大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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恋愛に憧れがある子ほどはしたない。

 ある日の午後、事務所のキッチンで従業員のマグカップを洗っていると、自分の足元にパタパタと小さい生き物が駆け寄って来た。

 

「ヒデくん!」

「お、あさひちゃん。どしたどした?」

「お腹すいたっす! またなんかすっごいリアルな虫の形したお菓子作って欲しいっす!」

「それ食べたいの?」

「はい!」

 

 相変わらず猟奇的というか訳がわからない少女だが、まぁ面白い。この子のリクエストは、料理の腕を上げてくれる。

 

「ちなみにものは? クッキー? チョコ?」

「なんでも良いっす!」

「はいよ」

 

 となると、見た目はゲテモノのが良いだろう。だが、いくらなんでもゴキブリはダメ。多分、殺される。甘奈と桑山さんとプロデューサーさんと七草さんに。

 とりあえず、考えながら食材を見た。色々とお菓子作りだけでなく、栄養補給が出来る主食になり得るものも多くあるが……まぁ、あさひは若いから極端に太ることはないだろう。甘いものにしよう。

 あとはモデルになる虫だが……と、ふと窓の外を見る。もう夏休みなだけあって、良い日差しが室内を照らす。

 夏といえば、やっぱこれだろう。決めたわ。今から完成を楽しみにしながら、とりあえずスマホでその虫の特徴を調べた。

 

 ×××

 

「うおおー! すごいっすー!」

「ふっふーん、だろう?」

 

 あさひちゃんが目を輝かせて、俺の自信作を見てくれる。

 題して……南米の切り株タイム風呂敷ケーキだ。見た目は、切り株の形。勿論、大きさそのまま使うわけにはいかないから、普通のホールケーキくらいに縮小してある。

 もちろん、見た目だけ切り株なので、味は普通にチョコレートケーキである。

 そして、その周りには……てんとう虫、コオロギ、カマキリ、バッタ、スズメバチ……そして夏の代名詞、クワガタやカブトムシだ。

 物によりけりだが、基本はクッキー、甲虫だけチョコで作った。

 

「もっと褒めてくれても良いぞ?」

「これ、どうやって作ったんすか?」

 

 あさひちゃんが指さすのはカマキリ。でも不思議なことを聞くものだ。あさひちゃんだって絶対経験あるだろうに。

 

「粘土で遊んだことくらいあるだろ?」

「え……じゃあこれ、粘土なんすか?」

「いやクッキーだけど? 形は全部手で作った」

「相変わらずすごいっすねー。カッコイイっす!」

 

 っ、か、カッコイイ……年下の女の子にそんな風に褒められてしまうと……なんか、それはもう……ほんとに、最高だ! 

 

「カッコイイ?」

「はいっす!」

「どれくらい?」

「こーのくらいっす!」

 

 両手いっぱいに広げてくれる表現の仕方が可愛かった。いや、ロリコンとかではなく、妹的な意味で。

 

「ね、ヒデくん。食べていっすか?」

「一人で全部食うなよー? 糖尿病じゃ済まないからな」

「分かってるっすよー!」

 

 なんて話している時だった。事務所の扉が開かれた。そこに立っていたのは、最愛の妹だった。

 

「あ────! お兄ちゃんのケーキ──────‼︎」

「おお、果穂。お前も一緒に食べるか? 題して、南米森林チョコレートケーキ」

「食べるー! カッコ良いー!」

「じゃあ、果穂ちゃん。私の隣においで」

「あさひさんも一緒に食べましょう!」

 

 これこれ、正直半分くらいはこのために料理上手くなったまである。可愛い女の子達が、自分が作った料理に夢中になり、幸せそうな笑顔を浮かべてくれる……それだけで、笑顔ウルトラZだ。

 さて……じゃあ、俺も食べようかな? 上手くできたと思うし、パティシエとして味見は大事だ。

 とりあえず、小さいてんとう虫から摘んでみる。

 

「んっ……うま。イチゴクリームの羽もちゃんと味出てる」

「カマキリの抹茶も美味しいっすー!」

「カブトムシチョコも美味しいよ、お兄ちゃん!」

「サンキュ」

 

 なんてポリポリと三人で食べている時だ。ガチャっ、とまた部屋の扉が開いた。中に入って来たのは、樋口さんと白瀬さんの二人だ。

 

「お疲れ様です」

「おや、何か良い香りがするね。283プロの妖精さんが、食材に魔法をかけてくれたのかな?」

「「「え?」」」

 

 三人で思わず顔を上げてしまった。カマキリの頭を食べるあさひちゃん、カブトムシのツノを齧る果穂、そして新たなコオロギを摘もうとする俺を見て、二人は一時停止した。

 何故か白目を剥いて微動だにしなくなる。もしかして……食べたいのだろうか? 別に羨ましいなら言えば良いのに。

 

「二人とも、どうしたっすか?」

「お疲れですか?」

「疲れてる時には甘いものだろ。二人とも、食べさせてあげなさい」

「「はーい!」」

「「えっ」」

 

 果穂とあさひちゃんは、ケーキの上のバッタとスズメバチを選む。それに伴い、2人はなぜかビクッと肩を振るわせた。

 

「ちょっと待って。それどうするつもり?」

「ひぃっ⁉︎ お、おおお落ち着かないか二人とも! 私達が何かしてしまったのなら謝るから!」

「すごいっすよね、これ! めっちゃリアルにヒデくんが作ってくれたっすよ!」

「見て下さい、このスズメバチ! ちゃんとお尻の色合いもしっかりしてるんです!」

「いや、そんなの知らないからやめて止まってそのキモいの置いてお願いだから」

「ま、待つんだ、二人とも! 早まっては……」

 

 むっ、なんだあいつら。人が作ったお菓子に対して失礼な。そんな風に扱われると俺も腹が立つ。

 ここは一つ、ちゃんと美味しいということを分からせてやろう。生意気な子供には教育を施してやるのが一番だ。同い年と年上だけど。

 そう決めると、俺は二人の背後に回り込み、後ろからガッと二人の腕を両腕で掴む。

 

「ひっ……⁉︎ ひ、ヒデ! 何のつもりかな⁉︎」

「ちょっとあんたセクハラとか良い度胸……!」

「人が丹精込めて作ったスイーツを食べもせずにゲテモノみたいに扱うお前らが悪い」

「そうっすよ! 円香ちゃん、何事も経験してみないとわからないっすよ!」

「大丈夫です、咲耶さん! 一度口に入れちゃえば、あとは幸福が待ってますから!」

「「ちょっと待ってお願い待って!」」

 

 断末魔にも似た悲鳴が、事務所中に響き渡った。

 

 ×××

 

「ねぇ、いい加減にしてくれる? ヒデちゃんがバカやるたびに、甘奈にもクレームが来るの」

「す、すみません……」

 

 メチャクチャに怒られていた。甘奈から。いや、バカをやったつもりはない。俺だってお菓子を食べて喜んでもらうつもりだったのだ。だが……まさか、お菓子の見た目を本物の虫と勘違いされるとは……。

 

「ごめん。次からもう少し可愛い虫にするよ」

「そういう問題じゃないんですけど。そもそも虫のお菓子を作るなって言ってるの」

「えっ、だ、ダメ?」

「その結果があの人達だからでしょ!」

 

 現在、事務所では白瀬さんが田中さんに慰められ、樋口さんが福丸さんに胸を借りていて、あさひちゃんが黛さんに雷を落とされ、果穂は園田さんと引き続きお菓子を食べ続けている。

 俺だけ別室で甘奈に怒られているわけだが……でも、つまりこういうことじゃね。

 

「果穂が幸せそうだし、別に良いってこと?」

「あんたほんとのバカ⁉︎ 明らかに被害者の方が多いじゃん!」

「じ、冗談すよ……」

「全く……とにかく、次はないからね。じゃないと、お菓子作りさせてもらえなくなるよ?」

「え、それは……困る」

 

 非常に困るそれは。何せ、それがなかったらもうこの事務所にいられなく……いや、掃除とかお茶出しとかもあるから、割と仕事はあるか。

 でも、作ったものを食べてもらえなくなるのは嫌だ。割とやり甲斐に繋がっているというのに。

 

「じゃあ、ちゃんと作る時の形を考えること。良い?」

「わ、分かったよ……」

「もし、次また円香ちゃんや咲耶さんを泣かせたら別れるから」

「ごめんなさいもうしません許して下さい」

 

 確かに女を泣かせる男は最悪だよな。よし、肝に銘じよう。

 

「で?」

「え?」

 

 何が「で?」なの? 甘奈さん? 

 キョトンとしていると、目の前の甘奈は少し頬を赤らめ、チラチラと俺を見ては視線を外し……を繰り返しつつ、少し拗ねた口調で呟く。

 

「……甘奈にはないの? お菓子……」

「あ、あー……」

 

 専用は作っていない。誰か来たら、みんなで切り分ければ良いと思っていたから。

 でも……頼まれたとはいえ、他の女の子に専用を作りました、なんて知ったら拗ねてしまうのではないだろうか? 

 ……キスとか? いやいやいや、無理無理無理。死ぬほど気恥ずかしい。

 

「あ、あー……じゃあ、これで……」

 

 ハグをする事にした。説教されている部屋には甘奈と俺しかいないし問題ない……あ、でも割とやっぱ恥ずかしい柔らかい良い匂い。改めて……こんな綺麗な子が俺の彼女なんだよな……ふひひっ。

 

「もう……すぐ誤魔化すんだから。……そんなんじゃ許してあげない」

「ふひひっ、良い匂い……」

「絶対許さない」

「はっ、しまつた!」

「つ?」

 

 いや……でも、もう限界。というか、そもそもこういう恋人っぽいムーブは未だに慣れない。だってなんか……照れ臭いじゃん。恋人になったからってこういうことするの。

 でも、このまま許されなかったら元も子もない。

 

「え……じゃあ、どうしたら……その、許してくれる?」

「甘奈にも、食べさせてくれたら」

「や、だからお菓子は切り株ケーキしか……んっ⁉︎」

「んっ……」

 

 や、あの……なんでいきなりキスなんて……! や、あの……てか、舌入って来た……待って、ちょっとこれもしかして……ディープな奴……⁉︎

 顔と頭が真っ赤になる中、ようやく甘奈はぷはっと離れる。少し照れたように頬を赤らめさせつつも、小悪魔のように笑みを浮かべた甘奈はウィンクをしながら小さく囁いた。

 

「……ご馳走様」

「っ……お、お前……ここ、事務所だぞ……!」

「お腹空いてたから。甘いもの欲しくて」

 

 空いてたのは性欲だろこの野郎。なんか……甘奈は本当にそういう……こう、キスとかするの抵抗ねえんだなぁ……。その度胸というか、大胆さというか、少し分けて欲しいくらいだ。

 

「じゃあ、甘奈はそろそろ行くね」

「お、おう……」

 

 そのまま別れたが……正直、なんかもう色々と恥ずかしさでいっぱいだ。ホントあの野郎、いつでもどこまでも堂々とした奴になったもんだなぁ……。

 少しため息をつきながら、甘奈に少し遅れて部屋を出ると、黛さんが腕を組んで待機していた、

 

「あっ」

「ふふ、小宮くん。少しお話良い?」

 

 説教は終わらない様子だった。

 

 ×××

 

 はてさて、その後に樋口さん、田中さんと白瀬さん、と説教が続き、解放されたのは二時間後になった。

 いやー、特にキツかったのは黛さんの説教。あさひを調子に乗らせるなとか、そもそもアイドルのビジュアルで虫を食わすなとか、隠れて彼女と胸焼け起こすようなイチャイチャをするなとか、とにかく怒られた。最後のはマジでヤバかった。

 だが……おそらく、これらは序の口に過ぎないのだろう。何故なら……これから本番がやってくるからだ。

 

「し、失礼します……」

「入れ」

 

 社長に呼び出されました。クビな気がする。退職ではなく、斬首で。斬り捨て御免されてもおかしくない。

 部屋に入ると、社長はまっすぐ自分を眺めながら、切り株ケーキの一部を食べていた。多分、俺がいない間に七草さんが切り分けたのだろう。

 

「相変わらずの料理の腕だな」

「あ……はい。ありがとうございます。でも甘過ぎないですか? 社長が食べるには……」

「たまには、無性に甘いものが欲しくなる。それは、大人も子供も同じだ」

 

 本当にカッコ良い人だな……。イケオジってこういう人を指すのかもしれない。

 

「だが……その腕前を披露する相手は、選んだ方が良いだろう。如何にビジュアルが優れていようと、その時の審査員に合わせたパフォーマンスを披露しなければ、良い結果は得られない」

「うっ……す、スミマセン……もう、虫型のケーキはやめます……」

「? 何を言っているんだ君は?」

「え?」

 

 そういう話じゃないの? と、小首を傾げてしまう中、社長は真顔のまま続けた。

 

「虫型のケーキを作るのは構わない。事実、喜んでくれる者もいただろう?」

「あ、はい」

「リクエストに応えるのも結構だが、大勢に受けないデザインにした時、周囲の人間の分まで作ったとしても受け入れられないことが多いという話だ。今回であれば、最初に要求した彼女……多くてもう一人分、そこで止めておくべきだった」

 

 なるほど……そういうことか。確かに、オーダーメイドしたものを大量生産しても、買う人は一人だもんな。非常に分かりやすい。

 

「わ、分かりました!」

「君のことは買っている。今後とも、よろしく頼む」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 なんか……やる気出て来た。色々と。よーしっ、じゃあ今日も頑張るか。

 失礼しました、と部屋を出て、気合を入れる。しかし、やっぱりカッコ良い人だな……社長。自分みたいなガキにも、子供扱いしないでちゃんと接してくれる。なんだか嬉しい。

 ソワソワしながら、廊下を歩いていると、甘奈が待っているのが見えた。

 

「あ……ヒデちゃん。大丈夫だった?」

 

 怒られる、というか罰則がある、と思って心配してくれたのだろう。でも大丈夫。

 

「平気。相手と加減を覚えろって事だった」

「そっか……」

「それよりさ、甘奈」

「ん?」

「俺、大人の男になる」

「急にどうしたのっ?」

 

 大人になると決めたら大人になる。なんかこう……ダンディーな感じの。

 

 ×××

 

 さて、大人になると決めた以上は、まずは大人しか使わないものだろう。例えば……そうだな。煙草とかお酒。なーに、こういうのは持ってるだけで大人に見えるものさ。

 そんなわけで、甘奈と一緒に帰宅しながら、コンビニを指差した。

 

「甘奈、寄って行っても良い?」

「良いよ。何買うの?」

「タバコと酒」

「は?」

「いや吸わないし飲まないから。持ってるだけでこういうのは大人に……」

「は?」

「……や、やめておきます……」

「隠れて買ったら果穂ちゃんにも言うから」

「絶対買いません!」

 

 ダメか……料理に酒使ったりするし、別に吸わなきゃ良いのかなって思ってた。まぁダメだわな。

 

「一応、聞いてあげる。なんで法律を破ろうと思ったの?」

「や、法律違反をしたいわけじゃなくて……こう、社長みたいな大人の男になりたくてな」

「ならまずは服装とかにしようよ。この際だから言うけど、ヒデちゃんの服装少し子供っぽいし」

「見てくれだけ大人に見せてどうすんだ」

「タバコやお酒だって見てくれだけじゃん!」

 

 ま、そう言われるとその通りか。……いや、ていうか今、流したけどすごいこと言われてなかった? 

 

「え、あの……俺の服装、子供っぽいの?」

「うん」

「……どの辺が?」

「パーカーとか」

「え、パーカーダメなの?」

「いや、パーカーは良いんだけど、こう……無地だし、地味だし、暗い色だし、オシャレできない子がオシャレ感を誤魔化すために着てるみたい」

「ヤバい、過去一刺さること言われた」

 

 死にたくなるレベル。何が困るって、間違っていないことだ。だって着こなしとかよく分かんないんだもん。

 そんな表情を読まれたのか、甘奈は半ば諦めた様子で呟いた。

 

「まぁ、そういうとこ可愛いけども。……ていうか、そもそもヒデちゃんに大人っぽいカッコ良さとか求めてないし、別に良いよ」

「どういう意味だよ?」

「それより、コンビニ行かないの?」

「お前、何誤魔化してんの」

 

 じゃあどんなのが求められてるんだろう……と、思いつつも、なんか小腹空いたしコンビニに向かうことにした。

 

「今日、いらない世話かけたし、なんか奢るよ」

「ホント? ラッキー。じゃあ……アイス!」

「はいはい」

 

 なんて話しながら、近くのコンビニに入ろうとした時だ。ふと目に入ったのは、コンビニの自動ドアの奥。黛さんの姿だった。帽子とマスクをしているがパツイチで分かる。そして……FGOの一番くじを購入しようとしていた。

 

「あ……」

「? どうしたの?」

 

 マズイ、と冷や汗を流す。あの人、なんか知らんけど周囲の人間に、正体がバレないよう振る舞っている。そして、それはオタバレも同様だ。オタク趣味を必死で隠そうとしているのは俺にも分かる。

 だから……こんな現場、俺はともかく甘奈に見られたら終わりだ。ならば、隠すしかない。

 どう隠すか? もう甘奈が自分から目を離して自動ドアの方を見ればすぐバレるというのに。

 そんなの……思いつくのは一つしかなかった。

 甘奈の頬に手を当てつつ、甘奈の身体も抱き締めて自動ドアに背中を向けさせながら、唇に唇を重ねた。

 

「んっ……」

「っ……」

 

 何してんだ俺は……ヤバい、こんな公衆の面前でクソ恥ずかしいんだけど。や、でも……他にやりようなんてなかったし……というか、黛さんまだ? 早く出てこい……あ、こっち気付いた。

 

「……」

「……」

 

 自動ドアの奥で眉間に皺を寄せやがった。違う違う、見せつけたいんじゃないから。早く立ち去れ。

 甘奈に見えないように手でサインを出すと、察する能力が高いのか理解してくれた。

 そのまま、景品のフィギュアの箱を抱えて出ていく。

 

「ふぅ……」

「もう……どうしたの? ヒデちゃん、急に……」

「え?」

 

 まぁそりゃそうだよな。甘奈にとっちゃ急だわ。いきなり空から爆弾が降って来たようなもん。

 でもわざとじゃないんです。や、わざとだけど意図してたんじゃないんです。だから……その、目ん玉にハートが浮かんでそうな笑顔やめろ。

 

「や、やー……そ、その……」

 

 何か言い訳しないと。じゃないと、なんか甘奈の何かが暴走する気がする。

 いや、いきなりキスした時の言い訳ってどんなのだよ。なんかこう……キスしても仕方なかった的な内容のものを考えないと……。

 あ、ダメだ。これ以上、間を開けると何されるか分かんない。言い訳、言い訳……それも、なるべく興醒めするような言い訳は……。

 

「こ、小腹が空いたから、甘いもの食べたくて……」

 

 バカじゃないの? 

 なんて完璧なキラーパスだよ。お昼の仕返し、もう夜の帰り道で二人しかいない時、何より「甘奈」と「甘いもの」をかけたエッチな言い回し……どこのエロ同人だよ。

 

「ふふっ……そっか」

 

 あ、ヤバい。甘奈さんその笑顔やめて。

 

「じゃあ、甘奈も辛いもの、食べたくなって来ちゃったな」

「あ、いや、待って……」

 

 おい、俺の名前に辛いって文字つけたやつ誰だ。親だ。殺すぞ馬鹿野郎。

 まずいまずいまずい、いや正直えっちなことはしたいけど、でもしちゃいけない。アイドル的にも、年齢的にも。

 というか、万が一するにしても、こんな誤魔化すようなキスがきっかけになるのは絶対嫌だ……と、思っている時だ。

 

「ヒデくんと甘奈ちゃん何してるっすかー⁉︎」

「ぴんっ!」

「ひゃうっ!」

 

 二人揃ってビクビクッと肩を振るわせた。ビックリした。死ぬほどビックリした。というか甘奈、テメェなんでびっくりしてんだオイ? 

 

「あ、あさひちゃん〜。お疲れー☆」

「お疲れ様っす。何してるっすか?」

「な、何もしてないよー。強いて言うなら、ヒデちゃんに襲われてたんだ」

「え……」

「テメェ何適当なことほざいてんだ!」

 

 や、ていうか何そのウブな反応! あれだけ大胆なことしておいて、まさか知り合いに見られるのは恥ずかしいとか言うんじゃないだろうな⁉︎

 

「そっすかー。てっきりキスするのかと思ってたっすー」

「「ピホピホピポー!」」

「え、なんすか急に」

 

 全く同じ反応をしてしまった……てかお前、ほとんど察してんじゃねーか。まぁ……でも、まぁある意味では助かった。本人は意図していないだろうが、ケーキを作った貸しは返してもらった気分だ。菓子だけに。

 

「ふぅ……まぁとにかく、あさひちゃん。早めに帰りなさい。子供がこんな時間にウロウロするんじゃないよ」

「そ、そうだよー? あさひちゃん。こんな時間に、危ないからねー」

「でも、これからクワガタ探しにいく約束してるっすよ。愛依ちゃんと弟くんと」

 

 なるほど、保護者がいるならまぁ問題ないが……でも、心配ではあるな。

 

「どこで待ち合わせしてんの?」

「事務所の前っす!」

「じゃあ、甘奈達と一緒に行こっか?」

「え、別に平気っすよ」

「バッキャロウ、そういうやつがロリコンに分からせられて『あの時、言うこと聞いておけばよかった……』って死んだ目で涙を流すんだよ」

「分からせ?」

「ヒデちゃん?」

「はい、ごめんなさい」

 

 ちょっといらんこと言ってた。まぁとにかく、そういうことだ。

 

「んー……分かったっす」

「よし、じゃあ行くか」

「うん」

 

 話しながら、三人で事務所の前まで引き返した。

 しかし……助かった。あのまま甘奈にバレてたら、俺今頃甘奈の家に連行されて食われていたかもしれない。

 ていうか、最近の甘奈は割と大胆がすぎるな。夏だから開放的なのかもしんないけど、少し警戒した方が良いかもしれない。

 

 

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