エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。   作:サボテニウム

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第5話

 

 

 

 

「くっそー、どこも雇ってくれねえ」

 

 今日は日曜日。

 安息日のためオレたち孤児も院内でしなければならない仕事はなく暇だった。

 

 いつものように食堂で、あのゲロ不味い穀物ごちゃ混ぜスープをパクパクと食べていると、対面に座るアギトが大きなため息をついた。

 

「……やっぱ俺たちくらいのガキだとどこも雇ってくれねえな」

「そりゃそうでしょう。お金が必要なの? アギト」

 

 オレがそう尋ねるとアギトはどこかバツの悪いような顔をしながら小さく頷く。

 なにか欲しいものでもあるのだろうか。

 

 衣食住のすべてはそろっているものの、基本的に孤児たちにお小遣いはない。そのため、本当に必要なものはシスターたちに頼むか、孤児院外で労働をしてお金を稼ぐ必要があった。

 

「なら、シスタークロエに頼んでみれば? お金は無理かもだけど、ほんとに必要なものなら買ってくれるかも」

「それじゃ意味ねえんだよ。自分で手に入れねえと」

「なにそれ。わけわかんない」

 

 アギトの言葉に首を傾げると、オレはぼそぼそとした不味いパンを口の中に放り込む。

 

 固くて、味もなくて、本当に不味い。

 

 これしかないのでしょうがないが、たまには美味いものも食べたい。

 

 ふむ。…………美味いもの、か。

 

「お金が欲しいならさ。今度のバザーでクッキー焼いてみたら?」

「く、クッキー……?」

 

 オレの提案にアギトは目を丸くする。

 

 そんなんで金が稼げたら苦労しないとでも言いたげな目だ。

 

「いや、無理だろ。オレの作ったクッキーなんて売れるかよ。第一材料だって……」

「あるじゃない。ここに」

「は? ……それパンじゃん」

 

 オレがいつも食事に出されるゲロ不味いパンを見せるとアギトは訝し気な気な表情でこちらを見る。だが、このときのオレにはすでに勝算があった。

 

 美味いものに飢えているのはオレたちだけではないのだ。

 

「はい。ここでおバカなアギトくんに問題です」

「誰が馬鹿だ」

「パンは何でできてるでしょうか?」

「……小麦粉?」

「正解。じゃあクッキーは?」

「えっと、あ、小麦粉か……」

「大正解。同じ材料でできてるんだから、このパンでクッキーも作れそうな気がしない?」

「言われてみると……たしかに」

 

 前世で大学生だったころに、金がなさすぎて賞味期限切れの食パンでクッキーのような何かを作って飢えをしのいでいたときの記憶を思い出す。あの時の経験を応用すれば、クッキーは作れないまでもクッキーのような何かを作ることも可能であろう。

 

「というわけで、今日からしばらくパン食べるの禁止ね。アギト」

「えぇ! なんだよそれ!」

 

 オレの言葉にアギトはぶーぶーと不満を述べたが「お金欲しくないの?」とのオレの一言でぐぬぬ……と押し黙った。こうしてオレたちはしばらくのあいだパンを食べずに手元に残す生活をすることになった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 アギトにパン禁止令を出して一週間が過ぎた。

 

 途中で挫折するかと思ったが、意外にも本気でお金が欲しかったのか、アギトはオレの言いつけを守っており、7日×3食×2人=42個という、オレとアギトで合わせて42個ものパンが手元に残った。

 

 これだけあれば十分な小麦粉を用意できそうである。

 ちなみに賞味期限とかいう細かい話はなしだ。

 

 いまは戦時だからな。

 口の中に入るものは全部食べ物なのである。

 

 深夜。皆が寝静まったころを見計らって布団の中で作業する。

 食堂でこっそりくすねてきた鉄皿の上に、ちまちまとパンをちぎって積み上げる。

 すると、思った通り小麦粉っぽい何かがたくさんできあがった。

 

 ぼそぼそと乾燥して不味かったパンだが、乾燥していたのが逆に良かったのかもしれない。

 

「これでほんとにクッキー作れるのか?」

「もちろん。リーシャお姉ちゃんに任せなさい」

「俺のほうが年上なんだけど……まあいいや」

 

 ──翌日。

 

「あらリーシャどうしたの?」

「あの、厨房を借りたいんですけど……」

「なにかお料理を作りたいのかしら。でもごめんね。厨房を使えるのは12歳からなの」

「そこをなんとか……──お願い(・・・)できませんか?」

「……そうね。今回だけね」

 

 労働の後にオレは、シスターの一人に頼み込んで厨房のピザ窯を借りることに成功した。孤児院のルールから、本来なら間違いなく貸してくれないだろうが、オレが真祖の力を少し使って強制催眠(ゲッシュ)をかけたので、難なく借りることができた。

 

 このときちょうど、シスタークロエが出張中だったのも運がよかった。

 

 多少の魔力を使ったところで、この孤児院の中でシスタークロエの他にオレの魔力を感じ取って正体を見破れるやつなどいるはずもないからな。

 

「すげえな。ほんとに貸してくれたよ。どんなマジック使ったんだ?」

「さあ? 私が可愛いからじゃない?」

「うわ。ナルシストだ」

 

 うるさいな。

 可愛いのは事実だろ。

 

「シスターリリア、人が来たら教えてくれませんか? 私たちすぐにどくので」

「……ええ。わかったわ」

 

 催眠をかけたシスターの一人に見張りをさせて、オレとアギトは厨房に入る。

 

 そしてパンをほぐして作った大量の小麦粉と、市場でもらってきた少量のバターや牛乳、卵と砂糖などの食材をどさりとテーブルに置いた。ちなみに、もらう、といっても先程のように催眠をかけてくすねてきただけなのだが。

 

「他の食材もこんなにあるのか。これ全部リーシャが?」

「ええ。市場で余ってるのありませんかって聞いたらくれたわ。大切に使わないとね」

 

 ちなみに催眠を使えば小麦粉の調達も容易だったが、そこまでするとアギトの役割がほとんどなくなってしまうので、小麦粉までは用意しなかった。アギトに花をもたせようって魂胆だ。

 

「さあ。時間もないしさっさと始めるよ」

 

 オレはそう言うとクッキーの制作に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

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