神戦のオリュンポス β   作:田芥子慧悟

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第六節 入学の儀

  選別から数日。

 入学者の証たるヒュマティオンとフィブラを持って、シルヴァとアクアは再び学園を訪れた。

 「シルヴァ、アクア!」

階段を上っていると、後ろから聞き覚えるのある声で呼ばれる。

 振り向くとキトルスがいる。出会って間もないが、3人は戦友としてではなく、友人としての絆が生まれつつ合った。

 係の精霊(ニュンペ)たちから3人は学服を受け取った。純白のキトン、黄金のベルト、そして、銅色のサンダル。ヒュマティオンを除いて、全てお揃いだ。

 それを両手に、3人は舎内の更衣室へ入る。

 

 巻いたキトンの上端を折り、二点をフィブラで留めて、腰をベルトで縛る。その上からヒュマティオンを肩掛けにし、サンダルを履いた。

 それから、人の流れに従って闘技場前の広場に出る。選別の前、志願者が集まっていたのと同じ場所だ。

 そこにいたのはアテナやアレスではなく、主神派の頭にしてオリュンポス学園の理事長、神王ゼウスであった。後ろには教頭のヘルメスが控えている。

 

 「よく集まってくれた、新入生たちよ。君たちは二次にわたる選別を勝ち残り、見事入学資格を手にしてここにいる。アテナからもあっただろうが、学長の私からも称賛を贈ろう。強者たちよ、よくぞ来た!ようこそ、神霊教育機関オリュンポス学園へ!」

3m程の巨躯から放たれるゼウスの言葉が広場に響き渡った。

 瞬間、広場中に約150人の歓声が湧き上がる。

 神王ゼウスとは数々の英雄の父であり、彼自身も太古、巨神大戦(ティタノマキア)巨人大戦(ギガントマキア)と呼ばれる巨大な総力戦でオリュンポスを勝利に導いた英雄の一角と伝えられている。

 故に、その歓声は必然である。

 「静粛に!」

ゼウスの一言でそれも止む。彼は

「では、ヘルメス教頭より先生方の紹介をしてもらおう。ご存知の通り、私はゼウス、この学園の理事長である」

と最後に言うと、ヘルメスに替わった。

 

 ヘルメスは杖を前に突き立てて、こう言った。

 「ゼウス様からご紹介の通り、僕はヘルメだよ。この学校の教頭さ。これからよろしくね」

伝令の杖を通して声が届いた。

 直後、空気が変わる。

 ヘルメスの打算的で鼻にもつく性格は皆の知るところにある。アレス程でなくとも、彼だって相当嫌われる。

 ブーイングの嵐に加えて、「嘘つきの神」とか「たらしの神」とか、はたまた「オリュンポスの穢れた神」とか根も葉もない訳ではない野次が飛び交う。

 「う、ううう、うるさいぞ、愚か者ども!僕に喧嘩売ったらどうなるか……!ゼウス様が黙ってないぞ!」

ヘルメスは慌ててゼウスの方を向く。

 だが、助け船は出なかった。

 

 「黙ってる…だとっ!?」

ヘルメスは見限りに絶望する。

 「酷い扱いね、分かってたことだけど」

「いくらヘルメス様でも言いすぎだよね」

「仕方ない。ヘルメス様は悪名高い神様だからな。頑張れ、私は応援してる」

シルヴァ、アクア、キトルス。険悪の外側にいる3人だが、彼女らも彼女らでなかなか心のないことを言う。

 同情も今の彼には劇毒だ。

 「お前らもか!何の躊躇いもなく淡々と!嫌味で言ってる訳じゃなさそうなのがまた腹立つ!」

ヘルメスはますます憤怒と苦悶に打ちのめされた。

 「ヘルメス、いつまで待たせるつもりだ?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……、とだんだん空気が重くなる中、文字通り、ヘルメスのすぐ横を雷が落ちた。

 雷霆。最大出力は世界を壊しかねないゼウスの御業である。

 「は、はいぃっ!」

神とは不死の存在であるが、ヘルメスは初めて明確に死を間近に感じた。

 実際、雷霆であれば神の肉を焼き尽くすことは容易い。それはある意味、死と言えるのかもしれない。

 

 「魔法魔術学のメディアよ。よろしく。」

初めは黒装束の魔術師メディアだった。

 女帝派のヘカテを除いて、彼女以上に魔法魔術を教えるのに相応しい者はいない。

 「体術のヘラクレスだ。皆からはクレス先生と呼ばれている」

 次に筋骨隆々の強面と巨躯、半裸の半神ヘラクレス。

 一にネメアの獅子の退治。

 ニにレルネのヒュドラの退治。

 三にケリュケイアの鹿の捕獲。

 四にエリュマントスの猪の捕獲。

 五にアウゲイアスの畜舎の掃除。

 六にステュムパリデスの鳥の退治。

 七にクレタの牝牛の捕獲。

 八にディオメデスの馬の退治。

 九にヒュッポリテの帯の入手。

 十にゲリュオンの牛の奪取。

 十一に黄金の林檎の採取。

 十ニに冥界のケルベロスの捕獲。

 以上、エウリュステウスの課した十二の功業を見事に完遂した偉大な英雄。

 「選別の日に一度会いましたね。アテナです。剣術を教えます」

戦神アテナも出る。この前と同じものを身に纏っている。

 「俺はアレスだ。槍術を教える。安心しろ、機嫌さえ損ねなきゃ俺は何もしない。そして、槍を教える程度の頭脳なら俺にもある」

しっかり脅しながら、軍神アレスは言う。彼も選別の日と同じ鎧を身につけていて、整った亜麻色の短い髪は精悍な顔によく似合う。

 「私はアルテミス。弓術の教師をするわ。よろしくね」

そう名乗った処女神の長髪は青白く、エメラルドグリーンの瞳を持つ。黄金の装飾を施した特別なキトンを纏う彼女は、この場で一二を争う美女だ。

 「神話史学のムネモシュネよぉ。よろしくぅ」

カウェーブの入った長い黒髪。胸の谷間が剥き出しになった大胆な着こなしで、声色も相まってあまりに隙がありすぎる。

 「俺様はアポロン、そこのアルテミスの兄上さ。芸術を教えるぜ」

何やら軽い感じな彼は芸能神アポロン。緋色の髪はツンツンとして、装束は学園生によく似ている。ちなみに、オリオンの一件で妹にはとことん嫌われている。

 「天文学をお教えするセレネですわ。以後、お見知り置きを」

月の女神は白い服の所々に青い紐を巻きつけている。艶やな銀髪が夜月のように神妙に煌めいた。

 魔法魔術学、体術、剣術、槍術、弓術、神話史学、天文学、芸術。この八つがオリュンポス学園一年生に課される科目だ。

 課外活動の任務(エルゴン)も含め、第一学年は九の練成(ノナ・ソフィア)。オリュンポス学園は四年制を採用し、第二学年からはさらに三つ加わって十二の練成(ドデカ・ソフィア)となる。

 

 そんなこんなで式は執り行われた。

 「では、新入生諸君、さらばだ。君たち1人1人が我ら主神派の要となる日を楽しみにしている」

そう締めくくるとゼウスは背を向け、神々と魔術師を率いて闘技場を後にした。

 

 成長と陰謀うずまく、混沌の日々が始まる。

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