大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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仕事だから。

 翌日、今日も今日とてお仕事。レッスンルームの掃除は、基本的に「もう誰もレッスンしない時間帯」になってから始まる。終業前という事だ。

 だが、そのレッスンルームに居残り練習をしている人がいると、帰る時間が遅くなる。……そう、まさに今みたいな時。

 

「ふっ、ふっ……はっ……!」

 

 一人、残って練習しているのは風野灯織さん。ステップやら何やらを一生懸命、復習しているのを、扉の隙間から見ていた。

 まぁ……頑張っているのにわざわざ辞めさせることはあるまい。中で待ってるともっと気を遣わせるだろうし、先にビジュアルのトレーニングルームの掃除をするか。まぁトレーニングルームっつーか、普通に楽屋っぽい部屋だが。

 そう決めて、俺は廊下を移動する。すると、ちょうど良いタイミングで部屋から果穂と夏葉さんが出てきた。

 

「あ、お兄ちゃん!」

「おや、天使かと思ったら果穂か。綺麗になったなぁ、もう結婚したいくらいだ」

「あなた……甘奈にブッ飛ばされるわよ?」

「妹ですので大丈夫です」

「いや意味分からないけれど」

 

 うん、俺も言っててわけわからなかった。でも、果穂の前なら仕方ないよね。

 

「居残りしてたのか?」

「うん! 夏葉さんにメイクを教えてもらったんだ!」

「なるほど。道理で一瞬、ひまわり畑に舞い降りた一匹のアゲハ蝶と見間違えたわけだ」

「いやあなたさっき天使って……」

 

 うるさいよ、そこ。

 まぁ、そんなことはさておき、兄としてお礼を言わないと。

 

「夏葉さん、こんな遅くまで妹の面倒を見ていただき、ありがとうございます」

「あなた、さっきの人と同じ人?」

「はい?」

「いえ、何でもないわ」

 

 コホン、と咳払いすると、改めて夏葉さんは大人の笑みを浮かべる。

 

「いいのよ、まだ小学生なのに芸能界に来た果穂のためだもの。私達、年上のチームメイトが面倒を見るのは当然よ」

「自分が果穂につきっきりにならずにいられるのは、夏葉さん達、放課後クライマックスガールズの皆様や、プロデューサーさん達のお陰です」

「それを言うなら、あなたも同様よ? いつも、私達を支えてくれてありがとう」

「いえ、自分は仕事なので。今後とも、妹をよろしくお願いします」

 

 それを言って、頭を下げる。特に、放クラの皆さんはリーダーが果穂になった時も何一つ不満を表に出すことは無かった。そういう点も、非常にありがたく思ってる。

 さて……どうするか。とりあえず、帰宅時間は被ってるし、果穂には少し待っててもらうか。

 

「さて、ベリーキューティーシスター果穂。悪いけど、俺まだ仕事だから下で待っててもらえる?」

「うん!」

「冷蔵庫に、この前、果穂が美味しいって言ってたレモンの蜂蜜漬け入ってるから。ちゃーんとお手て洗って、お行儀よく食べるんだよ?」

「分かってるよ。私も、そこまで子供じゃないんだから」

「夏葉さんも、よろしければご一緒にどうぞ」

「え、ええ……」

「では、失礼いたします。……後でね、果穂」

「うん!」

 

 そのまま俺は、楽屋みたいな部屋に入った。

 

「ふふ、なんだかお兄ちゃん、ほんとの社会人みたいだなぁ……!」

「果穂、あなたのお兄さん、二重人格とかじゃないわよね?」

「にじゅう……? まだ16歳……あ、もうすぐ17歳ですよ?」

「ああ、そうじゃなくて、よく隣に並んでいる二人の人間に、あそこまで高低差のある対応を……まぁ良いわ。では、下にいましょう」

 

 そんな会話を聞きながら。

 さて、とりあえず清掃。机の上に、よく見ると分かる化粧品の粉末みたいなのが散っていて、それらを拭き取る。……この机を、果穂が使ってたと思うと、なんだか感慨深くなるなぁ……。

 仕事とはいえ、化粧とかに興味を抱く年齢になったって事でしょ。まぁ、言ってしまうと、小学生なだけあって若さがあるから、化粧の必要なんかないくらい綺麗な肌をしている。

 でも、やっぱり大人になったんだなって感動しちゃうよね。身長は既に俺より高いしね。

 そんな感動している間に、机の上を終えて、床の掃き掃除に移る。今日は使った人が少なかったのか、あんま大きな汚れはなかった。それらも終えて部屋を出ると、再びダンスレッスンの部屋を覗く。

 すると、風野さんが自主練を終えてタオルで顔を拭きながらこっちに歩いてきていた。

 

「あっ」

「お疲れ様です」

 

 目があって控えめに挨拶する。俺の手元に握られているモップやちりとりを見て、冷や汗を流した風野さんが恐る恐る聞いてきた。

 

「もしかして……お待たせしてしまいましたか?」

「いえいえ、全然平気ですよ」

「す、すみません! 私もお手伝いします!」

「いや、大丈夫ですよ。自主練、割と長くしてて疲れたでしょう? そういうのは俺の仕事ですから」

「……す、すみません……」

「いえいえ」

 

 それだけ話して、風野さんを見送った後、掃除を始めた。

 

 ×××

 

「……」

 

 ×××

 

 掃除を終えた後は、ようやく果穂と帰宅。そのため、下の部屋に入る……が、そこでは、果穂が夏葉さんの肩に寄りかかって寝息を立てていた。

 

「あら……」

「しーっ……」

 

 寝ちまってるか……まぁ、仕方ないな。待たせちまったし。

 

「すみません……夏葉さんの帰りまで遅くしてしまいましたね」

「平気よ。私、今日は車だから」

「そ、そうですか?」

「何なら、家まで送るわよ」

「い、いえ! 大丈夫です! そこまで迷惑はかけられませんから!」

「迷惑なんかじゃないわ」

「それに、果穂最近俺におんぶさせてくれないので、良いチャンスなんです!」

「そ、そう……」

 

 こんな機会、逃してたまるか。大丈夫、フライパンを振る機会が増えたから、腕力が必要以上についた。身長は抜かされても持てる。

 とりあえず、夏葉さんの方にもたれかかっている果穂を背に乗せると、夏葉さんを見送った。

 その上で、果穂をおぶったまま帰路につく。

 のんびり歩いていると、見覚えあるイケメンがキョロキョロしながら歩いているのが見えた。

 

「白瀬さん?」

「あ……やぁ、ヒデ。背中の眠り姫は、果穂かい?」

「はい。事務所で待たせ過ぎて寝ちゃったみたいで」

「ふふ、可愛いものだ。大人びた体格をしていても、まだまだ幼いプリンセスというわけだね」

「そうですね。めちゃくちゃ可愛いですよマジで。あ、果穂をナンパしたら殺しますので」

「う、うん……」

 

 まぁ、それよりも、だ。聞くべきことは他にある。

 

「てか、こんなとこで何してるんですか?」

「ああ……それが、恥ずかしい話、道に迷ってしまってね。寮の帰り道を、探していた所さ」

「寮、ですか?」

 

 ……くっ、ギャップ萌えという奴か。この見た目でそんなうっかりをしでかすとは……少し可愛いじゃねえか。

 放ってはおけんわ。とはいえ、俺も寮は行ったことないし……。

 

「……事務所まででも平気ですか?」

「ああ、そこまで行けばわかる。……案内してくれるのかい?」

「まぁ、そりゃスルーは出来ませんし」

「ふふ、優しいんだね」

「うるせーわ!」

 

 お前に優しいとか思われたくないわ! このクソイケメンめ! 

 

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えるとするよ」

「何なら、寮までも一緒に行きますよ。時間も時間ですし、

「いや、しかし……果穂も一緒だろう?」

「大丈夫ですよ。こいつ、一度寝たら中々、起きませんし。疲れてる時は尚更」

「そうかな? じゃあ、よろしくお願いしよう」

 

 そんなわけで、白瀬さんを寮まで送った。

 

 ×××

 

「……」

 

 ×××

 

 翌日の放課後。今日も仕事なのだが、日直でもあった。そのため、一人で残って掃除していた。

 そんな中、教室の扉が開かれる。顔を向けると、甘奈と甜花が迎えに来てくれていた。

 

「ヒデちゃーん、いるー?」

「ひ、ヒデくん……迎えに来た、よ……?」

「あー悪い。日直だ。先に行ってて」

「……」

 

 ……あれ、甘奈少し不満そう。

 

「どした?」

「別に? 手伝って、って言わないんだ?」

「いや、別にいいよ。俺はただのお手伝いだけど、甘奈と甜花はメインのアイドルなんだから、遅刻させるわけにいかんよ」

「……それは、そう……」

 

 甜花は頷くが、甘奈は納得いかなさそうにしている。なんだろ、何でそんな釈然としない感じ? 

 

「……まぁ、良いけど」

「事務所を出る時、一緒に帰ろう」

「! ……う、うん……!」

 

 言うと、甘奈は表情を明るくした。まぁ、何に怒ってんのか分かんなかったけど、機嫌を直してくれたのなら何よりだ。

 

「ごめん、プロデューサーさんに日直とだけ伝えてくれる?」

「うん」

 

 そのまま二人を見送り、日直の仕事を進める。先公どもが後ろの席を佐々木にしてくれたお陰で、同じ日直も佐々木。速攻で仕事を押し付けて出て行かれた。

 まぁあいつが居たところでサッカー部の連中と一緒に居座ってギャハハと笑うだけでかけらの掃除もしないだろうし、別にいいさ。

 掃除、黒板拭き、黒板消しパンパン、日誌を終えて、職員室に戻り、日誌を渡し、ようやく学校を出た。

 駅に到着。電車に乗り込み、しばらく揺られて到着したので、降りて改札を出た。

 そんな時だ。後ろから肩を叩かれたのは。振り返ると、むにっと頬に人差し指が当てられた。

 

「やっぱり、ヒデくんじゃーん」

「あ……和泉さん」

「にひひっ、電車に入って来た時から見てたのに、全然気付かないかったしー」

「すみません。今日のおやつの献立考えてて」

「おっ、何作んのー?」

「ガトーショコラ」

「おお、超楽しみ……!」

 

 そんな話をしながら、二人で事務所に向かった。……ていうかこの人、胸大きいな……見た目も金髪な上、黒いし……なんか改めて、俺と真逆の人って感じがする。甘奈と同じタイプだろう。

 なんか緊張して来たのとほぼ同時、ポツっと鼻の頭に何かが当たる。気の所為かと思いたかったが、今日の天気予報の通りだ。

 

「うーわ、雨?」

 

 和泉さんがそうぼやいた横で、俺は鞄から折り畳み傘を二つ、取り出した。

 

「どうぞ」

「うわっ、流石! ……でも、何で二本?」

「妹の分です。あいつ基本、傘持ち歩かないので。事務所から出る時、止んでなかったら貸しますよ」

「サンキュー」

 

 よっしゃ、これで妹との相合い傘は確定した。一度降ったら最後、朝まで降水率100%だからな。

 

 ×××

 

「……」

 

 ×××

 

 そういえば……ここ最近、誰かの視線を感じるなぁ。ストーカー? 俺なんかストーキングして何の意味が……はっ、まさか、果穂を付け狙っている奴がいるのか……? 

 なら、攻めの守りだ。敢えて果穂と行動し、奇襲を仕掛けてくるタイミングでむしろ討ち滅ぼしてやる。

 

 

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