ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
私が8歳の時に――両親が死んだ。交通事故だった。
今では、その当時の記憶なんてほとんど残っていない。もう10年も前の話……覚えている記憶は頭の片隅に少しだけ。
けれど、その少しが私にとって凄く大きくて……永い間、心を縛り付けている。
たしか、何でもない日の夕方だった。私がどんな風に過ごしていたかはもう忘れた。お父さんとお母さんが家にいなくて、お爺ちゃんは家にいた。
ある時、鳴った電話を取ったお爺ちゃんが緊迫した表情で声を大きくしながら話していたところはうっすら覚えている。
通話相手に何度も「本当か」みたいなことを聞いていた。受話器を耳に押し付けて、受話器のマイクに手をかざしながら汗をかく。……あんなお爺ちゃんを見たのは今でもあの一回きりだ。
電話を切ると、急いで出かけようとしたお爺ちゃんを私は追った。たぶん止められたと思うんだけど、ただ事ではない事態に1人でいるのも怖かったのか……幼い私は少し離れてお爺ちゃんを追いかけてしまった。
一生懸命走った私は辿り着いた。どうやら走っていける近所で起こった交通事故の現場に。
実際のところ、その光景も今ではほとんど浮かんでこない。ただ、衝突した車内にあったチャージャーが母親に刺さっていたのを目にしたという事実は確かだ。
父親がどうだったかも覚えてない……でも、とにかく私は両親が大好きだった。プロだった両親は友達にいつも自慢していた。その両親がチャージャーが絡んだ事故で死んだ。
だから、私はしばらくチャージャーを見ると恐怖が体を支配するようになった。
それからというもの、私はいくらか時間をかけてチャージャーへの恐怖を克服する為の努力をした。少しづつ――少しづつ――チャージャーに慣れていった。
そうして、徐々に回復していった私はチャージャーを使うのは無理だったけれど、見ても怖くなることは無くなった。
しばらく、チャージャー恐怖症とはお別れ出来て……もう完全に克服したと思っていた……。
でも、最近どうしても両親を思い出してしまう時があった。夢にも出てくるようになった。
そう、時期としてはちょうどユウキ君が家にやってきた頃からだ。
初めは何も関係ないと思っていた。けれど、ユウキ君と過ごすうちに……ユウキ君が時空を超えて私と出会ったと知ったときに、そうとも思えなくなった。
私にも何か変化が訪れようとしているのかもしれない……。
今年のフェス前日の夜、アユ子は自室で明日に向けてコスプレ衣装の仕上げに取り掛かっていた。
隣ではユウキも目を輝かせて、明日のフェスに思いを寄せている。
「ねえ。本当に本当に明日俺は本場のフェスを体験できるの」
「もう、そうだって。一緒に楽しもうね」
「信じられないよ。こんなに楽しみなことはないっ」
もらってきたフェスTを抱いて、悶えるユウキ。柄にもなく足をバタつかせたりもしていた。今週はもうずっとこんな具合だ。
「そういえば、昔というかゲームでのフェスはどんな感じだったの?」
「同じようだったものだったよ。両陣営に分かれてバトルをする。そうして得票率や勝率が高いほうが勝つ。勝敗によってゲーム内でもらえるアイテムが増えるとかあったなあ」
「私たちと同じように盛り上がってたんだ」
「盛り上がってた盛り上がってた。普段見ないインクとかが見れたんだよなあ。ミステリーゾーンとかいう限定のステージもあって、それは賛否両論だったり。なんかもう懐かしいよ」
ユウキは早口だった。アユ子はそれを聞きながら冬にちなんだ仮装である雪だるまのマフラーを綺麗に巻いた。
「あとはね、100倍マッチとかあったんだよね」
「100倍マッチ?」
「そうそう。勝敗への貢献ポイントが100倍で計算されるマッチなんだけど、めったに来なくて、来たらもう大変よ。絶対勝ちたいからすごく集中してバトルするの。勝ったら友達に通知もいくし……」
アユ子も昔の話を聞くのは好きだった。全く聞いたことが無い世界の話は聞いていて面白い。いつか機会があれば行ってみたいなんてことも思っていた。
ユウキと雑談をしながら作業を進めて、今年も毎年恒例にしているフェス用のコスプレが出来上がった。顔と手足に穴を開けた3段の雪だるまの着ぐるみ。
「明日はアユ子ちゃんはそれを着ていくの?」
「そう。上手にできたでしょ。やったー歴代最高傑作だよ。着るのが楽しみっ」
「ね!めちゃくちゃ楽しみだよねフェス!」
「うん!楽しみ!」
ユウキのテンションと思いの外上手くできた着ぐるみにアユ子も気持ちが高揚した。きっとフェス会場で注目を集めるコスプレになるはずだ。
「それでさ……明日もアユ子ちゃんはチャージャーを持つの?」
「うん。私はもう……チャージャーから逃げない」