はじめにもどる駅のお話。

1 / 1
『はじめにもどる』駅のお話。


『はじめにもどる』駅

 気が付くと私は、赤いランドセルを背負って、駅のホームに一人、立っていた。

 

 辺りは青く、海の底にいるみたいだ。

 

「ああ、コレ、夢の中なのかな」

 

 私が独り言を言うと、口からポコポコと空気の泡が出てきて、上の方に向かっていく。

 

 うん。

 

 やっぱり、ここは、水の中で。

 

 つまり(・・・)夢の中(・・・)、だ。

 

 それにしても、海の中(・・・)に、何故だか、電車のホームと(・・・・・・・)線路(・・)

 

 ……一体、なんで、こんな夢を?

 

 もしかしたら、この間読んだ、NiOさんの『深海の駅』という小説のせいで、なのかもしれない。

 

 それくらいしか、心当たりが無かった。

 

 体を動かすと、水の中にいるような抵抗感があるものの、どうやら呼吸は出来るみたいで、別に苦しくはない。

 

 それにしても、深海だから、かな。

 

 魚は一匹も、泳いでいない。

 

 なんとも寂しい風景に、私はなんだか居心地が悪くなり、ついキョロキョロとあたりを探索してしまう。

 

 ふと振り向くと、駅の看板があることに、気が付いた。

 

 

 

『はじめにもどる』駅

 

 

 

 ……なんだ、この、ヘンテコな名前は。

 

 と言っても、これは夢の中なので、私の脳内が考え出した名前なんだけど。

 

 それにしても、凄い名前だ。

 

 お兄ちゃんに言ったら、絶対バカにされる。

 

「『はじめにもどる』駅、かあ……」

 

 

 声に出しても、口から泡が立ち上るだけで、他に何かが起こるわけでもなく。

 

 

 私はしばらく、その駅に佇んでいた。

 

 

 

 

 ごとんごとんごとん……

 

 

 

 

 ふと、看板から視線を線路の向こうに移すと。

 

 

 

 遠くの方から、電車が来ているのが分かる。

 

 

 電車はゆっくりと駅へと近づいてきて、少しずつ、その全体が見えてくる。

 

 

 とは言っても、別に代わり映えのしない、普段小学校に通うときに良く乗っている電車にそっくりな車両、だったのだけれど。

 

 

 まあ、私の夢なんだから、しょうがないじゃないか。

 

 

 電車が駅に到着すると、プシューっと、扉が開いた。

 

 

 確認できる範囲では、中も、普通の電車の様である。

 

 

 うーん。

 

 

 私は少し考える。

 

 

 ずっとこの『はじめにもどる』駅に居ても、つまらない。

 

 

 夢の中なんだし、せっかくだから、電車に乗ってみようかな。

 

 

 それに、こんな海の中みたいな駅に、ずっといると、現実世界でおねしょとか、してしまうかもしれないし。

 

 

 私は水の抵抗を感じながら、電車に近づくと。

 

 

 開け放たれたその扉の向こう側へと、足を踏み入れた。

 

 

##############

 

 

 中に入ると、一人のお爺さんが、ニコニコ笑いながら、座っていた。

 

 

 お爺さん? いや、お婆さん、なのかもしれない。

 

 

「こんにちは!」

 

 

 夢の中だけど、私は一応挨拶をして、お爺さん?の対面に腰掛ける。

 

 

 お爺さん?もペコリと頭を下げると、相変わらずニコニコとこちらを見ているので、私はなんだか気まずくなって、何もない電車の外をぼんやりと眺めることにした。

 

 

 椅子に座ってしばらくすると、電車が動き出した。

 

 

 外の景色を見てみると、少しだけ、海の色が薄くなっているようにも感じる。

 

 

 ふと、私は、窓の外に、なんだか透明な、動くものを、見付けた。

 

 

「……あ、あれは……ミジン……コ……?」

 

 

 両手をバンザイしたような可愛らしいフォルムの、有名な微生物が、ヒョイ、ヒョイと、リズミカルに泳いでいるのである。

 

 

 もちろんミジンコは、肉眼で見えるような大きさではない。

 

 

 夢ならではの景色、なんだろう。

 

 

 そして、ミジンコに気を取られて気が付かなかったが。

 

 

 辺りを見渡すと、この前、理科で習った、いろんな微生物が、あっちへウロウロ、こっちへウロウロと動き回っている。

 

 

「えーっと、ミカヅキモに……アメーバーに……ゾウリムシ!

 

 あ……アレは、なんだっけ?」

 

 

 指を差して確認していくと、覚えているものもあり、全然記憶にないものもいる。

 

 

 多分、私の潜在記憶、みたいなものなのだろう。

 

 

 なんだか楽しくなってきた。

 

 

「あ、魚だ!」

 

 

 小さいが、確実に魚と分かる魚が、スイスイと泳いでいた。

 

 

 いつの間にか微生物たちは姿を消していて。

 

 

 今度はいろいろな種類の魚たちが、縦横無尽に泳ぎ始めていたのだ。

 

 

 ……と、ここで。

 

 

 電車は、ゆっくりと、その動きを、止める。

 

 

###################

 

 

 止まった駅の名前を、私は確認した。

 

 

 

『うまれてきたね』駅

 

 

 

 なんだそれ。

 

 夢の中とは言え、自分のネーミングセンスに、思わず吹き出してしまった。

 

 扉が開くと、よくわからない魚が何種類か、乗り込んできた。

 

 彼らはもちろん椅子に座ることは無く。

 

 電車の中を、まるで水槽のように泳ぎ回っているのであった。

 

 心なしか、魚たちはお爺さん?の周りに集まってきているように見える。

 

 お爺さん?は、相変わらずニコニコしながら、その魚たちを撫でていた。

 

 ちょっと羨ましかったので、私も真似したかったのだが、魚はすばしっこくて、全然捕まえられない。

 

 悔しい、なぜだ。

 

 私の夢の中なのに。

 

 

 

 やがて、またドアが閉まり、電車が動き始める。

 

 

 次第に、海の色が、青から、透明に変わり始めている。

 

 

 窓から顔を乗り出すと、上の方が、眩しくなってきているのが分かった。

 

 

 

「……あっ!」

 

 

 

 海の外に、出た!

 

 

 急に飛び込んできた風の感触を肌で味わうと、私は思わず全身で喜びを表現する。

 

 

 電車はそのまま砂浜を抜け、密林の中へと突っ込んでいった。

 

 

 

 ふと、気になって、車内に目を移したが。

 

 

 魚たちはどうやら陸地でも関係なく、空間内をスイスイと泳ぎ回っている。

 

 

 まあ、夢だし、そんなもんだろう。

 

 

 私も、とりあえずおねしょの心配はしなくて、良いのかもしれない。

 

 

「海の外に、出ましたね!」

 

 

 テンションが上がってしまい、対面に座るお爺さん?に思わず話しかけて見るが。

 

 

 お爺さん?は、笑いながら何度も頷いてくれて。

 

 

 それが逆に恥ずかしくなってしまい、私は小さく咳ばらいをした後、再度窓の外へと視線を移す。

 

 

 ……あ。

 

 

 ……あれは。

 

 

 

 

 ……また(・・)()()

 

 

####################

 

 

 私たちは、『ふえてきたね』駅に、到着した。

 

 

 もう、夢の中の名付けのセンスにツッコミを入れるのは、止めることにした。

 

 

 私は、開いた電車の扉を、少しワクワクしながら眺めていた。

 

 

 一体、どんな生き物が乗ってくるのだろう。

 

 

 まずは、小さな生き物が、乗ってきた。

 

 

 小さな虫や、モコモコしたネズミみたいなものや、パタパタ歩き回る鳥や、それから、それから。

 

 

「……!!」

 

 

 ……少しだけ顔のツルっとした、お猿さんが、入ってきた。

 

 

 ……動物の皮を(・・・・・)身に纏って(・・・・・)

 

 

 ここで、私は、理解する。

 

 

 どうやら、この電車は、生命の誕生や歴史(・・・・・・・・)を、見ることのできる、電車なのだろう。

 

 

 ……つまり(・・・)あのお猿さんは(・・・・・・・)

 

 

「……もしかして、ご先祖様、かなあ……」

 

 

 向こう側へ移動するお猿さんの背中を目で追いながら、聞こえないようにそんな言葉を小さく呟き、改めてドアへと視線を移す。

 

 

 

「……え!?」

 

 

 

 私は思わず、息をのんだ。

 

 いつの間にか。

 

 恐竜が、乗り込んできていたのだ!

 

 

 しかし、やはり夢の中。

 

 

 普通に考えると、恐竜が電車に乗れば、中はぎゅうぎゅう詰めになるはずなのに。

 

 

 電車の中を、恐竜たちは自由に歩きまわっているし。

 

 

 他の生き物や、魚たちも、我が物顔で電車の中を移動しているのであった。

 

 

 なんだ、この夢。

 

 

 とっても(・・・・)楽しい(・・・)

 

 

 現実世界であったら、虫は気持ち悪いし、恐竜は怖いものだけど、ここでは何だか、みんな可愛らしいものに思えてきた。

 

 相変わらずお爺さん?の周りには動物たちが集まってきていて、撫でられるままにされており、それは悔しいのだが。

 

 まあ、イイや、見て、楽しもう。

 

 私は、大人、なのだ。

 

 少しだけムスッとしながらそんなことを考えていると、ドアが閉まり。

 

 

 電車は『ふえてきたね』駅を、出発したのであった。

 

 

 

#################

 

 

 

 電車の中ではたくさんの生き物たちが忙しなく動いている。

 

 

 私は、のそのそと可愛らしい動きをしているマンモスを、笑顔で眺めていると。

 

 

 なんだか少し、肌寒くなっているのに、気が付いた。

 

 

 窓の外へ目を移すと。

 

 

 ……そこは(・・・)一面の(・・・)雪景色で(・・・・)あった(・・・)。 

 

 

 

「え、あ。

 

 

 あああああ(・・・・・)!」

 

 

 授業で、習ったことがある!

 

 

 

 氷河期(・・・)()

 

 

 電車は、ゆっくりと、スピードを落としていく。

 

 

「だ、だめ!

 

 止まらないで!

 

 

 この駅には、止まらないで!」

 

 

 私が必死になって電車の前に向かって叫ぶけれど。

 

 

 電車は(・・・)駅に(・・)到着した(・・・・)

 

 

################

 

 

 駅の名前は、『へってきたね』駅であった。

 

 

 ぞろぞろと、生き物たちが下車していく。

 

 

「だめ、だめ、待って!」

 

 

 私が止める言葉も聞かず。

 

 

 大きな動物が(・・・・・・)

 

 たくさんの恐竜が(・・・・・・・・)

 

 可愛らしい(・・・・・)マンモスが(・・・・・)

 

 

 どんどん(・・・・)駅へと(・・・)降りて行った(・・・・・・)

 

 

「止めて、止めて!」

 

 

 お爺さん?に視線を移すけど。

 

 お爺さん?は、悲しそうな笑顔で、首を横に振る、だけであった。

 

 

#################

 

 

『へってきたね』駅を出発すると、景色は白一色から、だんだん春の様に変化していった。

 

 

 少しだけ安堵の溜息をつき、電車の中を確認すると。

 

 

 先ほどまで小さいと思っていた虫やモコモコのネズミたちは、すっかり大きくなっていた。

 

 

 歩き回っていた鳥も、今では天井付近を飛んだり、つり革にちょこんと座ったりしている。

 

 

 シカ、オオカミ、クマ、なんて、動物園で見たことあるような生き物も、確認できるようになった。

 

 

 相変わらずお爺さん?の周りには、彼らが集まっている。

 

 

 ふと、視線を、『動物の皮を纏ったお猿さん』に移すと。

 

 お猿さんは、いつの間にか、しっかりした、服の様なものを着ているのであった。

 

 

 ……いや、もはや、お猿さんでは、ないだろう。

 

 

 これは(・・・)まごうことなく(・・・・・・・)人類(・・)()

 

 

「……?」

 

 

 ふと、違和感に気付く。

 

 

 なんで人類は(・・・・・・)お爺さん?に(・・・・・・)背を向けている(・・・・・・・)のだろうか(・・・・・)

 

 

####################

 

 電車はその後も、軽快に走っては、駅に停車した。

 

 

『したがえてきたね』駅や、『おさめてきたね』駅など。

 

 

 たくさんの変な名前の駅に止まって。

 

 

 そのたびに新しい動物が乗ってきて。

 

 

 ……そのたびに(・・・・・)乗っていた動物が(・・・・・・・・)降りて(・・・)行った(・・・)

 

 

「……ッ!」

 

 

 今降りた、あの動物、知ってる。

 

 ドードー鳥だ(・・・・・・)

 

 確か、人間に乱獲されて、絶滅した、飛べない、鳥……。

 

 人間の一人として、いたたまれない気持ちになりながらお爺さん?を見ると。

 

 お爺さん?も寂しそうに、ニコニコと笑うのであった。

 

 

#####################

 

 

 外の世界はいつの間にか、すっかり現代のような変化を遂げていた。

 

 高層ビルや巨大モールが立ち並び、視界の全てを埋め尽くしている。

 

 空飛ぶ車や、良く解らないホログラムみたいな立体映像もあることから、もしかしたら現代どころか、未来なのかもしれない。

 

 心なしか、電車の中の動物たちは、お爺さん?へ、怯えながら縋り付いているようにも見える。

 

 そして、向こうの席では、『スーツを着た人類』が、彼らに背を向けながら、ニヤニヤ笑っていた。

 

 

 ……なんだ、これ。

 

 

 夢にしたって、気分が悪い。

 

 

 私が『人類』へ注意しようと、席から立つと。

 

 

 

 

 

 

 カッ!

 

 

 

 

 

 電車の窓が、突然、光ったのだ!

 

 

 

 いや、違う、光ったのは、窓ではない!

 

 

 

 景色だ、外の景色が、急に、眩しいくらいに、光って……!

 

 

 

「……あ、あ、あ……」

 

 

 

 写真で、見たことがある。

 

 

 あれは……キノコ雲(・・・・)()

 

 

 呆然とする私に配慮することなく。

 

 

 電車は、そのスピードを、ゆっくりと緩めて。

 

 

 

 ……駅に停車した。

 

 

 

 駅の名前は、『あらそったね(・・・・・・)()

 

 

 扉が開くと(・・・・・)動物たちが(・・・・・)ゾロゾロと(・・・・・)降りていく(・・・・・)

 

 

 ネコが(・・・)

 

 イヌが(・・・)

 

 トリが(・・・)

 

 シカが(・・・)

 

 イノシシが(・・・・・)

 

 クマが(・・・)

 

 

 

 氷河期の時ですら(・・・・・・・・)比べ物にならない程の(・・・・・・・・・・)たくさんの(・・・・・)動物たちが(・・・・・)

 

 ……電車から(・・・・)どんどん(・・・・)下車していった(・・・・・・・)

 

 

「……!? ……!!

 

 ……うううう(・・・・)……!! 

 

 ……ああああ(・・・・)……!!

 

 ……待って(・・・)……ダメ(・・)……いかないで(・・・・・)……!!」

 

 

 かすれて、そんな声しか、出せない。

 

 

 止めたくても、止められない。

 

 

 だって、彼らを下車させたのは、他でもない。

 

 

 私達(・・)人間(・・)なんだから(・・・・・)

 

 

#######################

 

 

『あらそったね』駅を出発すると、電車の中は、すっかり静まり返っていた。

 

 車内に残っているのは、たった3人。

 

 

 私と、お爺さん?と。

 

 ……遠くの席で、バツの悪そうな顔をしている、『人類』、だけ、であった。

 

 

 窓の外では相変わらず激しい爆音と閃光による……恐らく(・・・)惨劇(・・)……が繰り広げられており、私は恐くて、ずぅっと、床の模様と、自分の靴を、見ていた。

 

 

 

 

 ……やがて(・・・)激しい爆音と閃光は(・・・・・・・・・)止んで(・・・)

 

 

 電車は(・・・)スピードを(・・・・・)落とし始めた(・・・・・・)

 

 

########################

 

 

「……なに、これ……」

 

 

 すっかり、静かになった、窓の外。

 

 恐る恐る外の様子を確認した私は、そんな言葉をつぶやくしか、無かった。

 

 

 

 『これでおわり(・・・・・・)駅には(・・・)……何も(・・)無かった(・・・・)

 

 

 

 何故か3つある太陽に(・・・・・・・・・・)とぐろを巻いた(・・・・・・・)黒い入道雲(・・・・・)

 

 

 どこまでも(・・・・・)広がる砂漠に(・・・・・・)隠れるように存在する(・・・・・・・・・・)瓦礫(ガレキ)()

 

 

 辛うじて(・・・・)ここが(・・・)人間の住む町で(・・・・・・・)あったことを(・・・・・・)示していた(・・・・・)

 

 

「ぐううううッ……」

 

 

 心臓が、締め付けられて、苦しい(・・・)

 

 私は、ぎゅうっと胸を握りしめて、うずくまる。

 

 涙が、止まらない。

 

 なんで(・・・)なんで(・・・)こんなことに(・・・・・・)

 

 

 ハッと気が付き、私は、顔を上げる。

 

 いつの間にか、『人類』は、席を立っていた。

 

 

 そして。

 

 お爺さん?と私に、申し訳なさそうな顔をしながら、頭を下げると。

 

 

 ……電車を降りて(・・・・・・)行ったのであった(・・・・・・・・)

 

 

####################

 

 

 私は乱れる心を落ち着けて、ゆっくりと、呼吸をする。

 

 

 そうして、何度も、何度も、深呼吸を、続ける。

 

 

 ……うん、だんだん、少しずつ……落ち着いて、きた。

 

 

 

 ここは、『これでおわり』駅だ。

 

 

 

 ……『これでおわり』駅、か。

 

 

 

 ……夢の中とは言え、ボロボロの世界とは言え。

 

 

 ここが、終点、なのだ。

 

 

 ……私も、降りなくちゃ、いけないのかもしれない。

 

 

 そんなことを考えながら、お爺さん?を見ると、彼?は悲しそうな笑顔で、首を振る。

 

 

 ……まだ、残っていろ、ということ、なのかな。

 

 

 お爺さん?の動向を待っていると、電車の扉が閉まり。

 

 

 ……また(・・)どこかへ向けて(・・・・・・・)進み始めた(・・・・・)

 

 

 

######################

 

 

 景色は次第に薄暗く、空気は澱みはじめ……。

 

 

「……あ……」

 

 

 

 

 電車は(・・・)一番最初の(・・・・・)……『はじめにもどる(・・・・・・・)駅へ(・・)到着した(・・・・)

 

 

 気が付くと、お爺さん?は、私の近くに来ており。

 

 

 ニコニコ笑いながら、『ここで降りなさい』と言うように、ドアの方へ、手を向けている。

 

 

 私は、慌てて立ち上がると、電車から飛び降りた。

 

 

 駅に着くと私は電車に向かって振り返り、お爺さん?に尋ねる。

 

 

降りないんですか(・・・・・・・・)?」

 

 

 ぼこ、と、口から泡が生まれ、上方へと、消えていく。

 

 

 お爺さん?は、その泡の行方を少し気にするように、視線をちょっとだけ上に向けると。

 

 

 困ったように笑って。

 

 

 また、電車の席へ座りなおし。

 

 

 私に向かって、小さく、手を振った。

 

 

 扉が閉まり、電車が出発する。

 

 

 遠くに消えていく電車を、私は、いつまでも、眺めているのであった。

 

 

 

#########################

 

 

 

 

 久しぶりに、おねしょを、した。

 

 

 お兄ちゃんにも、大爆笑されてしまった。

 

 

 こんな歳にもなって、恥ずかしい。

 

 あんな夢のせいだ。

 

 

 あんな、夢、の。

 

 

 

 ……本当に、夢、だったんだろうか。

 

 

 そして。

 

 

 あの、お爺さん?は、何者、だったのだろうか。

 

 

 生命が生まれて、滅んでを繰り返す、そんな、環状線を。

 

 

 限りない喜びと。

 

 それと同じくらいの苦しみの螺旋を、何度も何度も味わって。

 

 

 それでも、電車に乗り続ける、あのお爺さん?は。

 

 

 

 ただ、私は、思わず手を合わせて、思った。

 

 

 お爺さん?に、もう二度と、『これで終わり』駅に着くような悲しみを、味わわせては、いけない、と。

 

 もちろん、私一人では、どうしようもないかもしれないけど。

 

 みんなが、そう、願えば。

 

 きっと、この世界は、変わっていく……のかも、しれない。

 

 だから、お爺さん?も、どうか、電車を降りないで。

 

 私たちのことを、見ていて、ください、ね……なんて。

 

 

 

 

 そんなことを考えながら、熱心に手を合わせていると。

 

 お兄ちゃんが(・・・・・・)ふざけて笑った(・・・・・・・)

 

 

 

なんだよお前(・・・・・・)神様にでも(・・・・・)お祈り(・・・)してるのか(・・・・・)?」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。