ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「クソっクソっ。謝ったりしねえからな」
長身ボーイはバトルが終わるとそうユウキに言い放ち、名も明かさずそそくさとイカスツリーのロビーから出て行った。その理由は元S帯とB帯のバトルを見ていたイカやタコ達が集まって歓声を上げてちょっとした騒ぎになっていたからだった。
「――お前やるなあ。名前何て言うんだ?」
「よくやった!かっこよかったぞ!」
通る隙間がないほどに囲まれてしまうユウキ。黒い線で繋がった目をキラキラとさせてボーイやガールが自分に向かって腕を振り、それぞれ違った色のカラフルな頭はロビーの半分くらいを埋めるほど密集していた。
え、何これ……アユ子ちゃんはどこだ……。
「あ、ありがとう――ありがとう。名前はユウキだけど――あの、ごめんね。そこ通りたいんだけど」
ユウキはその光景に戸惑い、両手を胸の高さに上げてあたふたした。有名人になったみたいで嬉しいが、今は1人で喜んでいる場合ではない。
「何であんなに相手の動きが分かるんだ?」
「あなた本当にB帯?私ビックリした」
ユウキもそそくさとそこを通り抜けたかったが勢いは収まらず、どんどん寄ってこられた。ユウキの手を握ってきた者もいる。
「あいついつも味方批判とか調子に乗った言動で嫌われ者なんだぜ。さっきのバトルはスカッとしたよ」
「実力は確かだから強く言えなったけれど」
「……そうなんだ。それで、もう帰りたいんだけど」
その後も揉みくちゃにされたユウキが解放されたのは10分以上後だった……。
――スプラトゥーンの神様。ユウキがいた現実世界ではそう呼ばれていた者がいた……。ガチマッチのXパワーは全てのルールで3000を超えていて、動画サイトにアップするプレイ動画は異次元と呼べる代物で、見る者を驚かせた。
その圧倒的な実力で動画を投稿するや否や瞬く間に人気者になったスプラトゥーンの神様に憧れ、スプラトゥーンをプレイしているうちにユウキはインクリングの世界に転生してしまった。
そして、このインクリングの世界にも神様と呼ばれたイカがかつて存在していた。
「あの子きっと神様と同じなんだ。神様と同じ目があるから相手の動きが見えるんだ」
イカスツリーでユウキを見送った1人のガールが最後にそう呟いた。
「アユ子ちゃん……大丈夫?」
ロビーの端にあるベンチで体を丸くして座っていたアユ子は……別人のように憂いに沈んでいた……。
「ありがとう……大丈夫だよ……帰ろうか」
「……うん」
横に付いていてくれたゲソ太郎も何を言ってあげればいいか分からない様子で、一緒にイカスツリーを出た後に分かれる時は「元気出せよ!」と振り絞るように言った。
「元気出してよ。あんなの気にすることないよ」
もう夜になった街を走る電車の中、もう何度目か分からない励ましの言葉をアユ子にかける。
「……うん」
ゲソ太郎と一緒の時もそうだったが帰ってくる言葉は短くて、しょぼくれたままのアユ子は目を見て答えてくれなかった。雨は降っていないのに、空には月が輝いているのに、大雨の日のような気分にユウキもなってしまう。淀んだ灰色の雲を見るような目で窓の外を2人して眺めて、ほとんど会話をせずに帰り道を過ごした。
明るいこの世界の住民たちは電車内でも楽しそうに話していて、ユウキとアユ子だけが別の世界から迷い込んできたようだった。
電車が目的の駅まで辿り着く。
「下りよっか」
ユウキが立ち上がり優しく声を掛ける。
「……うん」
同じように立ち上がったアユ子は電車の出口に向かって真っすぐ歩きながら髪に結んだ紺色のリボンを外した……。