ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
大人気ゲーム「スプラトゥーン」、世界中で老若男女問わず多数のプレイヤーに愛されているゲームである。
このコンテンツの楽しみ方はただ自分でゲームをプレイするだけでなく、配信や動画で凄腕プレイヤーのプレイを見たり、SNS上で戦術や武器愛を語り合ったりと大変盛り上がっている。
――そのスプラトゥーン大好き人間の1人、男子大学生のユウキ。彼は本日もバイトを終えて帰宅するとすぐに、Switchの電源を点けた。
「あー疲れた。今日も頑張ってウデマエ上げるぞ」
独り言でぼそりと呟きながら荷物をベッドに投げ捨てる――。
ゲームが起動している間に、帰りにコンビニで買ってきた夕食の弁当を冷蔵庫に入れておいて手を洗った。上着を脱いで投げ捨てれば、部屋着に着替えもせず、さっそく座ってコントローラーを握ぎる。
帰ってきて5分と経たないうちに即スプラ。ここ最近はこれがユウキの日課だった。バイトや大学が終わると直帰して、自由に使える時間を全てスプラトゥーンに注ぐ。
そのくらいスプラトゥーンのモチベが高かったのだ。
肩の力を抜いて、楽な姿勢を作ると、まずはいつも通りエイム調整の為、試し撃ちを始めた。いつも通りスプラシューターコラボを持って、いつも通りの順番で的を狙う。
今日は金曜日で明日はバイトも休みなので、現在のゴールデンタイムから深夜までスプラトゥーンを楽しめる予定である。ユウキはその間ずっと気合を入れてプレイするつもりだった。さらに寝て起きれば、また朝からスプラトゥーンだ。
ユウキがやたらスプラのモチベーションを高めているのには理由があった。それというのもSNSで近頃話題になっている凄腕プレイヤーがいて、その常人離れした数々のプレイを見ると感動させられたからである。
人のプレイを見ると自分もスプラがやりたくなるとかそんな次元じゃなくて――「スプラの神」とも称され始めているその凄腕プレイヤーの動きは、今までのどんなプレイヤーとも格が違っていた。
界隈にさっそうと現れたスプラの神と称されるプレイヤーは淡々とプレイ動画を投稿し続けるだけで、どんどん人気を得ていた。ユウキはその神のプレイを見て自分にもこんな動きができたら、少しでも近づいてみたいという思いが胸で渦を巻き、自分の限界を目指すことを衝動的に決めた。
テレビ画面に映ったイカボーイが軽快に試し撃ち場の的を壊していく。だいぶエイムが暖まってきた。現在のウデマエは最高ランクのX、Xパワーは2700だった。自分の最大値を絶賛更新中である。今でもかなり上位の実力ではあると自負しているが、上には上がいる――もっと高みへ。
いざ、本日のガチマッチ初戦……少し手汗がにじむ手でコントローラーをまた強く握り直した。
――マッチングした部屋は今までユウキが経験した中で最もレベルの高い部屋だった。ステージは中央の高台が目立つBバスパーク、試合時間は半分を過ぎて展開は自チームが不利。カウントの大量リードを相手に許してしまっている。
だが、まだ諦めるわけにはいかない。ユウキは懸命に、どうにか逆転のチャンスを作ろうと画面に集中していた。
「くそっ。何回やっても、このスシに撃ち負ける」
ユウキもスプラシューターコラボを使っていて、撃ち合いには自信があったが、相手のチームの同じ武器使いに何度も倒されていた。立ち向かう度に場所や動き方を変えて挑んでいるがどれも返り討ちにされる。
残り時間はあと1分――ここでも、返り討ちにされればおそらく負けが決まってしまう――そんな局面。敵インクで埋め尽くされた中央高台へ、味方のサポートもあって切り込むことに成功したユウキが操作するイカボーイがラストチャンスの相手スシとの対面に再び挑む――。
その時だった……ユウキは目から頭へふわふわと不思議な感覚がした。連日のゲームによる疲れか――でも、今は目を閉じるわけにはいかないっ。
半分だけ目を閉じながら、思考がおぼつかない状態での戦い。けれど、ユウキが操作するイカボーイは相手チームを次々と蹴散らした。まるで自分以外の誰かが操作しているのかというほどのスーパープレイ。スシをキルするとすぐに――十秒もかからない内に相手チームをオールキルしてしまった。その動きはまさに……。
……勝てる。……あ……れ。
今から逆転だというときにユウキの視界は真っ暗になった……。
そして、体の電源スイッチを切られて、またすぐに点けられたような瞬時の感覚で意識が戻るとそこは…………画面越しに眺めていたはずの高台、ロゴがついたバルーンに看板、足元で混ざるオレンジと青のインク。紛れもなく……Bバスパークだった。
夢を見ているのか。一人称視点でのBバスパークの景色に戸惑い、その場で立ち尽くす…………。
「危ない!」
後ろから声がして、振り向くと見慣れたキャラクターであるイカガールが自分の頭上を指差していた。見上げた空から独特の音と共に足元へと降ってくるそれは、三角形のスプラッシュボム。
……!?……爆発するっ。
ユウキはボムが爆発する寸前に後ろへ飛んだ。飛び散るインクを受けながらも、衝撃を躱すことには成功する。
「まだ、気を付けて!」
後ろから続けて指示してくるイカガールの声。尻もちをついた状態でもう一度空を見ると何かが空を飛んでいた。いくつも空を飛翔する瓶――あれは、マルチミサイルか?
ユウキは考える暇もなく走り出した。何も考えず声を掛けてくれたイカガールへ向かって。
後ろから迫ってくるインクの瓶、自分が走るスピードよりもずっと速くて、恐怖で歯を食いしばってしまう。自分の真上までたどり着くと落下してくるその瓶をジャンプをして転がりながらも躱した。
一体何がどうなってんだ……マルチミサイルってこんなに怖いのかよ……。
しかし辿り着いたイカガールがいた場所にもミサイルがいくつか落ちてきていて――ユウキの体に爆発が直撃する。