大崎さんには負けられない。   作:バナハロ

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変わらないと諦めるより、変わろうと思うことが大事。

 女の子からの「今日は二人でご飯食べたい」の意味する事は数多くあるだろうが、男にとっては一つしかない。

 そう、つまり……「あなたともっと仲良くなりたい」しかない。いや、だってそうでしょ。ましてや、今回の相手は「え、君達、姉妹でデキてるの?」でお馴染みの大崎甜花だ。

 そんな子に二人で飯が食いたいなんて言われたら……それはもう……「やったでおい」の一言でしょ。

 もう、昼休みまでの授業がずーっと長く感じた。昼休みが楽しみ過ぎてもうね。甘奈、お先にごめんね! 甜花の絵、バリバリ描いてやるから、闇討ちだけは勘弁な! 

 

「じゃ、今日の授業はここまで。日直号令」

「きりーつ」

 

 で、今はその4限目。起立の号令で、俺は勢いよく立ち上がりすぎて天井に届かんばかりの勢いでジャンプしてしまった。一番後ろの席でよかった、甜花以外、誰にも見られてねえ。

 

「礼」

 

 直後、俺は机におでこをぶつける勢いで頭を下げる。こう見えて体は柔らかい。長座体前屈、鼻が床につくからね。

 そんなことはどうでもよくて、そのまま一気に甜花に声を掛けた。

 

「さぁ、甜花! 昼飯にしようか!」

「う、うん……!」

 

 すぐに二人で教室を出た。さて、何の話をしようか……! ゲームトークなら生憎、5000通り考えて来たぜ! 

 

「ラーメンで良かったんだっけ?」

「う、うん……。なるべく……味に、集中しなくて良いのが、良かったから……」

「それはつまり……俺のいつもの弁当は、むしろ集中しないとダメだった、という事?」

「……あうぅ……そこは、察さないで欲しい……」

 

 うおおおお! 嬉しいなんてもんじゃねえあああ! 今まで頑張ってきた甲斐があったというものよ! 

 そのまま二人で、食堂に向かい、食券を購入し、席に座る。ラーメンを早速、啜りながら、まずはこちらから聞くことにした。

 

「で、話って?」

「あ、う、うん……!」

 

 モテない男は相手の話を聞かない奴、というのを聞いたことがある。元々、今日の飯は甜花が俺に聞きたいことがあるってことだったし、まずは聞き手に徹するのがベストだろう。

 

「ちゅるるっ……え、えっと、実はね……」

 

 啜る音可愛いなぁ……。なんてほっこりしてしまったのが、運の尽きだった。油断している時に、甜花は可愛い顔してとんでもない事を聞いて来た。

 

「……ごくんっ、その……最近、なーちゃんと二人で……なに、してるの……?」

「取引! ……あ、やべっ、な、何もしてないよ」

「無理だよ! ……な、何の取引……?」

 

 しまったあああああああ! 口が滑ったあああああああ! 

 

「な、何でもないから!」

「な、何でもなくない……!」

「そういや甜花、この前俺、最強の戦術思いついたんだよね」

「後で良い、から……! 取引に、ついて……!」

 

 あ、あわわわわっ……いつになく強気じゃないこの子……! そんなに気になるのかしら……? 

 

「な、なんでそこまで……?」

「だ、だって……コソコソ隠れて喧嘩してたら、嫌だし……」

「いやいや、俺と大崎はマジで仲良しだからホント」

「それに……なーちゃんが……誰かと、甜花より仲良くしてたら……それはそれで、嫌だし……」

「……え?」

 

 え、それって……もしかして、甜花が俺に声をかけてきたのって……『もっと甜花と、仲良くなろ……?』ではなく……『甜花と仲良しのなーちゃんとらないで……』だった……? 

 ていうか、もしかして割と俺って、友達とかじゃなかった感じか……? 

 

「そんな、事より……取引って、何……?」

 

 地味に……というかかなりショックを受けている俺に、甜花は構わず追撃して来た。

 が、頭に入って来ない。そのままラーメンを食べる手さえ止めてぼんやりしていると、俺と甜花の間に似たような人影が混ざってきた。

 

「甜花ちゃーん! 探したよー!」

 

 そこに介入してきたのは、大崎甘奈。元気な声で横から抱きつくと、俺を心底、敵視したような目で睨みながら、甜花に続けて声をかける。

 

「まったくもう、ずーっと見当たらないままだったんだから! どっかの誰かの所為でー!」

「……」

「……?」

 

 ……うーん、たしかに俺の所為、かも……? 大崎はともかく、甜花が俺と別にそこまで仲良くなりたいと思ってないのなら……引いた方が良い、のか……。

 

「ごめん……」

「?」

 

 大人しく謝り、とりあえず麺だけ啜る。なんか……かなり居づらく思えてきたな……。

 

「ね、ねえ……なーちゃん、取引って……」

「甜花ちゃん、甘奈も一緒に食べて良い?」

「も、もちろん……!」

 

 そのまま仲良く話しながら食事をする二人を前にして、俺は少し居心地悪く思いながら、ボンヤリした。

 

 ×××

 

 昼休みが終わった後の授業中、俺は珍しく真剣に授業を受けていた。甜花の似顔絵には、あまり身が入らなかったからだ。

 そのため、ボケーっとしてるよりは、何となくでも先生の話を聞いていた方が良いと思った。

 

「……はぁ」

 

 隣の席でガッツリ寝息を立てている甜花は、それはもう幸せそうな顔だ。何でここまで授業中に安眠できるのか分からないが、まぁ放っておこう。嫌われたくないし。

 

「……」

 

 いや、まぁ嫌われてるのかもしれないが……。なんか、一人で舞い上がってたのかな、俺……。

 でも、一緒にゲームやってた時はとても楽しかったし……向こうも楽しんでたと思っていたが、そうでも無かったのかな……。

 考えてみれば「ゲームやろう」って誘ったの、ずっと俺からで甜花からは来なかったし……いや、2〜3回は来たっけか。でも俺から誘ったことの方が多かった。

 はぁ……なんか、考えれば考えるほどネガティブになっていくなぁ……。いや、元々、俺ってそういう人間なんですけどね。今までガンガン甜花と遊んだり、大崎と喧嘩してた時の方が余程、俺らしくなかった。

 

「……今日は久々に、ソロでやろうかな……」

 

 それで虐殺しよう、あらゆる敵を全員。俺とミラージュならやれるはずだ。全員、血の海に染めてやる……! 

 そんな憎悪を燃やしていると、授業終わりのチャイムが鳴り響いた。それとほぼ同時に、安眠していたはずの甜花が目を覚ます。こいつホントどうなってんだ……? 

 

「ふわあぁぁ……よく、寝た……」

「……」

「おはよう……にへへ」

 

 かわいい。じゃなくて。いや、まぁ教室にいる間は、大崎が介入する余地がないんだから、話していても何の問題もないのだろうが……。

 でも、何? アレだ。なんか気まずい。ここで気まずく思ってしまう辺りが、やはり俺という人間の性なんだろうなぁ……。

 

「……? 小宮、くん……?」

「え? あ、あー……何でもない、から……」

 

 ……うっ、なんだこの感じ……気まずくて申し訳なくなって息苦しくなってる……。俺って一体、何なの……? 

 帰りのホームルームに突入し、俺と甜花の間に会話はなかった。中学時代、おそらく俺から自動的に放たれていた「話し掛けないで」というオーラが漏れていたのだろう。

 今なら分かる。あれって単純に「一人の方が良い」っていう盾を使って逃げてるだけなんだよな……。

 

「……」

「……」

 

 教室にいる間くらい、甜花と仲良くしたい。大崎の前では距離をおいた方が良いのだろうが、クラスには甜花だって俺以外に友達はいないだろうし、なるべくなら話とかしておきたいんだが……。

 はぁ……なんかもう、なんでこんなに悩んでんだ俺は……。

 結局、何一つ会話できないままホームルームは終わり、下校の時間になった。

 

「あ……小宮くん……! また、明日……!」

「んっ、またね」

 

 結局、さよならの挨拶も素っ気なくなってしまった。明日からは土日。甜花とは会えなくなってしまうが……まぁ、それは仕方ないよね。

 休日なら、向こうも大崎と遊びたいだろうし、こっちからゲームの誘いをするのはやめておこう。

 教室を出ると、走ってきた大崎とぶつかりそうになった。

 

「甜花ちゃ……わっ、と! 危ないなぁ!」

「悪い」

「はぁ?」

 

 そのまますれ違い、帰宅した。

 

 ×××

 

 月曜日。けど、学校に来ても何の楽しみもない。教室にいる間は良いけど、それ以外の時はボーッとしてるだけ。

 ……また、スマホゲーやり込もうかなぁ……。高校時代にしか出来ない事がやりたかったけど、友達作りもダメだったみたいだし、今更部活には入れないし……諦めようかな。向いてなかったんだね、きっと。

 

「はぁーあ……」

 

 ……なんか、入学初日だけイキってて、気付いたら便所飯になったデビュー失敗系インキャみたいな……てか、そうだわ。

 そのままボケーっとしたまま1日を過ごした。昼休みだけ教室を離れてボンヤリ食堂で昼食って、そのまま一日を終えて帰ろうと下駄箱を開けた時だ。なんか紙入ってた。

 

「……なんだこれ」

 

 眉間にシワを寄せて、その紙を手に取る。その表紙には「屋上に集合」と書いてあった。

 こんな真似をするバカは一人しかいない。大崎甘奈だろう。勝利宣言でもするつもりなのか? あの野郎。それとも、絵の催促か? 言われなくても、取引した分は描くっつーの。

 まぁ、どうせ関わるのも最後だ。顔出してやっても良いかな。

 そう思って屋上まで移動した。家帰った時に何するか考えながら扉を開けると、そこにいたのは意外な人物だった。左の額で分けられた分け目、トロンとした垂れ目、微妙に猫背気味で、自信なさそうに胸前で重ねられた両手……。

 

「……なんで甜花の真似してんの?」

「あ、バレた? さすがだね☆」

 

 いや、真似られても分かるから。何枚、甜花の絵を描いてきたと思ってんの? 真似た髪型と本物の違いくらい分かるわ。

 

「絵の件か? 一応、出来てるのは3枚あるけど、まとめて渡そうと思ってたから……」

「違うよ。……あ、でも今あるならもらっておこうかな」

 

 鞄のチャックを開けられ、大崎はクリアファイルを取り出す。それに倣い、俺も鞄から絵を取り出す。

 

「あい」

「ありがと」

「で、もういい?」

「ダメだったら。甜花ちゃんと何かあったでしょ」

「……ないよ」

「いや無理だから。もう甜花ちゃんから聞いてるし」

 

 ……じゃあ聞くなよ、って言おうとしたが、聞かれてなかったわ。

 甜花のあの時の台詞。あれはつまり「なーちゃんと一番仲良しなのは甜花が良いから、あんま仲良くしないで」という事だろう。

 そして、大崎も「甘奈が一番、甜花ちゃんと仲良しだから」と思っているのは明白だ。

 つまり、もうそこで友愛が発生しているため、俺が入る隙間などないのだ。

 

「バカじゃん?」

「えっ」

「甜花ちゃんは、甘奈とは甜花ちゃんが一番仲良しでいたい、って言っただけで、あんたと縁を切りたいなんて一言も言ってないから」

「や、それはわかるけど……」

「分かってたら、いつもと同じようにしてくれる? 認めるのは癪だけど、土日とかあんたからゲームの誘い来なくて寂しそうにしてたんだからね」

「……」

 

 ……マジか。勝手に悩み込んでいただけだった……? 

 

「え、でもなんでそれ俺に教えてくれんの?」

「か、勘違いしないでよねっ。あんたを倒すのは、この甘奈なんだからねっ。勝手に潰れるなんて許さないんだからねっ」

「ベジータかお前は」

「それと、絵を描いてもらえなくなるのは困るからなんだからねっ」

「それが本音だろ」

 

 しかし……まぁ本当に甜花が淋しそうにしていたのなら、俺も変に気を使うべきでは……いや、気遣いですらなかったかも。

 

「ごめん、ありがとう。大崎」

「え、いやあんたの為じゃないから」

 

 いや、人のお礼は受け取ってくれませんかね……。

 

「それより、元々今回の件は甜花ちゃんに2人で密会しているのがバレたことから始まったわけだし、もう少しバレないようにしようよ」

「あー、そ、そっか。どうする?」

 

 多分、学園内は無理だ。甜花が教室で熟睡しているのならまだしも、起きている間に、バレないよう教室を出るのは不可能だ。同じクラスな上に隣の席だからね。

 しばらく考え込んだあと、大崎が思いついたように言った。

 

「うーん……夜とか暇?」

「暇だけどなんで?」

「じゃあ夜にしようよ! 学校に甜花ちゃんもいるのに、学内で待ち合わせっていうのが無理あるんだと思うし」

「なるほど……いや、でも夜はそっちダメでしょ。危なくね?」

「じゃあどうすんの?」

 

 どうする、どうするか……。……あっ、そうだ。

 

「大崎、俺に勉強教えてよ」

「いきなり何? 嫌だけど」

「作戦だよ……嫌なの? や、まぁ良いか。甜花は勉強嫌いだし、勉強会って言っても来ないでしょ。そういう場を作れれば、それで勝ちでしょ」

「なるほどね……」

「実際に勉強は教えてくれなくて良いからさ。集まって交換だけして帰宅でも良いし」

「……」

 

 俺の提案に、大崎は再び顎に手を当てて考え込む。悪くないアイデアだと思うんだけどな……。会う頻度も減らせば、それだけ安全になるし。

 

「……良いかもね。でも、どうせ集まるなら勉強はみっちり教えてあげる」

「え、な、なんで?」

「成績悪いんでしょ? それで補修とかになられたら困るし」

「や、平気だって」

「ダメです」

 

 ……こいつ、意外と真面目ちゃんなのか? 

 

「とにかく、決まりだからね」

「はいはい……」

 

 まぁ、良い機会だと考えるか……。こいつ、多分本当に俺のことしごきそうだし、今のうちに少しずつ復習しておいた方が良いのかもしんない……。

 

 

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