神戦のオリュンポス β   作:田芥子慧悟

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第五節 等級と賜布

 巨人は風を圧縮し、それを光線のごとく放射する。

 3人はこれをかわして、

「「「アケレラ!」」」

同時に飛び出す。シルヴァ、アクアは短剣を構え、キトルスは聖魔力を拳に纏める。

 狙いは両脚、まず巨人の動きを奪わんとする。

 しかし、巨人が十の腕で地面を叩いた瞬間、強風が吹き上げる。

 風に弄ばれながら、シルヴァとアクアは

「「テオスグロスィヤ!」」

短剣を拳で叩いて撃ち込み、

「フロガスフェラ!」

「ヒュドルスフェラ!」

と火球水球を追わせる。

 剣と水球は風の盾をも貫いた。

 巨人は一方の剣の一撃を許容、もう一方を手に取り、水球を叩き落とした。

 さらに、十腕を反りその手に風を集める。その腕が前に出るとともに、風塊は投げられた。

 十の風塊は辺りを吹き飛ばす。

 

 「■■■■……■■■■■■■■……」

そこへ思わぬ助っ人が入る。

 空から聞こえたのはあの人型疑似怪異(アウトマトス)の発したのと同一の言語だ。

 上を見ると、有翼の疑似怪異(アウトマトス)が数十体飛んでいた。

 その数十の有翼型から一斉に雷電の槍が放たれて、巨人の体に吸い込まれるように推進する。

 十本の腕と風の力を以てしても、これだけの数は捌ききれないようだ。

 風塊で相殺された数割を除き、すべての槍が巨人を穿つ。

 「■■■■……■■…!」 

有翼型は次なる雷槍の準備を始めたが、巨人の十腕から放たれた風の圧線で一掃される。

 

 その隙に、3人は巨人の懐へ。

 先の風塊で砕けた木の残骸を、

「ディストルテルム!」

と唱えて、シルヴァが片足を突く。それは纏う破力により深く潜り込む。

 「フォルマメモリア!」

そして、キトルスは手で触れる。残骸は元の木の形へ。輝く木は巨人の脚の肉に割り込んで現れたかと思うと、砕け散った。

 3人の策で脚が消し飛び、巨人は横へ倒された。

 シルヴァは残骸片手に、アクア、キトルスと横たわる巨躯の上に飛び乗る。

 狙うは心臓、その音をキトルスは脚で感じ取り、

「ここだ」

と指し示す。

「ディストルテルム!」

すぐさま、シルヴァが残骸を突き刺した。

 「フォルマメモリア!」

キトルスの詠唱とともに輝く木が胸部ごと心臓を吹き飛ばした。

 

 しかし、グラリ……とその巨躯が不気味に揺れる。

 「嘘……心臓を失ってもまだ動けるの……?」

初めに言ったのはアクアだった。

 揺れは繰り返し、振れ幅はその度に増す。

 やがて、最大に達するとその勢いで天地は逆転する。

 3人は強制的に地面に振り落とされる。巨人は8本の腕で体を支える形となり、続いてキトルスを捕まえた。

 「くっ…あっ……」

キトルスは圧迫されて上手く声が出せない。アクアは木の残骸を拾って飛び、彼女を掴む腕に当てて、

「テオスグロスィヤ!」

釘を打つ要領でそこに突き刺した。

 キトルスは胸の痛みに苦しみながら、何とかそれに触れ、

「フォルマ…メモリ……ア……」

木で腕を落として、拘束を解く。

 彼女は押し込められていた空気を一気に吐いて、立ち上がった。

 

 「伏せてなさい!」

後ろから聞き覚えのある声が聞こえたのはその時だった。

 3人が伏せると、その瞬間、頭上を極大の光が通過する。

 その光は巨人の頭を貫き、槍に姿を戻す。

 後ろから現れたアテナはその槍を掴み、

「心臓を穿っても死なないのなら身体ごと消してしまえばいいのです」

と言う。

 次の瞬間、数多の閃光が巨人の身体のあちらこちらを貫く。

「す、すごい……」

とシルヴァは思わず洩らす。

 そのわずか数分後。言葉通り、巨人の身体は消し飛ばされた。

 神の槍捌きはまさに規格外の業だった。

 

 「本来、選別に介入するのはあってはならないことなのですけど、今回は特例です。疑似怪異(アウトマトス)がやられてしまったときはあなたたちが殺されてしまうのではないかと心配したのですが、無事で良かったです」

アテナは降りてきて、3人に微笑みかける。

「無事って……。鏡域内で殺されても無傷で返されるのでは?それとも、贔屓してでも私たちを突破させたいのですか?」

アクアが聞くと、

「いいえ、さっきも言いましたがこれは特例中の特例です。侵入者たるあの巨人の排除は二次選別の結果に影響するものではありません。それに、その理屈が通じるのは疑似怪異(アウトマトス)のみです。あの巨人に殺されれば、それは正真正銘、死なのですよ。だから、決闘を禁止したのです」

「なるほど……」

アクアはすべて腑に落ちて頷いた。

 「それにしても、なぜ鏡域なんかに侵入したのでしょうか?そもそも、部分的とは言え並の力では神造の鏡域に割り込んで鏡域を展開するなど不可能なはずなのですが……」

さらに、アテナは言った。

「学園には優れた魔術使いが何人もいるんですよね?ゼウス様はもちろん、ヘルメス様だったりメディアさんだったり」

とシルヴァ。

「その通りです。まぁ、皆さんが無事であれば私はそれでいいのですけど」

そうアテナは返すが、やはり少し気になる様子だ。

 「では、この二次選別。頑張って生き残ってくださいね。勝者となって再び相見えることを祈っております」

だが、これ以上、ここに留まる必要はない。特例で干渉しただから、その片が付いたのならすぐにここを出るべきだ。アテナはその場に扉を展開し、元の世界へ帰還した。

 

 その後、結局、3人は必勝法に頼らず二次選別を通過する。荒らされた敷地に籠城できる場所は1つとなかった

 倒した疑似怪異(アウトマトス)は数十体。

 そして、この二次選別で数はざっと三分の一ぐらいが消えたようだ。

 「皆さん、選抜通過おめでとうございます。あなた方は学園へ迎え入れましょう」

まず、残り三分の二の合格者に祝辞があり、

 「なお、等級付与のため皆さんには魔体測定(メトロン)をしていただきます」

と言って、シルヴァたちを競技場の地下に案内した。

 

 そこには巨大な結晶が3つ置かれてある。

 「目を瞑り、この石にしばらく触れてください。測定完了時、私が合図を出すので、それまで手は離さないで。石は3つしかないので、三列に並んでもらいましょう」

合格者たちはアテナの指示に従って三列になる。

 前の人の魔体測定(メトロン)が終わると、アテナに促されシルヴァも巨石に手をあてた。

 その瞬間、彼女の意識が石に吸い込まれるような感覚を覚える。その中で、魔力や聖魔力とは異なる力に体が満たされるのを感じた。

 「もういいですよ」

アテナの言葉が聞こえると、その不思議な感覚が消えて現実へ戻される。

 「これで魔体測定(メトロン)は終わりです。そちらで、等級の発表を待ってください」 

そう言われて、シルヴァは壁に寄る。

 その後にアクア、キトルスと続いた。

 

 そして、等級が発表された。

 新入生の等級は任務(エルゴン)の代替として一次二次両選別での総加点と魔体測定(メトロン)の結果を総合して決まる。

 「私、γ(ガンマ)だったわ」

とシルヴァ。 

「私はβ(ベータ)だ」

「私も。シルヴァちゃん凄い!」

とキトルス、アクアは言う。

「γ級の新入生は久しぶりですね。γ級は生徒の約15%、上から四番目になります」

とそれを聞いていなアテナもシルヴァを讃美した。

 「それでは階級に応じた色のヒュマティオンとフィブラを授けます」

そう言って手渡されたのは鮮やかな色の外套である。アクアとキトルスは碧だが、シルヴァは黒。付属した黄金の留め具には鷲と牡牛のレリーフが施されていた。

 「キトン、ベルト、サンダルは後日、お越しいただいた時にお渡します。ベルトの染色やリボンへの変更、付属品の追加など可能な限りは受付けますがどうしますか?」

とアテナが言うので、3人は揃ってベルトを金色に染めるよう頼んでみる。

 アテナは快く受諾した。

 

 3人はヒュマティオンと留め具だけを持って学園を去る。

 シルヴァとアクアは戦車(チャリオット)を呼んであの場所へ、キトルスはオリュンポス山麓の森の奥へ。

 見上げた空は美しい茜色に染まっていた。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 「そうか。例のものの保管場所は鏡界でなかったか……。いや、別に気にしなくてよい。当てはまだあるのだろう?そのまま、調査を続けよ」

冥界の奥深く。ヘラは内通者からの知らせにそう告げた。

 「主神派保有の開闢体はかなりあるはず。だとすらば、かなり体積がある。オリュンポスの鏡界は広大で滅多に人を入れぬと言うから、もしやとは思ったが見当違いだったな……」

交信の後、ヘラは当てか外れて嘆息したが、口角はすぐ上がる。

 「まあ、いい。覚悟しなさい、ゼウス。貴様がブツをどこに隠しておろうと確実に見つ出し、全て余の手中に収めてやる。混沌(カオス)は余が完成させる」

彼女は天井を見上げ、憎き愚弟、ゼウスを思い起こして野望を掲げた。

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