エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。   作:サボテニウム

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第11話

 

 

 

 

 深夜0時過ぎ。

 アギトやカイが寝静まったのを見計らって。

 オレは一人でセントテレジア孤児院をこっそりと抜け出すべく部屋をあとにした。

 

 このセントテレジア孤児院は、あのシスタークロエがつくったということもあって、周囲は要塞のように魔力で結界の張られた強固な塀で囲まれる形のつくりになっていた。万が一にでも孤児たちが吸血鬼に襲われたりしないようにとの、彼女なりの配慮なのだろう。そんな孤児院の中で夜にこっそりと抜け出すのは至難の業である。だからオレは、こんなことをするのは気が引けながらも、孤児院内にある墓地の一つにある細工をしていた。

 

「えっと13番目の墓は確かこの辺に……お、あったあった」

 

 墓地に入って13番目に位置する巨大な墓石。

 

 これをずらすと、孤児院の外に繋がる小さな穴の抜け道を作っておいたのだ。

 

 墓石を少しずらし、穴の中へと入る。

 

 そして、穴の中から再び墓石を持ち上げて穴を隠す。

 

 およそ人間離れした怪力を持つ吸血鬼にしかできない芸当だった。

 

 穴の中を匍匐前進で進むこと5分弱。

 

 孤児院の北側に位置する、茂みの中へと到着する。

 

 茂みの中にある穴から身を抜け出すと、パンパンと衣服に着いた土を払って、目的地へと行く準備を始める。今日はとある廃ショッピングモールで、このトウキョウエリアに住む野良吸血鬼たち(つまりどこの真祖の眷属にも属していない吸血鬼たち)の集会があるそうだ。その集会にオレも混ぜてもらおうと考えてこうして孤児院を抜け出したのである。

 

(……もちろん第6真祖だということは明かすつもりはないけどね)

 

 真祖だと明かすと面倒ごとになりそうなので、一般の吸血鬼としての参加である。

 

 ガキンチョ吸血鬼だと舐められて門前払いは食らわないといいのだが……。

 

 まあ、追い出されたらそのときはそのときだ。

 

 オレは真祖の力を1割だけ解放し、時速130キロほどの駆け足で森を彷徨う。

 

 しばらくすると、舗装がボロボロになった道路や、道端に乗り捨てられて雨ざらしになったことで酷く錆びついたワゴン車などがちらほらと視界に映って来た。討魔師たちの治めるトウキョウエリアの治安維持は、ほぼ23区までが限界のようで、セントテレジア孤児院のある12区(前世で言うと世田谷区だ)を抜けてしばらくすると、ヒトの領域から、はぐれ吸血鬼たちの領域へと移り変わる。ぶっちゃけ治安がめちゃくちゃ悪くなるのだ。

 

 シスターたちはこの23区のすぐ隣の外界を禁止区域と呼んでるとかなんとか。

 

 文字通り一般人には立ち入り禁止の区域ということだろう。

 

 立ち止まって周囲を見渡すと空気が23区内とはまるで違うことが五感でわかる。

 視界には汚物や死体がそこいらに広がり、すえたアンモニア臭が鼻腔を満たす。

 

 いちおうここもトウキョウエリアなので、タマガワ沿いに万里の長城のごとく途方もなく東西に延びた結界は張られている。だから、ヨコハマエリアにいる第六真祖の吸血鬼たちは襲来してはこない(というかできない)。だが、もともと結界が張られる前からここにいた雑魚の野良吸血鬼たちがうじゃうじゃいるから無法地帯で、人間なんてめったにいない。その証拠として、道端にはちらほらと「人の一切の立ち入りを禁ずる 討魔師協会」の看板が立っている。まあ、野良吸血鬼たちにスプレーで落書きされてほとんど字は読めないのだが。

 

 ちなみにここは真祖の治める帝国内でもないので、法律なんてものは存在しない。殺人(というより殺鬼?)、強姦、強盗、なんでもありである。力こそすべての無法地帯と言えよう。

 

 気にくわないなら殺せ。

 

 腹が減ったなら奪え。

 

 女を抱きたいなら無理やり犯せ。

 

 そんなルールともいえないルールが、ここじゃ平気でまかり通ってる。

 

 だから、

 

「うひひっ、きれいなおべべ着たお嬢ちゃん。これからどこに行くのかな?」

 

 こういう力の差を弁えない吸血鬼たちも平気で湧いてくる。

 

「ここらへんで吸血鬼たちが大きな集会を開くって聞いたんだけど道に迷っちゃって。おじさん、どこでやるのか知らない?」

 

 オレがそう言うと目の前のおっさんは顔をしかめた。

 

「ああ……あのディアボロスとかいう自警団気取りの連中の開く胡散臭え集会のことかい?」

「うん。詳しくは知らないけど、たぶんそれ」

「けっ、こんな小せえ嬢ちゃんまであいつらに興味津々ってか」

 

 おっさんはぶつぶつとそう言うと「それよりも……」とこちらににじり寄る。

 

「おじさん、昨日からなーんにも食べてなくてねえ……。よかったらお嬢ちゃんの手足の一本や二本、おじさんに恵んじゃくれねえかな? 見た感じ同族みてえだが……お嬢ちゃんくれえのかわいこちゃんなら、おいら共食いも大歓迎でなあ」

「おじさん、やめといたほうがいいと思うよ」

「あ? なんでだい? お嬢ちゃ──」

 

「──こうなるから」

 

 バチン、

 

 とオレの指先に一瞬だけ紫色の稲妻が光る。

 それと同時に、酷く大きな炸裂音を響かせながら、目の前のおっちゃんの頭が吹き飛んだ。

 

「はぁ……」

 

(殺人……いや、殺吸血鬼に、なんの躊躇もなくなってきたな……)

 

 なんてことを考えながら小さくため息をついた。

 

 リーシャの身体に流れる真祖の血に馴染んできているのだろうか。

 こういうどうでもいいやつを殺すのにはもはやなんの感慨もわかなかった。

 

 まさしく感情は「無」である。

 

 ……といってもまあ、普段なら絡まれても少し脅すくらいで、ここまではしない。

 

 今回即座に殺したのは、この絡んできたおっちゃん吸血鬼の後ろに、手足をもがれて、およそ辱めの限りを尽くされたであろう吸血鬼母娘(おやこ)の亡骸が無残にも放置されていたからだ。ここでは弱いことそのものが罪なので、あの母娘で遊んだおっちゃん吸血鬼が悪いとは言えない。

 

 だが、見ていて気分のいいものではないのは確かだ。

 

 このオレ(リーシャ)の身体と同性ならばなおさら、な。

 

(……法のない世界にも道徳は必要、かもな)

 

 そんな柄にもないおセンチなことを考えながらオレは。

 

 ディアボロスとやらのいるであろう廃モールへと向かった。

 

 

 

 

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