エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。   作:サボテニウム

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第2話

 

 

 

 自分がエロゲのヒロインに転生した。

 しかもよりによってあのリーシャに。

 普通なら信じられない事態だが、実際になってしまったからには信じるしかない。

 

 リーシャ(ラスボス)の頭脳だからだろうか。

 

 このときのオレの頭は自分でも驚くほど冷静だった。

 

「バフォメット。ここの統治はあなたに任せます」

 

 オレは作中でもリーシャの配下として登場した顔が黒山羊の筋肉だるまにそう告げると、主人公──アギトの姿を追うことにした。とりあえず作中最強になりうる主人公をこのまま放置するわけにはいかないと思ったからだ。

 

「かしこまりました。して、ベルゼブブさまはどちらに?」

「オレ……じゃなかった、私はこのまま避難する人間の中に紛れ、トウキョウに入ります」

「なるほど。そのまま一気に人類を攻め滅ぼすというわけですな」

 

 感心したようにうんうんと頷く黒山羊を見て思わずズッコケそうになる。

 

 んなわけあるか。

 これからアギトに命乞いしにいくんだよ。

 ……なんて情けないことを言ったら謀反を起こされそうだから死んでも言えないが。

 

 代わりにオレは原作知識を活かしてそれっぽい御託を並べる。

 もちろん原作リーシャの口ぶりをマネしながら。

 

「いえ。トウキョウには討魔師の本拠があります。人類側の総戦力がわからない以上、攻め込むにはそれなりの下準備が必要です」

「なるほど。そのための潜入工作というわけですな」

「ええ。その通りです」

 

 黒山羊はオレの口から出たでまかせに感心したような声を漏らす。

 どうやら丸め込むのに成功したようだ。

 

「以降の作戦は使い魔を通じて伝えます」

「御意」

 

 オレは嘘がばれないようにすたこらさっさと黒山羊のもとを後にすると自身の変化を解いた。変身を解くと、身体に纏わりついた蠅人間のような鎧がドロドロと溶けだして、中からは銀髪赤眼のロリ幼女が出てきた。まあ、これがリーシャ本体なので要はオレだ。

 

「さてと。トウキョウエリアに駆け込もうにも無傷で行ったら討魔師どもに怪しまれるしなあ……。うん、背に腹は代えられねえか」

 

 オレはそう言うと、いかにも高そうな高級シルクでできたゴスロリ服を脱ぎ棄て火の中にくべる。そして、すっぽんぽんのまま、その辺に落ちていた子供の死体から衣服をはぎ取るとそれを着ることにした。どろどろとした血がこびりついているが、自分が吸血鬼になったからかそれほど抵抗感はなかった。

 

 むしろ少し美味しそうなにおいとすら感じた。

 

 オレは幼女にはあるまじき凄まじい速力で駆けると、ものの数分で多摩川付近に作られた難民エリアへと到着する。この川を越えたらトウキョウエリアだ。

 

「みなさん! ここまでくればもう安心です! 必ずみなさんをトウキョウまで運ぶので、どうか押さないで! 順番に! 順番にお願いします!」

 

 難民エリアにつくと、トウキョウから援軍に来たと思われる討魔師たちが数百人規模で避難民たちを誘導していたので、我先にと逃げようとする人混みの喧騒の中で、オレも難民の列に紛れた。

 

 そして子供たちだけが優先して乗せられた川を渡るための小さな小舟の中で主人公ことアギトを見つけたのだった。

 

 アギトは茫然自失とした表情のまま船の隅で体育座りをして固まっていた。

 かわいそうなので声をかけようかと思うも、よくよく考えたらアギトの家族を惨殺したのは他でもないオレ(リーシャ)なのでなんと声をかけたらよいかしばし考えてしまった。

 

(……まあ、悩んでもしょうがないか)

 

 壁(聖域)を壊して人類を大量虐殺してしまった事実はもう変えられないため、オレは思考を放棄した。そもそもそれやったのオレ(リーシャ)だけど、オレじゃないしな! 

 

 しかたなかったってやつだ。

 

 オレはアギトと同じく「家族を殺された可哀想な女の子(大嘘)」という設定を即興でつくり、アギトに接近することにした。

 

「ね、ねえ……あなたも殺されたの? お父さんとお母さん」

「……なんだよ。お前」

「ここに一人で乗ってるってことは、私と同じかと思って……」

「同じ……ってことは、お前も、……なんだな」

「……ええ」

 

 オレが目に涙を浮かべながらぐすぐすと泣きながら頷くと(もちろん演技だ)アギトは何かを感じたのか顔をあげてこちらを見た。

 

「……泣くなよ。泣いたって、なにも変わらねえ」

 

 アギトはポケットから血に濡れたハンカチをオレに手渡すとそんなことを言ってきた。さすがはエロゲの主人公といったところか。ガキのくせに女の扱い上手だな。

 

 そんなことを考えながらハンカチを受け取ると、嘘の涙で濡れた目元をぬぐう。

 

「……俺、16になったら討魔師になる。そんで……吸血鬼を殺してやる。この世から、一匹残らず」

「そ、そんなことできるわけ……」

「できる。俺なら、やれる」

 

 知ってるよ。

 やめてくれよ。オレ、死んじゃうじゃん。

 

 今のアギトの発言を、ほぼ吸血鬼に滅ぼされかけてるこの世界の人間が聞いたら失笑ものだろうが、唯一原作をプレイした転生者であるオレだけは、単なるガキのたわごとには聞こえなかった。

 

 事実として、第四真祖の力をこいつが継承したら、それも不可能ではない。

 

 だからこそやめてほしいんだよなあ……。

 

「……お前の分の仇も必ずとってやるよ。お前、名前は?」

「リーシャ。リーシャ=クーゲルシュタイン」

「そうか。リーシャか」

 

 アギトは俺の名前を小さく呼ぶとこちらに向き直り手を差し出してきた。

 

「俺は阿鬼斗。綾辻阿鬼斗だ」

 

(……知ってるよ)

 

 アギトの手を握り返すと、オレは偽りの笑顔でほほ笑んで見せた。

 

「よろしくね、アギト」

 

 

 

 

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