ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
いよいよ本場のサーモンランが体験できるのかと、視線をあちらこちらに向かわせながら歩く。カジキの背中を追いながら、港特有のザラザラしたアスファルトを踏みしめて。
「海」という景色はここでも変わらないんだなとユウキは思った。青い空に、青い海。太陽に照らされたそこは信じられないくらい眩しくて、吹き抜ける風に晒されると開放感を抱く。
向こうには広い砂浜も見えて、ユウキもまだ走りだしたい気持ちになった。どうしてもそういう衝動に駆られる。海には男を少年に戻す魔力みたいなものがある。
海に入りたくなるほど暖かくはないのでさすがに泳いでいる人はいなかったが、ちらほら散歩しているようなイカ達は砂浜にいた。さらに奥の防波堤には釣りをしているらしきイカも見えた。
「お疲れ様でーす」
「ああ。お疲れカジキ君。今日もこれから参加するの?」
「はい。頑張ります」
真っ直ぐに目指していた建物が目の前に来ると、カジキは近くで洗濯物を干していたおばちゃんタコに挨拶した。ユウキも初めましてだが、一応軽く頭を下げる。
入り口では自動ドアがユウキを出迎えた。ハイカラスクエアのロビーすぐ横にある不気味なあそことは違う近代的な建物。ドアをくぐったその先も、街の方の建物と変わらないものだった。
いつも行くイカスツリーのロビーとも似ている。しかし、所々にサーモンランを感じさせる飾りがある。クマサン紹介のマークやオレンジ色のソファやテーブル。
「お願いしまーす」
「あらカジキ君。今日はどの船に乗るの?」
「今日も1番奥に行くやつで」
「最近はいつもね。まあこの時間ならちょうどあの船が出る時間だものね。あんまり無理しちゃダメよ。あなたの実力なら大丈夫だと思うけど」
「はい。全然大丈夫ですよ。今日はこいつも一緒なんで」
「そちらお友達?」
「はい。俺のチームメイトです。一緒に参加するつもりなんですけど、初めてなんで登録してもらえますか」
受付に立っていたこれまたおばちゃんと呼べるくらいのタコとカジキが慣れた風に会話する。おばちゃんタコ達のカジキを見る目はハートを浮かべるように輝いていた。
「じゃあ、えっと」
「あ、こいつもガチマに潜ってる奴なんで。あのカードでここの登録もできましたよね。ほら、ユウキいつものカード出して」
「おう。これ?」
「それそれ」
受付でバイトに参加する手続きは初めてながら短めに終わった。さすが時代が進化しているだけあって、いろいろと便利になっている。ガチマッチ用のカードは身分証明書の役割も果たすらしくて超便利カードだった。
「それじゃ。これ初心者用のマニュアルと制服ね。制服は使ったらロッカールームの回収箱に入れてね。その辺の説明はカジキ君にお願いできるわよね」
「はい」
「というか、本当に君も初めてでカジキ君と同じ船で大丈夫?研修も受けてないのよね。本当に本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ。こいつなら」
「そう。頑張ってね。いってらっしゃい」
最後に受付のおばちゃんタコはかなり心配しそうな顔をしていたがユウキは気にしなかった。カジキも余裕そうにしているし、何よりもユウキはバイトに来たというよりも観光と修行目的という考えで、楽しみ100%の頭だった。
早く、バイトの制服に袖を通したくて仕方ない。
「うわあ……これがあの……!」
ロッカールームに入るとユウキはもの凄い速度で制服に着替えた。魚市場のおじさんが着ていそうな形でオレンジ色の目にしたことがあるあれ。緑色のゴム手袋と長靴もすっぽり装着すると質感を確かめるように手足の指を動かす。
「どうしたんだよ……気持ち悪いな」
「いや、これは興奮せずにはいられないだろうが」
「は?」
きっとダサいと評価されているバイトの制服を嬉々として着ているユウキを見て、カジキは若干引いていた。
「そうだ。今のうちに初心者用マニュアルとやらを読んでおこ」
「そうだな。まだ時間あるし、俺が船に乗っている間にも色々と教えるけど。まずはな」
クマサン紹介のマークがついた素朴な冊子を開くとシャケの写真がユウキの目に飛び込んできた。ヘビやカタパッドといったオオモノシャケの写真もある。写真が載っているのと同じページには倒し方も書かれていた。
見たところ倒し方は自分が知っているゲームと同じ。やはりサーモンランならこいつらと戦うことになるのか。なるほどなるほど……。
「大体の流れはさすがに知ってるよな。オオモノシャケそれぞれの倒し方は最初覚えるの大変だろうけど。まあ最初は後ろのほうで勉強しながらでいいよ」
「いや、大丈夫――もう全部覚えたから――」
ユウキは初心者用マニュアルを軽くめくっただけで閉じると、キャップを被り自信ありげに笑ってみせた……。