目的を見失うと、色んなものも失う。
俺と大崎の間に結ばれた協定により、一先ずは平穏が保たれた。
「甜花ー! 昼休みに、一緒に二人きりでゲーセン行こうぜ!」
「ちょっと、規約違反! 二人で遊びに行くのは禁止!」
「昼休みだったら良いんだろ⁉︎ 友達との遊びを邪魔する事こそ禁止だ!」
「いやそもそも昼休みに遊びに行くのはダメでしょ⁉︎ 馬鹿じゃないの⁉︎」
全然、保たれてなかった。しかし、そんな俺と大崎に、甜花が微笑みながら間に入る。
「ふ、ふたりとも……落ち着いて……あと甜花、お茶飲みたい……」
「「まかせて! こいつより早く買ってくるから!」」
甜花が間に入れば、ひとまず俺たちの喧嘩は収まった。そのまま走って、俺は食堂、大崎は中庭に買い物に行った。
×××
「だー、ムカつく!」
「ど、どうしたの? ヒデちゃん」
現在、放課後。結局、今日は甜花と一緒にゲーセンに行くことは叶わず、俺が果穂の誕生日とクリスマスとホワイトデーの日に毎回、お世話になる雑貨屋さんに立ち寄っていた。勿論、誕生日以外の二つも果穂のためのプレゼントを買うためだ。
もう小六の頃からずっと通ってて、それ故に用がなくてもたまに話すようになったお姉さんがいる。
それがこの人、桑山千雪さんだ。
「ムカつくんだよなぁ、うちのクラスメートの双子の妹が」
「へぇ、ヒデちゃんがクラスメートの話なんて珍しいわね」
「それ俺のことディスってる?」
「だって、昔からずーっとゲームに夢中だったでしょ?」
そりゃそうだけど……。
「でも、今は違うし」
「ふふ、そうね。それで、何にムカつくの?」
俺の愚痴を聞いてくれるために、話を戻してくれた。
「あ、うん。クラスメートの双子の妹。もう毎日毎日、俺と友達の間に入ってきてさぁ……。もう全然、一緒に遊びに行けないんだよ」
「あらら……大変ね」
「まったくだよ。協定さえ結べばもう少し平和になると思ったんだけど……全然、そうでもなくて」
「え、協定って?」
あー……まだ説明してなかったな、そういえば。
「いや、その妹とこの前、友達の取り合いになってお互い酷い目に遭ったからさ、二人で平和になれるように協定を結んだんだよ」
「か、変わった交友関係だね……?」
俺もそう思う。友達いた事ないけど、今の状態は割と特殊であることは理解してる。
「それなのにさぁ、あいつ昼休みに俺と友達がゲーセン行くのも止めるんだよ」
「いやそれは止めるでしょう……」
「でも協定違反!」
「その協定の内容っていうのは何なの?」
「ああ、あれ。えーっと『友達になる事を許可する事』『俺と姉がゲームしてる時の会話を盗み聞きするのは無し』で、向こうからは『学校では、可能な限り姉を助けること』『放課後に姉と遊ぶ時は妹も同行できる日のみ』だよ」
「えーっと、お姉さんの方がお友達、ってことよね?」
「あ、うん。そう」
本当にあの野郎は許さんからな。もうホント毎日毎日……はぁ。
「妹だけ別のクラスだから、昼休みに姉と二人で飯食うのは許されてるんだよ。だから、それを逆手にとって昼休みにゲーセン行こうかと……」
「いや、その逆手にとってっていうのは分かるけど、それ以前の昼休みにゲームセンターっていうのがおかしいの」
「え、なんで? 高校サボってボウリング行くーとか聞いたことあるんだけど」
「それかなり特殊な人だから憧れちゃダメ」
……え、そうなの? 少し憧れてたし、試してみたかったんだけど……。その背徳感とか、友達とのエンジョイ感とか、バカやってる感とか、そういうのも味わってみたかった……。
「でも、お昼休みだって使いようによっては、そのお姉さんともっと仲良くなれると思うよ?」
「例えば?」
「うーん……その仲良くなりたい、の方針にもよるけど……恋人になりたい、とかだったら、校舎裏とか誰もいなさそうな場所で二人きりになるの。そういうのを繰り返していくと、二人だけの空間が他の所と閉鎖されたような感じがして、特別感が生まれたりするそうよ?」
「詳しいね。もしかして、学生時代そういうの試してた?」
言うと、桑山さんは頬を少しずつ真っ赤に染めていく。それとほぼ同時に、まるで八つ当たりするように俺の頬に手を伸ばし、抓った。
「いふぁふぁふぁ!」
「生意気言うのはこの口かしら?」
「ご、ごへんふぁふぁい!」
「それと、私はやったことないから。ドラマの影響で少し調べたってだけだから」
いやそれどちらにせよ若かりし頃の過ち……なんて言ったらまたつねられるからやめよう。
ヒリヒリする頬を撫でながら、ひとまず誤解があるようなので、改めて説明する。
「ていうか、別に恋人になりたいわけじゃないよ。そんな事したら協定違反だし」
「あら、どうして?」
「あいつが認めたのは『友達』になること。そこが『恋人』になったら、それまた喧嘩になるでしょ」
「う、うん……そこまで深読みする必要がある内容だったんだ……」
「そりゃそうだよ! あの野郎、最初に三人でゲーセン行った時、俺がトイレに行っている間に姉を連れて逃げて、情報を巧みに操作しつつ一時間半も逃げ回ったんだぞ⁉︎」
「思った以上に拗れてるんだね……」
その通りだよ。ホント、あの女一生許さん。
「ていうか、そんな事になってるなら協定の意味があんまりないような……」
「あ、いやその事があって協定が作られたから」
「ああ……なるほどね」
「つまり、友達より上を目指す気はないの。とりあえず、俺は高校からちゃんとした学生生活を送りたいんだ。だから、誰でも良いから友達が欲しかったの」
「ふふ……そっか。偉いね」
いや褒められるほどのことじゃないと思うんだけど……。とはいえ、嬉しくないと言えば嘘になるが。
「でも、お友達かぁ……妹さんから提示された条件はなんだっけ?」
「『学校では、可能な限り姉を助けること』と『放課後に姉と遊ぶ時は妹も同行できる日のみ』」
「その前者のは何なの?」
「さぁ? 俺もよく分からんけど……あの姉、授業中はほぼ寝てるし、多分、試験前には助けてやれってことだと思うよ」
「なるほどね? ……あ、じゃあ放課後も二人で一緒にいられる良い案があるよ?」
「マジで⁉︎」
「うん。マジで」
マジでか! そんな奇跡的な案が……面白い。やってやるよ。俺は早速、その案を聞き入れた。
×××
翌日の放課後。俺と甜花は、ゴクリと唾を飲み込む。目の前にあるのは、喫茶店。つまり、リア充が多くが集まる場所だ。高校生は「カフェ」というものに憧れる。
中学で部活をやっていた人は「買い食い」というものを覚え、そこでファストフードやコンビニでお金を使うようになる。俺は使わなかったけど。
で、そこからさらに進化した高校生になると、ラーメン屋や喫茶店、ファミレスなどに行くようになるのだ。
その中でも、喫茶店というのはリア充しか行かない。オシャレなものに興味がない人間にとって、喫茶店の飲み物など「高いコーヒーや紅茶」でしかないのだ。
俺と甜花にとってはまさにそれだ。だが、行かねばならない。今回は、大崎にも許可を得たことだ。
『じゃあ、放課後に一緒に勉強すれば良いんじゃない?』
という、桑山さんの提案で、俺は早速、大崎の前で堂々と甜花を誘った。ちょうど中間考査まで近かったし、大崎は友達と遊ぶ予定があったので、長考の末、許された。
『甜花ちゃんは必ず18時までに返すこと!』
だそうです。ゲーセンかよ。
で、ここは高校生らしくカフェで勉強、となったのだが……まぁ、なんだ。やっぱりこういうとこに入るのは緊張する。慣れないから。甜花も同じみたいで、ガチガチに身体に力が入っているのが丸わかりだ。
「……こ、小宮くん……ここ、入るの……?」
「び、ビビるな甜花。俺達だって高校生だ……!」
「う、うん……!」
そう気合を入れると、俺も甜花も店の自動ドアを開けた。中に入り、とりあえず列に並ぶ。なるほど、先に会計と商品の受け渡しを済ませてから席に座るマック形式ね。
二人でそのまま商品を購入する。さて、飲み物だが……。
「……」
「……」
フラペチーノって、何……? あれ、ここだけカタカナ使ってる外国? 意味が分からないんだけど……。
「て、甜花……何書いてあるか分かる?」
「え……さ、さぁ……甜花、こういう最近の高校生っぽいの、分かんない……」
「だ、だよな! まだ高校生の入り口に立ったとこだし、分かんなくても仕方ないよな!」
「う、うん……! 甜花達は、甜花達に出来ることを……しよう……!」
「おう!」
そんなわけで、スタバは諦めて近くのファミレスに入った。ここなら、ドリンクバーがあるしね。お腹空いたらほどよく安い金額でおやつも食えるし、気取ったカフェなんかより全然、良い判断が出来たな、うん。
……負け惜しみじゃないからねマジで。
×××
早速、ファミレスで勉強を開始した。二人で向かい合って、机に勉強道具を広げ、飲み物を持ってきて準備万端。
「よし、やるか!」
「うん……! ……あ、小宮くん。もうすぐ……その、古戦場だけど、ワンパン編成、出来た……?」
「ああ、一応。クリュサとメガネとシルヴァでゴリ押しする」
「ふふ、でも……アビポチ数多そう……」
「うるせーな。そっちは?」
「カツヲ剣豪……ぶいっ」
「このガチ中のガチめ……」
もう脱線したが、二人で気づかずにそのままゲームトークに移行する。で、ゲームトークとなれば、もはやゲームをする流れになるのも必然なわけで。
気が付けば、二人とも Sw○tchを出していた。ソフトは、ア○ビ大全。その中にある、ルードというゲームをしていた。
これはサイコロを振って駒を進める、スゴロクのようなゲーム。ただし、駒は各自、4つずつ持ち、「ふりだしにもどる」とか「一回休み」のようなクソ要素は無く、ゴールもない。
代わりにあるのは「ピッタリ他人の駒を自分の駒が踏むとふりだし返せる」というのと「6が出るともう一度サイコロを振る、或いは新たな駒を出せる」というもの。そしてゴールは、一周し、自分の陣地に駒を収納というもの。先に四つの駒、全てを陣地に置いた人の勝利だ。
「甜花、5……! やった……!」
「うわ、出たよ……。サイコロてめぇ可愛い子だけ贔屓してんじゃねえぞコラ。こっちにも、せめて4以上出させろ」
「うわ……このCPU、急に6を3回連続……!」
「やってんなこいつ! 急にサイコロを買収し始めた!」
「甜花、4……! デーデン、デーデンッ……! はいどーんっ」
「あっ、テメッ……俺の駒、返却すんなや!」
「あ……み、緑、もう二つも格納してる……」
「まずそいつ叩き潰すか」
と、勉強道具をしまい、小さなモニターに二人で食い入るようにプレイしていた。喉が渇いたので飲み物を口に含み、小腹が空いたらポテトを摘む……まるで、休日に友達の家に集まって遊んでいるみたいだ。
いやー、桑山さんありがとう……。あなたのおかげで、少し高校生らしく楽しめてる気がするよ……!
そんな事を思ってる時だ。後ろから、トントンと肩を叩かれる。
「ちょっ、うるさい。今良いとこだから」
「やった……緑、追い出した……!」
「良いぞ、甜花! じゃあ甜花も帰れ」
「あっ……ず、ずるい!」
「俺に言われても困る。サイコロに言えよ」
「さ、サイコロさん……!」
トントン。
「だからうるせえって。今、遊んでんの分かんないの? これから大逆転するんだから」
「ふふ、よそ見してる間に……甜花もどーん!」
「あ、このやろっ……! ほらぁ、お前が邪魔するから!」
「にへへ、サイコロの運に、邪魔も何もない……全ては、日頃の行い……」
「言ったなテメェ……!」
ゴスッ、バギッ。
「痛っ⁉︎ テメッ、何すん……ゴフッ⁉︎」
頭を二発殴られ、振り返ろうとする前に首をホールドされた。後1ミリひねれば、首の骨がサヨナラバスレベルの締まり加減だ。
「……随分と楽しそうなことしてるね?」
「っ……!」
そ、その声は……!
「甘奈を追い出して、ファミレスでゲーム大会ですか」
「……」
「二人は何をするためにここに集まっていたのかな?」
……やべぇ、そうだ。全然、勉強してなかった……。
「いや、先に勉強してたんだよ? それで……」
「言い訳は教科書くらい出してからしたら?」
……この野郎め……全くその通りだよ畜生……!
ていうか、甜花ー! 助けてくれー! てかこっち見ろ! 殺人未遂だぞ、目の前で! お前の妹が、お前の友達を!
「さて、じゃあ……一先ず眠っててもらおうかな☆」
「え」
その後、目を覚ました時刻は、閉店時間だった。