ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
シャケのバター醤油焼きにシャケのピリ辛ホイル焼き――メニューに書いてあるのは様々な焼き方をされているシャケ。鮭のキャラクターがデザインされた「いきなりサーモン」のロゴの下には食べ放題コースも載っている。
ファミレスのような店内で窓際のテーブルに座るや否や呼び鈴が押されれば、エプロン姿の店員ガールが注文を聞きにやってくる。
「私はチーズクリーム煮!」
「ゲソ太郎様はキノコホイル焼き」
「俺は……塩焼きにワサビとあんこトッピングで。あとタルタルソースも」
当たり前のようにメニューを見ることなく注文を始めるアユ子達。
「あ、ユウキ君ここ来るの初めてだっけ?何にする?おすすめはねー……」
「えっと……」
「今日はお前の昇格祝いにゲソ太郎様の奢りだから好きなもん頼んでいいぜ」
「じゃあ、日替わりランチで」
「かしこまりました。注文を繰り返します――」
二階まである店内は広いがイカやタコ達でいっぱい。お昼時ということもあり10分ほど待たされてから席に案内された。かなりの人気店ということが伺える。
「では、ごゆっくりどうぞ」
ニカっと笑ってから去っていく店員ガールは、早歩きで次の注文へ向かった。
「ガチマッチの日はよくここに来るんだ。特に理由はないけど」
「シャケを嫌いな奴はいねえからな。中でもいきなりサーモンのシャケは最高よ」
ユウキはシャケというのがあのサーモンランの敵のあいつらなのかと気になりながら、近くの席で鮭の切り身が食べられる姿を見ていた。
「シャケってさ……川に住んでるの?」
「あははは。何だそれ。シャケといえばサーモンランで捕まえるもんだろ」
「極端だなお前の記憶喪失は。そんなことも忘れてんのか」
一応聞いてみたが、やはりスプラトゥーン2の追加要素であるサーモンランの敵で間違いないらしい。
あいつらこの世界では食われるのか……。ユウキは闇に触れてしまった気がして息を呑み、それ以上は踏み込まなかった。
「カジキ君はサーモンランのバイトやってるんだよね?」
「ああ。もう3年くらいやってるぜ」
「あれって、大変じゃないの」
「まあ、最初のうちは怪我してやめたくなったりしたけど時給良いしな。プロ目指してるA帯S帯にはトレーニングにもなってちょうどいい」
アユ子とカジキの会話を聞きながら、ユウキは悶々としていた。
サーモンランが実在するのか――クマサン商会はゲームでは謎だったけど深く知れるんじゃないか――俺もやってみてえ――タワーのハイプレから逃げたりしてるんだろうか――カタパッドの同じ箱にボム投げちゃったりしてるんだろうか――。
ユウキはガチマッチをガチガチにやるのが好きだったが、サーモンランで息抜きするのも好きなタイプだ。
「詳しく教えてよ!サーモンランのこと」
「急にテンション高いな。いいけど――」
運ばれてきた鉄板に乗っているシャケの切り身はジューシーでおいしかった。ユウキの日替わりランチのシャケはムニエルでオーロラソース付き。そのおいしいシャケを食べながら、サーモンランの事やガチマッチの事――笑いながら話した。
食べ終わると予定通りユウキは観客席へ、それ以外はガチマッチへ臨む。A帯の試合の観客席は座る席に困るほどではないがそれなりに込み合っていた。アユ子に「はい」と一言で大きな旗を渡されたが、さすがにそれは使わず。それでも、心の中では精一杯の声で皆を応援した。
大きなモニターにもアップの映像が映し出されるスタジアム。そんなスタジアムはここだけではなく、黄色い屋根や青い屋根の大きなスタジアムがちょっと高いところに上れば見える範囲にある。
興奮した。バトルに熱狂する周りのイカ達のようにユウキもスタジアムでガチのバトルを見ると熱くなった。ゲームよりも自由度がある動きのバトルではローラーをスライディングで掻い潜りカウンターを決めたり、マニューバの両手にもった銃で別方向を撃つことで同時に2人撃破するといったスーパープレーも見られる。
そのプレイに対して歓声が上がりユウキも気が付けば声を出していた……。
「ねえすごかったよね?私の回転バケツ渦巻き切りで3枚倒したの!」
「うんすごかったよ。今日は絶好調だったね」
夕日と一緒の帰り道でアユ子はすごくご機嫌だった。いつもは勝率5~6割らしいが今日のアユ子の戦績は10勝5敗。観客席から見ていてもその戦績に見合う動きだったとユウキも思う。
「でしょでしょ。私成長してる感じがする。また今度のガチマッチも頑張るぞー!」
ご機嫌な理由は他にもあって、一緒に参加したゲソ太郎とカジキも勝ち越しの成績で笑顔で別れることができた。特にカジキの動きはユウキから見てもさすがで、次のガチマッチでも勝ち越せばSに上がるらしい。プライムを持ってキッレキレにキルを稼いでいたのは動きの参考になった。
「ねえ、ユウキ君。ありがとね。今日勝てたのはユウキ君のアドバイスもあったからなんだ」
散歩がてら歩いて帰ることにした河川敷の道で不意にアユ子は真面目な感じで言った。
「いや、別に大したことしてないよ……。それにありがとうを言うのは俺のほうだ。ずっとお世話になりっぱなしで」
「私の話をしてもいい?私の両親の話なんだけど……悲しい話なんだけどね」
「……えっと、実はコイ吉お爺さんに聞いたことあるんだ。アユ子ちゃんが言おうとしてること」
「え、そうなの!?」
重々しいムードになりかけたが、ユウキの言葉を聞いたアユ子はまたテンションが戻った。
「亡くなってるんでしょ……。アユ子ちゃんの両親」
「……そうなんだ。そっか。知ってたんだ。じゃあ約束だけ――」
前を歩く振り返ってアユ子が小指をユウキの小指と結ぶ。
「一緒にプロになるって約束ね。お互いに辛いときは励まし合うの。ダメ?」
「ダメじゃないダメじゃない」
「私、このリボンにも誓ってるから――」
全てがうまく進んでいた――。少し目を潤わせていたアユ子とも約束して、それからも毎日一緒に練習して。
ある日、ご飯を食べているときにテレビにシオカラーズのニュースが映った時にユウキはリアルに動くシオカラーズに釘付けになった。それと同時に小刻みに動くユウキの親指――それを見てアユ子とその家族が笑った。
もうスプラトゥーン2ではできないフェスがこの世界では毎年1回開催されていると聞いたユウキは今度一緒のチームでアユ子と参加させてくれと頼むと、「何言ってるの。ちゃんと自分が思ったチームにしなきゃ」と目を燃やしながら怒られた。
楽しくて充実した日常の中、ユウキは着々と腕を上げる。
そして、時が経ち事件は起こった。
「才能ないからやめちまえ。お前にプロなんて絶対無理だ」
そんな心無い言葉が向けられたのはアユ子。ある日ガチマッチが終了したイカスツリーのロビーで、アユ子を迎えに来ていたユウキはその光景を見た。