け、食べる。もぐっと咀嚼すると、思わず目を見開いてしまった。

 

「う、美味い……」

「え、えへへ……そ、そう?」

「うん。まだ暖かいし、ニンニクとわさびの味がよく出てる」

「〜〜〜っ」

 

 再び顔を真っ赤にして俯く甘奈。そんなはにかむようすが可愛くて、秀辛も胸の奥底で再びドクンッと揺れる。

 そんな秀辛の腕に、甘奈は腕を絡めて、頬を赤らめたまま言う。

 

「……ヒデちゃんのために、頑張ったんだよ……?」

「っ……」

 

 そんな言葉一つが、嬉しくて、恥ずかしくて。

 ここまで、自分に尽くしてくれる同級生の少女。怪我した時も、風邪をひいた時も、今日のお弁当の時も、いつも秀辛を気に掛けてくれて、常に秀辛のために骨を折ってくれた。

 それに思わず、秀辛もようやく自身の本音に気がついた。おそらく、いや確実に、この優しくて明るくて世話好きで、それでも何処か妹特有の幼さがある甘奈が、好きなのだと。

 そう思った時、秀辛は絡まれた腕を若干、動かし、手を繋いだ。

 

「……なぁ、甘奈?」

「っ、な、なぁに……?」

「俺……さ、ダメダメだけど、興味あることにしか、力を発揮出来ないけど……」

「う、うん……」

「でも、甘奈の為なら……どんな事でも頑張れる。……だから、俺と……」

「……俺と?」

「……お、俺と……」

 

 付き合って下さい、そう言おうとした時だった。

 

「ちょっ、押さないでよっ……!」

「仕方ねーだろ、見えねんだから……!」

「ねぇ、まだ? まだ?」

「これなんの集まりなんです?」

「果穂にはまだ早いかもね」

「ほわっ……でも、良い空気です……!」

「ドキドキするねっ……!」

 

 ……なんか聞こえてくる。野生の野次馬の鳴き声が。モンスターボールでも投げつけてやろうかと思ったほどだ。

 2人して半眼になり、振り返ると、バカ達の一部が木陰から漏れていた。バカ成分と一緒に。

 

「……甘奈」

「……うん」

 

 とりあえず、キレ散らかした。

 

 




やっと高一編終わりです。本来の予定なら、ここまでがプロローグでした。
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