エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。 作:サボテニウム
夜の10時過ぎ。
アギトとカイ、そして
この日のオレは、夕食を食べてアギトと二人でいつもの勉強会をしていたのだが。
「お前さ、いっつも夜遅くまでなにしてるわけ?」
燭台の明かりを消さずに、カイがオレたちの横の布団で、ずっと何かをしていたので、思わず気になったアギトがそう声を声をかけたのだった。
しかし、当のカイはというと
「別に。キミには関係ないことだけど」
そう言って、アギトの言葉をばっさりと切り捨てる。
「ちっ!」
これにはさすがのアギトはむかついたのか大きく舌打ちをした。
……が、
「あっそ、……相変わらずむかつく野郎だな」
カイとのつまらない口論で貴重な勉強時間を無駄にしたくないと思ったのだろう。
それ以上はツッコまず自分の勉強に再度集中した。
「リーシャここ、どうやって解くんだ?」
(…………)
「リーシャ? 聞いてる?」
「あっ、ああうん。ごめんごめん聞いてる聞いてる。ここの計算はね──」
──アギトに割り算の計算を教えながら少しだけ考えてしまう。
カイのことだ。
この前、カイが何かを書いている姿を目にしたオレは、うっすらとだが、夜遅くまであいつが毎晩なにをやっているか知っていた。最初は勉強でもしてるのかと思ったが、どうやら違うようで、実はカイはパリに援軍に向かったであろう父親に毎晩手紙を書いているようなのだ。
……それを知ってオレは少しだけ悲しくなった。
元の世界であれば日数はかかるだろうが、国際郵便を使えば東京からパリに手紙を出すことも容易だろう。だが、この世界は全くの別。世界の7割が吸血鬼に支配されていることを考えても……どれだけカイが手紙を書いたところで、その手紙が彼の父親のもとに届くことはまずありえない。
シスタークロエもそれがわかっていたから、毎日カイから手紙を手渡されるたびに、少しだけ憐れむような表情を見せたのかもしれない。届けられるはずのない手紙を毎回渡されるシスタークロエの心境は察して余りある。さぞやつらかったに違いない。それでもカイの気持ちを否定せず、毎日手紙を受け取ってくれたのは、彼女の優しさゆえか。
もっとも、カイの父親ももともと生きて戻れないとわかっていたため、同じ十三戦鬼の仲間であるシスタークロエが院長を務めるこのセントテレジア孤児院にカイを預けたんだろうがな。シスタークロエの実力を考えたら、ここなら確かにこのトウキョウエリアでは一番安全と言える。
……とまあ、こんな話をすると、どうしてそんな地獄への片道切符のような戦場に、十三戦鬼のカイの父親が乗り込んだのか不思議に思う人もいるかもしれないな。
だが、この選択にはちゃんとした理由がある。
部屋の隅に貼られた世界地図をふと見上げる。
上の地図でいうと、
赤色の所が第一真祖ベリアルの率いる「明けの明星」
水色の所が第二真祖アスタロスの率いる「ユダ」
緑色の所が第三真祖アスモデウスの率いる「ワラキア公国」
桃色の所が第四真祖アラストルの率いる「神聖守護領域アルカディア」
黄色の所が第五真祖モロクの率いる「黄昏の断片」
青色の所が第六真祖ベルゼブブの率いる「第三帝国ゲルマニア」
橙色の所が第七真祖マモンの率いる「獣王領界スタンピード」
そして、まだ色のついていないところが人類側が奮闘している領域なのだが、フランスのパリが落ちるとスペインやポルトガル、そしてモロッコ北部は目と鼻の先。ここまで侵攻されてしまうと、ジブラルタル海峡が吸血鬼の手に落ちてしまうため、地中海と大西洋を経て、日本を含めた東アジアへ進出するのが容易になってしまう。だからトウキョウの討魔師協会も、貴重な戦力の一角である十三戦鬼までもを捨て石として派遣せざるを得なかったのである。
討魔師協会の苦渋の決断にもそれなりのわけがあるというわけだ。
とはいえ、そんな事情を8歳のカイにくみ取れというのは酷なもの。
ここはなにも言わず、彼の動向を見守るのが正しい大人としての対応といえよう。
(……というか)
部屋の地図を見て思ったのだが、
ベリアルと戦争になったら一瞬で潰される気しかせんぞ、これは。
土下座外交すれば許してくれるかな……。
ま、そのまえにオレは、本来ならアギトにも謝らなきゃいけないんですけどね。
「おお! リーシャの教え方はほんとわかりやすいな。マジで助かるぜ」
本人はこう言ってるわけだし、まあよしとしよう。