エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。 作:サボテニウム
「ここの吸血鬼たちってさ、普段食事とかはどうしてるの?」
「どうしてると思う?」
「えっと……23区で人間を狩るとか」
「私たち程度の吸血鬼が23区なんて入ったら、そのまま討魔師たちに殺されちゃうよ。そんなリスクの高い真似をする吸血鬼はここにはほとんどいないかな。みんな臆病だから」
「そうなんだ……。でも、じゃあ、どうやって?」
「気になる?」
「そりゃもう」
「ん、ついてきて」
ディアボロスの集会に参加させてもらえなかったので、そのまま孤児院に帰ろうか……と思っていたオレだったが、話のなりゆきでロウカが何やら
(まあ、別にお腹は空いてないんだけど……)
真祖が特別なのかは知らないが、この一年を過ごして特にこの身体で飢餓感を感じることはなかったので、別にオレはここで食事の取り方を学ばなければならないというわけではなかったが、ロウカたちが普段何を食べているのかが気になったため、興味本位で彼女についていったのだ。
気分的には小学生の社会科見学みたいなもんだった。
「なんだかじめじめしたところだね」
「そう? 裏に沼地があるからかな」
──西トウキョウ霊園
暗く薄気味の悪い、高く生い茂る杉の木々で周囲を覆われたこの墓地には、大戦期に犠牲になった人々が埋められているらしい。しかもすべて土葬。大戦末期の人類には、人々の死体を一々火葬する余裕なんてなかったそうなので、ここは少し土を掘れば人間の死体が簡単に見つかるそうだ。
なんでロウカがそんな説明をしてくれたのか不思議に思いながらも彼女についていくが……。
霊園の看板が見えてから、少しだけ嫌な予感がしていた。
ま、まさか……死体を掘り起こして食べるとかじゃないよな?
「リーシャ、そこにあるスコップとって」
「あ、あの……ロウカ。スコップなんて何に使うの?」
「言わなくてもわかるでしょ。人間の死体を掘り当てるに決まってる」
「ほ、掘り当ててどうするのさ」
「もちろん食べる」
「え」
いや、否。
……そのまさかだった。
「し、死体だったら遠慮しとこうかな……」
「贅沢はダメ。私だってできれば生きた人間の血を吸いたいけど、……このエリアの中でそんなことしたら、すぐに討伐隊がやってきて殺されちゃうから仕方ないよ。リーシャもお父さんが怪我しちゃって大変なんでしょ。なら我慢しなきゃ」
「うぅ……でも……」
「はやくして。朝になっちゃうよ」
「わ、わかったよ……」
嫌々ながら墓の横に突き刺してあったスコップをロウカに手渡す。
そして、ロウカに促されるまま二人で墓荒らしをすることにした。
ザクッザクッザクッザクッ…………。
(うぅ……なんて惨めなんだ)
ベリアルは今頃パリで人類を虐殺中なのに、対する
世の中広しといえど、こんな惨めなことをしてる真祖はオレを除いて他にはいないだろう。
これでも一応、世界では七番目くらい偉い地位にいるんだよな?
なんだか地面と一緒に自尊心もゴリゴリ削られるんだが?
(……てかこれ、絶対真祖にやらせる仕事じゃないよな)
「リーシャ。手が止まってるよ」
「あっ、はい」
………………。
…………。
……。
黙々と作業を続けること数十分。
ゴツン、という嫌な音ともに土に埋まっていた人間の頭が地表に顔を出した。
「うわぁ……」
「お、リーシャお手柄」
まったく嬉しくない手柄だな……と思って手を止めていると、ロウカが横からやってきて、ずるずると素早い手際で地面から人間を引っ張り出してみせた。地中からは成人男性のものと思われるところどころ死蝋化した遺体がでてきて思わず顔をしかめる。
凄まじい腐敗臭がするのだが、吸血鬼としての生活に慣れ過ぎたせいか、人間でいう納豆くらいのニオイにしか感じないところがまた悲しかった。
「これだけの大きさなら、みんなで食べても一か月はもつと思う」
「うげぇ……これ食べるの?」
「当たり前。私たち吸血鬼は人間の血肉を食べることでしか
「うぅ……触りたくもないんだけど……」
「まあ、リーシャもそのうち慣れるよ。ショッピングモールの地下に私たちの寝床があるから、そこまで持っていこう。お母さんが料理してくれると思う」
ロウカはそう言うと掘り当てた死体を大きな布で包んで背負い、とてとてと来た道を引き返す。
(うわぁ……まじか……)
オレはスコップを元の場所に刺し直すと、重たい足取りでロウカについていくことにした。
◇ ◇ ◇
「ただいま、お母さん。いつもの持ってきたからなんか作って欲しい」
廃ショッピングモールの地下2階まで降りると、所々に携帯用のランタンや火のついた蠟燭などが置かれており、どこか生活感を感じられた。ロウカが声をかけると、大きな棚を倒して作ったであろう仕切りの向こうから、ロウカによく似た女の人がオレたちの前まで寄って来た。
「あらロウカ。ナオトたちの話し合いは終わったの?」
「さあ? 追い出されたから知らない。ナオト、私の話なんて聞く気ないみたい」
「あらあら……たった二人の兄妹なんだから、もう少し仲良くしてね」
「そんなのナオトに言ってよ」
赤子をあやすような手つきでロウカの頭を撫でる女性。
会話の流れからして、おそらくロウカの母親だ。
ロウカはどこか恥ずかしそうに母親の手を払うと、
「お母さん、それよりもこれ」
後ろに背負っていた風呂敷包みを開き中身を取り出した。
「あら、今日のはなかなかの大きさね」
「うん。リーシャが見つけてくれたの。はじめてなのに凄い」
ロウカはそう言って、彼女の背中に隠れていたオレをずいと引っ張り出して母親の前に見せる。
するとロウカの母親はオレを見るなり頬を緩ませ、
「あらあら……随分可愛らしいお嬢さんね。ロウカのお友だち?」
と、にこやかにほほ笑んだ。
「うん。今日のディアボロスの集会に参加したいってきてくれたんだけど、ナオトに追い出されちゃって……仕方ないから二人で墓地でご飯探してきた」
「ナオトったら……どうしてそんな意地悪をするのかしら」
「それはリーシャが……その……」
ロウカが視線を流し、ちらりとこちらを見てきたのでオレは小さく頷いた。
「……裏切りの血だからって」
ロウカがそう言うと、ロウカの母親は少しだけ驚いた表情を見せる。
「そうなの……。ごめんなさいねリーシャちゃん。ナオトが酷いことを……」
しかし、すぐにどこか申し訳なさそうな顔になりペコリと俺に頭を下げた。
「い、いえ。いいんです。気にしてないので」
これは本心からの言葉だった。
この世界の歴史を知っていると差別されてもしょうがないとは思う。
そもそもナオトにすらあまり腹を立てていないしな。
その母親にここまで頭を下げられると、逆にこちらが申し訳ない気分になる。
「それじゃあナオトのお詫びもかねて、腕によりをかけてスープを作るわね。リーシャちゃんはそこのソファーにでも座っていてちょうだい。すぐにできるから」
「お母さん、私も手伝う」
「ロウカも休んでていいのよ。疲れたでしょう」
「ん、これくらいどうってことない」
「あら、ロウカったら。もうすぐお姉ちゃんになる自覚でもできたのかな」
「それもある」
「ふふっ、じゃあお願いしちゃおうかしら」
なんて
……だからだろう。
この二人がアギトたちに殺される未来を知っているオレは少しだけ悲しくなった。