ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
朝ご飯をご馳走になったユウキは少ししたら洗面台の前に立って歯磨きをしていた。ぼーっとした頭とぼーっとした顔で尖った歯を入念に磨く。歯ブラシも歯磨き粉も人間だった頃と同じようなものでミントの味が鼻に通る。
鏡に映った自分の顔は何度見てもイカボーイ、つねっても叩いても夢が覚めて現実に戻ることはない。完全にこの世界に転生してしまっていて姿が変わっている。
スプラトゥーン2のデフォルトと同じ髪型の頭をポンポンと叩いてから、歯磨きを終えたユウキはリビングに戻った。
「あ、俺がやるよ」
「いいよ。座ってて」
アユ子が流しの前に立って朝食で出た洗い物を片付けようとしていたので、ユウキは代わってスポンジを取った。アユ子には遠慮されたが居候の身で家事を手伝わないほうが居心地が悪い。
「あ、そういえば昨日なんか思い出した?」
「……それが、何も思い出せなかったよ」
「そっか。まあその内思い出せるよ!私、昨日はバトルに夢中で聞くの忘れてたよ」
初めて本場のナワバリバトルを体験した昨日、ユウキは怪我をして1戦しかしなかったがアユ子はその後も5戦ほどナワバリに臨んでいた。その間、ユウキは準備室のモニターで観戦していたが見ているだけで胸が躍った。
――朝食の後片付けを終えると、ジュースとお菓子をアユ子の部屋へ運び込み机に綺麗に配置する。この家に住む子供のミミちゃんギギ君も騒ぎながら席につくと始まるのは授業。アユ子が先生になり教えるのはこの世界のガチマッチについてのお話。
「えー皆さん準備はよろしいでしょうか?」
「はーい」
「声が小さい!」
「はーい!」
どこかから引っ張り出してきたホワイトボードの前でノリノリのアユ子と年相応に元気なミミちゃんギギ君。ノリについていけてないのはユウキだけだった。
「私が本日説明するのはガチマッチ。バトルのプロプレイヤーになるにはどうすればいいかという話だよ――です」
「わーい」
「まず、ガチマッチとは言葉通りガチな戦い。イカした奴らが集まるエクストリームバトルの事です。その勝敗にこだわる厳しい戦いでは試合後に勝敗や貢献度によってウデマエと呼ばれる個人の強さを表すランクが変動していきます――」
思いの外、上手に説明するアユ子は手に持っている本をじっと見て音読していた。雰囲気を出すためにかけていたであろう眼鏡はもう頭にのせてしまっている。
「ランクはしたから、C、B、A、S、S+、Xとあって最高位のウデマエXにはそりゃ強いプレイヤー達がいるわけです。そして、ガチマッチでいくつも厳しい戦いを勝ち抜けばプロプレイヤーになることができます」
「わーいプロー!」
「そう、プロ。すべてのイカやタコ達が憧れているであろうバトルのプロ。基本的にプロと呼ばれ企業のスポンサーがついてテレビに試合が映るのはウデマエがS+以上のプレイヤー。AとSのプレイヤーも試合をすることでお金がもらえますが量は少なくて、B以下には報酬はありません」
「タダ働きだ!」
声を合わせて言うミミちゃんとギギ君。どちらも短髪でキュートに小さい頭を揺らしながら話を聞いている。丸くて大きな目はお姉ちゃんを見て輝いていた。
「昨日、一緒にプロにならないか誘われたユウキ君ですが、具体的にどうすればプロになれるかを説明すると――まずは、勝つこと。勝って最低でもAランクまでウデマエを上げます。そこでの戦いで活躍することで各プロチームを運営する企業のスカウトマン達の目に止まり、年に1回の選手指名市場、通称“セリ”で指名を受けることができる」
セリ――プロ野球のドラフト会議みたいなものだろうか。自分が知っているガチマッチと同じ部分もあるがさすがにゲームとは少し違っている。
「ちなみに私もウデマエAのプロを目指すプレイヤー。何か分からないことがあればどんと私を頼りなさい」
「お姉ちゃんすごい!」
本を読み終えたアユ子は本をベッドに投げ捨てると、腰に手を当て胸を張る。ウデマエAのプレイヤーと知り合いだったアユ子もA帯のプレイヤーだった。昨日のナワバリでもA帯を相手にデスよりもキルが多かったアユ子の実力は本物だ。
ユウキはそれを昨日帰りの電車の中で聞いていて、話によるとA帯に上がって1年らしい。
「いずれはS――そして、プロにもなるんだから」