ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
奇跡でも起こらなければこの試合はもう勝てない――。
力の差は歴然、試合時間はもうそろそろ残り1分に近づく。ここからこの状況を打開するには想像もできないような奇跡的な出来事が無いと無理だ。悔しいが、今の自分ではそれを起こせる力も技術もないという自覚がある。だから、この試合はおそらく負ける。
ユウキの類まれな状況判断能力は試合を諦めるのも早かった。
「アユ子ちゃん。大丈夫?」
「……うん。まだ……戦う……」
「無理しなくていいよ」
アユ子のもとまで急いで泳いだユウキは声をかけた。次の瞬間、倒れてしまいそうなアユ子をいつでも支えられるように手を前に出して。
「……ごめんね。私が相手のチャージャーに負けてばっかりだから」
「気にしなくていいよ。あとはあんまり前に出ずに休みながらで大丈夫だから。無理だけはしないで」
バトル中にあまりゆっくり話している時間もないので、ユウキはアユ子に後ろにいるように指示して前に出る。その直前には試合前と同様に背中を軽く叩いて、それだけ残して前線に戻る。
すごく心配だった……。フェスという年に一度の楽しい日に悲しい出来事が起きないか。前を見なければならないぎりぎりまでユウキはアユ子のことを振り返っていた……。
なんだか胸騒ぎもする…………でも、これはどちらのせいだろう……。
絶望している――わけではない。
むしろ、その逆。ユウキはスシコラを手に笑っていた。
確かに負けを認めた。しかし、まだ試合が終わったのではない。まだ戦う時間は残っている。
今戦っているのは誰だ?この世界でバトルのプロとして戦うイカ達。
こんなに楽しいバトルを負け濃厚だからといって手を緩めるなんて考えられない。
どうせ負けるなら、1つでも経験を。1つでも爪痕を残してやる――。
99%負けると思ったからこそ、ユウキは吹っ切れることができていた。あとは時間いっぱい自分がやりたいようにやるという心構えで、高鳴る鼓動に任せてステージを進む。もう地響きのような大歓声も心地よく感じた。口角が上がるのを止められない。
最初に相対したのはパラシェルターソレーラだった。この傘も今までの時間で強者だということは分かっている。
息も上がってきて、周りの状況も見えず、対面だけに集中するしかなかったユウキがそこで試したのはスプラッシュボムを敵から見えないように背中から投げる戦法だった。
右手をスナップさせてできるだけ奥に飛ばすイメージで投げてみる。
その投擲は狙いよりも少し奥に行き過ぎてしまった。うまく敵から見えないようにはできたみたいだが……。
傘との対面、細かくステップしながら傘の中心をとらえ続ける。それを意識して全力で挑んだ。
上手くかわしながらスシコラの弾を1発当てることができた。
じゃあ後は……。ユウキは上に弾を放ち曲射で仕留めるのを狙う。ユウキはその時、なんだか外れる気がしなかった。
最初に投げたスプラッシュボムの爆風もあって傘をキルする。そして、そんな対面をしていると当然のように高台のチャージャーがユウキを狙っていた。ちらりと見た高台の上の中性的なイカボーイと目が合う。
丁度その時、スペシャルが溜まった。もうやるしかない。
チャージャーからインクが放たれる前に斜めに飛びながら発動するジェットパック。ユウキは飛び上がると同時にイカ状態になって相手のエイムをずらす。
狙い通り横を通り過ぎるオレンジの線。そして放つ渾身のショット。
これまた外した気がしなかった……しかし、ユウキが撃ったと同時にイカボーイは弾を躱しながらイカスフィアを発動する。
すごく勘が良いと思った。当ててくるということも予想されていたらしい。そういうところも含めてプロのチャージャーか。
ユウキは相手のイカボーイがイカスフィアを発動するのがとてもゆっくりに見えた。フェスの夜空がよく見える空中で、時が止まったように感じた。
またしてもユウキは負けた……ジェットパックの着地点で爆発するイカスフィア。どうしようもなくリスポーンに返される。
満足だった。負けたけれど、最後は良い動きができた。まだ時間はある。もう1度やりたい動きを試してみよう。
はやる気持ちで再びリスポーンを飛び出る。もうデス数もめちゃくちゃだ。けれど、これでいい。
ユウキが復帰する間に再び高台の定位置に戻っていたチャージャー使いのイカボーイを尊敬の眼差しで見上げる。
心から楽しかった。最後にどうやってあいつを攻めるか考えると……。
しかし、ユウキは前線に戻る途中で足を止めた……。瞬きの間に視界に捉えていた敵のチャージャーが白色に弾けた。
・後書き
ちまちまUPするのは誰にもメリットが無い気がしたので一気にあげることにしました