ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す   作:木岡(もくおか)

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第37話 オレンジと白と緊張

 リスポーンの下……簡素な作りの1部屋。そこでは選手がバトルが開始まで待機する。ただそれだけの部屋。

 

 使用する武器を持ちインクタンクを背負ってバトルに望むのに準備万端になったイカやタコはそこからステージへと向かう。部屋にあるのはステージへ繋がる階段だけだ。

 

 階段側の壁はステージを支えるメタリックな枠組みが剥き出しになっている。部屋に入ってくる光はその方向から来るステージを照らす大量の照明の切れ端だけ。だから部屋は薄暗く、見上げた階段の先だけが白く眩しい。

 

 バトル開始前に精神統一ができるような静かで落ち着いた空間……今まではそう思っていた場所が今日は違った。

 

 鳴り止まぬ大歓声が壁や距離をものともせず聞こえてきていた……。

 

 空間ごと振動させているような音は壁を通して全方位から体にぶつかる。体が吸収した音はユウキの体でそのまま鳥肌となった。

 

 スプラシューターコラボを握る手の指先の感覚がなってくる……。

 

 試合開始直前まできて、改めてとんでもないことになったと認識した。祭りのイベントの1つと思っていたフェスマッチが初めてのプロとのバトル。

 

 観客席は見なくても超満員だと分かる。当然ガチマッチではこんな経験をしたことが無い。今から本当にこの先のステージへ立てるのかと思う。

 

 ユウキは深呼吸をしながら階段を上がりリスポーンの中へ入った。さらに激しくなる歓声。

 

 プロになればこんなバトルが日常……いつかは自分も……。

 

 

 ――バトルはチーム内で何の声掛けもなく始まった。隣にいたアユ子やカジキがどうだったかは分からないが、ユウキには単純にその余裕が無くなっていた。

 

 初めは準備室でした打ち合わせ通りに自陣を丁寧に塗っていく。今回の「夏VS冬」のフェスで使うインクの色はオレンジと白。ユウキたち白チームはそれぞれの方向に進み海女美術大学の床を白色に塗った。

 

 大学の建物の間から見る観客席、そこでは見たことが無いくらいの密度のイカたちがいた。それぞれが小さくてよくは見えないが皆オレンジか白の旗を振っている。

 

 それを見るとユウキの体はより固くなった。

 

 ユウキが圧巻のフェスマッチのスタジアムを見ていると、突然スシコラからインクが出なくなった。トリガーを強く引いてもカチカチと音がするだけ。

 

 インク切れ……そんな初歩的なことにも気づけなくなっていた。

 

 緊張しすぎだ。足が地に付いていない。できれば一旦、心を落ち着けたい……けれど、そんなことも言ってられない。

 

 20秒もすれば自陣なんて塗り終わってしまう――。

 

 中央の広場まで下りたユウキは相手の姿を目にした。プロチーム「チョコレートブリーズ」。

 

 服の色はオレンジだがプロ仕様なのかデザインが普通のフェスTと違う。シンプルなデザインだがシュッとしていてユウキにはそれがいかにも強そうに見えた。

 

 白チームよりも広場へ降りてくるのが早かったブリーズはそれぞれの動きも鋭かった。既に広場はオレンジ色に染まっていっている。

 

 そしてその中でも一際早く広場に来ていたであろうブリーズのチャージャー……そのイカボーイは高台にいた。

 

 ユウキが広場に下りてスシコラを構えた時にはもうブリーズのチャージャーは狙いを定めていた。

 

 ――瞬間でオレンジ色まみれになる視界。ユウキの初動は成すすべなく撃ち抜かれて終わった。

 

 完全な油断。ユウキが上を見たときには時すでに遅しだった。本来なら中央の様子を確認してから下に降りるべきだった。しかも相手のチャージャーが強いということも失念していた。

 

 くそっ……何をやっているんだ俺は。

 

 リスポーンを待つ間に数秒であるがユウキは自分を諫めて反省した……。そして自らの頬を叩いて心も落ち着かせた。

 

 このままの状態で試合が終われば、その後どうなる……後悔だけが胸に残ってしまう……。

 

 ユウキは持ち前のスプラ脳で状況を整理しながら前線へ急いだ。

 

 状況はやや劣勢。ステージの中央はほぼオレンジ色だが左右はまだフラット。自分以外の味方はまだキルもデスもしていない。ちゃんとチャージャーを警戒して自分よりは落ち着いて初動に望めた様子だ。

 

 アユ子もカジキもまだ冷静に自陣高台に留まっている。そこへユウキも足並みを揃えていざ本格的にプロとのバトルを始めた。

 

 バトルの流れに身を投じる内に緊張は薄らいでいった……ユウキの調子も悪くなかった……。

 

 けれど、試合展開は絶望で……これでもかというほど力の差を見せつけられる形で進んだ。

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