ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す   作:木岡(もくおか)

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第33話 好きな季節はもちろん…

「お母さんがね……チャージャー使いだったんだ。この話したことあるっけ?」

 

「アユ子ちゃんからは聞いたことないけど、家にある写真とかコイ吉お爺さんの話でなんとなく知ってたかな。アユ子ちゃんの部屋にあるチャージャーって……」

 

「そう。あれはお母さんからもらったもの。私、お母さんが使うチャージャーに憧れてたから私も絶対チャージャー使いになるって決めてずっと使ってたのに……怖くなっちゃって……まあ、この話は今度ゆっくりするよ」

 

 アユ子の両親は毎シーズンX帯でバトルしていた正真正銘の一流プロだった。あれだけ大きな道場を構えられるくらいだから当時の人気も言わずもがな。両親ともに同じチームでプレイしていて、引退とほぼ同時に結婚したらしい。

 

 家にもビデオがあってユウキもそのプレイを見たことがあった。アユ子と同じ紺色のリボンを付けた、今のアユ子にもよく似ているガールの姿。憧れを抱かれるのもうなずける。

 

 正確無比なチャージャー捌きで、相手のインクを浴びないその姿は美しかった……。

 

 

「無理だけはしないでね。不安になったらすぐにバトルを棄権してもいいから」

 

「最初はカバー意識して立ち回るよ」

 

「2人とも心配し過ぎだよ。ナワバリバトルなんだから楽しまなきゃ。私は楽しむよ!」

 

 ステージへ向かいながら3人で話す。アユ子は笑っていた。

 

 ユウキがバトルするということで周りからは「またあいつがバトルするってよ」という声も聞こえてきていた。先程のナワバリでもそうだったがやはりプロ指名の件で注目されてしまっている。非常にやりづらい……。

 

 けれど、今はそんなことどうでも良かった。アユ子が追い込まれることのないように気合を入れていかなければ。

 

 バトル開始前、リスポンで待機しているときもアユ子は笑った。ユウキは始まりのホイッスルが鳴る直前、味方4人で並んでいる時にその背中を軽く叩いた。

 

 ステージは「バッテラストリート」、ユウキはスプラシューターコラボ、カジキはプライムシューターベッチューを持ち、チームを組んで初のバトルが始まる――。

 

 

 その初動、ユウキはいつものように中央へは向かわなかった。自陣を塗りながらアユ子の様子を見守った。丁寧に塗りながらバッテラの段差を1つずつ下りていく。

 

 アユ子は真っ直ぐにバッテラで長射程が集まりがちな街灯へ進む。その道を作る滑らかさは確かにチャージャー使いそのものだった。使い慣れていそうなのは見ていれば分かる。

 

 ユウキがスペシャルも溜まりそうなのでそろそろ前線に出ようかという時だった。アユ子のこの試合ワンショット目、それが見事に橋上にいる敵を射抜いた。敵のイカが蛍光グリーン色のインクではじける。

 

「ナイス!」

 

 ユウキは後ろから声を送った。チャージャーを使ったらまともに動けなくなるかもとさえ思っていたが、驚くことに初動から実力を見せた。

 

 そのスコープを覗く姿はアユ子の母親にそっくりだった。

 

 アマチュアの中では実力がかなり高いユウキとカジキが同じチームにいるということもあり、試合はユウキチームがかなり押した状態で進んだ。

 

 バッテラ中央の橋への侵入もほとんど許さず、横綱相撲で相手との撃ち合いに勝ち続ける。

 

 その中でアユ子も前線から一歩引いた場所でいくつか綺麗なキルを決めていた。ガチマッチで相対してきたB帯チャージャーよりは遥かに上手い。たしかにチャージャーでA帯以上の実力はある。

 

 プロの遺伝子は本物だった……。

 

 カジキも相変わらずの手練れだった。普段の性格とは裏腹に、バトルでは容赦なく相手を鋭く攻める。少し、そこまで詰めるかという動きをすることもあるが、不利な状況でも撃ち勝つ実力がある。

 

 これからはずっと味方かと思うとユウキは嬉しかった。

 

 初戦の成績はユウキ7k1d、カジキ10k4d、アユ子4k0d。前線2人が頑張りすぎたということもあり、チャージャーのアユ子は際立った結果にはならず、その代わりにステージを綺麗に塗っていた。

 

 そんな試合が5試合ほど続く……ユウキは常にアユ子を気にしつつも自分の状態も確認した。これから挑戦するA帯のガチマッチを意識して、自分がどれほどやれるかを考えながら、課題も探す。

 

 初めてナワバリをした時を思うとエイムも身のこなしも大分上達した。これ以上を目指すなら、やはりカジキと同じレベルのエイム力と……あとは、ゲームには無かった動きをされた時の対応だろうか。

 

 どちらも1on1で戦っている時に感じる。定石通りの形での撃ち合いになら自信はあるが、もっと反射的に動けるようになりたい……。

 

 

 そして夕方になり、そろそろ終わろうかという試合でついにアユ子に異変が起こってしまった。

 

 相手にもチャージャーがいる試合の終盤、それまでほとんどデスしていなかったアユ子が相手のチャージャーにキルされた。そしてその後、リスポンから出てきたアユ子はイカ状態にならずに歩いてステージに戻ってくる。

 

 その目は虚ろでどこを見ているか分からない……疲れているような眠たそうにしているような表情をしていた。

 

 試合は終わりかけだったのでユウキがその姿を見るとすぐに終了のホイッスルが鳴った。

 

 ユウキとカジキが急いでアユ子の下へ駆けつけると、アユ子はスプラチャージャーを力が抜けたようにインクが広がる足下へ転がり落とす。インクに落ちたチャージャーがぴちゃり……と音を立てた。

 

「大丈夫アユ子ちゃん」

 

「大丈夫大丈夫……ちょっと疲れちゃったみたい」

 

 それほど、大きな異変ではないがあのまま続けていたらどうなっていたか……。

 

「今日は終わりにしようか。俺ももう疲れたし」

 

「そうだな時間もけっこうやったしな」

 

「うん。そうさせてほしいかも」

 

 ナワバリはそれで終わることにして3人はロビーに戻る。結局ナワバリのバトル結果自体はは全勝だった。

 

 

「……で、正直どうだった?チャージャー使っていけそう?」

 

 カジキが気になる質問をアユ子にぶつける。

 

「いけると思ったよ。……本当に。自分でももうちょっと苦しくなるのは覚悟してたけど、意外と大丈夫だった。2人がカバーしてくれたおかげかな」

 

「本当?良かったあ」

 

 と、ユウキが胸に手を当てて安堵する。

 

「でも、ガチマッチまでにもう少し練習しておきたいかな。また練習付き合ってね」

 

「もちろん。これからチームで練習していこう」

 

 出口に向かいながら今日の初チームナワバリの出来を話し合う。アユ子はずっと4k0dとか3k0dとかそのくらいだった。とりあえずチャージャーを使ってみるのは続行でこれからも様子をみるという風にチームの方針は決まる。

 

 そう、正直今日のナワバリ出来だけでは何とも言えないといった感じだった……。

 

 イカスツリーから外へ出たとき、正面の広場に高々と待ち構えていたのはフェスのお題を掲げた看板。その華々しい飾りを付けられた看板の足下にはフェスの投票箱があって、隣のブースでは大量に積み上げられたダンボールからフェスTが配られていた。

 

「そういえば、お前らフェスどうすんの?」

 

 と、カジキがフェスの看板に立ち止まって言った。

 

「もちろん参加するよ。ね、ユウキ君」

 

「うん。出たい出たい。絶対でる!」

 

 柄ではないが、フェスの看板と色とりどりの風船を見ると興奮せざるを得なかった。これが本場のスプラトゥーンフェスの準備期間か。こんな大きな祭りの雰囲気は経験にない。

 

「カジキ君は?」

 

「もちろん出るよ。一緒に参加しようぜ。まだ投票はしてないけどな」

 

「私たちもまだだよ。今から投票しちゃおっか」

 

「うん。しよう。今やろうすぐやろう!」

 

 ユウキはイカやタコが並んでいて、夕日が鮮やかに照らす投票箱までダッシュで向かいたかった。

 

「ちなみにお前らは今回のフェスどっちに投票するの?」

 

「じゃあ3人でせーので言おうか。どっちの季節が好き? 夏VS冬。私は……」

 

「俺は……」

 

「冬!!!!!!!」

 

 3人の声は重なった。そして笑いながら投票箱の列に並ぶ。

 

 来週に迫った年に一度の祭りフェス……そこでアユ子にとって大きな分岐点が訪れる……。

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