ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
丁度円形くらいの丸くて大きな島。特に何もなくて土地があるだけの島だった。バトルで弾を避けるのに使える構造物は多少ある……流木や漂流物らしい家電製品なんかが。
ユウキの目の前には大きめの冷蔵庫があった。手に持つスプラシューターから3発ほど弾を飛ばせば、そこにもちゃんとインクが張り付いた。支給されたオレンジ色のインクは張り付いて、下に流れていく……。
そんなボスステージのような島で行われるのはシャケの大群とのバトル。時間いっぱい終わることのないエンドレスバトルだ。それがこの世界のサーモンラン。金イクラのつまったケースが中央に置かれるのを合図に始まった。
雑兵のシャケ達は勢いよく島に上陸してきた。カタパッドは敵に狙いを定めて、タワーも遠い敵の方を向く。
防衛するイカ達も足場をさっと塗ると、それぞれ戦闘に入った。
地中を進むモグラの影、ゆっくりと前進する大型のバクダン。それぞれに決まった倒し方があるオオモノシャケ達との戦いはガチマッチでも要求される技術が必要だ。
ユウキにとって自らの腕でボムを狙ったところへ正確に投げることや、高いところにピタリとエイムを合わせるのはまだまだ練習が必要なことだった。
1匹……また1匹と……倒し方を確認しながらシャケを倒していく。本場のサーモンラン開始後すぐにこのバイトはやはり自分の為になると確信できた……。
しかし、数が多すぎるっ――。
「うぇっ!ひっ!ちょっと待った!」
ユウキは別のシャケを相手している間に横から飛んできた大きなボムを頭を抱えながら飛び避けた。しかし、その先ではオオモノシャケではないけどでかいシャケのドスコイが体格に合ったフライパンを振り上げて待ち構えていた。
「待ったじゃねよ!チキン野郎!」
「痛ってえ」
避けきれずドスコイのフライパンでしばかれる。見た目よりは痛くない筆系の武器で殴られたような衝撃をもらったユウキは後方に飛ばされて地面に背を付いた。
その状態で見上げた空では、コウモリが放ったであろう緑色の雨雲が空を覆っていて、さらにその中を自分めがけてマルチミサイルが飛んできていた。
冗談じゃないぞ……こんなの1人で捌ききれるわけない。想像していたのよりも何倍も……危険度MAXどころの騒ぎじゃねえ。
囲まれたシャケ達の隙間を抜けて、かろうじて逃げ出したユウキは心の中でネガティブな言葉を並べた。
サーモンラン開始と共にユウキの想像を超える数でシャケ達は襲って来た。本当に冗談みたいな数で。ゆっくりとバトルに入ったユウキはすぐに追い込まれて囲まれた。
「俺らとバトルできる奴が増えたのかと思って出てきてみればとんだ腰抜けじゃねえか。シャケ舐めてんじゃねえぞ。サーモンランは遊びじゃねえからな」
昔ゲーム内でバイトとか面白おかしく騒いでいたものを楽しもうという思いが心の底にあった。わずか数パーセント。けれど、たったそれだけでも生半可な気持ちじゃ通用しないようだった。このことも始まってすぐにユウキは確信することになった。
「おい。大丈夫か。カバーするぜ」
中央の金イクラまで追い込まれかけたユウキをカジキがカバーに入った。そして、マッチョになった爺さんタコのニシキからもカバーのインクが正面のシャケに発射される。
ユウキは開始後すぐに追い込まれていたのに2人が守っているエリアには雨すら降っていなかった。
これが今の自分の実力。バトル内の立ち回りを除いて、自分の純粋な対面力……ゲームでいうキャラコンの部分の強者との差。
「サンキュー。大丈夫……」
ユウキは体に付いた緑インクを投げ捨てるように振り払うと、雑念を0にした。インクを払った手でそのまま自分の頬をはたいて。
2人からのカバーのおかげでユウキが守るエリアもフラットな状態になった。ここからはもう油断はしない……したくない。
求めるのは逆の立場。味方を助けて勝利に導けるようになりたい。そのほうがバトルは楽しいから。
目的を明確に持て――研ぎ澄ませ――。自分に言い聞かせた。
走り出してからは一心不乱に没頭した。
考えていては処理が追い付かないシャケを倒しては、また倒して、さらに倒す。瞬間的なエイムも必要だし、無駄な弾も撃ってはいけない。
一瞬だけマルチミサイルやボムから避ける動き、細かい足の運び方。サイドステップ、バックステップ。
できなければデスするだけだから無理やり体を動かすしかなかった。そうしながら、近くで戦うカジキとニシキからも動きを吸収した。一朝一夕で身につくことではないけど、開けたこの地形で直接2人の動きを目にしていると学べることは多かった。
こう動けば弾を避けられるのかとか、スムーズに攻撃に移れるのかとか。特にニシキからは。この際何者なのかとか濃いキャラなことは忘れて動きを真似させてもらった。
身につくまで何度も。親切なことに腐るほど相手がいるから。息をつく暇もないほど現れる。
ユウキは何度も浮き輪になってしまった。インクを受けて、躓き、転び、ひっくり返った。けれど何度も立ち上がった。
苦しい……けれど、負けてたまるか。サーモンランを楽しむのだって諦めていない。楽しんでちゃ勝てないと分かったけれど、それなら楽しめるレベルまで成長してやる。その先のバトルでも負けて楽しめないことが無いようにする為に。そんな気持ちだった。
その内に完璧と思える動きを体現できた場面があった。自分でも自分の動きに驚いて、まるで自分の体じゃないんじゃないかと思えるほどの動き。極限状態での限界を超えた動き。
それが起こった後には一瞬この世界に転生する前に、ゲーム内で無意識に無双した場面が思い出された……。
どれくらい時間が経っただろうか。そうして体を動かし続けたユウキの周りは最終的にユウキだけが立っていた。他の2人よりも緑に塗られた部分は多いけれど、ちゃんと自分のエリアを守り通すことはできた。
「終わり―――!」
バトル終了の時のようなホイッスルがコダマの元から放たれて終了は告げられた。そんな簡単な感じでこのバトルが終わるのかと思ったが、シャケ達は素直に帰っていった。
そして、ユウキはその場でインク溜まりに倒れ込んだ。息がこれでもかというほど切れている。こんなのいつ振りかと思う。
「やるじゃねか。また相手してくれよ」
シャケ達は最後にそんな言葉を言ってくれた。浮き輪になった姿で。
シャケ達もデスすると、浮き輪になった。浮き輪になって海に帰っていってまた復活する。
なかなかしまらない感じだけど浮き輪たちが「じゃあな」と言いながら海に帰っていってユウキ初日のサーモンランはお開きになった。
「どうよ。けっこういい練習になるだろ」
倒れて呼吸を整えるユウキを枕にしてカジキも寝転んだ。
「ああ。何回も浮き輪になった俺にボム投げてくれてありがとな……はあ、はあ……マジできつかった」
「でも、なんとかなったろ」
「まあ一応最後のほうはどうにか……」
「じゃあ次はもっときついコースだな。危険度がさらに倍になる。バトルで強くなる為のとっておきの特訓があるんだ」
ユウキは驚いて飛び上がる元気もなくてそのまま枕になった。
「…………まじ?」
そう小さく言うので精一杯だった。
・後書き
誤字報告機能という素晴らしい機能に今さら気づいて、今さら修正させて頂きました。
誤字教えてくださった方ありがとうございます。ほんと素晴らしい機能と素晴らしい読者ですね。気付いた時感動しました。はい。