【TS】主人公の両親を殺したラスボス吸血鬼ですが、彼の最後の家族をやってます。 作:サボテニウム
消えた。
月夜さんの足音が。
「…………」
「…………」
「…………」
走りながら、三人とも同じような顔をしていた。
いや。
カイだけはいつもの顔だった。
「どこ行った!?」
アギトが後ろを振り返る。
「前見て!」
「見てる!」
「今どう見ても後ろ見てたよ!」
「どっちも見てる!」
便利な目である。
羨ましい。
「まず中央の建物です!」
澪が先頭を走りながら声を上げた。
さすが。
十秒前に立てた予定をちゃんと覚えている。
オレはもう月夜さんが消えた時点で予定の半分くらい飛んでいた。
「カイ!」
呼ぶと、カイが走りながら上を見る。
「見えない」
「後ろは?」
「いない」
「屋根は?」
「いない」
「ほんとに?」
「たぶん」
最後だけ急に信用度が下がった。
「たぶんって何だよ!」
「見えないものは分からない」
「そりゃそうだけどよ!」
正論である。
そして正論というものは、走っている時に聞くと少し腹が立つ。
中央の建物まで、あと十メートル。
月夜さんの姿はない。
足音もない。
(……嫌だなあ)
オレは走りながら周囲を見る。
建物。
細い路地。
二階部分を繋ぐ渡り廊下。
瓦礫。
窓。
いくらでも隠れる場所がある。
そして。
月夜さんは、オレたちが中央の建物へ向かうと知っている。
なぜなら目の前で話したからだ。
(作戦会議、全部聞かれてたんだよな)
十秒くれた。
優しい。
聞こえないところまで離れてくれるとは言っていない。
現実の教官は利用規約をよく読むタイプらしい。
「止まって!」
声を上げる。
アギトと澪が足を緩めた。
カイだけが二歩ほど先へ進み、中央の建物を見る。
「何だ?」
「カイ、上!」
「いる」
カイが言った。
つられて顔を上げる。
二階。
開いた窓の縁。
黒い制服の男が腰掛けていた。
「遅い」
「いるじゃん!」
「今見つけた」
カイが答える。
それは仕方がない。
月夜さんが窓から飛び降りた。
「散って!」
澪の声。
四人が別々の方向へ動く。
いや。
三人だった。
「リーシャ!」
「え?」
アギトがこっちへ来た。
なんで。
月夜さんもこっちへ来た。
なんで。
「ちょ――」
「下がってろ!」
アギトがオレの前へ出る。
その肩へ。
ぽん。
「一人」
「…………」
月夜さんの手が離れる。
アギトがゆっくり振り返った。
「今のなしだろ」
「何が」
「リーシャ狙ってただろ!」
「狙ったぞ」
「じゃあ何で俺なんだよ!」
「お前が来たから」
完璧な回答だった。
「卑怯だろ!」
「敵に言え」
「お前だよ!」
「今はな」
すごい。
腹が立つほど教官らしい。
「行きます!」
澪が叫ぶ。
そうだった。
アギトが捕まっても、残り三人の訓練は続く。
「カイ!」
「うん」
オレとカイが澪を追う。
後ろに月夜さん。
アギトはその場に取り残された。
「おい! 俺どうすりゃいいんだよ!」
「そこで見てろ」
「暇だろ!」
「じゃあ反省しとけ!」
「何をだよ!」
元気な脱落者である。
当分反省は無理そうだった。
「リーシャ」
「なに?」
「来る」
隣を走っていたカイが後ろを見る。
月夜さんがいた。
速い。
そして。
見ている。
オレを。
(……また?)
嫌な予感がした。
「リーシャ、こっち」
カイがオレの腕を引いた。
細い路地へ入る。
月夜さんも方向を変える。
「カイ、待って」
「何?」
「たぶん――」
月夜さんが一歩踏み込む。
カイがオレを背中側へ押した。
その横を。
月夜さんが抜けた。
ぽん。
「二人」
カイが自分の肩を見る。
「そう来ると思った」
「なら避けろ」
「次は」
「今回避けろよ!」
遠くからアギトの声が飛んできた。
「ちょっと待って!」
オレは走りながら月夜さんを指差した。
「私を狙うふりして二人釣るのやめてくれる!?」
「釣れるからな」
「教官が生徒で釣りするな!」
「二匹とも勝手に来ただけだろ」
「それはそうだけど!」
非常に腹立たしいことに、反論しづらかった。
「リーシャさん!」
澪がこちらを呼ぶ。
「行こう!」
「はい!」
残り二人。
オレと澪。
アギトとカイは早くも脱落した。
訓練開始から。
たぶん一分も経っていない。
(第六小隊、大丈夫かな)
初授業で早くも将来が不安になってきた。
◇ ◇ ◇
「右です!」
「うん!」
澪と二人で路地を曲がる。
後ろを見る。
月夜さんはいない。
今度こそ。
いない。
「このまま出口へ向かいます。ただし直線では追いつかれます。建物を利用しましょう」
「分かった」
さすが澪。
まともである。
頼もしい。
なぜ最初からこの二人で逃げなかったのだろう。
男二人が脱落した途端、急に訓練が順調になった。
今後の小隊運営について真剣に検討する価値がある。
「リーシャさん」
「なあに?」
「後ろです」
「…………」
振り返る。
いた。
「なんで!?」
「声で位置分かるだろ」
「盗み聞きじゃん!」
「叫んでる方が悪い」
「そういう問題!?」
走る。
澪が先。
オレが後ろ。
月夜さんがさらに後ろ。
速い。
(待って待って待って)
普通に速い。
人間の姿を維持したまま。
魔力を隠したまま。
討魔師候補生らしい身体能力の範囲で。
そんな条件まで律儀に守って走っているのは、もちろんオレだけである。
理不尽だ。
「リーシャさん!」
「大丈夫!」
大丈夫ではない。
でも、ここで真祖の身体能力を出すわけにはいかない。
澪との距離が開く。
月夜さんとの距離が縮む。
手が伸びてくる。
「先に行って!」
「ですが――」
「いいから!」
澪が一瞬迷った。
そして。
足を止めた。
「私が引きつけます」
「え?」
澪がオレと月夜さんの間へ入る。
(あ)
既視感。
非常に嫌な。
ぽん。
「三人」
「…………」
澪が固まった。
月夜さんの手が肩に乗っている。
「鬼龍院教官」
「何だ」
「今、クーゲルシュタインさんを狙っていましたよね」
「狙ってたな」
「……そうですか」
澪の眉がほんの少し動いた。
怒っている。
分かりにくいが、怒っている。
「続けろ、リーシャ」
「え」
「一人残ってるぞ」
見る。
遠い出口。
見る。
目の前の月夜さん。
「…………」
「逃げろ」
オレは一歩下がる。
「少しくらい年下の女の子に優しくしようとか思わない?」
月夜さんは追う速度を少しも緩めなかった。
「訓練中じゃなきゃな」
「今して!」
「嫌だ」
「即答!?」
逃げた。
全力で。
三十秒後。
背中を触られた。
「全滅」
「…………」
地面へ両手をつく。
「速すぎない!?」
「お前が遅い」
「もっとこう、教官らしい言い方あるでしょ!」
「走力不足」
「言い換えただけ!」
◇ ◇ ◇
開始地点。
月夜さんの前に四人で並ぶ。
アギトは露骨に不機嫌。
カイはいつもどおり。
澪は真面目。
オレは疲れた。
「久世」
月夜さんが澪を見る。
「何が悪かった」
「教官の性格です」
横から答えてみた。
月夜さんがこちらを見る。
「お前に聞いてねえ」
「一応、回答したんだけど」
「久世」
「はい」
無視された。
澪は少し考えてから、オレたち三人を順番に見た。
「鬼龍院教官は、皆さんの行動を把握しています」
「そうだな」
「特に綾辻さんは、リーシャさんが狙われると必ず前へ出る」
「悪いかよ」
「悪いとは言っていません。ただ、利用されています」
「…………」
アギトが黙る。
「氷室さんも同様です」
「うん」
「認めるのですね」
「事実だから」
最後に。
澪がオレを見る。
「リーシャさんもです」
「私?」
「はい」
「なんで?」
「お二人が助けに来る前提で動いていました」
「…………」
言われて。
考える。
アギトが来る。
カイが来る。
だから。
どこかで。
(……あ)
ある。
かなりある。
八年間。
気づけばいつも近くにいた。
何かあればアギトが前に出る。
カイは何も言わず隣へ来る。
それを当たり前にしていた。
「八年一緒にいりゃ、そうなるのも分かるけどな」
月夜さんが言った。
「普段なら別に悪くねえ。ただ、戦場で毎回同じ動きしてりゃ読まれる」
「餌にされる?」
「もうされたろ」
「私が?」
「実際三人釣れた」
「私が餌なの!?」
横を見る。
カイが小さく頷いた。
「僕も釣られた」
「自覚あるなら次は来ないで!」
「それは別」
「別なんだ!?」
澪が口元へ手を当てた。
ほんの少し。
笑っている。
「澪ちゃん?」
「何でしょうか」
「今ちょっと面白がってない?」
「いえ」
「ほんと?」
「皆さんは仲がよろしいのですね」
「話を逸らしたね?」
「気のせいです」
この子。
八年前よりだいぶ強くなった気がする。
「じゃあ」
オレはアギトを見る。
「次、私が狙われても戻ってこないでね」
「無理」
「早いなあ!」
「お前、戦えねえだろ」
「逃げる訓練だよ!」
「足も遅い」
カイが言った。
「カイ!?」
「さっき捕まった」
「見てたから知ってる!」
「なら分かると思う」
「どうして急に二対一なの!?」
月夜さんが口を開く。
「俺も足は遅いと思うぞ」
「三対一になった!」
澪を見る。
「…………」
「澪ちゃん?」
「走力については、改善の余地があるかと」
「四対一!」
味方がいない。
第六小隊、初日にして崩壊の危機である。
「でも」
澪が続けた。
「リーシャさんには判断力があります。ですから、自分で逃げることも必要です」
「澪ちゃん……!」
今度こそ味方だった。
アギトは露骨に嫌そうな顔をしている。
「信用しろってことか」
「はい」
「こいつを?」
「何その確認」
「お前、たまに変なところで抜けてるだろ」
「アギトに言われたくないなあ!」
「方向音痴」
カイが言う。
「カイまで何の話!?」
「前に市場で迷った」
「八年前の話を今持ち出す!?」
「七年前」
「訂正そこじゃないよ!」
月夜さんが腕時計を見る。
「相談終わったか」
「まだ!」
「十分やっただろ」
「ほとんど私への悪口だったんだけど!」
「仲良くなったな」
「誰のせい!?」
月夜さんが指を立てた。
「二回目」
◇ ◇ ◇
「今度は固まって動きます」
澪が言う。
「ただし、誰かが狙われても反射的に戻らない」
「分かった」
「…………」
「綾辻さん」
「分かったって」
「顔が納得していません」
「何でお前ら全員俺の顔読めんだよ」
「分かりやすいから」
カイ。
「分かりやすいね」
オレ。
「分かりやすいです」
澪。
「うるせえ!」
三対一。
今度はアギトだった。
世界は公平にできている。
「来ます!」
澪の声。
月夜さんが屋上から降りてくる。
また。
オレの方へ。
「…………」
ちらり。
アギトを見る。
足が止まりかけた。
「アギト、前!」
「分かってる!」
アギトが歯を食いしばって走る。
来ない。
カイを見る。
一瞬だけこちらを見る。
「カイも!」
「分かってる」
来ない。
(よし)
そして。
(怖っ!)
月夜さんが目の前にいる。
待って。
さっきまでは二人が来てくれた。
急に心細い。
人は失って初めて支えの大切さに気づくものらしい。
「リーシャ」
「分かってる!」
壁際へ飛び込む。
伸びてきた手を避ける。
建物の角を曲がる。
一歩。
二歩。
月夜さんが追う。
「こっち!」
澪の声。
路地へ入る。
月夜さんの手が空を切った。
「…………」
走りながら振り返る。
月夜さんが少しだけ眉を上げた。
(避けた)
オレが。
自力で。
(やればできるじゃん)
少し嬉しい。
「リーシャ!」
「なあに!」
「前!」
「え?」
街灯。
「わっ!」
寸前で避ける。
「危な……」
後ろから月夜さんの声がした。
「自力で死ぬなよ」
「死んでない!」
「今かなり危なかったぞ」
「避けたからいいの!」
結果がすべてである。
たぶん。
「出口まで二百!」
アギトが前から叫ぶ。
「直線は駄目です!」
澪が言う。
「追いつかれます!」
「じゃあどうすんだ!」
「右の建物!」
オレは指差した。
三階建て。
入口。
反対側にも通路がある。
「中を抜けるよ!」
「分かった!」
アギトが真っ先に入る。
カイ。
澪。
オレ。
「上!?」
「二階!」
「出口は向こうだぞ!」
「だからだよ!」
直線なら月夜さんの方が速い。
なら。
何度も方向を変えさせる。
距離では勝てない。
速さでも勝てない。
だったら、その速さを出しにくい場所を選ぶ。
「左!」
「こっち?」
「うん!」
廊下。
曲がり角。
隣の棟へ続く渡り廊下。
「今度はどっちだ!」
「そのまま!」
「最初から言え!」
「今考えてるんだから仕方ないでしょ!」
「計画じゃねえのかよ!」
「現場判断!」
「便利な言葉だな!」
否定はしない。
階段を駆け下りる。
一階。
裏口。
外へ出た。
「…………」
膝が痛い。
十六歳の身体はもっと万能だと思っていた。
「リーシャ」
カイが手を伸ばしている。
「ありがとう」
掴む。
立ち上がる。
そのまま四人で走る。
後ろを見る。
月夜さんは――。
いない。
「よし!」
アギトが笑った。
「撒いた!」
「まだです」
澪が言う。
「出口まで行くまで訓練は終わっていません」
「分かってるって!」
「いた」
カイが言った。
「は?」
「前」
前を見る。
出口。
その手前。
月夜さんが立っていた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
四人とも止まる。
「遅かったな」
「なんで!?」
オレの声が演習場へ響いた。
「普通に先回りした」
「普通じゃないよ!」
「お前ら建物入っただろ」
「入ったけど!」
「俺は外走った」
「…………」
なるほど。
こちらが一生懸命遠回りしている間に。
外を走った。
非常に単純な話だった。
(まずいな)
出口。
月夜さん。
距離は約二十メートル。
「左右から一気に抜けるぞ!」
アギトが言う。
「待って」
「何だよ!」
「わざわざ月夜さんのところに突っ込む必要ないよ」
「でも出口そこだぞ!」
「今はね」
見る。
出口。
建物。
外壁。
さっき通った建物。
その横。
細い通路。
(あ)
「回ろう」
「は?」
「出口の横まで別の道で出る。正面から近づく必要ないよ」
月夜さんを見る。
出口の前。
こちらを待っている。
「行こう」
四人で走り出す。
「逃げんのか!」
アギトが叫ぶ。
「そういう授業!」
「それはそうだ!」
ようやく理解したらしい。
遅い。
でも偉い。
建物の横へ。
月夜さんも動いた。
「来ます!」
「分かってる!」
「アギト、前!」
「おう!」
「カイ、後ろ!」
「うん」
「澪ちゃん、時間!」
「残り四十秒!」
「短っ!」
走る。
角を曲がる。
月夜さんの姿が消える。
また角。
出口が見えた。
「行け!」
アギト。
カイ。
澪。
三人が出口へ向かう。
オレも。
あと十五メートル。
十。
後ろ。
足音。
(来た)
「リーシャ!」
アギトが振り返る。
「前!」
「でも――」
「行って!」
少し。
間があった。
アギトが歯を食いしばる。
前を向いた。
カイも。
戻ってこない。
(……うん)
それでいい。
アギトが出口を越える。
カイ。
澪。
残るはオレ。
五メートル。
四。
三。
背中。
気配。
月夜さんの手。
(届く)
なら。
真っ直ぐ走らない。
一歩。
横へ。
身体を捻る。
手が。
肩のすぐ横を通った。
「っ」
前へ。
飛び込む。
線を。
越えた。
「…………」
「…………」
地面に手をつく。
息が。
苦しい。
「何秒!?」
顔を上げる。
澪が時計を見る。
「残り二秒です」
「やった!」
仰向けになる。
空。
青い。
生きている。
素晴らしい。
「勝った!」
アギトが拳を上げた。
「勝ってねえよ」
後ろから声。
「逃げただけだ」
「それが訓練だろ!」
「そうだな」
「じゃあ勝ちだろ!」
「逃げ切っただけだ」
「めんどくせえな、あんた!」
月夜さんが肩を竦める。
それから。
アギトを見る。
「綾辻」
「何だよ」
「最初、リーシャ庇って一番に捕まったな」
「……うるせえ」
「守る相手より先に死んでどうすんだ」
「…………」
アギトが黙った。
「庇うなとは言ってねえよ。庇って一緒に死んだら意味ねえって話だ」
「……分かってる」
「ならいい」
短い。
それだけ。
「氷室」
「何?」
「お前も同じだ」
「うん」
「返事だけはいいな」
「分かったから」
「ならいい」
月夜さんが澪を見る。
「久世」
「はい」
「お前も途中で足止めたな」
「……はい」
「助けるなら、助けた後どう逃げるかまで考えろ」
「承知しました」
そして。
オレ。
「リーシャ」
「はい」
「走れ」
「それ講評!?」
「走力不足」
「さっき聞いた!」
「二回言う程度には足りねえ」
「ひどくない!?」
「事実」
カイが言った。
「カイはもう黙ってて!」
月夜さんが腕時計を見る。
「まあ」
四人を見る。
「最初よりはマシだ」
「褒めてる?」
「褒めてる」
「月夜さんの褒め方、ずっと下手だね」
「知るか」
でも。
ほんの少しだけ。
笑っていた。
「今日覚えときゃいいのは一つだけだ」
月夜さんが出口の向こうを見る。
「勝てねえなら逃げろ。生きて帰って、次に繋げろ」
アギトは何も言わなかった。
今度は。
反論しなかった。
「逃げるのも仕事だ」
昨日の黒板。
今日の訓練。
ようやく。
少しだけ意味が分かった気がする。
「はい」
澪が答えた。
「うん」
カイ。
「……分かったよ」
アギト。
「はーい」
オレ。
これにて。
第六小隊。
記念すべき最初の訓練は終了――。
「休憩十分」
「え?」
月夜さんが歩き出す。
「次、武器庫」
「…………」
オレは身体を起こした。
「終わりじゃないの?」
「まだ午前だぞ」
「逃げ切るまでやるって言ったよね?」
「逃げ切っただろ」
「じゃあ帰れるんじゃないの!?」
「今日中にはな」
「意味が違う!」
アギトも立ち上がった。
「俺も帰れると思ってたぞ!」
「綾辻」
「何だよ!」
「午後、腕立て十回追加」
「なんでだよ!」
「うるせえから」
「横暴だろ!」
「十五」
「増えた!?」
「二十」
「おい!」
澪が静かに立ち上がった。
「綾辻さん」
「何だよ!」
「黙った方がよろしいかと」
「久世までそっち側かよ!」
「合理的判断です」
カイも立ち上がる。
「アギト」
「お前は何だ!」
「二十五になる」
「分かってるよ!」
賢明である。
オレも立ち上がった。
制服についた埃を払う。
「…………」
「何だ、リーシャ」
月夜さんが振り返る。
「優しい先生がいいって言ったんだけどなあ」
「探してこい」
「担当替えていいの?」
「駄目だ」
「じゃあ探せないじゃん!」
初日。
初授業。
そして。
初めての実戦訓練。
第六小隊の前途は。
思っていたより、だいぶ険しいらしい。