大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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理性が本能に負けました、は言い訳にならない。

 夏休みに入った。

 

「うおおおおおおおおお‼︎」

「うお────…………!」

「お────────ー☆」

 

 三人で校門の前で両手の拳を突き上げるのは、俺と甘奈と甜花。今日でいよいよ夏休みだ。すっごく周りの視線を集めているが、もうそんなの気にならない。だって夏休みなのだから。それはもう本当に夏休みだ。

 

「よーし、どうすっか!」

「夏休みの予定立てようよ!」

「て、甜花……家でゲームしたい……」

「よし、ゲームしよう!」

「なんで甘奈の意見は無視するの⁉︎」

「そりゃそうだろお前。甜花と甘奈だったら甜花の方が優先度は高いから」

「は────⁉︎」

「……」

 

 いや……だからこう言う憎まれ口を叩いてるから俺は……あーもうっ、でもなんか素直になるのって気恥ずかしい……。

 前のようにいちいち、別れるようなことは無くなったが、それでも口喧嘩が絶えない俺と甘奈に、甜花が口を挟んだ。

 

「そ、そうじゃなくて……甜花、夏休みの間はおうちでゲームしてたいから……」

「ええっ⁉︎ そ、そんな……」

「だから……二人で遊びに行く予定、決めたら……?」

「「……」」

 

 言われて、甘奈と顔を見合わせた。

 二人で、遊びに行く……か……それってまるっきりデートじゃん……いや、てか、そもそも付き合ってるんだからデートくらいするんだろうけど……。

 

「……ど、どうしよっか……?」

「そ、そうだな……」

「ひぃん……この二人、まだデートで照れてる……」

 

 そういえば、あんまりまだデートとかしたことないから……。

 

「じ、じゃあ甜花……先に帰ってるから……!」

「え、て、甜花ちゃん一人で帰れる?」

「大丈夫……千雪さんに、迎えに来てもらうから……!」

 

 いやそれ普通に平日から社会人の方を呼び出してるだけ……と、少し冷や汗。まぁあの人は甜花に対しては園児に接しているくらいゲロ甘だから大丈夫だとは思うが……。

 そのまま甜花はトタトタと走り去ってしまった。取り残された俺と甘奈は、顔を見合わせる。

 

「……」

「……」

「…………」

「…………」

「……甘奈の部屋、来る……?」

「え、い、良いの……?」

「う、うん……」

「じゃあ……い、いく……」

 

 ……甘奈の部屋、か……なんだか久しぶりだ。甜花と今でも同じ部屋で、一応ベッドは二つあったけど、多分二人で一つのベッドで寝ていることだろう。

 ……いや、待てよ? てことはさ……俺って百合に挟まる男になってるんじゃ……。

 

「甘奈!」

「っ、な、何⁉︎」

「俺が邪魔だったら、いつでも俺の目の前で甜花とキスしてくれて良いからな!」

 

 ボコボコにされました。

 

 ×××

 

 さて、そんなわけで甘奈の部屋。まさかの、両親が留守である。

 

「……」

 

 あ、あいつ一体どういうつもりなんだ……? 童貞ながらに思うわ。二人で遊びにきた家で二人きり……? 待て待て待て。ていうかそもそも何しにこの家に来たんだっけ。

 そうだそうだ、夏休みの計画を決めるため……いや、待て。これ俺拒否したわ。つまり……甘奈は用事を隠してここに連れてきたと言うわけで……あ、あいつまさか……欲求不満だったと言うのか⁉︎

 待て待て待て。いきなり過ぎて頭が追いつかない。マジかよ、てことは俺……大人になるのか? 成長してしまうのか? 果穂がいるのに? 

 

「ひ、ヒデちゃん……」

「あひゃぎゃぎゃぎゃ!」

「え、な、なに⁉︎」

 

 振り返ると、甘奈が立っている。というか、ビックリさせてしまったようだ。夏服の制服から私服に着替え、少し頬を赤らめながらこちらを見ている。

 

「あ……い、いや……悪かった」

「大丈夫……?」

「だ、大丈夫! 全然、緊張なんかしてない!」

「ま、前にも部屋に来たことあるんだし……そんなに緊張しなくて良いから……」

「お、おう……」

 

 いやその時は甜花がいたし、その後に何かするつもりでもなかったでしょ。……ていうか、今思えば甜花と一緒にいたがったのは、単純に俺や甘奈が必要以上にイチャイチャしないようにする言い訳も含まれていたのかも……。

 そんなことを思った直後だ。甘奈が、床に座っている俺の横に座り込んだ。

 

「っ、あ、甘奈さん⁉︎」

「ふふ……ヒデちゃん、二人きりの時は素直になっても良いんだよ?」

「っ……だ、だからって素直すぎるのでは……⁉︎」

「いつも、ツンツンし過ぎてるんだから、別に良いじゃん」

 

 そ、それはそうだけど……うん、そうだな……さっきは、余計なこと言っちまったし……こっちも素直に言うか……。

 

「そ、その……私服、とても可愛いです……」

「へ? ぁっ……も、もう、バカ……素直過ぎること言わなくて良いのに……」

「特に、わざわざ学校終わった後で私服に着替えてくれる辺りが」

「そ、それはシワになっちゃうからだもん!」

 

 シワ? ……あ、ま、まさか……そうだった! 襲われるかもしれないんだった! 確かに俺も制服のままだと汚れちまう! 

 

「俺も制服だよ!」

「? え、だ、だから……?」

「お、俺にだけ制服でシろって言うんか己は!」

「え、何を?」

「だから……その……えっちなこと」

「……えっ?」

「え?」

 

 ……何その間の抜けた顔から、急激に真っ赤になるそれは。

 

「な、何言ってんの⁉︎」

「り、両親のいない家に連れてきたろうが!」

「そ、そういうんじゃないから! 夏休みの予定を決めにきたんじゃん!」

「んごっ……そ、それ俺拒否しただろうが!」

「じゃあ他に何しろって言うの⁉︎」

「セ○クス!」

「セッ……へ、ヘンタイは死ね‼︎」

「ぶべっ!」

 

 枕を顔面にダンクされ、そのまま押し倒される。むぐぐっ……く、苦しい……息できない……やばっ、殺される……いやまぁ向こうにその気がなかったのなら、逆に甘奈にとっては「襲われるとこだった」わけで。ある意味、殺されても仕方ないかもだが……! 

 と、思っている時だ。押さえつけている手の力が少しずつ緩んで来ているのを感じた。

 これは……チャンスか……ん? てか、片手が、俺の胸の上に当てられてる……? ていうか……少しずつ、ボタンが外され……。

 

「お前だってやる気満々じゃねえか!」

「きゃあっ⁉︎」

 

 ぼばっと枕をどかした時だ。体重の半分を枕に乗せていたから、甘奈の身体は俺の身体の上に倒れ込んできて、そして……唇と唇が触れ合った。

 

「ーっ!」

「っ……!」

 

 キスなんて初めてじゃないのに、やたらと胸が高鳴るのを感じた。それは今もなお、加速し続けている。

 あれ、ていうか……なんか、口の中に舌が……あ、甘奈さん? 何して……動揺している間に、甘奈は口を離す。糸が引いている口が、やたらと官能的に見えた。

 

「……ひ、ヒデちゃん……」

「甘奈……」

「…………い、いいよ……」

 

 ……これは、いくしかないな……男として! いや、勘違いからではあるが、明らかに甘奈も誘ってきていた。男の胸を触って。

 いくしかない……いくしか……目の前にある胸から……お互いに少しずつ触れ合え! 

 伸ばしかけた手が、少しずつ……少しず〜つ、甘奈の胸元へ……むなもと、へ……。

 

「…………甘奈」

「んっ……千雪さんほど、大きくないけど」

「ゴムは?」

「え?」

「や、だから避妊具」

「……」

「ないなら出来なくない?」

 

 確かに、という顔になる甘奈。残念ながら、俺はその辺責任取れない。いや、まぁ結婚できたら良いなーとは若気の至り的に思わないでもないが、今すぐには絶対に無理。

 

「……」

「……」

 

 俺も甘奈も顔が真っ赤になる。冷静になっちゃったからだ。俺達は一体、今何をしているのか。そして、これから何をするつもりだったのか、考えれば考えるほど恥ずかしくなる。

 

「……な、夏休みの予定、立てよっか……」

「そ、そうだな……」

「その前に……甘奈、トイレ……」

「ナニすんの?」

 

 今度は本気の爪先が顔面に減り込んだ。

 

 ×××

 

 さて、そんなわけで、予定を決める。甘奈が用意したルーズリーフを前に、やたらとすっきりした表情の甘奈が高らかに宣言した。

 

「ではこれより、夏休みの予定を決める会議を始めます! やりたい事があったらドシドシ発言してください!」

「果穂とお風呂!」

「……」

「悪かったから、無言でもシャーペンを構えるのやめて。冗談ですから……」

 

 今のは俺が悪いけど、冗談か否かくらい聞き分けてくれても良いのに……と、思わないでもない。

 

「ま、それはさておき、どうすんの?」

「そうだな……二人で遊ぶ予定でしょ? 甜花とか桑山さんとか果穂抜きで」

「そう☆ 何かない?」

 

 正直、何でも良い。旅行くらい遠くに行くのならみんなで行くだろうし、かと言って近すぎると予定立てる必要なんかない。

 

「……うーん、どうするか」

「え、海とか行きたくないの?」

「? そういうのは、甜花も一緒に行くでしょ?」

「あー……じゃあ、二人と三人で二回とか行かない?」

「そんなに金ないわ」

「バイトしてるじゃん」

「いやまぁしてるけども」

 

 だが、当然ながら甘奈と俺の給料には差があるし、俺はー……なんつったっけ? フヨー? とかいう奴。アレはずれてないから、今働き過ぎると11月に働けなくなる。

 

「じゃあ……プール、とか?」

「それなら良いんじゃね」

「じゃあきまり。……あ、あとお祭りは?」

「甜花、それも行きたがるんじゃない?」

「お祭りは一ヶ所だけじゃないじゃん」

「あーそっか。じゃあ、二人の時のお祭り何処でやってるか、とか探そうか」

「うん」

 

 と、甘奈がパソコンを立ち上げた。ていうか、意外とパソコン持ってるんだ。甜花が持ってるわけだし、甘奈は持ってないもんだと思ってた。

 

「甘奈、パソコン何かに使ってんの?」

「えっ⁉︎ い、いや……お、音楽とかさ……」

「あーなるほど」

「そ、それに大学行ったら使うこともあると思うし、今のうちに慣れておきたいなって! 甜花ちゃんに教わりながらね?」

「お、おう?」

 

 なんか……やたらと言い訳くさい気もしたけど……まぁ、気にしなくて良いか。俺みたいにD○Mの動画見るわけでもあるまいし。

 パソコンが起動し、開かれたデスクトップの背景は、俺と甘奈と甜花の三人の写真だった。

 

「っ……」

「やっぱり、パソコンのトプ画は思い出にしないとね」

 

 あ、やばっ。恥ずかしい。思ったより。

 

「お、おう……」

「お祭りだよね……せっかくなら、仙台とか行っちゃう?」

「仙台? ……ああ、七夕まつりか」

「そう」

「いや何にしても旅費ないです」

「えー?」

 

 ……流石に仙台は遠い。てか日帰りじゃあんま遊べないでしょ。お祭りなんて夜だし。

 

「とりあえず……まぁせめて隣の県とかくらいの範囲にしようや。神奈川とか埼玉とか」

「そうだねー……え、でもそれなら東京のが規模大きそうじゃない?」

「横浜辺り」

「ああ……そういえば、横浜は大きな花火大会とかあるんだっけ」

「調べてみよう」

 

 話しながら、パソコンで検索。……いや、思いつきで言ってみただけだが……よくよく考えたら、横浜までここから電車で行くってことになるよな……。

 

「甘奈は、お祭りなら浴衣着てくれんの?」

「……見たいの?」

「そりゃまぁ……似合うと思うし……」

「そ、そっか……えへへ」

「でも、横浜までは大変じゃね?」

「……だ、大丈夫だよ……!」

 

 いや、大変だろ。それに、やはり県外であったとしても花火を見るとなると夜遅くなるだろうし……。

 

「甘奈が良かったら……やっぱ近場にして、花火はその辺で買って、二人でやらん?」

「……それで良いの?」

「甘奈が良いなら。俺は、構わないよ」

「じゃあ……そうしよっか?」

「ん」

 

 やはり、割と横浜まで浴衣で電車はきついらしい。帰りのラッシュまで想像したのかもな。

 ……と、いう具合で、やりたい事をそのまま書き綴ってリストを作っていった。

 上から順番に……。

 ・プール

 ・お祭り(花火込み)

 ・遊園地

 ・お散歩

 ・スイカ割り

 などと、一ヶ月の間で出来る中でも絞ってきた。あとは、オフの日に予定を入れるだけだ。

 

「こんなもんか……」

「……もう一つ、予定入れちゃったりしない?」

「何?」

「その……だから……さ、さっきの続きの、予定……」

「……へっ?」

 

 さ、さっきの続きって……え、ほ、本気で言ってんの? 

 

「っ……で、でもどうやってだよ……ラブホなんか入れないし、俺もお前も姉妹いるし……」

「そう言う、細かい作戦を聞きたいんじゃないの」

「え?」

「するの? しないの?」

「……」

 

 ……あ、甘奈も顔が赤い。もしかして……余程、勇気を振り絞って言ってくれている……のだろうか? 

 それに比べて俺ぁ、細かい作戦? 違う、勇気がないからやらない理由を探していただけだ。いつまで甘奈に先越されてんだよ。俺だって……男だろ! 

 

「…………すりゅ」

「…………」

 

 はい、噛みました。俺は一体、どう言う人間なのか……なんかもう毎回、同じとこで噛んでるよね。

 恥ずかしくてプルプルと震えていると、甘奈が「ぷはっ」と吹き出した。

 

「ほんっと、相変わらず締まらない人だなぁ……」

「っ、わ、笑うなよ……兵が見ている」

「別に、バカにしたわけじゃないよ。……やっぱり、そういうとこも好きだから」

「ーっ」

 

 ……あー、ダメだー。死んじゃうよ俺ー。何で俺の彼女こんなに可愛いのー? 

 

「甘奈ー、俺のこと殺してくれー」

「やだよ⁉︎」

 

 もうダメだって……幸せ過ぎて死んじゃう……。と、一人、顔を片手で覆っているのに。

 予定表にメモを終えた甘奈は、畳み掛けるように俺の脚の上に乗っかって来た。

 

「ひゃうっ⁉︎」

「えへへ……やっぱ、お家デートはこれだよね……」

「え……か、彼氏を座布団(背もたれ付き)にすること……?」

「うーん……それでも良いかな」

 

 ちょおっ……お、お尻の感覚が、胡座の上に……いやお尻の感覚というよりも甘奈の体重の感覚、と言うべきかもしれないが、何にしてもちょっと気恥ずかしいどころの騒ぎじゃない……! 

 

「彼氏に甘えるのが、醍醐味かなって」

「っ……!」

「ね、後ろからギュッとして?」

 

 う、後ろからギュッと……だと……⁉︎ つまり、ハグをしろと? こ、こんな肩が出た私服姿の甘奈を抱きしめたりなんてしたら……ただでさえ、さっき理性で本能を打ち砕いたのも必死だったのに……! 

 い、いや……だから男の癖にヒヨんなっつーの! 俺は何処までチキンなんだ……甘奈を、抱き締め……! 

 

「っ……こ、こう?」

「……んっ。ふふ、ヒデちゃんの匂い……」

 

 そ、それはこっちのセリフじゃボケェ〜〜〜! 甘奈の匂いが、ダイレクトに……! 

 

「ヒデちゃん」

「な、何……」

「何か面白い話して?」

「え……な、何かって……」

 

 こ、これも家デートの醍醐味というやつか? じゃあ……俺が中学の時に体験した話でも……。

 

「怖い話でも良い?」

「えーあんまり得意じゃないけど……まぁ良いよ」

 

 よしきた。なら話せる。

 

「実は俺、中学の時も友達いなかったんだけどさ……」

「あーなんかそんなこと言ってたかも」

「やっぱ、そう言うやつってイベントの度に苦労するんだよ。絡む相手がいないから」

「うん」

「そんな中、クラスのサッカー部の奴が、修学旅行の時に気を利かせて声かけてくれてさ……」

「へぇ〜、良い人いたんじゃん」

「友達欲しい、なんて思ってなかったけど……まぁ、少しは楽しめるかも、って思ったんだよ」

 

 その時はまだ他人を信じる心があった。まぁ、それでも基本はソシャゲ上の仲間ほどは信用していなかったわけだが。

 

「で、当日になって、奈良で『坐禅体験』ってのがあって、班員で参加してみてさ。俺は目を閉じて正座のまま精神統一してさ……で、終わって目を開けてみたら……班員全員、いなくなってたんだよね……後から宿で合流した時、その時間は他5人はおみくじ引いてたみたいで。俺と一緒に座禅してたのは誰だったんだろうな……」

「……」

 

 ……え、違うよ? 甘奈、その涙目やめて? 置いていかれたとか、ハブられたとか、そんなんじゃないからマジで。

 

「……怖くね?」

「ヒデちゃん……DVD見よっか」

「え?」

「一緒に」

「怖くなかった?」

「もうやめて」

 

 そのままリビングに降りた。

 

 ×××

 

 ふと、目を覚ました。目を覚ました、と言うことは、寝ていたようだ。いつから寝てたんだっけ……と、少し記憶にない。確か、甘奈に哀れまれて、一緒にテレビ見てて……それで……。

 なんて思っていると、俺の側頭部に手が当てられ、優しく撫でられた。

 

「もう少し寝てても良いよ」

「……え?」

 

 あれ、ていうか……今、上から声した? そう思って真上に視線を向けると、甘奈の顔があった。ていうかこれ……膝枕? 

 

「ぅ!」

「起きなくて良いから」

「えっ?」

 

 反射的に起き上がりそうになったのを抑えられる。

 

「あ、甘奈さん……?」

「ふふ、可愛かったよ。ヒデちゃんの寝顔」

「え……や、やめろよ……」

「やっぱり、お家デートはお互いに甘え合わないとね」

「っ……や、やっぱ起こさせて」

「ダメですー」

 

 うぐっ……だ、ダメか……情けない話だが、ろくに運動もしていない俺は力で甘奈に勝てない。アイドルとしてトレーニングしている甘奈の方が強いのだ。

 

「でも、せっかくならもう少し一緒に起きてたかったのになー?」

「え、俺どれくらい寝てた? てか今何時?」

「19時前。もう甜花ちゃん達は帰って来て、今は甘奈の部屋だよ?」

「え?」

 

 あ……ほ、ホントだ……。あれ? テレビはリビングで見てなかった? てことは……。

 

「あの、俺はどうやってここに……」

「甘奈がおんぶしてきました☆」

「……」

 

 彼女におんぶされる彼氏……。は、恥ずかしいなんてものじゃない……。

 

「俺って一体……」

「そ、そんなにショックがらなくても……可愛かったよ?」

「それ慰めになってないから!」

 

 死にたくなるほど気恥ずかしい……。

 

「ご、ごめん! とにかく起きっから! てか、てことは甘奈、晩飯食ってないんじゃねえの?」

「気にしないで。一緒に食べようと思って、作り置きしてもらってるから」

「お、俺の分まであんの?」

「そりゃそうだよ。一緒に食べよ?」

「っ……お、おう……」

 

 くっ……ほんとに恥ずかしいどころか、ここまで甘えないといけなくなるとは……てか、俺も果穂に連絡しないと。

 

「ごめん、果穂にだけ連絡しないと。飯用意出来ないって」

「分かった」

 

 まぁ、多分この時間で連絡ない時点で察してるかもしれないけど。今頃、西城さん辺りと食ってることだろう。

 連絡を終えて、二人でリビングに降りる。もうご両親は部屋に戻っているようで、甜花しかいなかった。……いや、単純に気を遣われているだけかもしれない。

 

「あ、なーちゃんとヒデくん……おはよ」

「おはよじゃねーよ……ごめんな、居座っちゃって」

「ううん。……にへへ、なーちゃん嬉しそうだったから……」

 

 クッ……ダメだ。死ぬほど恥ずかしいぜ……。

 そのまま二人で晩御飯を食べる。寝起きで頭が働かないからか、少しだけぼーっとしてしまっていた。

 

「これから、夏休みか……」

「そうだね」

「二人で、デートするの……?」

「うん☆」

「そ、そっか……」

 

 少し寂しいのかもしれない。まぁ、寂しいだろう。甜花が一人になっちゃうから。

 

「二人で出かける日はあるけど、甜花も来たい日があったら言ってくれりゃ連れて行くぞ。……なぁ、甘奈?」

「もち☆」

 

 甘奈と二人だが……やはり、甜花も寂しい思いはさせたくない。元はと言えば、俺が二人の仲を邪魔したようなものだし、その辺は二人も引き続き仲良くしてもらいたいものだし、なんなら三人で遊ばせてもらいたい。

 

「でも……甜花、遠慮する……」

「「えっ?」」

「二人とも……いつまでも甜花と一緒ってわけには、いかないと思うから……」

「……」

 

 マジかよ……気持ちはありがたいけども……。

 でも、と俺と甘奈は顔を見合わせる。……いや、甜花だって俺達以外にも、もう事務所にも友達いるし、何もそれがきっかけで永遠に離れ離れになるわけじゃない。

 だから……甜花のご厚意はありがたく受け取ろう。

 

「ありがとう、甜花。ごめんな、妹取っちゃって」

「だ、大丈夫……今は、甜花……果穂ちゃんとも仲良しだから……」

「え、そうなの?」

「果穂ちゃん……今、A○EXで2500ハンマーをニューキャッスルで取った……」

「マジかよ⁉︎」

 

 人の妹に何してくれてんだ! いや、別に悪いことってわけでもねーけどよ! 

 そのまま食事を続けて、食べ終わった。何かしていきたかったりするのだが、残念ながらやれることは何もなかった。

 玄関に出て、甘奈と顔を合わせる。

 

「じゃあ、甘奈、甜花。お邪魔しました」

「にへへ……またね」

「うん。いつでも来てね?」

「いや……それはちょっと……」

 

 今日でさえ理性が崩れかけたのに、次に会った時も我慢できる保証はない。……いや、ほんとに今日危なかったな。あのままいってたら、取り返しがつかないことになっていたのかもしれない。

 さて、でもまぁ今日は良い休日になった。俺も明日から、仕事頑張ろう。いや、まぁ年内103万の制約があるから、程々に、にはどうしてもなってしまうわけだが。

 そんな事を考えながら、靴を履き終えて立ち上がった時だ。その俺の両肩に、甘奈が手を添えた。

 

「? どした……んっ?」

「っ」

 

 振り返った直後だ。唇と唇が触れ合う。急に不意打ちのキス……の直後に、さらに耳元で囁いた。

 

「……甘奈は、いつでも良いからね……」

「……」

 

 脈絡もなく、唐突な話であったのに、何の話か一発でわかってしまった、なんなら、俺の心の中を見透かされたんじゃないか、と思うほどだ。

 

「……バカヤロウ」

「ふふ、じゃあまた明日、事務所でね?」

「……ん」

 

 そのまま、甘奈と挨拶して玄関を出た。

 夏、か……と、少し空を見上げる。若者が間違いを犯す季節でもあり、問題が多く起こることもあるだろう。その理由が少しずつわかってきてしまった。

 確かに、こうやって考えると、例え性行為以外であっても、若気の至りによる暴力、盗難、騒乱などが起こるのも分かる。熱、というのはそれだけの効果がある。

 でも……だからこそ俺はその場のノリで突っ込むような真似をしちゃダメだと思う。カップルが間違いを犯せば、どんな理由であれ健全ではなくなるから。周りの見る目も変わるし「自分達が良ければそれで良い」なんて事にはならない。

 

「……ふぅ」

 

 この夏は、去年以上に色々と大変になりそうだな……そんな風に思いながら歩いていると、都合よくコンビニが見えた。

 ……そうだ。準備は、なるべく早い方が良い。備えあれば憂いなし。A○EXでも、急に襲われて良いように常に構えておくものだろう。その辺は何事も同じだ。

 そんな風に強く思いながら、一先ずコンビニに足を踏み入れた。長谷川さんも言われていた。「一時のテンションに身を任せる奴は身を滅ぼす」と。漫画とリアルは違うが、漫画のピンチな場面はリアルと一緒だ。

 

 

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