大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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ストーキングした日

 高2になると、先生方は将来について考えるよう急かすようになる。

 特に進路。進学にしても就職しても、そればっかりは本気で相談に乗ってくれるのだ。本気で生徒の将来を考えてくれる先生もいれば、とりあえず進学という適当な人もいる。……まぁ、責任問題になるのを恐れて適当なことを言う人は少ないだろうが。

 さて、今日のこれは、おそらくその第一歩。高2の始まりから現地に行かせる事で、どんなに薄い体験でも空気だけ味合わせておく、という狙いがあるのだろう。

 

「ひぃん……しんどい……」

「頑張って、甜花ちゃん」

 

 今日は大学の見学会だった。先生の講演を終え、大学構内を自由に見回るターンに入った。自由に、と言っても行って良い場所とダメな場所は分けられていて正直、今しか出来ないことを楽しみたい、という考えの甘奈も、家に帰ってお昼寝かゲームをしていたい甜花もあまり興味はなかった。

 でもまぁ、せっかくの機会だし一応、見るだけ見たいというのが甘奈の考え。二人でのんびりと見回しながら歩きつつ、秀辛からの連絡を待っていた。いや、約束してるわけじゃないけど、どうせ一緖に回るでしょ? という感じだ。

 だから、ふと二人の前を横切っていく秀辛を見て、思わず目を疑った。

 

「えっ……」

「どうしたの、なーちゃ……え」

 

 何故なら、男子生徒と一緒に歩いていたからだ。

 

「……」

「……」

 

 すぐに合点があった。あれは、カツアゲだ! 

 

「甜花ちゃん、後をつけるよ!」

「う、うん……!」

 

 二人でその背中を慎重に尾行しつつ、耳を傾ける。何の話をしているのだろうか? 

 

「……でさ、こいつ。エイシンフラッシュ、SRでも普通に強いから使った方が良いよ」

「へぇー。……これは? なんかやたらと出てフル凸してるんだけど」

「え、ニシノのSSR完凸してんの? 死ね」

「お前が死ね」

 

 なんの話をしているのか知らないが、死ねという単語が聞こえた。まず穏やかではないのだろう。

 そのまま二人は、ながらスマホをしつつ人気のない所へ向かう。いよいよ持って、カツアゲっぽくなってきた。

 

「……万が一の時は……」

「なーちゃん……落ち着いて……」

 

 本当に使命感に燃えていた。守る、と約束した。それならば、自分は全身全霊を持って約束を果たすまでだ。

 そのまま慎重に2人の後ろをついていった。すると、校舎の中に入る。立ち入り禁止されている、というわけではないが、真面目に見学するとも思えない。

 

「なぁ、正直どうなの? この……エアグルーヴ? の差しって……全然、上手くいかねえんだけど」

「最初は先行のが楽だよ」

「先行かぁ……あ、ニシノか」

「そうそれ使え」

 

 ……なんか刺すとか線香とか言っているし、やはり殺す気満々と見て間違いないだろう。

 許せない、まだお付き合いもできていないのに、自分の好きな人に線香をあげるハメになるのはゴメンだ。

 

「……あの、なーちゃん……これ、多分……」

「なあに? 甜花ちゃん」

「あれ……ウマの話……」

「え、ウマって……競馬?」

「半分、正解……ウマ娘っていう……ゲーム」

「ゲーム?」

 

 その問いに、甜花は頷いて答えながら、スマホの画面を見せた。

 

「これ」

「……あー、ゲームの話?」

「う、うん……そう、だと思う……」

「刺すとかお線香とか言ってたのは?」

「差しや先行っていう脚質の話だと思う……」

「……なるほど」

 

 ……つまり、むしろ友達ができたのかも……? 

 

「いや、まだ油断できない……親近感を使って、仲良くなってハメるつもりかも……」

 

 が、やはり油断はなかった。どこまで過保護なんだ、この妹は……と、甜花が軽く引く程度には。

 そのまま慎重に後をつけ、二人の背中を眺める。すると、適当な教室の中に入っていった。

 

「……まさか、BL展開……?」

「甜花ちゃん、びーえる……って何?」

「ボーイズラブ……つまり、男の子同士の恋愛のこと、だよ……?」

「れっ……ま、まさかぁ……」

 

 そう言いつつも、あり得ない話ではない気がした。よく同性愛というものが分かっていない甘奈だが、この前、自分と甜花がキスする直前のような絵を描いていた。

 正直、あれはあれで良かったわけだが、つまり秀辛も同性愛に興味があるということ。ということは、あれが彼氏の可能性もある。

 

「……なーちゃん? 冗談のつもりだったんだけど……」

「うう……甘奈はどうしたら……!」

 

 いや……例え相手が男でも、負けたくない。負けるわけにはいかない。とりあえず、敵情視察のつもりで慎重に教室の中を覗く。

 

「……これ、どう?」

「悪くないな……うん。この食い込み最高」

「だろ? 特にこの尻の部分……」

「ああ。ティーバックに見えもするし、それでいて背中を見せているのに、胸元が見えてるのも良い……というか、乳首立ってない?」

「だから、それを判断するのは受け手だから」

「お前最高」

 

 ……なんの会話をしているのかイマイチ分からないが……強引に解釈すると、恐らく筋肉の話だろう。ブーメランパンツの男が、背中を見せながら大胸筋をアピールする……とかそんな所だろう。

 なんにしても、BLだ。BLに間違いない(確信)。

 そんな真似はさせない。何が起こってるのか知らないが、彼は自分が好きでいてくれないと嫌だ。

 

「突入します」

「え、なーちゃん今なんて……」

「たのもー!」

 

 直後、思いっきり扉を蹴破る勢いで開けた。中にいた二人は、ビクッと肩を震わせて後ろを見る。そのうちの一人、秀辛は背中に何かを隠した。

 その様子が、なおさらイラっとして。

 

「何してるの、ヒデちゃん。こんな所で」

「え? あ、あー……大学見学……」

「その人誰?」

「え、えっと……同じクラスの中島」

「な、カツオ」

「野球やろうぜ!」

「よくボケられるね。もしかして甘奈、なめられてる?」

 

 バカ二人はビクッと肩を振るわせる。

 

「じゃあヒデちゃん。背中に今、何か隠したでしょ」

「え、そ、そう?」

「そうだよ。何隠したの」

「……な、なんでもない……」

「何でもなくない」

「なんでもないって……」

「見せて!」

 

 秀辛の背中のものを奪おうとする甘奈。それを後退りながら躱す秀辛……を、見せられる甜花と、しれっと隣に逃げている伊藤。

 

「何あれ、なんで急にイチャついてんの?」

「大体いつも、あんな感じ……」

「あ、そうなの……」

 

 大変だな、この妹だか姉だか知らんけどとりあえず姉も、と、伊藤が思っている間に、二人のやり取りは激しくなる。

 結局、甘奈は秀辛の手元から紙を奪ってしまった。

 

「取った!」

「あっ、おまっ……!」

「はい、見まー……え、何これ?」

 

 甘奈の手元にある紙には……なんかウマの耳と尻尾が生えた、凛とした表情の女性が、お尻にスク水が食い込んでいるのに恥じらっている表情を見せていた。

 乳首が見えているわけでも、秘部が見えてあるわけでもないのに、やたらとエッチな空気が漂っているそれは、甘奈も顔を赤くしてしまうほどだ。

 要するに、甘奈が想像していた絵と180度違うものであった。

 

「……ヒデちゃん、何描いてるの⁉︎」

「いや違うんだよ。やましい気持ちがあったわけじゃなくて……」

 

 秀辛はチラリと伊藤を見た後、すぐに言い訳を続ける。

 

「実は俺……スク水萌で、描いてみたくて……」

「変態」

「うぐっ……!」

 

 間髪入れずに切り捨てられ、ゴフッと血を吐きそうになる秀辛。

 

「甘奈がいるのに、自分でエッチな本作るなんて……酷いよ!」

「いや、本というか、まだ絵一枚……」

「そういう問題じゃないよ! そもそも、まだ16歳でしょ⁉︎ 18歳未満なのに、えっちなのはダメ!」

「い、いや……でもこれR15くらいじゃ……てか、俺も男の子だし、性欲だって……」

 

 不思議だった、伊藤には。この男、なんでこんなモテなさそうなオーラを出しているのに好かれているのか。そんな事、今言っちゃ絶対ダメぢゃん、としみじみと思う。

 

「とにかく、禁止だから! 女の人をえっちな目で見るのも、えっちな絵を描くのも禁止!」

「いや、無理だろ! 目の前で桑山さんが全裸でいたら、俺の息子は間違いなく『私が天に勃つ』」

「な、なんて例え出してるの⁉︎ ヒデちゃん最低!」

「さいっ……」

 

 今度こそ、狙撃された。クレーバーで。或いは金ヘビースナイパーライフルで。はたまた、AWMで。

 ダウンどころか一気に箱になった勢いで倒れる秀辛。

 それを見て、流石に申し訳なくなった伊藤は、仕方なさそうにため息をついた。元々、今回の件で怒られるべきは自分だ。その絵を注文したのは自分なのだから。

 その上、さっきは自分を庇うように依頼された事は隠していたし、それに甘えて黙っていられるほど薄情ではない。

 

「あー……大崎さん」

「黙ってて」

 

 怖ッ! と、思わず伊藤はたじろぐ。でも、言わないといけない。これで二人が別れるのは、流石に寝覚が悪い。

 

「いや、聞いてくれないと困る。その絵を描いて、って言ったの俺だから」

「……え?」

「だから、そいつそんな攻めてやらんといて」

「……」

 

 言われて、甘奈は少し気まずそうに、意外そうな顔で伊藤を見ている秀辛に視線を向ける。

 ……でも、やっぱりそういうエッチな話をするのは嫌だった。絵を描くなんてもっての外だ。

 すぐに真っ赤な顔のまま、甘奈は秀辛に怒鳴る。

 

「で、でも……ダメなの! エッチな絵を描くのは!」

「っ、や、絵はもう描かないから……」

「甘奈以外でエッチなの描くのは、もうダメだからね!」

「え……お、おう……」

「や、約束だから……ね……!」

 

 裏を返せば「甘奈でエッチな絵は描いても良い」ということだ。それを意識して言っているのがすぐに分かり、秀辛は思わず頬を赤くして目を逸らしてしまう。

 ……とはいえ、やはりハッキリと言葉にしてくれないと、本当にして良いのか分からない。

 

「……甘奈のエッチな絵は良いの?」

「なんでハッキリ聞くの⁉︎ 濁したのに!」

「いや……好……き、気になる子の、エッチな絵を内緒で描くとか……ちょっとアレだし……」

「っ……あ、甘奈は……絵の練習、してるし……ヒデちゃんのちょっとだけエッチな絵、描いてるよ?」

「は? いや待って。それ聞いてない。どんなの?」

「ど、どんなのって……それ言うの……? 恥ずかしい、よ……」

「いや、言わなくて良いや。どんな絵にしても、エッチと言ったからには肌面積多いんでしょ? それにはモデルが必要なはずだし、甘奈だってエッチな何か見てるじゃん」

 

 直後、カァっと顔が真っ赤になる。

 

「な、なんでそんなこと言うの⁉︎」

「だってそうじゃん!」

「そ、そうだけど……か、海パン一枚だけだから、エッチじゃないよ!」

「でも俺以外の男を見てるんだろ!」

「うっ……え、エッチ!」

「お前がエッチだ!」

「お、女の子にそういうこと言う⁉︎」

「男とか女とか関係ないだろ!」

 

 そんな様子を眺めて、伊藤と甜花はぽつりと呟いた。

 

「……俺らさ、何見せられてんの?」

「にへへ、ちなみにあの二人……まだ、付き合ってない……」

「……ホント、見れば見るほど佐々木に勝ち目はねえな……」

 

 とりあえず、爆発しろと思った。

 

 

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