ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
奇跡が起こせばまだこの試合勝つことができる――。
私は初動から全く良い動きができていない。私が相手のチャージャーに負けっぱなしだから、相手のチャージャーが自由に動けて皆苦しめられてる。試合時間はもう少しで残り1分、この時間帯に敵チームの要と同じ武器を持ってる私がキルできればバトルの流れは大きく変わる。だから、この試合まだ勝つチャンスはあるはず。
どうにかして……どうにかして……チャージャーを……。
時間的にもう負けは許されない。気合を入れて挑まなければならないんだけど、そう思えば思うほど体は逆に固くなっていく。自分の体じゃないみたいに力を入れられなくなっている。思いとは裏腹に私の脳が……体が……それを拒否している。
やっぱりまだチャージャーが怖い。相手のチャージャーが上手で、その破壊力が強いほど深く印象付けられてしまうのか恐怖を感じる。心臓の周りが冷たくなる。胸に穴が開いて風に晒されてるんじゃないかと思うほどすーすーして、そこから体全体へ広がる。
その時、手に持つ自分のチャージャーを見ると投げ出してしまいそうになった。気持ちの悪いものを持った時のように拒絶してしまった。しっかり握っていけなきゃいけないのに……。
チームでチャージャーを1番倒しやすいのは私だ。私がやらなきゃいけないのに……。
高台のイカボーイを再び見上げると、いよいよ指が開き始めてチャージャーを握る力もなくなった。視界が狭くなっていく……。
「――無理だけはしないで」
そんな私のことを心配してくれたのかユウキ君がバトル中だというのに声をかけに来てくれた。前線へ戻る途中に、最後は背中を叩いていってくれた。
この前のナワバリや試合前でもそうだったけど、たったそれだけで私の心は随分楽になった。とても安心した。それだけでなく、何とも言えない不思議な感じがする。
ユウキ君や他の皆の為にも……動け……怖くても……。
再び強く目を開くと、前線に戻ったユウキ君が見えた。そして、なぜか彼は笑っていた。すごく楽しそうな顔で相手の傘と撃ち合っていた。
そのユウキ君の顔を見たとき私は私にとって余りにも想像外の表情だったので驚き、固まった。どうして……どうして……笑っているの……。
そして次の瞬間――脳天を射抜かれたような感覚がした。
そこからの出来事は夢の中で起こっているような不思議なものだった。
時間が止まった……。比喩ではなく本当に。私にはそう感じた。見える景色全てがピタリと止まった。
海女美術大学を見渡せる場所から、そこでバトルしているイカ達が動きを止めた。ユウキ君はちょうどジェットパックを使っているところだった。
その中で私は幻を見た。幼いころの私の記憶だった。
自分でももう思い出せないようなずっと昔の記憶。両親がまだ生きていたころの私の記憶。それが目の前に鮮明な映像となって現れた。
小さな私は両親にチャージャーの練習に付き合ってもらっていた。家族3人で幸せそうに笑っていた。その中心には小さな私が不揃いに抱えるチャージャーがあった。
小さな私がよくねらってチャージャーを撃つ。1回撃つごとに両親が声をかけてくれていて、小さな私のすぐ近くにずっといた。間違っているところがあれば直していて、為になるコツを優しく教えていた。
練習が終わると、小さな私は使っていたチャージャーをぎゅっと抱きしめた。お人形を抱きしめるように愛おしそうに。
そしてそんな小さな私を両親が重ねて抱きしめる……。
なんだか涙も出なかった……そんな幻を見ても、あまりの衝撃で。
「そうだ私……チャージャーが好きだったんだ」
恐怖ばかりに押しつぶされてそんなことも忘れていたのか……。ずっと胸の奥に閉じこもっていた記憶。チャージャーは私にとって敵ではない。そういえば幼い頃に一番好きだったものはチャージャーを持って両親と過ごす時間。
きっと今でも、この武器は両親との愛を繋ぐものなはずなのに……。
早くなってくる鼓動と共に、幻は消え去っていき、時間も再び動き出す。
私は目を閉じて数秒だけ余韻に浸った……。目を閉じてチャージャーをぎゅっと抱きしめる……。
「あ…………」
スイッチのONとOFFを切り替えられたみたいだった。世界が変わった。体が軽い。
気がつけば、私は飛んでいた。
チャージキープをしたチャージャーを持って高台から思い切り――。体を回転させながら高台のイカボーイを射抜く。
フェスという特別な日に起きた奇跡か……それとも、ユウキ君の影響で起こった彼にも分からない時空の歪みか。短い時間だったけど私はそれだけで生まれ変わった気分だった。
放つインクの先までもが体の一部になったみたいで思った通りの所に寸分の狂い無く撃てる。とっても久しぶりの感覚だ。
これが私か。
敵のチャージャーをキルした後はそのまま前に出て、それに気づいた他の敵チームのメンバーもキルした。3人とも。
一発も外さなかった。デュアルをキルして、わかばをキルして、私はずっと敵のチャージャーのものだった高台に上った。塗るよりも真っ先に。
そしてユウキ君がキルして一歩遅れた傘をキルした。これも気づいたらキルしていたような感覚だった。それほど一心不乱に動いていて、それほど今の私には簡単なことだった。
「今までごめんね……勝とう」