【TS】主人公の両親を殺したラスボス吸血鬼ですが、彼の最後の家族をやってます。 作:サボテニウム
それから、クリスマスまでの一週間。
夜はロウカたちと吸血鬼として過ごし。
昼はアギトたちと人間として過ごす。
オレは、そんな二重生活を送っていた。
「いやー、明日のクリスマス、楽しみだな。リーシャ」
隣を歩くアギトが、何とも締まりのない顔で笑っている。
実に楽しそうで結構なことだ。
だが、当のオレは気が気ではなかった。
明日のクリスマスには、討魔師側の主力戦力――十三戦鬼が孤児院を訪れるかもしれない。
もしオレが第六真祖だと見破られれば、戦闘は避けられないだろう。
オレも無傷では済まない。
相手側にも、少なくない犠牲が出る。
そして何より。
そんな騒ぎになれば、これまで密かに進めてきたトウキョウ侵攻計画が、すべて水の泡になってしまう。
それだけは、何としてでも避けなければならない。
そこで、この一週間。
オレは原作知識を総動員し、十三戦鬼の中でも特に危険な相手を整理していた。
題して。
――クリスマスに絶対来てほしくない十三戦鬼ランキング。
要するに、人類側の強いやつ順である。
◇ ◇ ◇
第一位。
鬼龍院旭。
トウキョウ政庁の最高権力者であり、この国の討魔師協会を実質的に支配する男だ。
原作では、アギトたちと直接関わる場面はそれほど多くない。
だが、物語後半のヨコハマ決戦編では、第六真祖軍を相手に一騎当千の活躍を見せている。
強い。
とにかく強い。
原作をプレイしていたころのオレも、こいつの戦闘場面を見るたびに、味方側の人間なのに少し引いていた。
第六真祖軍の序列第二位。
つまり、オレの配下であるバフォメットを、単独で倒せる可能性がある人間は、おそらく旭くらいだろう。
人類側に存在していい戦力ではない。
ほとんど仕様上の不具合である。
権力。
知略。
戦闘能力。
そのすべてを一人で持っている。
神様は、もう少し能力値を均等に配分するべきだったと思う。
こいつだけは絶対に来てほしくない。
そもそも政庁のトップが孤児院のクリスマス会へ来る可能性は低いと思うが、念には念を入れて第一位である。
◇ ◇ ◇
第二位。
鬼龍院月夜。
鬼龍院旭の異母弟であり、後にアギトやリーシャたちの保護者となる人物だ。
現在の年齢は、確か二十歳前後。
普段は皮肉屋で、どこか冷めた雰囲気をまとっている。
他人に興味がないように振る舞い、何を考えているのか分からない。
だが、いざ仲間が危機へ陥れば、自分の命を投げ出すことすらためらわない。
面倒くさそうな態度のわりに、異様に義理堅い男だった。
原作では、アギトたちの成長を陰から支える一方で、裏では何やら危険な研究にも関わっていた。
禁忌に触れる実験を進めていたらしい描写は、何度か登場している。
だが、その実験が何を目的としたものだったのか。
何を作ろうとしていたのか。
結局、第一作の中では最後まで明かされなかった。
(続編なら、きっと分かったんだろうな……)
発売まで、あと七日だった。
たった七日。
オレがもう少し長生きできていれば、月夜の秘密も、物語の結末も知ることができたはずだ。
(クソ……オレも続編をプレイしたかった)
考えるたびに腹が立つ。
死ぬにしても、もう少し空気を読んでほしかった。
トラックにも。
運命にも。
◇ ◇ ◇
第三位。
百目鬼玄武。
以前も少し触れたが、二本の刀だけで高位の吸血鬼を圧倒する、技量特化型の化け物である。
鬼龍院兄弟のように、一撃で周囲一帯を吹き飛ばす派手な術式は持っていない。
巨大な魔力で敵を押し潰すわけでもない。
ただ速い。
ただ鋭い。
ただひたすらに剣が強い。
それだけで十三戦鬼の上位へ君臨しているのだから、むしろ一番怖い種類の人間かもしれない。
実際、原作のリーシャも、百目鬼にはかなり苦戦していた。
油断があったとはいえ、アギトとの連携によって右腕を斬り落とされている。
ゲーム画面の向こうで見ていたころは、主人公側の熱い共闘場面だった。
だが、今となっては話が違う。
斬られる腕は、オレの腕である。
自分の腕が宙を舞う場面など、できれば一生経験したくない。
百目鬼玄武。
要警戒。
というか来るな。
◇ ◇ ◇
そして番外。
シスタークロエ。
我らがセント・テレジア孤児院の院長である。
普段は穏やかな笑顔を浮かべ、孤児たちを優しく見守る修道女。
その正体は、人類側の最高戦力である十三戦鬼の一人だ。
巨大なモーニングスターを軽々と振り回し。
結界魔術で吸血鬼の動きを封じ。
治癒や防御まで、幅広い役割を一人でこなす。
設定資料集によれば、鬼龍院月夜や百目鬼玄武とは、討魔師育成学園時代の同期だったはずだ。
当然、敵に回せば非常に厄介である。
というより、現在進行形で毎日同じ建物の中にいる時点で、十分すぎるほど危険だった。
ただし、クロエはこの孤児院の院長だ。
クリスマス会へ参加するのは、ほぼ確定している。
来てほしくないも何も、最初からいる。
そのため、今回のランキングからは除外した。
◇ ◇ ◇
(こうして整理すると、化け物ばっかりだな……)
原作の中で、単独戦闘力が最も高かったのは、蠅の王ベルゼブブ――つまりリーシャだ。
一対一なら、多くの討魔師を正面から圧倒できる。
だが、戦争は一人で行うものではない。
集団戦となれば、話は変わる。
トウキョウ側には、旭。
月夜。
百目鬼。
クロエ。
そのほかにも、十三戦鬼や高位討魔師が何人も存在する。
人類側は個々の役割が明確で、戦力層も厚い。
一方。
オレの側にも、第六真祖の眷属として上位に位置する者たちはいる。
いわゆる四天王的な連中だ。
ただし。
序列第二位のバフォメットは、ヨコハマの防衛へ回している。
序列第三位は、マダガスカル島で人類側の反第六真祖組織と交戦中。
序列第四位は、アルカディア地方――前世でいうアメリカ東部で、第四真祖軍と小競り合いを続けている。
序列第五位は、帝都ゲルマニアの守備を任せているため、持ち場を離れられない。
つまり。
誰も呼べない。
(詰んでないか、これ)
しかも、バフォメットは本来、台湾の統治を担当していた。
それをオレが無理やりヨコハマまで連れてきてしまったため、現在の台湾では、国民党人類解放軍なる組織が反乱を繰り返しているらしい。
名前からして、非常にきな臭い。
オレがトウキョウ攻略に手間取るほど、台湾の情勢は悪化していく。
早くトウキョウ政庁を陥落させ。
ヨコハマの防衛体制を整え。
バフォメットを台湾へ戻さなければならない。
完全に時間制限つきの作戦だった。
(誰か助けてくれ……)
第六真祖。
七帝の一角。
世界を支配する吸血鬼の王。
肩書だけなら大層立派だが、実態は人手不足に苦しむ中小企業の社長と変わらない。
しかも、頼りになる部下は全員、それぞれの持ち場から動けない。
前世の会社より状況が悪くないか、これ。
この状況を打開するためには、原作のリーシャ以上に戦力を増やす必要がある。
原作のリーシャは、一人で何でもできてしまった。
強大な魔力。
優れた頭脳。
他者を欺く演技力。
どれも突出していた。
だからこそ、誰にも頼らなかった。
すべてを自分で背負い。
秘密を共有せず。
単独で計画を進めた。
その結果、周囲との間に不自然な空白が生まれた。
鬼龍院月夜たちは、そこから少しずつ違和感を拾い上げ、最後にはリーシャが蠅の王であることへ辿り着いた。
一人で何でもできることが、かえって仇になったのだ。
ならば、オレがすべきことは逆だ。
仲間を増やす。
自分一人ですべてを抱え込まず、使える人材には役割を与える。
ロウカたち野良吸血鬼へ接触しているのも、その一環だった。
(今のところ、成果は出てないけどな……)
ディアボロスの首領であるナオトには、初対面で追い出された。
ロウカや母親とは多少親しくなれたが、組織そのものを味方へ引き込むには、まだ時間がかかるだろう。
それでも。
ディアボロスの吸血鬼たちを味方につけられれば、状況はかなり変わる。
彼らは禁止区域の地形を熟知している。
トウキョウ内部の吸血鬼社会にも顔が利く。
正面戦闘だけでなく、情報収集や潜入にも使えるはずだ。
何とかして、ナオトの信用を得なければならない。
まあ。
それは明日のクリスマスを無事に乗り越えてから考えよう。
今のオレにとって、最も重要なのは、十三戦鬼たちに正体を見破られないことだ。
そのためには。
吸血鬼に両親を殺された、可哀想な孤児。
リーシャ・クーゲルシュタインとしての役割を、完璧に演じきる必要がある。
何も知らない少女として笑い。
英雄である討魔師へ憧れ。
彼らからプレゼントを受け取る。
それだけだ。
普段どおりに振る舞えばいい。
(大丈夫)
これまで一年間、クロエの目さえ欺いてきた。
今さら一日だけ討魔師が増えたところで、何も問題はない。
そう。
何も問題はないはずだった。
◇ ◇ ◇
翌日。
クリスマス当日の朝。
オレは孤児院の庭で、雑草を抜いていた。
クリスマスであろうと、朝の仕事までなくなるわけではないらしい。
土へ指を入れ、根ごと草を引き抜く。
近くに落ちていた小石を拾い、籠の中へ放り込む。
そんな地味な作業を黙々と続けていた、そのとき。
「おい」
背後から、低い声が聞こえた。
「お前」
振り返る。
「…………」
心臓が止まりそうになった。
黒い髪。
鋭い目つき。
討魔師の制服の上から、黒い外套をまとった若い男。
クリスマスに絶対来てほしくない十三戦鬼ランキング。
第二位。
鬼龍院月夜が、そこに立っていた。
(何で本当に来てるんだよ……!)
頼むから来ないでほしい。
昨日まで、本気でそう願っていた。
だが、神様はオレの願いなど聞いていなかったらしい。
月夜は無言のまま、こちらへ近づいてくる。
一歩。
また一歩。
その視線は、真っ直ぐオレへ向けられていた。
(やばい……)
何かに気づいたのだろうか。
魔力を感じ取られた?
それとも、ゲッシュを使った痕跡が残っていた?
まさか、オレが第六真祖だと――。
「おい、お前……」
月夜が、オレの手首をつかんだ。
「っ……!」
突然のことに、身体が強張る。
強く握られているわけではない。
だが、その手を振り払うこともできなかった。
ここで人間離れした力を見せれば、それこそ正体を疑われる。
(落ち着け)
ただの少女として振る舞え。
怖がればいい。
何も知らないふりをしろ。
月夜はオレの顔を、食い入るように見つめた。
その瞳には、警戒とも。
驚愕とも。
あるいは、別の何かとも取れる感情が浮かんでいる。
「お前……」
(バレたか?)
心臓が、激しく脈打つ。
背中を冷たい汗が流れた。
月夜はオレの手をつかんだまま。
何の前触れもなく、こう尋ねた。
「名前は?」