大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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陰キャラの長所は自覚していない所にある為、陰キャラになる。

 五月になった。

 最初は俺なんてボッチ確定だと思ったが、まさかのサッカー部と知り合いになり、向こうがサッカー部といない時は俺と話すようになった。それもこれも、佐々木が俺の描いた絵をバラしてくれたおかげである。ありがとう。

 ゴールデンウィークが過ぎ去り、俺の誕生日まで後少し。そんなわけで、ウキウキしていた。別に伊藤から何かもらえるとかではなく、普通に事務所の女の子達に、軽くチロルチョコひとつでも貰えたら嬉しい……! 

 そんなわけで、今日からアピール開始だ! 

 早速、一緒に事務所へ行く為、校門前で待ち合わせしていた甘奈、甜花に挨拶しに行った。

 

「お待たせ! 麗しき双子の天使達。荷物を持たせていただきましょう、マゾモアゼル」

「言っとくけど、誕生日のためにまたバカな無理して体調崩しても、もう知らないから」

「ていうか……甜花、マゾじゃない……それ、マドモアゼル……」

 

 ……甘奈に看破されるだけでなく、まさか甜花に訂正をもらうなんて……どっちかっつーと、そっちの方がショックかも……。

 

「普通にしてて。気持ち悪いし痛々しい」

「はい……」

 

 トドメを刺すように甘奈に言われ、俺はもう黙って二人から三歩後ろを歩くしかなかった。

 はぁ……なんか、俺ってどこまでもカッコ悪い奴なんだな……。こんなんじゃ、甘奈にも愛想を尽かされるんじゃ……。

 

「……それに、そんなアピールなんてしなくても……甘奈と甜花ちゃんは、祝ってあげるから……」

「……う、うん。だから、普通にし、てて……」

 

 ……くっ、こいつらめ……中々、泣かせてくれる……! ホント、幸せ者だな俺は……。

 

「ありがとう。お前ら愛してる」

「愛……⁉︎」

「にへへ、愛されちゃった……」

 

 いつまで経っても、甘奈はこういうノリ慣れないなぁ。まぁその方が可愛くて良いけど。

 そんな話をしながら電車に乗って移動し、事務所に到着した。事務所に上がるには階段を登る必要があるが、その階段の前に一人の女の子が立っている。

 

「あ、芹沢さん。お疲れ様です」

「おっ、秀辛くん!」

「「うぇーい!」」

 

 新しく283事務所で結成された「ストレイライト」のメンバーの中学生だ。天真爛漫、好奇心旺盛、直往邁進と悪い意味ではなくとも、ブレンドされれば厄介極まりない性格を併せ持った少女は、当然その好奇心が撒きそうなスキルばかり持っている俺と、すぐに仲良くなった。

 お互いに肘と肘でハイタッチする。

 

「相変わらず仲良い、ね……」

「甘奈と仲良くなる前に二人が会わなくてほんと良かった」

「その自覚あるんだ……」

 

 甘奈も、俺と芹沢さんが仲良くしていても不愉快に感じないのか、食ってかかって来ることはない。

 

「あ、ところでこの前頼んでおいた奴、出来たっすか?」

「出来ましたよ! ゴルゴンゾーラの香りがする消毒用アルコール」

「待って。それ芸術とかじゃなくて思いっきり化学薬品じゃん。ヒデちゃん、なんでそんなの作れるの?」

 

 趣味の範疇です。お陰で、今年こそは化学だけなら90点は硬そうです。

 

「でも何に使うの?」

「冬優子ちゃんに貸してあげるっす!」

「正気かバナージ⁉︎」

「誰がバナージっすか?」

 

 あっ、勝手に取られた! 

 

「ちょっ、返せ!」

 

 慌てて取り返そうとするが、流石は行動力の擬人化。ぬるりと躱して階段を駆け上がって行ってしまった。

 その背中を、無力にも俺は眺めるしかない。やばい、どうしよう……。

 

「……あーあ」

「甜花、無関係だから……」

 

 早くも切り捨てられた……。

 いや、でも黛さんなら平気かな。あの子、甘奈や甜花、桑山さんと話してる時とか笑顔を絶やさない普通に優しい人だし、なんだかんだ許してくれそう。……多分、きっと、運が良ければ。

 

「よし、今日も四時間、頑張ろう!」

「投げた……」

「仕方ないなぁ……甘奈も一緒に謝ってあげないと……」

「なーちゃん……甘やかしすぎ……」

 

 そのまま三人で職場に入った。

 

 ×××

 

 さて、とりあえず仕事。みんな雑誌の撮影やらトークイベントやらラジオ収録やらで忙しくて、ここにいる事は少なくなってきた。

 それはそれで寂しさがあるが、気は楽だ。一人の時の方が落ち着くのは、俺がおかしいのか皆んなそうなのか。

 まぁ……その分、外に出てるアイドル達のお迎えに行く機会も増えたが。

 

「うしっ、終わりっ」

「お疲れ様でーす」

「あ、はづきさん。お疲れ様です」

 

 挨拶しながら、掃除を終えて部屋に戻る。綺麗になった室内を見回して、はづきさんはのほほんとした笑みを浮かべながら言った。

 

「相変わらずすごいですね。いつまで経ってもこの事務所に年季は入らない気がしてきました」

「まぁ、少しボロくなってたり、色落ちしている部分は、上塗りして誤魔化してますからね」

「流石です」

 

 いえ、あの……「そこまでしなくても」ってツッコミが欲しかったんだけど。プロデューサーさんは「力入れ過ぎだろ! 業者か君は⁉︎」という理想的なツッコミをくれた。

 まぁ、俺みたいな誰にでもできる仕事じゃなくて、マジの仕事をしている人だからな。一々、かまっている暇はないのだろう。

 

「何か飲みます?」

「じゃあ……紅茶をお願いします」

「了解です」

 

 ……あ、そうだ。

 

「そういえば、始業前に仕込んでおいたスコーンありますけど、食べます?」

「いただきまーす」

 

 よっしゃ。じゃ後、バターとジャムも出しておかないと……なんて、考えながら手を動かす。

 そんな時だった。ピンポーン、とインターホンが鳴り響く。お客さんかな? 出ないと……。

 台所から出て行こうとした俺の前を、はづきさんが先に通った。

 

「私が出ますので、料理に集中して下さい」

 

 どんだけ食いたいんだよ、スコーン。本場には勝てねえぞ。元々、仕込みをしていただけあって、あとは仕上げだけ。

 オーブンにぶち込んで焼き上がりを待機しながら紅茶の準備をしていると、はづきさんと男の人が入ってきた。プロデューサーさんじゃない。誰だ? 

 そのまま、二人は応接室に入っていく。お客さんだとしたら、紅茶急いだ方が良いな。

 しばらくして、はづきさんが出て来た。

 

「お茶、どうします?」

「あ、ありがとうございます。……でも、気を付けてくださいね」

「? 何をですか?」

「あの方……阿久井徳次郎といって、業界じゃ有名なフリージャーナリストの方で……あの方が記事を書くと事務所やアイドル達の評判が落ちる事があるんです」

「……なるほど」

 

 ……要するに、迷惑な記者なわけね。確かに俺は顔合わせない方が良いかもしれない。

 

「じゃあ、とりあえず俺が淹れた紅茶もスコーンは持っていってもらって良いですか?」

「ええ、まかせてください。……え、スコーンもですか?」

「ナイフとフォークと……あとお手拭きもお願いします。スコーンを食べるの、意外と難しいので」

 

 上下に分けるように切り込みを入れて開き、断面にバターとジャムを塗り、齧るように食べる。手間がかかるし、手も汚れてしまうのだ。

 が、まぁプロデューサーさんは上の階からまだ戻って来なさそうだし、少しくらい手間が掛かるものでも平気だろう。

 

「……先に紅茶だけ持って行ってもらって良いですか?」

「分かりました」

 

 それだけ話して、俺はとりあえず紅茶を先に淹れ終えた。カップに注ぐと、それを持ってはづきさんが応接室に持っていく。

 さて、スコーンは後どれくらいかな……あ、もうちょいじゃん。

 しばらく待機していると、はづきさんが出てきた。

 

「……わっ、良い香り……」

「お疲れ様です」

「あ、はい。どうですか、焼けそうですか?」

「はい。あと2分くらいです」

「それまでにはプロデューサーさん、来ちゃいますね。まぁ、仕方ないですけど」

「焼き上がってから持っていっても……平気ですかね?」

「大丈夫だと思いますよ?」

 

 なら良いか。とりあえず待っていると、プロデューサーさんが上から降りてきた。

 

「お待たせ! 取材の人は?」

「応接室です」

「ありがとう。てかめっちゃ良い匂いするけど何これ。何してんの?」

「スコーン後で持って行きますね」

「またワンランク上の茶菓子を……ありがとう」

 

 そのまま、プロデューサーさんは応接室に向かった。紅茶は、はづきさんがさっき二人分持っていったので問題ない。

 すると、オーブンから「ピーっ」という電子音が響く。完成したようだ。

 

「うしっ、出来たか」

「バターとジャム、用意してありますよ」

「ありがとうございます」

 

 それらをおぼんに乗せると、はづきさんは持って行った。

 そのちょうど良いタイミングで、3階でレッスンしていたストレイライトの3人が降りて来た。

 

「はぁ〜……チョー疲れたしー」

「私はまだまだいけるっすよ!」

「それはあんただけよ……」

 

 あれ、なんか黛さんにしては棘のある台詞が聞こえたな。まぁ疲れてる時はそうなるのかな? 

 

「お疲れ様です」

 

 とりあえず、といった感じで挨拶すると、ハッとした黛さんが唐突に笑顔を作った。

 

「あ、お疲れ様でーす♡」

「スコーン焼けてますけど、食べます?」

「スコーン……って、なんすか?」

「イギリスの超美味い奴じゃん! あたし食べる!」

「じゃあ私も欲しいっす!」

 

 元気溌溂な返事をしてくれたのは、和泉愛依さんと芹沢さん。うちの妹と同じくらい元気である。

 芹沢さんはともかく、俺よりも年上の和泉さんも同じテンションなのは、落ち着きがないとかじゃなくて、もう見た目通りのハデハデの実能力者みたいな人だからだ。色までなんか黒いし。

 お陰で俺としては、少し苦手だったりする。元々、人と話すのは苦手だし、なんなら同じ属性の甘奈と仲良くなれているのが奇跡なほどだし。

 

「どうぞ」

 

 とりあえず、頬をひきつらせたままソファーを譲った。三人の前に、紅茶とスコーンを差し出す。ブリテンティッシュなおやつだ。

 あとはづきさんの分も差し出して……あっ、俺の分ないや。ま、俺はいつでも食えるし、良いか。

 おやつの準備を終えつつ、ふと黛さんが目に入る。なーんか、黛さん関係で何かあった気がすんだよな……なんだっけ? 

 

「はづきさん、どうぞ」

「ありがとうございまーす」

「じゃあ俺、レッスンルームの掃除して来ますね」

「一緒に休憩しないんですか?」

「俺にとっては、料理がお休みなので」

 

 あ、今のはカッコ良い一言だな。ごめんなさいね、カッコ良くて。

 そのまま部屋を出て行って、階段を上がり、掃除用具を取り出す。モップがけのため、あの足元のペダルを踏むことでモップの布の部分を絞ることが出来るバケツに水を入れ、モップを絞る。

 さて、早速掃除……と、思った時、パタンと扉を閉める音が聞こえる。顔を向けると、黛さんがニコニコしたまま立っていた。

 

「? 黛さん? スコーン食べないんですか?」

「後でいただこうと思って」

「……俺に何か用事が?」

「うん♪」

 

 ……なんだ? 何か嫌な予感が……。

 と、思っていると、いつの間にか黛さんは俺の目の前にまで迫っている。そして、ネクタイをグイッと引っ張り、至近距離から睨み付けてくる。

 

「っ、な、なんすか⁉︎」

 

 笑顔なのが怖い! 俺、もしかして殺されちゃう? ごめん、甘奈……! 

 覚悟を決めてキュッと目を瞑る直前、黛さんがポケットから何か小瓶を取り出したのが目に入った。しかも、見覚えがある奴。

 

「……なんすかそれ?」

「見覚えない?」

「ある。……あっ、しまっ……!」

 

 口を塞いだが、もう遅い。

 それは、俺が芹沢さんにあげたゴルゴンゾーラの香りがする消毒用アルコール……つまり、こやし玉である。

 おそらく、黛さんはそれを使った後なのだろう。その笑顔、トラウマになっちゃいそう。

 

「ふふふっ、今回は大目に見ますけど、次、あさひに余計なものを渡したらタダじゃおかないわよホント……」

 

 後半に本性出ちゃってるしよ……。この人の普段、絶対ぶりっ娘キャラだわ。間違いない。

 

「す、すみませんでした……」

「では、お仕事頑張ってくださいね? ……いつも、必要以上に掃除をしてくれている事は感謝してますから」

 

 隠し通せたと思ってか、それだけ言うと黛さんは立ち去っていった。

 肝を冷やしたぜ……と、ホッと胸を撫で下ろすと、黛さんと入れ替わりで仕事を終えた甘奈が入ってきた。同じような笑みを浮かべて。

 ……そうだよね、いまの……会話の内容さえ聞こえていなければ、至近距離に接近していた男女だものね……。最後の部分だけ聞こえてたら、もう言い訳のしようがないし……。

 

「ヒデちゃん、どういうこと?」

「おおう、もう……」

 

 ここで死んだら、神様も道連れにする。そう固く誓い、とにかく誤解を解いた。

 

 ×××

 

 甘奈への説明に30分使い、レッスンルームから降りると、そのタイミングで事務所からさっきのジャーナリストのおっさんが出て来た。

 あまりのタイミングに目が合い、阿久井とかいう人は早速と言わんばかりに声を掛けてくる。

 

「スタッフさんですか? 随分と若い方ですね」

 

 あっ、やべっ……アイドル事務所に俺なんかがいるのはマズイかも……。

 

「もしかして、先程のスコーンや紅茶はあなたが?」

「え、ええ……まぁ」

「あれは素晴らしい! 美味しかったです!」

「え?」

「また食べに来てもよろしいので?」

「いや、知らないです」

「とりあえず、俺はここで失礼します」

 

 なんかご機嫌になって帰っていったな……。

 少し引いてると、入り口の前にいたプロデューサーさんとはづきさんがドヤ顔で親指を立てていた。このすばかお前ら。

 

「な、なんですか?」

「よくやった、秀辛くん」

「あの人、十中八九アイドルの評判下げる記事を書くつもりだったので……でも、結局スコーンと紅茶食べるだけで帰ってしまったので、助かりました」

「あ、そうですか……」

 

 まぁ、役に立てたのなら何より、かな……? 

 その時の俺は気付かなかった。レッスンルームから、甘奈が俺をジトーっとした目で見ている事に。

 

 

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