ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「アユ子ちゃん!」
開いた窓の向こう側に体を乗り出して呼んでみる……。庭にアユ子を探してみたけれど、ただ静かに夜の時間が流れているだけで、そこには誰の姿もなかった。
状況が深く把握できないが部屋の様子から察するにアユ子はこの窓からどこかへ行ってしまったのだとユウキは思った。
「ユウキ君……」
何をすべきか分からないながらも、とりあえず部屋を出ようと窓から離れたときに後ろから声がする。それは小さな声だったが聞きなれたアユ子の声だということは分かった。
「ユウキ君。こっちだよこっち」
声の聞こえる方向は開いた窓のほうで、再び窓から顔を出してみると聞こえてくる声はすごく近くなった。
正確な声がする方向もすぐに分かる。頭上を見上げると、屋根の上から覗き込むように見ているアユ子と目が合った。
「びっくりした。そんなところで何してんの?危ないよ」
「……ねえ。……ユウキ君も上ってきてよ」
ユウキから目を逸らして……申し訳なさそうに言ったアユ子。その言葉に何も言わずに従ったユウキは窓から屋根の上に上る。
瓦屋根の上では体操座りで膝を抱いたアユ子が遠くを見ていた。アユ子の目線の先では夜の世界に散らばるいくつかの明かりの中、一際輝くイカスツリーがあった。その周りを支えるようにカラフルで大きなドームも見える。
屋根に上がるだけでこんなにも遠くが見渡せるのかと、それに気づいた時だけ感動した。何も言わずにアユ子の隣に腰を下ろしたユウキはとりあえず、またアユ子の隣に来れたことに……何事もなかったことに安心した。
「イカスツリーが綺麗でしょ?私のお気に入りの場所なんだ。……誰にも秘密なの」
「うん。綺麗だね。今もあそこで誰かバトルしてんのかな」
「……きっとしてるね」
リボンと同じ紺色のセーターを手の先まで伸ばしたアユ子は誰が見ても落ち込んでいて、何か言いたげだった。ユウキもどんな風に話を切り出そうかで悩む。座った屋根の瓦がひんやりして冷たい。
「寒くない?」
「うん」
「部屋に入ってからはずっとここにいたの?俺どっか行ってしまったんじゃないかってあせったよ」
「ここにいたの……ずっと」
「そっか」
近所の家庭から微かに話声や音楽を流しているような音が聞こえてくる。そんな小さな音が分かるほど2人の会話の間には沈黙があった。
「実はね、今日流星群が見れるらしいんだ!だから、ここで見ようと思ってただけなの。……だから何でもないの……じゃなくて」
突然明るく振舞い話題を大きく変えようとしたアユ子だったが、すぐにまた声が小さくなる。そして心の内を打ち明けた。
「……私ね。実は、ユウキ君を遠ざけるように言われたんだ。エンペリーエンペラーズのジンドウさんに」
「……え」
「ユウキ君はプロにならないことにしたんでしょ……私の為に。だから私はユウキ君の足枷なんだって……君じゃプロになれないから有望なユウキ君から離れろって……彼を思う気持ちがあるなら君の家から送り出してあげなさいって……言われたの……」
想像とは違っていた話だった。ユウキの中からジンドウへの怒りとアユ子への愛おしさが混ざり合って湧き上がってくる。
「こんなことユウキ君本人に聞いちゃダメかもしれないけど……私、どうしたらいいの」
アユ子は唇をむーっと結び今にも涙を流しそうな目だった。