ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「謝って済む問題じゃねえんだよ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「お前も今日ガチマッチやるんだろ?マッチングしたらおぼえとけよ」
「ごめんなさいごめんなさい……」
ユウキは立ち止まって少し迷ったが、長身ボーイが立ち去りこの場はとりあえず収まったようなので関わらないことにした。
今日も派手な指輪とイヤリングをしている長身ボーイは他のイカに肩をぶつけながらジャラジャラ音を立ててどこかへ歩いていく。
その乱暴な長身ボーイと不運にもトラブルを起こしてしまった周りのガールよりも一回り小柄なイカガールは長身ボーイが去った後もずっと頭を下げ続けていた。先がカールしたなんとなくお姫様っぽい髪型をしている小柄ガールの頭のゲソ足が何度もふわふわしている。
見るからに気弱そうな小柄ガールを不憫に思ったがユウキは参加登録をしようと受付カウンターに向かった。
「すみません。ガチマッチの参加登録お願いします」
「はい。現在B帯の参加受付中ですがお間違いないですか?」
「はい」
ガチマッチに参加する者のデータは専用のカードで管理されていた。ユウキは自分が持っているまだ新しい光沢があるカードを受け付けの大人なタコボーイに渡す。
「あ、もしかしてあなたがユウキさんですか?」
「はい?」
ユウキが渡したカードを受付ボーイが何やら機械に通すとエラーを起こしたような音が鳴った。
「先日、このイカスツリー内で運営を介さない不正なバトルを行ったとして運営から厳重注意の宣告があります」
「え?」
「知りませんでしたか?先日あなたが行ったA帯ガチマッチ後の1on1のバトルは不正なものだったんですよ」
「そうなんですか」
ユウキは思いがけない展開に肝を冷やした。ガチマッチに参加できないとか罰則みたいな嫌な想像が頭を巡る。
「はい。自分も事の経緯は伺っております。あなたに悪意は無かったのでしょう。ですから今回は注意だけでペナルティは無しになってるみたいです」
「じゃあ今日のガチマッチは」
「参加できます。頑張ってくださいね。私もあなたに一目置いてるんです。今日のプレイも楽しみにしてますよ」
「はい……ありがとうございます」
振り返るとユウキと受付のやり取りを見ていたイカ達がざわついていた……。
「――あれが噂の?」
「そう、神の目を持ってるB帯だって」
「やべえ今日あいつ参加するのかよ」
自分を見ながらそんなことを話す声が聞こえたユウキは居心地が悪くて人気の少ない奥のベンチに座った。
……いつの間にこんなことになっていたんだ。しかもこの前のバトルで厳重注意って。
広間から離れた場所に座っていても数人が廊下の奥から顔を覗かせてユウキを指差した。どのイカやタコもさっき聞いた「あれが噂の」という顔をして、まるで珍しい生き物でも見るようだった。
この前もたくさんのイカ達に囲まれたが、自分は想像以上に有名人になってしまっているらしい。
ユウキは平静を装って腕を組んで座り目を閉じて、ガチマッチ前に集中する為の瞑想でもしているかのように振舞うことにした。内心穏やかではないが……だからこそ落ち着かなければ。
深呼吸しながら頭の中で今日のルールを再確認する。
3人×4チームでのナワバリバトル――制限時間は通常のナワバリと同じで3分間、ステージは「ヒラメが丘団地・2番地」。スプラトゥーン1のヒラメが丘団地をマップで見るとちょうど正方形に区切って広くしたようなステージだった。正方形の各角がリスポン地点になっていてそこで四つ巴のバトルがこれから繰り返される。
これはまだプロでは行われていないルールで、A帯やC帯のガチマッチにもない。この世界ではバトルをより盛り上げる為に新ルールの開発に取り組まれていて、そのデータ集めの為のテストバトルとしてB帯は利用されていた。
今回はまだマッチングシステムが出来上がっていないのか同メンバーでのバトルデータがほしいのか、最初に3人のチームを決められてそのチームで指定回数バトルすることになっている……。
そして、しばらくして大きな液晶掲示板で発表されたチーム……指定された時刻に指定された準備室に入ったユウキは最悪だと思った。
「ごめんなさいごめんなさい……」
「ユウキってやっぱお前かよ。クッソ、どうなってやがる」
ユウキの今日のチームメイトは先程トラブルを起こしていた長身ボーイと小柄ガールの2人――とにかく最悪以外の言葉が出てこなかった。