神戦のオリュンポス β   作:田芥子慧悟

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第一章 アクロマキア競技祭
第一節 志者たち


  災厄の日より1年。

 シルヴァとアクアは精霊の森(ニュンペ・ヒューレ)の場所から少し北、テッサリアの河のほとりで暮らしていた。

 聖魔力の補給がため、度々絡める舌と舌。

 2人はその内に惹かれあい、いつしか体を重ねるようになる。

 お互い、その恋慕がただの情とも思えなかったし、そんなことはどうでもいいことだった。

 媒介が新たに加わり、一度に得られる聖魔力も格段に増加した。

 

 選別の日の前日。2人の少女は月下でまぐわい、仲睦まじく眠りに落ちていく。

 

 

 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 月は下り、天に朝日が上る。

 シルヴァが身体を起こすと既にアクアは支度を始めていた。1つ口付けを交わして、彼女も急いで支度に入る。

 いよいよ、その日がやってきたのだ。

 

 2人は森の東の村落へ出る。

 村落は廃れた都市国家(ポリス)を遠くに仰ぎ見る、閑かな地。

 学園からの書によればオリュンポス山へはケンタウルスの戦車(チャリオット)に運ばれるのも可能なようだ。

 その羊皮紙とともに付いた木製の呼符(よびふ)戦車(チャリオット)の呼出と切符を兼ねる。

 「「エテレイン・メタフォーラ」」

2人は書に記された通りに唱えて、呼符へ聖魔力を流しこむ。

 すると、札は青に輝き、宙で(たま)を描くように激しく回る。

「綺麗……」

その美しさにアクアは思わずつぶやいた。

 

 珠は一条の光となり、空へと消える。

 数分で上空から戦車(チャリオット)が降りたった。

 「「「乗りたまえ」」」

馬身人身に鋼の鎧を被ったケンタウロスが声を揃えて言う。腰には鉄槍をそれぞれ一つ携えている。戦時は投擲で敵を迎えうつのだ。

 シルヴァ、アクアは会釈すると、一対二輪の荷台の飛び乗って、横並びに座る。それを見て中央のケンタウルスが指を鳴すと、彼女らの背からそれぞれ帯2枚が伸びて、十字に交差し身体をとめる。

 もう一度、そのケンタウルスが指を鳴らすと、次は荷台の結界が覆う。付与された風除けの結界である。

 

 「「「では、行こう。いざ、霊峰オリュンポスへっ!」」」

そして、ケンタウルスは揃って叫ぶ。ともに戦車(チャリオット)は浮き上がる。

「先に断っておくが、()()()()()()()()は保証する!」

と中央のケンタウルスは言いつつ、脇の2体に手で合図を送る。

 「()()は……?」

シルヴァは戸惑い、ケンタウルスの言を一部繰り返してみる。

 不穏な言葉だった。それはつまり、安全のみを保証して、その他全てを捨ておいているということ。

 考えれば、ふつう馬車に乗るのに拘束はされないし、オリュンポス山から来たなら何をして数分でここへ到着したのかも分からない。

 その答えが出る暇はなく、全て無理矢理に知らしめられた。

 

 「「「アプロソヌス」」」

ケンタウルスが唱えるなり、戦車(チャリオット)は激しく加速。砂埃を巻き上げ直進し、やがて飛びあがった。

 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 

シルヴァとアクアは甲高く叫ぶ。戦車(チャリオット)は亜音速で空を駆け抜ける。

 遺跡や農村を飛び、広大な平原を越えて、オリュンポス山麓の深い森の上に出る。

 オリュンポスの気高い山成はますます大きくなり、戦車(チャリオット)はその高度と速度を下げていく。

 やがて、学園に続く長階段の脇に着陸した。

 

 「「「ご利用、感謝する」」」

とケンタウルスは声を揃えて礼を言い、シルヴァ、アクアは降りると、乗ったときに同じく会釈をして、階段へ出る。

 上や下を見るに、既に約百の神霊が階段を上っていた。気配からして半神も何人かいる。人族と神霊は時折交わると聞くが、彼らもそうした生まれの子であろう。

 

 階段を三十段ほど上り、息絶え絶えで正門へ至る。

 門に扉はなく、石柱とそれを通す梁石のアーチのみがある。校舎は神殿と砦の混じったような造りで窓が陽光を反している。

 門を抜け、学園の者の案内に従い進むと、その先は五層の円形闘技場である。

 「これも上位神の方々が建てたのかしらね?」

「おそらくね。でも、シルヴァちゃん。ローマには人間が建てた円形闘技場があると聞いたことがあるよ。それも、かなり精巧な作りらしいし」

「へー。人間も結構やるのね」

「まあ、当然といえば当然だね。神様を祀る神殿を建てたのも人間だから」

闘技場を見上げながら、シルヴァとアクアはお喋りする。

 ローマ中央、コロッセウム。ローマ帝国期、ネロの黄金宮殿、その庭池跡地に建てられた同じく円形闘技場である。アクアは風の噂にその名を聞いたことがあるのだった。

  

 そして、時は九時となり校舎の方で鐘がなる。最終的に志者の数は約三百となっていた。

 しばらくして円形闘技場の第三層に影が1つ現れる。

 長い金髪に黄金の兜、裾の切れ込んだ巻衣の上はそこそこ浮き出た金の胸当て。右手には長槍を持ち、柄を床に立てている。

 その美しくも凛々しい佇まいはオリュンポス十二神が一柱、戦女神アテナである。

 

 「皆さん、よく来てくれましたね。さぁ、入学選別を始め……っ!」

アテナの言葉を遮るように、何かがぶつかる。長槍と巨戟が交わり、火花が散る。

 「アテナ!俺が選別官をすると言ったろ!真の軍神はこの俺だ!」

「アレス、あなたが選別官をすると秩序が乱れるのですよ。どうせ、余計なことをして無茶苦茶にするでしょう?」

巨戟を持つは軍神アレス。アテナが温厚の戦神であるのに対し、アレスは粗暴の戦神。言い換えるなら、と聖戦士と狂戦士である。

 ただ、その美貌は男の神々の中でも一二を争う。

 

 アレスは目に止まらぬ速さで戟を振り回し、次々柱が砕ける。それをアテナは難なくかわす。

 「黙れ!黙れ!黙れェッ!俺を侮辱すんじゃねェッ!おらぁッ!」

怒涛の三連撃。アテナは槍で全て受けると、続く第四撃、戟の切先が白く光る。連撃に怯んだところへの正確な斬撃。何とかアテナは受けるが、単純な力ではアレスが上である。

 アテナは槍から手を離して身を翻す。

(廃棄、だとっ……!?)

戟は槍を弾き飛ばし、刃が床に刺さって止まる。そこへ横からアテナの聖拳が殴り飛ばす。

 「ぎゃっ!?」

アレスは俯せに倒れ、動かなくなる。防御を捨て攻撃に聖力も魔力も極振りし、まともに拳を食らったのだ。

 「すみませんね、皆さん。では、改めて入学始まりで……」

「ぬァに勝った感出してやがる!?俺はまだ……ぐぎゃっ!?」

再び、アレスはアテナを遮る。

「分を弁えなさい、この阿呆。私を相手にあなたの勝算はありません」

アテナはいい加減、苛立って後頭を思いきり踏みつける。

  もっと仲良くしましょうよ。その場の誰もがそう思った。彼の嫌われようを知らぬ者からすれば、戦の神同士が不仲というのは不可解極まりないのだ。

 

 「すみません。改めて、入学選別開始を宣言します。まずは選別概要を説明しましょう」

三度目の正直。今度こそ、アテネは言い切り説明を始めんとした。

 だが、二度あることは三度あるとも言う。

 アレスは頭でアテナの足を跳ね返すと、近くに落ちた長槍に聖魔力を込めて、白い輝きをアテナの腹に向かわす。

 「う゛っ……!?」

丸腰のアテナにあるのは1つだけである。蹴ったのはアレスの股間。

 「さよなら……」

と、アテナは激痛に固まるアレスを淡々と突き落とし、彼は石床に激突して気を失った。

 半神の男らは皆青くなり、「あぁ、恐ろしや」とか「絶対、痛い」とか言う者もあった。

 気絶したアレスはアテナの合図でヘラクレスが運び出していった。

 「選別は実技形式です。一次と二次に分かれ、一次選別は一対一の『決闘』になります。皆さん、案内書の右上にアルファベットが記されていますね?それぞれ対応した門がありますので、そちらから入ってもらいます。その先で、剣・槍・弓のいずれかを手に取り、反対に置かれてある宝珠に触れてください。決闘場へ転移されます。2人揃った時点で審判の合図で決闘は開始します。勝者は二次選別に進みますが、敗者は不合格になります。なお、同じアルファベットの者同士で決闘者が決まります。また、二次選別の内容は一次選別合格者にのみ教えます」

 

 「ねぇ、アクアのは何?」

「私はΘ(シータ)よ。シルヴァちゃんは?」

「私はΛ(ラムダ)。良かった、私とアクアが戦うことはないみたいね」

「そうね。じゃぁ……」

「えぇ、じゃぁ……」

 安堵と激励からシルヴァとアクアは見合って、笑みを浮かべる。

 「「勝って会いましょ」」

と互いの武運を祈ると2人は人の流れに乗って、それぞれΘ(シータ)Λ(ラムダ)へ入っていった。

 

 「私もあの子もなぜああも争ってしまうのでしょう?本当はお互い仲良くしたいはずなのに」

各門へ消える志者を見ながらアテナは1人呟き、呆れてため息を零した。

 母は違えどアテナとアレスは姉弟、同じ戦神。睦まじくしたくとも、やはり互いの性根が許さないのかもしれなかった。

 

 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 

 

 ほぼ同じ頃、アレスが見るのは結界張る天井である。

 「ん……。どこだ、ここは?」

呟くと、

「学長室だよ、アレス殿」

ヘルメスは答え、脇にゼウスが屈む。

 「起きたか、アレス」

「ゼ、ゼウス様ッ!!!」

「良かった良かった。心配したんだぞ?」

動転するアレスにゼウスは微笑む。

 が、目は一切笑っていない。

 

 「あんたは嘘が下手なのかッ!?その目は何だッ!?その手にあるのは何だッ!?」

アレスは震えながら、ゼウスを指差す。彼の言う通り、その右手には双刃の雷爪が握られていた。

 「無論、雷霆だが?」

とゼウスは言ってそれを構えると、

「み、見ればわかるわ、そんなもん!てか、おい!やめろ!いや、止めて下さい!!頼みますから!!!」

「大丈夫だ、アレス。加減はするし、黒焦げになるだけで死にはせわ」

「大丈夫の意味ィッ!!!」

 何の躊躇もなく、雷霆は撃たれた。

 

ドガァァァァァッ!

 

 「ぎゃァァァァァァァァァァッ!!!!!」

 雷雨と断末魔。過去にも数度食らった雷撃に、やはりアレスは黒焦げとなる。

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