エロゲのヒロインに転生したんだが、もうオレは限界かもしれない。 作:サボテニウム
クリスマスを一週間後に控えたある日のこと。
「そこの飾りつけは赤でお願いします。ええ、装飾をつけるのも忘れずに」
「ケーキの発注は済ませましたか? 滞りなくお願いしますね」
「あ、それとプレゼントの手配も人数分お願いします。え? プレゼントを選ぶ際の注意ですか? 平等に。決して子どもたちのあいだで不公平がないようにお願いします」
シスタークロエのもとに、多くのシスターたちが指示を受けに長蛇の列をつくる。
ここ、セントテレジア孤児院がカトリック系の孤児院だということもあってか、いつにも増して孤児院内は煌びやかな装飾で彩られていた。
もちろん前世であるようなきらきら光るイルミネーションなどはなかったが、折り紙で作ったサンタクロースや、その辺のモミの木を切り倒してきたであろうクリスマスツリーなどを見るに、シスターたちがクリスマスにかける意気込みは並々のものではないということが一目でわかった。
ここでは正月がないからな。
一年の贅沢をこのクリスマスに全振りしているようだった。
「うお、すげえなこりゃ」
隣にいるアギトがぼけっとアホ面を晒しながらそんなことを言う。
アギトの感想は年相応に稚拙だが、的を射ていると思う。
これまでの孤児院での極貧生活からしたら、確かにこりゃ「すげえ」という他ない。
ケチだケチだと思っていたが、まさかクリスマスに本気を出してくるとは。
一年の余った予算のすべてをこの行事につぎ込むつもりか……?
なんて勘ぐってしまうぞ。
「シスターたちもやる気満々だねえ。クリスマスにこんなに頑張る余裕があるのなら、毎日の食事をもう少しマシにしてくれるほうがこっちとしてはありがたいんだけどなー……」
「なんか今年は政庁のお偉いさんが見にくるらしいぜ。
「へ?
討魔師がくる、と聞いて思わず背中を汗が伝う。
も、もしやこのあいだ魔力を使った件が漏れたのか?
「さあ。そこまでは知らねーけど、シスタークロエの関係じゃないか?」
なんだ。どうやら違うようだ。
……シスタークロエの関係か。
シスタークロエは若くしてこの孤児院で院長なんかをやっているが、もともとは
「もしかしたら十三戦鬼もくるかもな。俺サインもらっちゃおうかな」
なんてアギトは少し興奮したように語るが、こちらとしては御免被りたい。
いったい何が悲しくて敵方のボスたちと仲良く食事せなあかんのだ。
それこそ仲良くなって情でもわいたら、オレがいま立てているトウキョウ侵攻作戦の障害になりかねない。オレは一刻も早く討魔師協会の治めるトウキョウ政庁を陥落させ、ベリアル含めた他の真祖たちを牽制しなければばならないというのに……まったく迷惑な話だ。
「うー。誰来るのかなー。ちょっとわくわくしてきたぜ」
そんなことを言いながらどこか目を輝かせるアギトは、戦隊ものに憧れる年相応の少年のようにも見えた。この世界ではテレビもエリアごとの政庁が放送している国営放送しかないので、戦隊ものの番組なんてないだろうしな。……国営放送で聞こえてくる討魔師の活躍が、戦隊もののニチアサヒーローのような役割を果たしているのかもしれない。
……ま、その理屈で言えばオレは悪役なんですけどね。
悲しいことに。
「なあ、リーシャは十三戦鬼のなかで誰が一番カッコいいと思う? 俺はやっぱり、百目鬼さんだなー。あんな小さいのに、たった二本の刀だけで吸血鬼を圧倒するのはやっぱスゲーもんな!」
アギトの言う百目鬼とは、
小柄ながら作中でも相当上位の強さに君臨する青年剣士。
物語後半、華麗な二刀流でアギトを補助し、二人で力を合わせてあのベルゼブブの右手を切り落とすんだもんな。そりゃ強いわ…………っておい。オレの右手落とされちゃうのかよ。
こえーよ百目鬼。
16歳のリーシャの右手を切り落とすくらいだ。いまのリーシャの身体で戦ったら、シスタークロエとのコンビネーション次第ではワンチャン負けるかもしれない。
……マジでクリスマスには来ないで欲しい。