ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
昨日の言葉はアユ子を想像以上に蝕んでいるらしい……。
今朝も元気が無かったアユ子は朝ご飯を食べると何も言わずに立ち上がり、自室に閉じこもってしまった。
ユウキはいつものように食器洗いを買って出て、それが終わると縁側に座って庭を眺めた。
「ユウキ兄ちゃん今日も練習するよね?」
「するよねー?」
朝日が当たる日本風の庭では小池の周りをミミちゃんとギギ君が走り回っていた。2人の子供イカはユウキを見つけると走った勢いのまま、体当たりをするようにユウキの膝にぶつかってくる。
「ああ。ちょっと休憩したらやるよ」
優しく2人の頭を撫でながらユウキが言うと、ミミちゃんとギギ君はイカ状態になってユウキの膝の上に乗った。そして膝の上でぴちぴちと跳ねる。
今日は太陽の光も風と一緒に走っているみたいで、陽の当たる場所にいるだけで体中が満たされていくようだった。なんだか考え事を忘れてしまいそうなほどに落ち着く。
「あ、そうだ!」
突然小さなボーイのギギ君がイカ状態からヒト状態に戻る。立ち上がったその頭が庭の木が揺れるのを眺めていたユウキの顎に直撃した。
「そろそろオクトレンジャーが始まる時間だ」
「私も私も」
ユウキを踏みつけてリビングのテレビの前に座る2人。ユウキは顎を抑えて悶絶していた。
「はっはっ。相変わらず元気がええのう。お兄ちゃんは大変じゃ」
「はい……でも、かわいいです」
庭でポップな曲調のラジオ体操をしていたコイ吉お爺さんが膝の屈伸をしながら笑う。
「昨日のXリーグの試合結果は見たかい?」
「まだ見てないですね」
「そうかい。一昨日に続きまたキングダムズが負けたんよ。悔しかったあ」
「そうなんですか。相手は?」
「最下位のプルプールズよ。ガチヤグラで1カウント差じゃった」
この世界の大人イカには例外なくファンのプロチームがあった。コイ吉お爺さんも毎日のように新聞やニュースで好きなチームの調子を気にしているし、テレビで試合をよく観戦していた。
「今シーズンは優勝争いもできんかもしれんのう。次のセリでは誰指名するんじゃろうか……」
コイ吉お爺さんはラジオ体操の最後に大きく深呼吸を2回終えると、ユウキの隣に腰を下ろしてくつろいだ。お爺さんが近くに来ると海に来たような匂いがする。潮の香りと言うんだろうか、加齢臭みたいな不快な香りではなくほっとする匂いだった。
「いけ!ウルトラハイパースーパーショット!!」
「ショットー」
いつからか本物の家族のように思えるようになったアユ子家は今日も元気でおだやかだ。空ではカモメも鳴いている――。
「アユ子は昨日、ガチマッチ負けちゃったんか?」
「ええ。まあ、最後の試合は負けちゃったんですけど」
隣に座るコイ吉お爺さんが聞いてきたのでユウキは昨日の長身ボーイとの一件のことをちゃんと話すことにした。ナマ子お婆さんと一緒に昨日の夜からアユ子の様子を心配していたようだしユウキも話を聞いてほしかった。
「――そうか。そんなことがあったんか」
「僕も心配で昨日も励ましてみたんですけど」
「まあ、気にせんでも大丈夫よ。こんなんは前からあったことじゃし、ちょっとしたら元気出すじゃろう。わしも後でアユ子と話してみるわい」
「はい」
ユウキは話が終わるとお腹の中の朝ご飯も消化できてきたようだし、試し撃ち場で体を動かすことにした。
まったく。今思い出しても腹が立つ。あの味方批判をした長身ボーイ――
スシコラで的を壊しながら、昨日のことを思い返す。その憎い記憶も一緒に破壊するようにユウキはエイム練習に熱中した――。
まだまだエイム力はプライムシューター使いのカジキのようなA帯上位プレイヤーには劣っている気がするし、コントローラーで操作していた頃のほうが鋭かった。この上を行くにはただ的を壊すだけでなく体を鍛える筋トレも必要だとユウキは思った。
壁や網に撃ちつけられたインクがしたたる試し撃ち場で今度は腕立て伏せをする。その後は腹筋トレーニングに背筋トレーニング。あえて滑るインクの上で行った。
疲れたら、お風呂の中で水遊びをするみたいにインクを手で遊ばせて……イカ状態になることでそのインクの中に背中から沈む……。
色付きガラス越しに外を見たように見えるインクの中からの景色。太陽の光も少し弱弱しくなる。けれど、それがまた冷んやりして心地が良い。
「どうすれば……アユ子を元気づけてあげられるだろうか……」
答えは出ないまま日付は過ぎた……。