ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「全部覚えたってほんとかよ。たったあんだけ見ただけで。お前そんなに頭良かったのか」
「うん。実はね」
「いやいや。嘘だろ」
「本当に大丈夫だから。本当に本当に。マジで完璧。で、次はどうすんだ?」
ユウキのどこから来るのか分からない謎の自信に戸惑うカジキの肩をユウキが叩く。勢いで納得させる立ち回りだった。
「次は船に乗るけど……」
「船!」
制服に着替えたユウキとカジキは船着き場に移動した。建物を出てすぐそこにある船着き場には大小様々なサイズの船が並んでいた。
ユウキはそれを見てさらに目を輝かせる。サーモンランじゃなくても船に乗って海に出るなんて中々ないことだし、何と言っても並んでいる船にバトルに使う武器が乗っているのと船体にオレンジ色のインクの跡があるのが素晴らしい。
喜びの声をあげながら近づいてじっくり見たいけれど、船着き場まで来るとちらほらイカ達の姿があったので我慢した。船の整備をしているらしきイカや、これからバイト仲間と呼べるような制服姿のイカ。船の上で談笑していたりする。
「それでカジキ。俺たちが乗る船はどれなんだ?」
「もうちょい先」
「おっけー」
どれに乗るのでもユウキは満足だったが、できれば大きいのに乗ってみたかった。10人とか大人数でやるサーモンランも面白そうだからだ。
しかし、カジキが「これ」と言って指を差したのはそれとは正反対の船だった。
「え……これ?」
「そう。これ」
1番隅っこにあった、1番小さくて1番傷だらけの小型船。もう使われてない壊れた船なんじゃないかとも思えるぼろさだった。
「ほら、浮き輪と武器持ってさっさと乗り込むぞ」
「おい。マジでこれかよ」
当たり前にボロ船に乗り込むカジキを追いかける。板を渡って乗り込んだ船内も散らかっていた。ロープやら網やらで歩きづらい。そしてその船に近づいた途端、魚の生臭さも漂ってきた。
こんな船誰も乗ってないだろうと思ったけれど、運転室で隠れた奥に1人のタコボーイが乗っていた。いやボーイというのはおかしいかもしれない。ボロ船と同じくらい年老いたよれよれのタコボーイだった。
「ちわーす爺さん」
「…………うむ」
その老人タコにカジキが挨拶する。
「よろしくお願いします」
「…………うむ」
ユウキも一応挨拶しておいた……。
遊びに来たのではないと気を取り直したユウキはカジキに教わって船を出す準備をした。準備と言ってもロープをほどいたりガソリンが充分に入っているか確認しただけだ。
「あとは待ってればいいのか」
「そう。あと1人クマサン商会の社員の人が乗ってくるからそれを待つ。たぶん今日もこの船に乗るのはその人だけで終わりかな」
「へー。じゃあ4人で行くのか」
軽い波に撃たれる船内に座って、あと1人の船員を待つ。船のエンジンもかかってい、もういつでも出発できる状態だった。
「さっきは大丈夫って言ってたけど確認していいか。本当にオオモノシャケの倒し方覚えてるか」
「ああ。いいよ」
「じゃあカタパッドの倒し方は?」
「ボムを肩のとこに入れる」
「テッパンは?」
「後ろから攻撃する。連携を取って挟み撃ちできるとよし」
「マジで分かってんだな」
即答するユウキにカジキが驚いた。
「当たり前だろ。カジキこそテッパンをカゴの近くに来る前に止めたりすんなよ」
「は?なんだよそれ」
「あと、金イクラの数見ないで倒すの優先したり、干潮に気付かずに居座ったり……」
ゲームで得たサーモンランのノウハウやあるあるを浮かれたユウキは無意識に話した。その結果船内の空気が変わったことも気づかずに、高い空の太陽を眺めながら。
ふと船内に目を戻した時に木彫りの熊の彫刻が目に入ってユウキはさらに口走る。
「そういや、このクマサンは喋ったりしねえんだな」
これは独り言のようにぼそっと言った言葉だった。その時、さっきまで喋っていなかった声が鋭く船内に響く。
「貴様……何者じゃ……」
向かいに座っていた老人タコがさっきまでとは形相を変えていた。戦々恐々とした驚きの顔だった。皺だらけの顔がより皺だらけになっている。
「どこでそんなことを……それに知っていても滅多なことを口にするんじゃないぞ……あの事件を一体どこまで……」
「え。あれ……何か変なこと言いました……」
助けを求めてカジキを見るとカジキもよく分からないという顔をしていた。ユウキと老人タコの顔を順番に見ている。
「名は何という?」
「……ユウキです」
「ワシはニシキじゃ。してユウキ……なぜその若さでそれを知っている。どこまで知っている?」
「いや俺全然知らないです。何と勘違いしてるか分かりませんが勘違いですよ。俺ここに来るの今日初めてですし。適当なこと言ってただけです」
手を顔の前で振りながら全力で否定する。ただ事ではない雰囲気が怖くて、自分はただの初心者ですと。
「本当かカジキ」
「それは本当ですよ。こいつは今日初めて」
「そうか……思い出したくもない……あの時はワシら全員騙されてたんじゃ……何も知らずに楽しんで金イクラを集めてたんじゃ……」
ユウキは何も知らないことにしてその場を乗り切ることにした。
この世界のサーモンランが自分の知っている世界のサーモンランよりも先のものなら色々とその間にあったのかもしれない。クマサンも胡散臭い感じだったし。そういう闇の部分には触れないことに決めていた……。
「よーしみんな準備できてるかー。今日も出航するぞー」
その時場違いな明るい声が船内にやってきた。隅っこのボロ船に乗ってきたということはこの制服姿のタコガールがもう1人の船員なのだろう。
場の空気を変えてくれて助かったと思ったのも束の間、そのタコガールは運転席に直行して猛スピードで船を発進させたのだった。
「よっしゃエンジン全開!」