大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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得手不得手が極端過ぎる。

 中間試験まであと僅か。だからなんだよバーカ。

 そんなわけで、俺は今日も今日とて甜花の絵を描く。今日のお題は、アウトロー甜花。カウガールの格好をさせ、リボルバーを構えている甜花を描け、との事だ。

 そのため、もらった写真は中学の時の体育祭甜花だった。これを上手く使い、銃を持った甜花を描く……! 

 ゴオオオッ、と魂を燃やして鉛筆を動かしていると、ふと気になる点が出てきた。大崎にもらったカウガールの参考画像、おへそが出てるんだけど、ちょっと腹筋が割れ過ぎている。甜花にあの腹筋はありえない。

 

「……うーむ」

 

 どうしたもんかな……。でも、うちはパソコン一家で一台共通だし、調べることはできない。スマホには履歴を残したくないし……。

 まぁ、想像で補完するしかないか。なんであれ、やるからには全力だ。

 ガリガリと鉛筆を動かし、とにかく少しでも甜花に似せるように、そして甜花に似ないように描く。矛盾してなるようでしてないんだこれが。

 まぁ、んなことはどうでも良くて、とにかく大崎をもっと喜ばせてやる。あいつが喜べば喜ぶほど、俺の絵の精度は上がるって事だからな。

 完成した時が楽しみだ。

 

 ×××

 

 それから二週間が経過した。中間考査が終わり、俺は甜花と教室で駄弁っていた。もちろん、ゲームの話題だ。

 

「つまり……最近は、ちゃんと当てられるなら、センチネル+P2020が最強だと、甜花は思う……!」

「シールドワンパンで割ってからのトドメでしょ? たしかに弾薬の消費は少なさそうだけど、センチネル一発でも外したら、近距離じゃ終わりじゃね? 特に、ワールズエッジとかオリンパスは見渡しの良いステージが多いし。それなら、俺は普通にクイックドロウホルスターのウイングマンとRE使う」

「で、でも……REはちゃんと当てないと、全弾当てても、倒し切らないことも、あるし……」

 

 なんて話していると、教室の後方の扉に、見知った顔が見える。今、俺と話している少女とそっくりな奴だ。

 そいつは、人差し指と中指と親指を立てると、それらで自身の顎を撫でて上に向け、手首のスナップを効かせて横に倒す。立てている指が3本、ということは、3分後に取引のサインだ。

 3分の時の取引場所は、屋上と決まっている。ちなみに1分の時は近くの非常口の奥、5分の時は学校の裏門である。

 

「悪い、甜花。トイレ」

「あ……う、うん……」

「帰ったら、どっちが各々の武器でキル取れるか勝負だからな」

「……負けた方が、勝った方に次の日、絶対服従……!」

「良いだろう」

 

 そんな話をしながら、俺は一度、教室を出た。すぐに階段を駆け上がり、屋上の扉を開けると、大崎が待っていた。

 

「お待たせ」

「遅い」

「うるせーよ」

 

 開口一番で文句ですかこのヤロー。

 

「例のブツは?」

「こちらだ。中身は注文の品、3枚揃えてある」

「流石だね。前に比べて描くスピード上がった?」

「そうでもないよ。試験期間中だから、自習の授業が増えたおかげだ」

「それはそれでどうなのかな……」

 

 ……るせーな。

 

「じゃ、戻ろう。甜花ちゃんが怪しむ前に」

「だな」

 

 それだけ話すと、俺と大崎さっさと屋上を後にする。残念ながら、利害の一致があるだけで、別に仲が良いわけではない。

 二人でそのまま階段を下っていると、担任とすれ違った。

 

「あ、小宮。良い所にいた」

「え?」

「お前、中間ちゃんと勉強したのか?」

 

 あ、な、なんだよ急に……? 

 

「まだ採点してないけど、見回りしてる時とか全然、回答埋まってなかったじゃねえか。てか、何なら問題用紙に落書きしてただろお前」

「落書きなんてしていません。練習です」

「え、お前、美術部だっけ?」

「違いますけど?」

「???」

 

 あれ、混乱してる。なんでだ? 

 

「と、とにかく、ちゃんと勉強しろ。じゃないと、夏休み補習になっちまうぞ」

「えー、それは嫌だ」

「なんてシンプルな台詞なんだ……。嫌なら、ちゃんと勉強しろ。最近、授業中もなんか絵を描いてるみたいだし、もし何度注意されてもずっとダラダラそんなことを続けるようなら、禁止にするからな」

「えっ⁉︎」

「え、なんで大崎が反応するの?」

 

 おい、大崎。バレるだろ、甜花の絵について。多分、その絵のことバレたら怒られるよ? 

 

「先生、よくこいつが大崎って分かりましたね。うちのクラスの大崎とは別人ですよ?」

「いや分かるけど。でもそんだけ顔が似てて他人の空似って事はないだろ」

「それな」

「タメ口?」

 

 とりあえず誤魔化しつつ、胸前で控えめに手を振るう。実はこれもハンドサインの一つだ。万が一、絵を他人に見られそうになった際のシグナル。「さりげなく絵を隠せ」だ。

 俺のタメ口に担任が気を取られている間に、大崎は手に持っている紙袋を、実に自然な動きで背側に隠す。

 

「とにかく、勉強しろよ。美術が5になったとしても、大学進学には影響しないんだからな」

「それおかしいですよね。科目ごとに優劣つける必要なくないですか? 美術くんや家庭科くんの気持ち考えたことあります?」

「お前何言ってんの? 工学部に入るのに美術が必要になると思ってんの?」

「美大なら影響するかもしれないでしょう」

「美大行きたいの?」

「いや?」

「お前、生徒指導室来るか?」

 

 あ、ヤバい。怒ってる。てか、怒られる。

 冷や汗をかいていると、隣の大崎が口を挟んだ。

 

「小宮くん? 早く行かないと、甜花ちゃん待たせてるよ?」

「あ、ああ。そうか」

「待ち合わせしてんの?」

「は、はい。じゃあ、俺急ぐんで」

「なら早く行け。でも、勉強はしろよ。じゃないと補習になるからな」

「うぇーい」

「体育教官室でも良いよ?」

 

 無視して二人で逃げた。そのまま階段を降りながら、ひとまずお礼を言わないといけない。

 

「悪い、大崎。助かった」

「何、成績悪いの?」

「……」

「……いや、なんとなくそんな気はしてたけど」

「は? お前、俺が馬鹿だって言いたいんか?」

「馬鹿じゃん。結構、その節は感じてたから」

「お前に言われたくねーんだよ。どうせお前だってそのチャラチャラした格好からして……」

 

 直後、ぐいっと目前に紙が差し出される。数学の小テストだ。

 

「……満点?」

「あんたとは違うから」

「……勉強できる馬鹿もいるもんね」

「勉強できない馬鹿に言われたくないから!」

 

 しかし、勉強か……面倒なんだよなぁ。興味ないことはあんま頭に入んないし、やってても成果を感じられないから楽しくないんだよ。

 

「とにかく、補習で絵を描けなくなんてなったら許さないからね! 夏休みであっても!」

「あそう……まぁ、やるだけやるよ」

「よろしい」

 

 俺だって夏休みは甜花と遊びに行きたいし、学校に時間を取られている場合ではない。……とはいえ、その返事は何様だとは思うが。

 しかし……まさか、こいつに助けられるとはなぁ。多分、甜花を待たせるわけには行かない、という意識が働いたのだろうが、借りができた事には変わりない。今度、何かお礼しないと。

 俺の教室がある階に到着し、声を掛けた。

 

「大崎、お前この後暇?」

「は? なに急に。通報されたいの?」

「なんで通報になんだよ……いや、今助かったから何か礼を……」

「いらない。キモい」

「……」

 

 キモいってなんだコラ。喧嘩か? アァン? 

 

「じゃあいいわ。この後、甜花と遊びに行くし」

「は? 何それ聞いてないし、甘奈このあと予定あるから無理なんだけど」

「お前は来なくて良いわ。甜花と二人で行くし」

「協定違反!」

「お前がさっき待ち合わせしてるって言い出したんだろうが!」

「甘奈が言ったのは『待たせてる』って言っただけでーす!」

「でも待たせてる以上は待ち合わせと相違ねえだろ! 先生に嘘つくことになるのは嫌だし、絶対行くからマジで!」

「はぁー⁉︎ 言っとくけど、二人でデートなんてしたらマジ許さないから!」

「邪魔したら許されねーのはそっちだから!」

 

 なんて徐々にヒートアップしていき、周りの視線を感じてきた頃だ。いつのまにか教室から出て来た天使が、俺と大崎の間に入った。

 

「二人とも、何してるの……?」

「「何でもないよ!」」

 

 慌てて二人で弁明するしかなかった。

 

 ×××

 

 結局、待ち合わせはネットワークを介して行う事になった。そのままその日はゲームをし、自身のマイブームの装備を整えて戦った。

 途中から「どちらが多くキルを取れるか」の競争を思い出したこともあってか、普通に負けた。

 

「あーあ……マジかよ……。てか、今日ウィングマン、全然当たらなかったな……」

『にへへ……なんで負けたか、明日までに考えておいて下さい……!』

 

 この女……まぁ良いや。ムカつくけど可愛いし。

 

『……それで、覚えてる……?』

「競争だろ? 覚えてるわ」

『じゃあ……ば、罰ゲームも、覚えてる……?』

「え……なんか約束してたっけ……?」

 

 そんな事したっけ……いや、してたな、多分……。

 

『う、うん……。負けた方、は……勝った方に、絶対服従……!』

「え……ぜ、絶対服従……?」

『明日、一日……!』

 

 ちょっ、な、何それ……? いや、確かにそんな話してたっけ……やべ、忘れてた……。

 ……でも、まぁ良いか。流石に「死ね」とか「お金くれ」とか、そういうのは言ってこないと思うし。

 

「はぁ……まぁ良いか」

『じゃあ……早速』

「え、明日じゃないの?』

『明日の、甜花のお昼だから……』

「あ、なるほどね。良いよ、好きなので」

『ラーメン!』

「まさかの汁物ですか。それは無理」

『学食があるよ……?』

 

 ホント、ナチュラルに人を傷つけるなこの子は……。俺の飯より学食ですかこのヤロー……。てか、それなら今日のうちに言っとく必要ねえだろ。

 

「まぁ、うん。分かった」

『それと……ね?』

「何?」

『……なるべく、なら……二人で、食べたい……』

「……え?」

 

 い、今なんて……? と、俺が思ったのとほぼ同時、マイクの向こう側から、ガタガタっと何かにぶつけたような音がする。多分、大崎が盗み聞きしているのだろう。

 

「別に食べるのは良いけど、それは大崎と一緒じゃないって意味で良いのか?」

『う、うん……』

「なんで?」

『その……聞きたい事、あるから……』

「聞きたい事?」

『う、うん……じゃあ、甜花もう寝るね……!』

「分かった。お疲れー」

『おやすみー』

「『合わせて親カレー』」

 

 意味のわからない挨拶と共に、今日のゲームは中断した。

 

 

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