ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「……大体困っちゃうわ。私を誰だと思ってるの。気安く話しかけないでくださる?」
「……え」
アユ子はさらに腕を組んで、いかにも偉そうな態度を取って話す。
「ですから……えっと、迷惑だって言ってるんですのわよ。いや、ですのよ。プロ2人の娘をフェスに誘うなんて100年早いですわ」
「……えっと……誰の真似してるの?」
誰にでも演技だと分かるようなアユ子のお嬢様口調にユウキは開いた口が塞がらなかった。ふざけて誰かの真似や漫画のキャラの真似をすることもあるアユ子なのでまた何か変なキャラにハマったのかと思う。
「ふざけてないで早くフェスのニュース見ようよ」
相手をせずにアユ子をまあまあに流すとアユ子は頬を赤らめる……。
「もう。何よっ。とにかく私は今忙しいから出て行って!」
部屋から追い出されてしまったユウキ。勢いよく閉められたドアからは鍵をかける音もした。
実際に何かしらの理由で今はそういう気分じゃないんだと思ったユウキは少し寂しくもあったが、1人で1階に下りる。
……リビングのテレビからはちょうど繰り返しフェスのお題が発表されていた。
「ニュースの最後に今年のフェスのお題をもう一度!今年のフェスのお題は“どっちの季節が好き? 夏VS冬”に決まったよ……」
夏VS冬か……俺は冬のほうが好きかなあ……ポケットに手を突っ込んで物思いにふけるかのようにぼーっと投票するほうを決める。
そんな時、ポケットで掴んでいたユウキのスマホが振動した。取り出してみると電話がかかってきていて、相手はエンペラーズの監督補佐であるジンドウだった。
「もしもし」
「やあ。ユウキ君かい?あれから何か心境の変化はあったかな?」
「すみません。その話なら、しっかりとお断りすることに決めました。ありがたいお話なんですがご期待に応えられなくて申し訳ないです」
「あれ?まだそうなのか……。そうか、分かったよ。また気が変わったらいつでも連絡してくれ」
電話の声からは車の走る音がしていて、屋外である様子だった。話が終わるとすぐに切られたので忙しかったのが分かる。
しかし、言葉遣いが何となく気になって、断ったのにあまり残念がらなかったのが意外だった。少しだけ天狗になっていたユウキの気持ちがもっと粘ってほしかったという不満を抱く。金イクラとまで言ってくれたのに呆気なく切らないでほしかった。
でもまあ、どうしても断るのが許されず、また家に来られるよりはいいかとスマホをポケットに戻す。
時刻はもう少しで夕方と呼べる午後4時50分。シオカラニュースを見終えたユウキはその後、ナマ子お婆さんと買い物に行き、夕食の準備を手伝った……
夕食を食べて……風呂に入り……リビングでテレビを見る。家族で過ごしたその時間の中で、ユウキは昼間遠ざけられたアユ子にさりげなく近づく。何か悪いことでもしたかと何度か様子を伺ってみた。
「アユ子ちゃん……」
「ミミ!ギギ!お風呂入ろうか」
しかし、どれも上手くいかなくてどうやらアユ子は実際にユウキのことを遠ざけているらしかったのだ。
その原因をユウキは頭の中で、1つずつ整理するようにして考えてみた……。この前アユ子と2人で話したのはいつだったか思い返すとすぐに答えは見つかった。
そういえばプロに指名されてからアユ子とそのことについて話していない。コイ吉お爺さんやミミちゃんギギ君も一緒にいるリビングでは何ともなく話していたが、アユ子に直接はプロにならないということを伝えていない。最近の自分は舞い上がっていて気づけていなかったことを反省する。
きっとそれ関連でアユ子も思うところがあったのだろうがいったいどうしたんだろうか……。プロに指名されて、その後断ったことはアユ子の耳にも入っているはずだが直接言ってほしかっただけだろうか。気づかぬうちに本当に嫌われてしまっていたのであればショックだ。
夜、ユウキは意を決してちゃんとアユ子と話をすることにした。自室から出て、隣のアユ子の部屋をノックする。2度、ドアを叩いて耳を澄ましてみたが返事はなかった。
「アユ子ちゃん。ユウキだけど、ちょっと話したいことがあるんだ」
声を出してみても、部屋の中から返事はなかった。それどころか物音が全くしない。もう寝てしまったのかもしれないとユウキは思った。
「開けていいかな……?開けるよ」
どうやら鍵はかかっていないみたいだったのでユウキはゆっくりとドアを開いてみた。寝てしまっているのなら起こさないようにそっと。しかし、部屋の中からは明かりが廊下へ差し込んできた。
「あれ」
ドアを開ききって中に入ってみたけれど、そこにアユ子の姿はなかった。ベッドにも椅子にもいない……。
それだけなら別に不思議ではない。トイレにでも行っているのだと思うところだがユウキは事件の香りがした。
部屋の窓の1つが網戸もせずに全開になっていて、ピンク色のカーテンがなびいている。そこから秋の夜の冷たい夜風が入ってきていた……。