ウデマエXの俺はスプラの世界に転生してもウデマエXを目指す 作:木岡(もくおか)
「絶対!絶対!プロになるんだからー!」
「頑張ってお姉ちゃん!」
「うん。今日も後で練習手伝ってねミミ、ギギ」
2人の子供の頭を撫でるアユ子。実力もA帯だがバトルに対するモチベーションや愛もたくさんあるイカだ。どちらかと言えば大人しい子が付けていそうな落ち着いた紺色のリボンをいつも頭に乗せているが、性格はとても明るい。
この子が突然この世界にやってきた自分を家に迎えてくれていることで自分は救われている。
「ユウキ君も練習するよね?」
「ああ、うん。一緒に練習していいかな?」
「もちろん!」
ユウキはその後、アユ子の部屋にあったガチマッチについての本やバトルで使える武器のカタログなどを読んだ。その間隣ではアユ子がミミちゃんギギ君に絵本を朗読してあげていて、内容が気になったユウキはイカ世界の絵本や小説もさらっと目を通したりした。
どれも別段驚くという物ではなかったが、表紙に写っているのが人間ではなくイカやタコというだけでワクワクする。この世界に来てから触れるもの見るものすべてがスプラ大好き人間の心を湧かせた。
――うわあ。やっぱ本物のスシコラはすげえなあ。
午後になると、約束通り試し撃ち場へ。アユ子家一家全員で向かった。家の横にある家と変わらない大きさの建物の中でユウキはまた持つことができた本物のスシコラのボディを持ち上げ、目で舐め回す。
天井の照明を反射するスシコラは少し塗装が剥げている部分がある使い込まれた物だがユウキの目には十分に眩しい。試し撃ち場内にある武器倉庫には他にもゲーム内にあった武器がたくさん並べて置いてある。コラボやカスタムといった亜種まで全てとはいかないが、わかばシューターみたいな可愛い武器からダイナモやリッターといった厳つい武器まで一通り揃っていた。
「じゃあ、ユウキ君から撃っていいよ」
「いや、俺は後でいいよ」
「見てるのも楽しいし、教えるのも勉強になるから」
全ての武器を片っ端から触ってみたいという気持ちもあるが、まずはスシコラを手に慣れさせたい。ユウキはいくつか配置されているイカの形をした的を一つずつ確かめるように壊していく。
「イカ状態になる時はね。うーん何て言ったらいいかなー?息を止めて、こうぐっと手足を吸い込むというか」
インク回復の為のイカ状態変身に苦戦していていると、アユ子に言われる。
スプラトゥーンで撃ち合いに勝つために重要な要素、エイムは手でそのまま感覚を掴める分、経験が浅くてもある程度狙ったところに弾は飛ばせるし調整もしやすい。けれど、イカになってインクを泳ぐという行為はまだまだ練習が必要だった。
なってしまえば真っ直ぐ泳ぐ分にはスピードが出せるのだが、どうも変身するときはゾワゾワするし小回りが利かない。
「こうだよ!」
ミミちゃんギギ君でもゲームでは煽りイカと呼ばれる行為のようにビチビチとイカとヒトの姿を切り替えられている。インクリングにとっては幼子でもできる当たり前のことのようだが……。
「私もこれを教えたことはないからなー。コツとかよく分かんないや。でも、すぐ感覚を思い出せるはずだよ。イカになるなんて記憶を失う前も絶対何度もやってたんだから」
なかなかスムーズにできるようにならないユウキがついにはスシコラを置いた頃にアユ子は色んな武器で試し撃ちを始めた。バケツを主に使っているようだが、練習では色んな武器を使っている。
「ユウキ兄ちゃん!こうだよ!」
子どもたちに教えられながらいくらか時間が経過すると疲れたユウキは休憩することにした。壁にもたれて座り、アユ子の練習の様子を見る。
「ミミ!ギギ!もっと的追加してくれる?」
「はーい!」
汗をかきながら練習を続けるアユ子は、教えるのにも飽きてきた子供たちに手伝ってもらい、さらに熱量をあげていた。力いっぱいバケツを振り回したり、真剣な顔で狙いを定めて鋭く的を壊していくその動きをユウキは夕日でも見るようにぼーっと眺める。
「絶対――プロに――なるんだからっ」
プロか……俺はこの先どう生きていこうか……。
漠然とした不安があった。初のナワバリバトルの後、プロにならないか誘われて――そのイカと組むのはとりあえず断ったが――流れのまま自分もプロを目指すような感じになっている――本当にそれでいいのだろうか。
この世界に転生してしまったことは楽しいし、落ち込んだり苦しんだりなんてしてない。むしろ感謝しているくらいだった。けど、自分はもともとこの世界の人間ではないしアユ子一家の優しい人たちにとって自分の存在は迷惑なんではないのだろうか。楽しんでばかりではダメだ。ちゃんと元の世界に帰る方法を探すべきではないのだろうか。そんなことを考えてしまう。
元の世界に帰るといっても、神様にお願いしたわけでもなくゲームをしてたら突然だったのでなんの手がかりもなく探しようがない。練習してもプロになれなければタダ飯食いなので迷惑――と、それぞれ答えは出ているのだが。
「調子はどうだね?」
いつの間にか隣にいて話しかけてきたのは、立派な白髭が目立つコイ吉お爺さん。
「はい。えっと――まあまあです」
「そうかい。お茶を入れたんじゃ。休憩中なら一緒に饅頭でも食わんか」
にっこりと笑って誘ってくれたコイ吉お爺さんについて行くと、家の縁側に饅頭とお茶が用意されていた。そこにはナマ子お婆さんも座っている。
「ほら、遠慮せず食べなさい」
「いただきます」
お爺さんとお婆さんに挟まれて座ると、なんだか時間の流れがゆっくりになった気がした。饅頭を食べてお茶を飲みほっと一息つく。
「凄腕なんだってなあ。アユ子が昨日嬉しそうに話しょったよ」
「いえ、そんな。大したことないです」
「……ユウキ君。君は本当に記憶喪失かね?」
饅頭を1つ食べ終わった頃にコイ吉お爺さんはおもむろに語り出した。核心をつくような話だったがその口調は優しくて……。
「いや、ええんじゃ。言いたくないことは言わんでもええ。悪い子じゃないことは分かる。家に住むのも大歓迎じゃ。賑やかになってええ」
どう答えるか迷ったがコイ吉お爺さんは答えを求めず続けた。
「その代わり、1つ頼みを聞いてほしい。アユ子の事じゃが……最近あの子は頑張りすぎじゃ。何で頑張るか聞いとるか?」
「……いえ」
「――あの子の両親がの、10年前に死んでしまったんじゃ。交通事故で、幼いアユ子ともっと幼い弟と妹を残し。両親ともにプロプレイヤーじゃった」
アユ子の父と母を見たことが無かったがそういう理由があったなんて……。ユウキは握りしめていた拳をより強く握りしめた。
「それでのう、うちの隣に大きな道場があるじゃろう?」
「はい」
「あそこも家の物で、現役を引退した後にアユ子の両親が師範を務めとったバトルの道場なんじゃ。ゆくゆくは大きくなって自分が継ぐんだって子供のアユ子がよく言よった。でも、アユ子が大きくなる前に……。アユ子がいつも頭にリボンを付けとるじゃろ?あれは両親の形見なんじゃ。アユ子が初めて子供ナワバリバトルで勝った日に母から譲り受けた紺色のリボン」
「……あの子の宝物よね。両親との約束のリボン」
ナマ子お婆さんも付け足してユウキに教えてくれた。暗くなる話の雰囲気を変えようと明るい口調だった。
「あの子はあのリボンに誓ってるんじゃ。自分がプロになってもう一度道場を開くと。でも、それがプレッシャーになって焦っとる。人には見せないけどのう、まだ若いのに。悪い傾向じゃ。Aでも立派なのに、早い子なら3ヶ月でSになる私はもう1年言うて」
そこまで言うと太陽を見ながら話していたコイ吉お爺さんはユウキを真っ直ぐ見た。
「だから、頼む。年の近い君にアユ子を支えてやってほしい。詳しい経緯は知らんがアユ子が苦しい時期に出会い、一緒に住むことになったのはきっと何かの運命。神様の巡り合わせで決まっていたことだとワシは思うんじゃ。君もプロを目指すなんてとても良いことじゃと思う。アユ子は同じ志を持つ者と一緒に住めるんじゃ。その中で、アユ子に助けが必要な時は君が隣で助けてあげてほしい」
それがユウキの目指す理由になった――。