ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「そうか……なるほど。分かったよ。今日のところは帰ることにする。でも、契約の期限はまだ先だ。もう一度ゆっくり考え直してみてくれないかい?また答えを聞きにくるよ」
しばらく家の前でジンドウの誘いを断り続けていると、ジンドウは諦めて帰った。今日契約を済ませることを諦めたわけじゃなく、また説得しに来るという様子だったが……。
「……結局どうすることにしたんじゃ?」
家に入ると奥の部屋から出てきたコイ吉お爺さんに尋ねられた。
「今回プロになるのはやめておくことに決めました」
「そうかい。ワシもそれがええと思う」
「すみません。やっとA帯になれた身ながら、もう少しこの家に厄介になります」
「何を水臭い。いつまでもおったらええよ」
とりあえず断ってすぐには後悔の気持ちは湧いてこなかった。ジンドウに言われた通りもう一度考えてはみるつもりだったが、たぶん気持ちは変わらないしこの先後悔することもないとユウキは思った。
自室に戻ってきたユウキはジンドウから受け取ったエンペラーズの観戦チケットを机に置く。一応受け取りはしたもののプロになるのは断ったのに試合だけ見に行かせてもらうのは気が引ける。
プレーオフの大事な試合で欲しい人は喉から手が出るほど欲しいような品だろうがどうしたものか。キングダムズが絡む試合ならコイ吉お爺さんにプレゼントするところだ。誰か知り合いにエンペラーズのファンはいなかったか……。
悩んでいたことが片付いて大きく伸びをしたユウキは自室で落ち着くことなく体でも動かそうと決める。さっきまで心ここにあらずだったのに何でもない一日が平和に動き出した……。
――日中をミミちゃんギギ君の遊び相手になってボール遊びをしたり、試し撃ち場で的を相手に練習に励むといういつもの過ごし方で過ごし……日が暮れる。夕食も一家全員揃ったにぎやかな食卓で済ますと、ユウキはお風呂に入った。
ふー。今日も良い一日だった……。
シャワーを頭から浴びながら充実の息を吐きだす。暖かいお湯がインク色の髪を濡らして体を滑り落ちていく……。同時に練習で使っていたインクの色が髪から抜け落ちていった。
インクリングの髪色は生まれるときにある1つの色に決まっていて、個人により違う。バトルをしなければ髪色が変わることは無く、バトルのときに変わった色も水で流せば元通りになる性質があった。
細かく分ければ千差万別のインクリングの髪の元色……ユウキの場合は黄緑色だった。黄色に近いメロンの実のような色。水が当たっているところからゆっくり絵具を混ざり合わせるように、徐々に髪がその色に近づいていく。
黄緑色が好きなわけではなかったがユウキはその様子を見るのが好きだった。なんだか実験をしているようで面白い。蛍光マーカーのような独特な匂いが流れる水から香るのもお気に入りだった。
体を洗い終えて、すっきり爽快感を覚えたユウキは湯船につかる……。自然と目を閉じてしまう湯船の中でユウキは虚ろにプロにならなかった選択について考えた。
これで良かったんだよな……。また次のガチマッチから頑張ってウデマエを上げていかないとな…………。
ジンドウさんには改めて断りの連絡しなきゃ…………
今回断ってもまた来年指名してくれるだろうか……
「お風呂ーー!」
「わーい!!」
浴槽に頭を乗せてうとうとしていると勢いよく風呂場のドアが開いた。ミミちゃんギギ君が子供らしい高い声をあげながら入ってくる。
ユウキは肩をすくめて当たり前に驚いたが2人の子供たちを見て笑った。
「ユウキお兄ちゃん頭洗ってよ」
「いいぞ――」
……後ろに座って小さな頭をシャンプーで洗ってあげてながらユウキは幸せのようなものを感じていた。
プロになってしまうと何かと忙しい日々に追われることになるかもしれない。もう一年、この家でこの子たちと……コイ吉お爺さんとナマ子お婆さんと……そして、アユ子と一緒に落ち着いた暮らしができたら……。
――その数日後だった。
「いつものニュースの前に臨時ニュース!」
「どした?どした?」
「カミ様が…………動き出したようです!」
「フェスか!」
フェスのお題を発表するシオカラーズの2人。たまたま1人でテレビを見ていたユウキはいつだったかアユ子と一緒にフェスに行こうと約束していたのを思い出す。
ニュースが終わる前にアユ子の部屋へアユ子を呼びに走った。
「アユ子ちゃん。今ニュースでフェスについてやってるよ!」
「……ほんと?」
「うん。前に一緒にフェス参加しようって約束したじゃん。一緒にニュース見ようよ」
「…………」
「さあ、早く。もうお題発表されてるかも」
「どうしたの?」
一瞬、座っていたベッドから立ちかけたアユ子だったが、ユウキから視線を逸らして黙ってしまった。アユ子は黙ったまま横にあったクッションをぎゅっと抱きかかえる。
そして、反目でユウキのほうへ視線を戻して思わぬことを言った。
「嫌だね。私、ユウキ君とフェスなんか行かない」