エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。   作:サボテニウム

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第13話

 

 

 

 ロウカについていき廃モールの中を歩いて数分。

 

 カラースプレーで落書きされまくった休憩スペースにて。

 

 ガラの悪そうな吸血鬼たちが数名たむろしていた。

 

 その中でも特にガラの悪いチンピラみたいな容貌の吸血鬼が、なにやら仲間同士で言い争いのようなことをしていたが、オレたちの足音が聞こえたのか一斉にこちらを振り向いた。

 

「おいロウカ。てめぇ見張りしとけっつったろ。なに戻って来てんだよ」

「見学希望の子つれてきた。今日の集会に参加したいって」

「あのよー。俺たちゃガキのおままごとしてるんじゃねえんだぜ? 新入りつれてくるならせめてもう少しまともなやつをだなぁ……」

「たぶんこの子、私より強いよ。いや……もしかしたらナオトより強いかも」

「はぁ? こんなちっせえガキがかぁ?」

 

 そう言ってソファーによりかかるように腰を据えていた男の一人がむくりと立ち上がると、訝し気なものを見るような表情でオレの身体をてっぺんからつま先までじろりと凝視する。オールバックの金髪に黒のグラサンをかけた変な男の顔が至近距離からオレをまじまじと見てきたので、思わず手が出そうになるがグッと堪えた。

 

「お前、名前は?」

「……リーシャ。リーシャ=クーゲルシュタイン」

「見た感じ……このエリア出身じゃねえよな。どこから来た?」

「お父さんと一緒にゲルマニアから、大戦前に日本に越してきた。でも、お父さんが討魔師との戦いで怪我で動けなくなっちゃったから、かわりに私が来たの。……その、ディアボロスの仲間に入れてもらえないかと思って──」

 

 もちろん嘘だ。

 

 真祖の継承の儀は、真祖が自分の心臓を抉り出して握りつぶし、継承させたいやつに直接その血の一番濃い部分を飲ませることで行われる。だから、オレが現在の第六真祖である以上、リーシャの実の父であり、先代の第六真祖ことカイゼン・フォン・ゲルマニアは死亡していることになる。

 

 というか死んでなきゃおかしい。

 

 オレがあらかじめ用意していたリーシャの嘘の出自設定をぺらぺらと述べると、

 

「なんだてめぇ~裏切りの血かよ。どぉりでくっせえと思ったぜ~ドブくせぇ~」

 

 男たちは顔を見合せて突然ギャハギャハと大笑いした。

 

(あー……やっぱりな)

 

 この反応はある程度予想はしていたものなので、別に驚きはしない。

 

 ただ、自分(リーシャ)よりも圧倒的に弱い雑魚吸血鬼に舐められるのはいい気がしないな。うん。

 

(むかつくからここで全員処してしまおうかな)

 

 ……なんて考えていると、

 

 後ろのロウカがドスドスと大股で男に詰めよった。

 

「ナオト。ディアボロスのモットーは来るもの拒まず。助けを求めてくる吸血鬼には進んで手を差し伸べるのが父さんの意志のはずだよ。それに、いまはこの子もこのエリアにいるんだし、どこの生まれかなんて関係ないでしょ」

「大ありだバカ妹! おれぁなあ! 第一真祖だろうが第二真祖だろうが第三真祖だろうが構いやしねえけどな! 第六真祖の……──裏切りの血の連中だけはごめんだぜ! いま俺たちがこんな惨めな生活を送ってるのは誰のせいだと思ってやがんだ!」

「それは第六真祖のせいであってこの子には関係ない!」

「馬鹿が! 裏切りの血ってだけで同罪だ!」

 

 あわわ……。

 

 オレのせいでなんかすっごい険悪な雰囲気だ。

 

 群れのリーダーと思われるナオトと呼ばれた男がロウカと喧嘩している。

 

 喧嘩の理由は、おそらくオレが第六真祖の眷属出身だと思われているからだろう。

 

 ……まあ、だとすると庇ってくれるロウカには悪いがナオトが怒るのも無理はないと思う。

 

 というのも、この憤怒の吸血鬼(ヴァンパイアオブジアラストル)の世界において、第六真祖とその眷属たちは人類からも吸血鬼からももっとも忌み嫌われているからだ。

 

 その理由は、大戦期における先代の第六真祖カイゼン・フォン・ゲルマニアによる裏切り行為。

 

 話せば歴史の話になるのだが……──まあ、この際だから全部話そうか。

 

 西暦2050年に第三次吸血鬼大戦が終結して、七帝会談主席の座(=真祖の中で一番偉い地位)が現在のベリアルへと移譲される前は、主席の座は第四真祖アラストルのものだった。

 

 アラストルは人類との平和共存を目指す真祖で、七帝会談の主席の名のもとに、人類への一切の宣戦布告や殺害行為などを厳しく取り締まっていた。

 

 これが第三次吸血鬼大戦前の世界地図だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 桃色の領土がアラストルの率いる「神聖守護領域アルカディア」である。

 世界の3分の1を占める超大国だとわかるだろう。

 

 対する、このアラストルの築いた世界秩序に挑むのは挑戦者ベリアル。

 

 ベリアルは第五真祖モロクと第七真祖マモンと同盟を結び、2049年、人類並びに第四真祖アラストルに対して宣戦布告。他の真祖たちが静観を決める中で、アラストルの一番の盟友だった先代ベルゼブブのカイゼン・フォン・ゲルマニアはアラストルと人類に味方して参戦したため、当初はアラストル側の連戦連勝であった。

 

 そして、アラスカから出陣したアラストル&人類の連合軍は、コリマ川の戦い、ツングースカの戦い、イジェフスクの戦いで勝利をおさめ、第一真祖「明けの明星」の首都であるクレムリン(前世でのモスクワだ)を陥落させる寸前のところまできたのだが……大戦末期、盟友──カイゼンが突如として翻意を表明。そして、これまで第一、第五、第七真祖の兵は一兵たりとも通さなかったジブラルタル海峡を開港。第五真祖、第七真祖とともに、盟友アラストルの領地である「神聖守護領域アルカディア」その首都アルカディア(前世のワシントンdc)に一斉攻撃を始めたのだった。

 

 これにはクレムリンで「明けの明星」と交戦中のアラストルにもなすすべはなく、首都アルカディアの陥落を以て第三次吸血鬼大戦はベリアルの勝利で終わったという結末になったのだった。

 

 それで、あらたにできた世界秩序──すなわち現在の世界地図がこれ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 地図を見ればわかるが、終戦時に結ばれたアラスカ条約にて、アラストルは「神聖守護領域アルカディア」のほとんどの領地を放棄。そして、その領土の一部を戦勝国である第一、第五、第七、そして第六真祖へと割譲することが決められた。ここでカイゼンに首都アルカディアを含む東海岸全域の支配を許したのは、再び第六真祖と第四真祖が結託するのを恐れたからであろう。ここであえて領土紛争が生じそうな土地の支配を任せるのは、ベリアルもなかなか意地が悪いと思う。結果としていまでもアルカディア地方の国境では、第六真祖と第四真祖の紛争が後を絶えないしな。

 

 ちなみにアフリカ全土から第六真祖の勢力が撤退したのは、人類がカイゼンに対してアフリカ各地で武装蜂起したからである。そりゃそうだ。カイゼンのせいで大敗北したのに、おとなしく支配され続けているわけがないしな。カイゼンのアフリカ支配は、もともと人類との共存ありきの緩やかな支配体制だったため、反乱を起こされては軍を引くしかなかったのだ。

 

 そして、終戦してすぐにベリアルは再び人類に対して宣戦布告。今度は七帝会談主席の座の名のもとに発した宣戦布告なので、他の真祖たちもこれに同調。人類と吸血鬼は長い長い戦争の時代へと足を踏み込むことになる。

 

 ちなみに、大戦後、先代第六真祖カイゼンは自身の行いを後悔し、アフリカ全土からの撤退を指示した後、一人娘のリリーシャ・フォン・ゲルマニア(リーシャの本当の名前だ)に真祖の座を譲り、失意のままこの世を去ることになる。

 

 これが第三次吸血鬼大戦のあらましだ。

 

 以上。

 

 こういう経緯があるため、第六真祖およびその眷属はこう呼ばれるのである。

 

 ──裏切りの血、と。

 

 なんならこの世界には「第六真祖と同盟を組む(=意味:負けるはずのない戦いに負ける)」とかいうふざけた諺まであるくらいだ。……どんだけ嫌われてんだよパッパ。

 

 どこの真祖にも属さない野良吸血鬼たちの多くが、七帝会談前主席こと第四真祖アラストルの支持者であることが多いので、彼らの第六真祖嫌いはとくに酷かったりするが、…………どうやらディアボロスの連中もアラストル支持者のようだった。

 

(はぁ……)

 

 自己紹介するとき「ゲルマニアから来た」などと言わなければよかったな、と今さらながら後悔するオレだった。

 

 

 

 

 

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