夏休みの醍醐味と言えば、やはり何といっても休みが多いことだろう。その点、アイドルをやっているとその休みは大幅に削られてしまう。それが割と難点とも言える……が、それを耐えてでも楽しさを見出せるようになってきた。
歌と踊りで人々の心を掴む……それには、他では変え難い興奮がある。そのために甘奈は頑張れる……わけだが、それでも休みはやっぱり重要なわけで。
さて、その貴重な二日間の休みで……大崎家には二人のゲストが来ていた。
「古今東西!」
「よ、夜更かし桃鉄大会〜……!」
「ふふっ、いぇーい」
甘奈、甜花の後で桑山千雪が小さく拍手をした。未成年に混ざっているのにビールをキメているからか、心なしかテンションが高い。そして……その隣にいる秀辛が遠慮気味に呟いた。
「あの……俺がいても良かったん? アルストのお泊まり会でしょ?」
「気にしなくて良いよ☆」
「う、うん……! ヒデくんも、283事務所の人だし……!」
「そうだよ。あんまり気兼ねしないで?」
男の子一人だから気持ちは分からなくもないけど……こう言ってしまってはなんだが、アルストロメリアが知り合いになるより大崎姉妹と千雪の両方と知り合いだった秀辛だから気にしないで欲しい。
言うと、秀辛は少し吹っ切れたように笑みを浮かべながら呟いた。
「ありがとうございます。じゃあ、桃鉄でも容赦しないね」
「にへへ……それは、甜花も……!」
「甘奈だって負けないよー? お正月は毎年、甜花ちゃんと桃鉄やってるんだから」
「私はあんまりやったことないから、容赦はして欲しいかな〜……」
「桑山さんには何もしませんよ。お世話になってますし」
なんて話している時だ。甜花が思いついたように言った。
「あ……じ、じゃあ……勝った人にご褒美ってルールは……どう?」
ここで負けた人への罰ゲームではなく勝った人へのご褒美になるあたりがアルストロメリアであった。
それを聞くなり、まず甘奈が秒で答えた。
「じゃあ甘奈、甜花ちゃんからのハグが良い!」
「にへへ……い、良いよ……なーちゃんなら」
なんか合コン中の王様ゲームみたいなことを言っていた。相変わらず仲睦まじ過ぎる姉妹である。
そんな話をする中、千雪が口を挟んだ。
「じゃあ……私は甘奈ちゃんのハグにするね?」
「別にご褒美じゃなくても、千雪さんにならハグするよ?」
「ふふ、じゃあ……膝枕とか、お願いしちゃおうかな」
「おいでー」
割と千雪もお酒で少しハメが外れているのか大胆なことを言っていたが、甘奈としては全然OK。たまにはこの人には甘えてもらいたいものだ。
さて、じゃあ流れ的に次は秀辛のご褒美だ。もちろん、と言うように甘奈は秀辛を見て言った。
「ヒデちゃんは……甘奈のハグだよね?」
「えっ……う、うん……」
目を逸らしながら答えつつ……秀辛のその逸らした視線の先には、千雪がいる。正確に言えば、千雪の胸がある……その直後、甘奈は頬を膨らませながら秀辛の頬を抓った。
「どこ見てるの⁉︎」
「いってええええな! 別に何も見てねーよ!」
「嘘! このえっち!」
「えっちだったらハッキリ言ってるわ! いいよ甘奈のハグで!」
その言い方がさらに甘奈の癪に障った。この野郎、本当にどうかしている。
「なぁにその言い方ー⁉︎ そんな風に言われて甘奈がハグすると思うの⁉︎」
「じゃあ他の女の人でも良いのかよ⁉︎」
「そんなの……!」
良くないに決まっている……のだが、相変わらず頬を赤くしたままの千雪が笑顔のまま答えた。
「じゃあヒデちゃん……私のハグにする?」
「良いんすかいやダメですよ!」
本音が漏れた時点で、甘奈の腹は決まった。もうダメだこいつ……絶対に負かす。
「いいよ、ヒデちゃんが勝ったら千雪さんのハグね?」
「えっ……」
「はい決まり〜」
「その代わり……ヒデちゃんが負けたら甘奈がハグするから。……首に」
「それ絞殺では⁉︎」
「じゃ、甜花ちゃんのご褒美はどうする?」
「おい、話逸らすな危ないとこで!」
ガン無視を決める。そのまま甜花に顔を向けると、甜花は少し苦笑いを浮かべたまま甘奈に言った。
「じ、じゃあ……甜花は、なーちゃんと千雪さんのハグで……」
「OK」
「強欲だな……ていうか、俺以外は罰ゲーム無し?」
と、ルールが決まったところで、いよいよ開始である。CPUは当然ながらなしの四人バトル。
とりあえず、各々の名前を決める。
「みんな、名前で良いー? 良かったら、甘奈が入れておくね」
「私はそれで良いよ」
「て、甜花も、それで……」
「よろしく」
そんなわけで、名前を入力。あまな社長、てんか社長、ちゆき社長、いろボケ社長の四人だ。
「おい待て! 一人おかしい!」
「シャッフルするねー」
「お前聞けよ! てか、そんな怒んなよ!」
無視である。いろボケ野郎なんか。
順番はてんか社長、ちゆき社長、いろボケ社長、あまな社長の順だ。まさかの甘奈は自分が一番負けちゃいけないやつに先を取られたが、致し方ない。ここから勝つ。
さて、まずは行き先を決めなければならない。キャスターさんの指示で、最初の行き先は稚内となった。
「うげ……遠っ……」
「まぁのんびり行こうよ。甘奈と甜花ちゃんと千雪さんは急ぐけどね」
「お前一々、俺をパブらないと気が済まねえのか⁉︎」
すごく拗ねられていた。ゲームが始まる前にギスっているにも関わらず、千雪と甜花は慣れた様子で笑顔のまま流していた。
「よし、じゃあ……甜花から、いきましゅ……!」
「頑張れー甜花ちゃん☆」
「サイコロ振るだけに頑張るもクソもねーだろ」
「そこのいろボケ社長、うるさいでーす」
「その名前で呼ぶんじゃねーよ!」
話しながら、甜花がサイコロを振るう。コロコロと転がったサイコロから出た目は……6だった。
「よ、よし……!」
さて、進む。北の方へ向かわなければならないので、サクサクと移動。止まったのは、カード駅だった。
「にへへ、堅実に……!」
「デビ太郎的にはデビルでは?」
「えっ……ひ、ひぃん……ヒデくん、嫌い……」
「甘奈も嫌いー」
「お前らそんなに人を泣かして楽しいか?」
「ふふ、私はヒデちゃんのこと好きだよ?」
「く、桑山さん……勘弁して下さい……」
「……ふーん」
酔っているからか、普段の甘奈と秀辛の喧嘩の仲裁をさせられる仕返しのように起爆してきていた。何にしても……今の甘奈的には、どんなに千雪が暴れようと秀辛に腹が立っていた。
さて、その黄色マスにて手に入れたのは、エンジェルカードだった。真逆である。
「うわ、マジかお前」
「さっすが甜花ちゃん。よくよく考えたら天使そのものだもんねー?」
「甘奈ちゃんも同じだよ?」
「にへへ……じゃあ、千雪さんも……!」
「うふふ、ありがとう」
ユニットメンバーでいちゃつき始めつつも、千雪の番になったのでサイコロを振るう。出てきたのは4。甜花ほどではないが、サクサク進んだ。
「あら、プラス駅」
「まだ4月だから大した金額じゃないですよね」
そう呟いた秀辛の隣で、甘奈はニコニコ微笑みながら言った。
「あるに越したことないよ、千雪さん」
「ふふ、だよね」
実際、お金はあればあるほど良い。お金があれば物件も買えるし、貧乏神の悪行から物件も守れるし、カードも買える。100万単位でもあった方が良い。
さて、次は秀辛の番。サイコロを転がすと、出て来た数字は3だった。
「……なんかどんどんしょぼくなるな、サイコロの出目」
「いろボケだからじゃない?」
「お前がつけた名前だろうが!」
さて……さらに進んだ先は、マイナス駅。元々持っている金額が1000万であることもあって、割と減らされてしまった。
「にへへ、ヒデくんドンマイな奴……」
「日頃の行いだよね。いろボケには良い薬になるんじゃない?」
「お前何で俺にだけ厳しいこと言うの⁉︎」
胸がかなり大きいからって千雪にデレデレする男に厳しくするな、と言う方が無理だ。
「てか、良いんだよ! 俺はー……あれ、た、たい……待機番兵だから!」
「大器晩成でしょバカ。番兵に待機させてどうすんの」
「俺、そろそろ泣くよ? 言い方をお願いだから考えて」
「よしよし、泣かないで。ヒデちゃん」
「く、桑山さん……嬉しいけど、甘奈が写輪眼開眼しそう……」
「……」
頭を撫でられて嬉しそうに頬を赤らめる秀辛を見て、さらに甘奈のストレスは上がった。この男、どうしてくれようか。
さて、最後に甘奈の番。サイコロを放って出てきた目は……普通に3だった。秀辛と同じマスに進んできて止まり、金額が引かれた。
「……」
「ぷふっ、お前も一緒じゃん」
「じゃあいろボケ社長が笑う権利ないよね⁉︎」
「その名前連呼すんなよ腹立つ!」
なんて勝手にギスり始めた時だ。飲んでいる千雪が、顔を真っ赤にしたまま言った。
「ふふ……やっぱり、二人とも仲良しだね。同じ所で止まるなんて〜」
「「……」」
言われて二人とも黙り込み、頬を赤らめながら目を逸らす。いや、まぁそんなの偶然だし……いや偶然重なることの方が奇跡的……あれ、むしろ運命によって自分達は縛られているのだろうか? なんて、頭の中がピンク色に染まる。
「……いや、まぁ……仲は悪くないかもだけど……」
「そ、それはまぁ……確かに……かも……」
「ふふふー、甘酸っぱいなぁ〜」
「にへへ……二人とも、仲良しだねやっぱり……」
二人揃って満更でもなさそうにもじもじし始めた。本当に純情なのかどうなのか分からないカップルである。
×××
それから、およそ15分後くらいだろうか?
「ちょっ、う○ち邪魔! 誰の貧乏神の所為これ⁉︎」
「おい、ここの物件全部取ったの誰だよ甘奈社長!」
「甘奈ってわかってんじゃん! そっちだってさっきおならカードで甘奈だけ飛ばしたくせに!」
「あれは桑山さんを飛ばす予定だったんだよ! 俺だってお前なんか飛ばして良いことなんて何一つないわ!」
「なぁにその言い方ぁ!」
一年が終わったあたりで既にバチバチにやり合っていた。本当に仲の良いカップルである。
とはいえ、だ。甘奈は割と気の毒なことになっている。最初から人をいじめようと考えていたからだろうか、バチが当たっている感覚だった。
さて、そんなこんなで、順位は現在、甜花がトップ、その次に千雪、そして秀辛、甘奈の順番だ。
「にへへ……ふ、二人とも……早速、ギスギスしてる……」
「ふらりとも〜ラブラブさんだね〜」
傍観者の二人も、何食わぬ顔で話していた。何にしても、甘奈の中で秀辛に負けたくないと言う気持ちは強くなっている。
一方で秀辛も単純バカなだけあって、殺意は高まっていく。とりあえず、勝てなくとも甘奈には負けたくない、と。
「……甘奈めぇ〜……」
「いろボケめ〜!」
「その呼び方やめろ、最下位!」
話しながら、鈴之助の番。そもそも、黄色マスにいくら止まってもぶっとびカードと期間延長カードとあっちいけカードとおならカードしか出ず、二人とも新幹線やら急行やらのカードが出ないため、出遅れるのはもはや当たり前だった。ちなみに、目的地にも一度も着いていない。
さて、そうこうしている間に、今度は千雪がゴールした。
「ふふ、やった。ゴール」
「あーもうっ、一番遠いのまた甘奈じゃん……」
「なんだ? 貧乏神に浮気か?」
「千雪さんに浮気しかけてる、いろボケ社長に言われたくない!」
「してねーよ!」
「してる!」
ガルルルっ……と唸り声をあげる。さて、みんな同じ目的地を目指していただけあって、周囲の人間はみんな近くにいる。
だから、甘奈もやろうと思えば簡単に追い付けるのだ。特に一番近くにいる秀辛には。
「絶対に追いついてやる……!」
「それは無理だな」
「甘奈、そろそろ6連呼するから」
「そうじゃねんだよなぁ」
そう言いながら、秀辛はぶっとびカードを使った。
「あ、狡い!」
「サヨナライオン」
しかも、方角も悪くない。次の目的地は青森だが、岩手に降りることができた。
「いやこれはあれか? ようやくの目的地到着あるか?」
「そうだね。じゃあこの子にも夢見せてあげて」
「は?」
そう言いながら甘奈が切ったのは……あっちいけカード。ランダムなのに、吸い込まれるように秀辛の元に向かうのはもはや芸術である。
「てめええええ! 何してくれてんだ⁉︎」
「お似合いじゃん。そのまま楽しんだら? 不倫旅行」
「不倫するなら桑山さんか甜花か果穂が良い!」
「ひぃん……て、甜花……ヒデくんなら、ゲーム付き合ってくれるから歓迎……いや、でも勉強のお世話してくれないからやっぱやだ……」
「私はもう少し大人の人じゃらいとら〜」
ダメ出しされていた。あんまりのリアクションに、思わず甘奈は笑みをこぼす。
「ぷふっ、全員に振られてやんの」
「う、うるせーな! 果穂ならなってくれるから、不倫相手!」
「なるわけないでしょ。てか『不倫するなら桑山さんか甜花か果穂が良い!』ってさっきの発言なんなの?」
今更だけどよくよく考えたら言ってること絶対おかしい。刺されるレベルの発言だ。
「いやそれは言葉の綾というか何というか……それはスミマセン……」
「どうなってんのいろボケ社長の情緒」
「……ホントごめんなさい……」
まさかの貧乏神をなすりつけた側がキレていた。当たり前ではあるが。
「次、甜花の番……じゃあ、リニアカードで行くね……!」
「次、私も新幹線カード〜♪」
「……」
しかし、二人の強い人達がチートカードですっ飛んでいくため、甘奈は一人でポツンと関西に置いて行かれた。
「むー! 甘奈を置いていかないでー!」
「ぼっち・ざ・ろっく」
「お前ー!」
「ちょっ、リアルファイトはやめろお前!」
突撃した。頬のつねり合いになる中、間違って秀辛はボタンを押してしまう。
「あ、サイコロ使っちゃったじゃん!」
「ザマミー!」
「しかも1だし!」
と、お互いにいよいよリアルにまで妨害が始まり、もはやゲームどころではなくなって来る中、千雪が笑顔で告げた。
「でも、本当に二人とも仲良しよね〜?」
「「どこが⁉︎」」
「だって、さっきからお互いのことしか見えてないれしょ〜?」
「「……」」
言われて、二人ともまた黙り込み、頬を赤らめる。
「た、たしかに……なーちゃんが、甜花以外の人に構うのなんて、珍しい……!」
「い、いやそれは……」
「二人とも、お互いに夢中になっれるのね〜……私も、そんな相手欲しいな〜……」
「ま、まぁ甘奈は俺のこと大好きだからなー! あはは……お、俺もだけど……」
「……」
「……」
これでお互いに「まぁ、もう割と地獄を見せてやったし、後はいじめないでやるか」とかおもってしまっている時点で、割とちょろい奴らである。
さて、そんなわけで、今度こそ緩やかな桃鉄大会が始まった……わけだが。残念ながら、プレイヤーの思惑通りにいかないのも桃鉄であって。
「ちょっと! なんで甘奈だけおならマンで飛ばすの⁉︎」
「わざとじゃねーよ! てか、うわお前からもらった時限爆弾カードが……!」
「それ甘奈の所為じゃないから! お任せしたら秘書さんが勝手にヒデちゃんを選んだだけで……!」
「お任せにすんなよ! もう俺らはお互いに潰しあう運命なんだよ!」
「じゃあ甘奈に千雪さんか甜花ちゃんを選べって言うの⁉︎」
などと、中々にヒートアップし始めた。結局、意図せずともギスるのが桃鉄である。
そんなこんなで、三年目が終わった。結局のところ、最終順位は甜花、千雪、甘奈、いろボケとなった。最後の最後で、バカと違って上手い事ゴールに滑り込み、甜花の徳政令カードで借金を打ち消したあとだったことが大きかった。
「あーあ! マジかよこれお前……まさか、甘奈と桑山さんにまで負けるとは……」
「はい、罰ゲーム!」
「お前結局それかよ!」
「当たり前じゃん」
ゴキゴキと指を鳴らしながら秀辛に接近する……が、秀辛は焦った様子で甜花を指さした。
「さ、先にご褒美では? 甜花へのハグ」
「……それもそっか」
「にへへ、や、やった……!」
「私と甘奈ちゃんが一緒にハグ……だっけ?」
甜花を間に挟んで、千雪と一緒にハグ。こんなの、後回しにする方が勿体無い。
そんなわけで、まずは座ったまま甜花を千雪と挟み……そして、そのまま「せーのっ」と千雪と息を合わせ……そして、一斉に甜花に抱きついた。
「「ぎゅ〜っ!」」
「にへへ……最高……!」
こちらこそだ。甜花のこんな香りをこの至近距離で楽しむことが……いや、割といつものことだけど、千雪が混ざる事でいつも以上の気持ち良さが……。
そのままお団子になった状態で、座っているソファーの後ろに倒れ込むように寝転がった。
このままもう眠ってしまいたいくらいだが、お泊まりなのでどうせならベッドで寝たい感じある。
そのまましばらくイチャイチャする中……ふと甘奈は気がついた。
「あれ、ヒデちゃんは?」
いない。ていうか……確実に逃げた。と、思ったら……ガチャっと玄関を開ける音。まだ遠くに行っていない!
「ごめん、甜花ちゃん! あのいろボケ逃げた!」
「あ……うん。いってらっしゃい……!」
「ふふ、じゃあ甜花ちゃんには、私が引き続きギューってしてあげるね」
「ありがと……千雪さん、柔らかいから好き……!」
「私も、甜花ちゃんのこと好きだよ」
ちょっと羨ましく思いながらも、慌てて家を出た。玄関を開けた直後、音で気がついたのか、全力のアホが振り返る。
「げっ、バレた!」
「そりゃバレるわー! 逃すかー!」
「いやそろそろ帰んないと果穂心配するからー!」
「今日は泊まりでしょうがー!」
慌てて走り始めたので、慌てて追いかける。が、元々の運動神経が違う。ギャルでありながら運動神経も学力もある甘奈はあっさりと真後ろにまで迫る。
そんな中……秀辛は勝手にすっ転んだ。
「ほげっ⁉︎」
「ちょっ、ヒデちゃん⁉︎」
コンクリートの上でダイブ……普通に痛い。思わず少し心配になってしまい、慌てて横に駆け寄る。
「だ、大丈夫⁉︎」
「……顔打った……鼻取れた……」
「も〜、ホントに運動音痴なんだから〜。転ぶ前に手を出すくらいできたでしょ?」
「あれ、てか鼻血出てんじゃん……」
「とにかく、うちに戻って。鼻だけ処置してあげるから」
「ど、どうも……」
全く、本当に色々と手先は器用なのに他はダメな男である。おかげでいつも目が離せない。
そのまま家に連れ帰り、甘奈の部屋に入った。
「大丈夫?」
「平気……」
「顔あげて。鼻にティッシュ詰めるから」
「んー」
「ふふ……なんか、甜花ちゃんみたい」
「それは死んでも嫌だ。俺は家事は出来る」
「そう言うのは今の自分を見て言ってくださーい」
「否定できねー……」
でも、普段の事務所ではしっかりしているところをよく見るからこそ、こうしてお世話できるのが割と嬉しかったりする。
「ていうか、お前普通に部屋に救急箱あんの?」
「甜花ちゃんがいつ怪我しても良いように」
「なるほど。過保護なことだな」
「じゃあヒデちゃんの部屋には救急箱ないの? 果穂ちゃんのための」
「は? あるに決まってんじゃん」
「はい、お互い様」
なんか……落ち着いて来ると、やっぱこの男かわいいな、と思ってしまう。ゲーム中は何であんなに熱くなっていたんだろう、と不思議になるほど。
「っ……な、何でそんな楽しそうなんだよお前……」
「ふふ、なんでだろうねー?」
話しながら、少しずつ変なテンションになってしまった……そんな自分に、秀辛は目を逸らしため息をつきながら呟く。
「お前、そんなに俺の首絞めたいの?」
「そんなんじゃないよー。分かってるくせに」
「……うるせ」
やっぱり可愛い。本当に小学生みたいな人だ。憎まれ口を叩かないとデレられないらしい。
でも……せっかくの機会だ。締めさせてもらおう。
「じゃ、約束は約束だし、シメようかな」
「えっ、い、今の流れで⁉︎」
「目、閉じて」
「っ……は、はい……」
黙らせて目を閉ざさせてから、正面から首の横に手を通して頭を抱きしめた。胸が顔に当たっている自覚はあるけど、強く抱き締めてやった。
「っ⁉︎」
「ふふ、首締め〜」
「っ……こ、これおっぱい⁉︎」
「も、も〜……そう言うの流してよエッチ」
まぁ、自分からやった以上は怒りはしないけど。
とりあえず頭を撫でてあげながら、優しく告げた。
「次は、もう少し楽しんでゲームしようねっ?」
「お、おう……え、でも俺楽しかったよ。あれこそ桃鉄って感じ」
「いや、まぁ多少ギスるのもそうかもしんないけどさ……もうちょい笑顔でやりたかったなーみたいな?」
「や、そうじゃなくて」
? そこじゃないの? と、思ったのも束の間、胸の中の秀辛は少し照れたように頬を赤らめた笑みを浮かべて答えた。
「美少女にうんちとかオナラとか普通に言わせられるゲーム……桃鉄くらいだからさ」
「……」
今のはダメだった。こいつどこで楽しんでんだこのバカ、と。締めていた腕の力を強くし、両方の前腕で首の両サイドを挟んだ。
「じゃあ、そろそろ約束通り締めるね?」
「え? さっきのままじゃ……てか、首がなんか痛たたたた」
「このまま切断しちゃおっかな☆」
「何その猟奇的な……てかごめん、ジョーク! ジョークだから勘弁して……ああああ!」
結局、締め上げた。