エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。 作:サボテニウム
季節は過ぎ12月になった。
この日、珍しく孤児院に新たな仲間が来ると聞いて講堂に集められたオレたち孤児は、朝っぱらから別に聞きたくもない新人の自己紹介を聞くはめになった。
大きなあくびをしながら列に並ぶ。
オレはというと、ここ最近は夜に孤児院を抜け出していろいろと工作活動をしているから滅茶苦茶眠かった。本来吸血鬼の必要睡眠時間は人間と比べて短いが、それでも一日2-3時間ほどの睡眠は必要なので連日の徹夜は流石にきついのである。
具体的にどんなことをしてるかって?
それは秘密だよ☆
「はじめまして。僕は
来ている洋服からして明らかにオレたちのものとは異なる、いいとこの坊ちゃんっぽい美少年が、ぶっきらぼうにそう挨拶する。彼の自己紹介を聞いて、思わずピクリと身体が反応した。
──氷室隗
オレはこいつを知っている。
『
そして、物語の中盤で誰よりも先に『蠅の王』の正体を掴んだものの、結局何者かに殺されちゃうという中々可哀想な人物だったりする。まあ作中では明言されてなかったが、その殺した人物ってきっとリーシャだよな。立場的に考えて。
うーん……ちょっと罪悪感。
ちなみに原作ではアギトやオレとは10歳からの付き合い……と書かれていたはずだが、なんか早くないか? オレの8歳の誕生日が今月の24日だぞ?
「カイくん。好きなこととか、みんなと何をして遊びたいとか、他に言いたいことはないかな?」
他者を突き放す不愛想なカイの自己紹介に何か思うところがあったのか、シスターリリアが優しく諭すようにそう言うと、彼は生意気にも「はぁ」と小さくため息をついた。
「ありません。父さんは生きているので。……ここにいるのも、父さんが帰ってくるまでのしばらくのあいだだけです」
そう言ってカイは自身の袖をぎゅっと掴む。
あー……。
いまのこいつの言葉で思い出した。
確かカイの父親は『十三戦鬼』の一人で、トウキョウからフランスのパリに援軍に行ったっきり行方不明になったんだっけ。もともと母親のいないこいつは、その影響で孤児になりこの孤児院に来た……という設定だったはず。
ベリアルのパリへの進軍が早まったせいで、原作より早くここに来ちゃったわけね。
なるほど。理解した。
「なあリーシャ。あいつ生意気じゃね?」
「そう? アギトほどじゃないと思うけど」
「なんだよ……あいつの肩持つのかよ」
「別にそういうわけじゃないけど」
「あーはいはい。女は顔の良い男が好きだもんなー」
「うわ……拗ねないでよ。めんどくさい」
「ば、ばっか! べつに拗ねてなんかねーし!」
「……耳元で大きな声出すのやめて」
「アギト、リーシャ。随分楽しそうね」
横に整列するアギトとひそひそとそんなことを話しているとシスターリリアと目が合った。
顔を見るとぴくぴくと眉を震わせている。
珍しく怒っているようだ。
「そんなにカイくんの自己紹介が楽しいのなら、この子の面倒はあなたたちに任せようかしら。……ええ、ふたりともちょうど同い年だしそれがいいわね」
「「は?」」
シスターリリアは名案だとばかりに何度もしきりに頷くと、こちらの意志は無視して、カイの面倒をオレとアギトに押し付けてきた。カイの自己紹介が終わり、他の孤児たちがぞろぞろと今日の仕事に向かう中、オレたちだけは講堂に残されてカイと3人だけになる。
どうやらこいつに孤児院内を案内しろということらしい。
(だりぃー……)
オレは心の中で本日最大級のため息をついた。
「うわ、このロボット野郎の案内かよ。ついてねえぜ」
「こらアギト。失礼でしょ」
「いてっ」
ロボットとは確かに言いえて妙だな。
そう思いながらもアギトの頭を小突く。
確かにアギトとは別ベクトルでむかつくガキだが、親を失ってこの孤児院に来ることになった可哀想なやつでもあるんだよな。ここは慈愛の心を持って接してやるとしよう。
顔だけなら女の子みたいで可愛いしな。
話してみたら実はいい奴かもしれないし。
相手のことをよく知らないのに嫌うのはダメだ。
「よろしくねカイ。私はリーシャ。聞いたと思うけど私たち同い年なの。何かわからないことや困ったことがあったら──」
「──興味ないよ。君たちのことなんか」
「え?」
「どうせ僕は父さんが戻ってきたらここから出ていくんだ。名前を覚えるだけ無駄さ。お互いに」
「そ、そっかー……」
前言撤回。
やっぱこいつ、嫌いだ。