ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
その日、朝からスタジアムに足を運んでいた観客は1人だけ次元が違う動きをするイカに目を奪われた。C帯のガチマッチの観戦に来る人は出場者の家族や友達くらいなので数は少なかったが、そのイカが何者なのか気になった。
プロでも伝説を残すようなイカやタコはアマチュア時代から凄まじい成績を残すものだが、彼もまたその道を歩む存在だろう。名だけでも覚えていれば将来ちょっとした財産になるかもしれない。そんなざわついた空気が観客席を包んでいた――。
「おつかれ!ユウキ君」
初めてのガチマッチを終えたユウキはアユ子が待つ観客席へ向かった。近代的な廊下を通り抜けて、ホログラムの案内板を頼りに歩いて。
「見つけられて良かったよ。上から見るとすごいねこのスタジアム」
立っている場所から見える景色は壮観で、現実世界でスポーツ観戦に何度か訪れた地元のスタジアムよりも広く、取り付けられた照明も大きい。それでいてデザインがスプラトゥーンチックというか赤い屋根に緑の席という奇抜なものだった。
「すごい活躍だったね。試合中私のこと見てくれた?こうやって頑張って応援してたでしょ」
「うん……驚いたよ。ありがとね」
バトル中、観客席にいるアユ子の姿はすぐに見つけられた。大漁と書かれた大きな旗を一番前の席で振り回していたからだ。
「ビックリした?本当はユウキ君の名前も旗に書こうと思ったんだけど間に合わなくて」
ひと際目を引くアユ子を見つけた時は驚いたが、周りで帰り支度をしているイカ達も旗を持っているので応援に旗を使うのはこの世界では普通のことらしい。それでもアユ子のものはサイズが大きい。
「驚いたよ。いつの間にそんなもの用意してたの。それに、ゲソ太郎とカジキも応援してくれてたんだ」
「ああ。お前の初ガチマッチが気になってな。すげえ目立ってたじゃねえか」
「まあこのゲソ太郎様に負けず劣らずの実力だしな」
アユ子に連れられてナワバリをする内に何人かのイカ達と仲良くなった。特にアユ子と同じA帯の面々と話したりバトルしたりする機会が多くて、初日に出会ったぽっちゃりタコボーイのゲソ太郎なんかはかなりフレンドリーにユウキに接してくるようになった。
そしてもう1人隣にいて――これまた初日に出会ったイケメンボーイのカジキというタコ。プライムシューターをメイン武器にしていて、ユウキが今までバトルした中では最も強い。この男も応援に来てくれていたとは。
「それでどうだったんだ、結果は。見たところ全部勝ってたみたいだったけど、ウデマエはC+ってとこか?」
「いや、それがいきなりB帯に上がらせてもらえたよ。B-になった」
「マジかよ。1日でCからBに!?」
「すっごーい。さすがユウキ君!」
アユ子がバンザイをして喜んでくれる。
「なかなかやるな。でもゲソ太郎様でもあのくらいできるぜ。C帯の中で無双しただけだからな」
「こらっ!」
腕を組んで偉そうにしているゲソ太郎の出っ張ったお腹をアユ子が叩きながら叱る。割と強めにいったのでパンッと音がした。
「自分よりランクが低い人を馬鹿にするなんて絶対だめだよ」
「痛っ。分かってるよ。ユウキはやる奴だ。ちゃんと分かってるって」
「でもまあ。ゲソ太郎の言うことも一理あるぜ。お前の実力ならあれくらいできて当然だ。満足せずに早くA帯まで上がってこいよ」
カジキがゲソ太郎とアユ子のやり取りに苦笑いしながら言った。
実際のところ、A帯と撃ち合った経験により、A帯の実力があるならC帯を抜けるのは難しくないとユウキも分かっていた。ゲソ太郎の言ったことは間違ってはいない。現実世界の言葉で言うなら自分はサブアカのような存在だろう。早くもっと上へ――。
「……そのつもりだよ。俺もプロになるって決めたから」
「ああ。その時はガチマッチで勝負だ。俺は今日でS帯に上がるつもりだけどな」
「ここで応援しとくよ。カジキ達のガチマッチでのプレイ見るの楽しみだ」
「――じゃあ、とりあえずお昼ご飯にしよっか」
アユ子がそう言うとスタジアムを出た一行は駅前の食べ物屋が並ぶ通りを歩いた。しばらく物色してから入ったのは「いきなりサーモン」というチェーン店。昼のA帯ガチマッチに向けて腹ごしらえに入る。