エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。 作:サボテニウム
第1話
エロゲを嗜む者の中で『
荒廃した世界観と救いのない展開、そして魅力的なキャラクターたちによって構成されるこの物語は、発売当初から2035年エロゲー売上ランキングの首位を記録し、なんと一年後の2036年に売上10万部を突破。エロゲとしては類を見ないほどの快進撃を見せた同作品は、ソシャゲ展開や地上波でのアニメ化など一世を風靡したのだった。
かくいうオレも、大学生のときに初めてやったエロゲーが本作品だったので、発売から5年たった今でも週一でプレイするくらい熱中していた。
大げさかもしれないが、それくらい面白かったのだ。この作品は。
物語のあらすじはこうだ。
『2050年、第三次吸血鬼大戦に敗北した人類は生存圏の大半を失い、いくつかの主要都市を除いて吸血鬼たちに国土の大半を支配されていた。残された人類は、不死身とされる吸血鬼が唯一苦手としている銀で「聖域」をつくり、聖域内の「特区」にて吸血鬼から身を守りながら密かに暮らしていた。その5年後、2055年にて日本の数少ない特区の一つである「ヨコハマエリア」が、ある一匹の吸血鬼によって壊滅させられる。そして、多くの人々は殺されるか「トウキョウエリア」への避難を余儀なくされることとなる。主人公の
といった感じの、まあ、ありていに言えばよくあるダークファンタジーなのだが、シナリオライターの腕がいいせいか、これまたすごく面白い。
たとえば、主人公の阿鬼斗には結婚を誓い合った仲の幼馴染──リーシャという少女がいるのだが、実はこのリーシャがヨコハマエリアを壊滅させ、阿鬼斗の両親たちを虐殺した吸血鬼──
『──なーぁんだ。アギト、気づいてたんだ』
『信じたくは……なかったよ』
『それで、どうする? 殺しちゃう? たった一人の家族の──この私を? あはは、そしたらアギト、今度こそほんとに一人ぼっちになっちゃうねー♡』
『っ……!』
(
そして、本作の最終章にて阿鬼斗はその事実を知ることになり、憎き親の仇が最愛の幼馴染だと知った彼の行動はいかに──といった感じで物語は幕を閉じる。これがもうプレイヤーにとっては大興奮の展開で、エロゲにも関わらず本作はネット上で考察スレが立ちまくり、発売から1年間は半ばお祭り状態だったのだ。
そして今春。
そのエロゲーの続編が出ることを知ってオレは歓喜に震えた。
(またあの大作をプレイできる‼ しかも‼ 続編を‼)
社会人になってから数年、就職したブラック企業による酷使に耐え続けながらも、この作品の結末を知るまでは死ねないと思っていたオレにとってはまさに天恵。神からの施しであった。
ビジュアル面では一番かわいいと思っていたメインヒロインのリーシャが、まさかのラスボスだったという展開には驚いたが、きっと続編にて彼女も自らの行為の報いを受けるのだろう。発売前にすでに公開されている前情報にて、彼女が惨殺されるルートのCGも出回っていたので、まあ死亡フラグは確定だろうな。推しだっただけに少し悲しいが……まあ、やらかしたことがやらかしたことなだけに、一切の同情の余地などないのだが。
ともかく。
そんなこんなで、オレはこのエロゲーの発売を誰よりも楽しみにしていたのだ。
そして、誰よりも楽しみにしていたからこそ、誰よりも楽しむ権利がある‼
そう思っていた。
──オレがトラックに轢かれ、事故死するまでは。
「く……そっ……こんなことって……あるのかよ……」
けたたましく鳴り響くサイレンの音。
薄れゆく意識の中で思い出すのは、家族や同僚のことなどではなく、よりにもよってこのエロゲーのこと。一週間後に発売されるはずだった『
(あぁ……最悪だ……)
あと七日早く同作が発売されていれば、死ぬ前にプレイできたのに。
そんな後悔だけが、頭の中をよぎる。
「大丈夫ですか! いま救急車が来ますからね‼ しっかりと意識を──」
横断歩道の上、通行人に必死の救助を受けながら、オレの意識は途絶えた
はずだった────。
◇ ◇ ◇
オレが再び目を覚ますとそこには、
「いやだぁぁああああああああああ‼ やめてくれえええええええええええ‼」
(……は?)
逃げ惑う大衆。泣き叫ぶ少年。燃え盛る業火。
そして──あれは──。
「吸血……鬼?」
口元を血に濡らしながら人々を襲う化け物の姿。人々は無数の怪物に心臓を後ろから貫かれ、体内をかき回され、ムシャムシャとグロテスクな音を立てながら捕食される。
……オレは、この光景を見たことがある。
「
しかも序盤も序盤。
まさに『プロローグ:地獄』のあたりだ。
そう気づいて辺りを見回すと、ここがまさに横浜の市街地であることを瞬時に理解できた。そして、数メートル先には、泣き叫びながら大人の男に抱えられるまま遠くへ逃げていく少年の姿が。
……彼の顔には見覚えがあった。
この物語の主人公そのひとである。
本編よりだいぶ幼いが、面影からはっきりとわかってしまった。
「ははっ……いや、まさかな」
自嘲気味に笑うと、遠ざかる阿鬼斗少年からオレは目をそらした。
きっと夢の中とはいえ可哀想で見てられん。
(というかこの状況はなんだ?)
オレは死の間際の白昼夢でも見てる……ってことだよな?
だとしたら神様よ。もっとシーン選んでくれよ。
どうしてこういう地獄みたいな、……いや、地獄そのもののシーンをチョイスするんだよ。
鬱ゲーや討つゲーとかネタにされてるこの作品でも、もっとまともなシーンあっただろ。
……あったよね? たぶん。
あまりにグロシーンが多すぎて……自信なくなってきたけど。
(いや、そんなことよりも)
これほんとに白昼夢か?
炎の熱さとか、バリバリ感じるんですが気のせいですかね?
ほっぺたを抓ると痛みも感じるし、どう見ても夢なんかじゃない。
「だとすると……」
これは今流行りの異世界転生ってやつか?
俄かには信じがたいが、夢というよりもそっちのほうがしっくりくる。
なんせ感覚だってちゃんとあるし。
この噎せ返るような死体の焦げた臭いは、夢なんかじゃ表現できないだろ。くんくん。
…………。
「げほっゲホッ!」
てか冷静に嗅いでみたらマジでくせえ!
こんなの嗅いだ日には当分焼肉なんか行けねえぞ!
死体の焦げる臭いってこんなひどいのかよ。
「ベルゼブブ様。エリア内の
オレが周囲の悪臭と一人で悪戦苦闘していると、2mは優に超えるであろう屈強な大男が、背後から声をかけてくる。慌てて振り返ると、顔が黒山羊にも関わらず二足歩行の毛むくじゃらな筋肉だるまという、どう見ても人間の形相じゃなかったので、一発で彼が吸血鬼とわかった。
(なんだこいつ……顔こわっ)
などと思ったが、いや待て。
そんなことより、いまこいつ、オレをベルゼブブと呼んだか……?
「あの、ベルゼブブってオレのこと?」
「いかにも。当代の第六真祖の貴方様のほかに、いったい誰がございましょう」
「えぇ……」
恐る恐る……足元で破裂した水道管からできた水だまりを見て、今さらながら自分の姿を確認する。すると、やはり嫌な予感というものは的中するもので……。
「リーシャじゃねえか……」
自分が『
……もっとも、普段の人間のほうの姿ではなく吸血鬼バージョンの姿であったが、エロゲ本編にてその立ち絵を見たことのあるオレの目を誤魔化せるはずもない。
紛うことなきリーシャそのものである。
(いや、まてまて。そうだとすると非常にまずいのでは?)
冷静に考えよう。
さっき逃げてったのが主人公くんだとして。
オレはすでに彼の故郷を焼却しちゃったわけで……。
これ、原作通りにいけば、間違いなく将来的に報復されるパターンだよな?
主人公が第四真祖の『憤怒の力』を継承した後でさ。
「おいおい…………まじか」
悲報。
転生したらすでに死亡フラグがたっていた件。