シルヴァは立てかけてある剣・槍・弓の中から剣を選ぶ。いずれも模造でなのには驚いた。
この決闘には命がかかっていることなのだろうか。
危惧はあったが、彼女は言われた通り、先に見える宝珠へ触れる。
「まぶしっ……!」
と、白い光に包まれる。シルヴァは思わず、右腕で両目を覆った。
やがて、光は収まり彼女は腕を下ろす。
そこは既に闘技場の中。どこにも光源はないが、十分明るい。そういう結界か何かがあるらしい。
場を囲む客席には数人が座っている。皆、体に一枚布を巻き、その上から外套を左肩から掛けている。どうやら、この学園の学生服のようだ。
さて、見渡していると相手も転移してきた。
淡い茶髪の彼女は谷精ナパイアで、右手に槍を持っている。
「あんた、名前は?私はレジーナだ」
谷精は誰何してくる。
「シルヴァよ」
と返すと、その谷精レジーナは
「そうか、シルヴァ。あまり弱いと楽しくないよ」
「そっくりそのままお返しするわ、レジーナ」
闘う前から2人は煽り、睨み合う。互いが互いの煽情に右手の力が強くなる。
「これより、一次選別『決闘』を開始いたします」
そこに審判の男が現れ、説明を続ける。
「どちらが一方が戦闘不能、あるいは降伏した時点でもう一方の勝利となります。なお、魔法及び、魔術の使用は自由。場内では蘇生が可能ですので、殺してしまっても構いません。勝者は二次選別『野戦』に進みます」
審判はそう言って、
「それでは……初めっ…!」
の声と同時に上げた手を振り下ろす。
「アケレラ!」
合図の瞬間に、シルヴァは床を蹴って一気に飛び出す。長物の槍相手では接近戦でもないと分が悪い。それ故、一瞬の内に距離をつめ、あわよくばそこで勝負を決めるのだ。
その策はレジーナに槍をあてる暇など与えない。
だが、すぐ間に合わないとレジーナは理解し、槍を手前に刺し立てる。剣の刃は金属製の柄に弾かれた。
さらに、レジーナはシルヴァを飛び越え、後ろを取る。そこから槍で心臓を狙う。
「テオポウス!」
シルヴァは槍がくる方向へ、蹴りを入れる。咄嗟にレジーナは槍で守るが、壁まで吹っ飛ばされた。
「やるね。じゃあ、今度はこっちからいかせてもらうよ!アケレラ!」
先手を取られたレジーナであったが、槍のみ届く距離に迫ると、怒涛の連続突きを繰り出す。さきのニ神程速くはないが、それでも躱すか受けるで手一杯である。
シルヴァはなす術なく後ろへ後ろへと追い込まれる。だが、その烈しい連撃は自身も苦しめる。長くは続かないのだ。
「クッソ……」
(動きが鈍くなった……?)
シルヴァにも槍術が乱れるのが見てとれた。次の突きを剣でいなし、一瞬の隙のレジーナの胸へ剣を突き出す。
レジーナは右に回ってかわし、左手に槍を持ちかえ、突きを入れる。
勢いは弱いが狙いは正確。急所に吸い込まれるようなその一撃をシルヴァは身体をくの字に曲げて何とかかわす。
つづいて、レジーナは右へ槍をずらす。槍先を魔力が纏う。
「ヒエロエンデ!」
「無駄だよ!ディストルテルム!」
唱え振り払うと、槍の魔力が破力に換わり破裂する。
だが、槍は肉を削がず、それどころか何か硬質なものに弾かれた。
ドガァッ!
それでも、シルヴァは右の壁へ吹っ飛ばされた。
だが、レジーナは今起きた現象にしばらく固まった。
なぜ、破力も纏った槍が弾かれたのか。すぐに答えは出ない。
レジーナは即考察を放棄、その壁の方へ槍を前に突進する。
が、槍が刺したのは血のついた壁のみである。
「いない?下…っか!」
レジーナが下を向くと、シルヴァと目が合う。
「ディストルテルム!」
シルヴァは下から破力の剣でレジーナの心臓を狙う。レジーナは体をそってかわし、槍を抜き退く。
「ディストルテルム!ディストルテルム!ディストルテルム!」
すぐさま、破力の槍で地を叩いては叩く。シルヴァは転がって全てかわし、隙を見つけて首跳ね起きで立つ。
「あんた、どうしてピンピンしてる?『ヒエロエンデ』ごときで『ディストルテルム』を防げるはずがない」
「ピンピンしているように見えるかしら?これでも、肋骨二本逝ってるのよ」
「それぐらいで済んでるのがあり得ないと言ってるんだ。あんた、一体何をした?」
「あぁ、そういうこと。『ヒエロエンデ』の硬質化に成功したよのよ。羊皮紙でも何度か折れば硬くなるでしょう?」
「即興改変……。そんなことがっ……!」
「あるのはちょっとした知恵だけよ。それを完全に活かせる程、私は塾達してない」
レジーナの問に、シルヴァは答えた。
そして、睨み合い、互いに飛び出して槍と剣を交える。シルヴァは剣を片手持ちから両手持ちに切り換え、思い切りレジーナの槍を振りほどく。
「ディストルテルム!」
そこへ破力纏う刺突を畳み掛ける。
「させん!」
レジーナは怯みつつも槍に魔力を纏わせ、思い切り投擲する。シルヴァは攻撃を中断、横に回ってかわす。槍は後方の壁に勢いよく突き刺さった。
「はぁっ!」
シルヴァは横から右斜め上へ剣を払う。レジーナは飛び退ってかわし、
「ヴォルテクス」
空中に拳を打つ。その衝撃波がシルヴァを叩く。
「ヴォルテクス」。四肢に数秒、空気塊を纏うレジーナの固有魔術である。それを二重の衝撃を生む重撃、撃ち出す飛撃などに応用している。
剣撃範囲外からの飛撃の乱打。空気塊は弾くことも斬ることも容易だが、勢いは消せずシルヴァは後ろへ押される。
「ヴォルテクスッ!」
最後、レジーナは渾身の飛撃を放つ。
「ディストルテルム!」
シルヴァは床に剣を突き刺し、吹っ飛ばされる勢いを殺す。
「アトラホ」
さらに、レジーナは手を翳す。放たれた魔力は槍に繋がり、それを引き寄せる。引く力は勢いよく、槍の切っ先がシルヴァの背を睨んだ。
シルヴァは寸前、横へ飛んでかわし、槍の柄を強く掴む。彼女は槍を介してレジーナの方へ引き寄せられた。
レジーナは引寄魔術を解くが、失われたのは槍を引く力のみである。槍の勢いはそのまま、シルヴァの勢いとなり、次は槍の方が彼女に引っ張られた。
あっという間に、レジーナの目の前へ。まずは残る勢いを全て乗せての槍。レジーナは肘で、シルヴァの掌を打つ。シルヴァは思わず、槍を離す。
だが、シルヴァには第二撃がある。体を大きく回して、回転斬りを繰り出す。
「ヴォルテクス!」
レジーナは右足に空気塊を纏い、床を強く踏みつける。空気は四方へ弾け、シルヴァを引き剥がす。
「ヴォルテクス」
レジーナはシルヴァが着地したところへ重撃を入れる。
「ぐぅっ……!?」
防御は間に合わず、その二重の打撃をまともに腹に食らう。肋は折れたままで、内臓へのダメージも大きい。
シルヴァは大した回復魔術の心得を持ち合わせていない。
奇跡の体現たる治癒は、単純な魔力変換による他の魔術より高度なイマジネーションを要するのだ。シルヴァと「エイド」で傷口を塞ぐ程度の知識はあるがこれだけの傷、そして、激しい動きを伴う格闘の最中ではすぐに傷口が開いてしまう。
シルヴァに激痛に堪えながら戦闘を続行する以外の選択肢はなかった。大事な人との約束を守るためにもシルヴァは勝たなくてはならない。
「痛みでまともに動けないんだろう!だからって降伏なんめできないな。だが、これで終わらせる!アクセラ!」
レジーナは槍を拾うと、右手に構えて床を蹴る。シルヴァはその場から動かない。
「ディストルテルム!」
シルヴァの目の前に来ると、レジーナは右腕を引き絞り、思いきり槍を突き出した。
「ヒエロエンデ」
シルヴァは魔力の鎧を纏った。
そして、槍は弾かれる。「ディストルテルム」の破力は刃との接触面が起点となる。何かと触れると破裂が生じるが、そこには一瞬のラグがある。
その隙を突かれた。破裂する前に槍は完全に弾かれる。
「お返しよ!グロスィヤ!」
怯んだレジーナの鳩尾へシルヴァは拳を打つ。そこへさらに、
「テオポウス!」
側頭への蹴り。
「どうして、私の槍が!硬質化っつっても、さっきは少し食い込んだだろ!」
「それは『ヒエロエンデ』の凝縮が足りなかったからよ。あなた、槍使いなら槍の弱点ぐらい知ってるでしょ?槍の刃は斬殺には向かない。だから、トドメは突きで来ると確信していたわ。付きなら守るのは一点だけでいい」
「『ヒエロエンデ』を一点に凝縮したことに成功したのか。だが、それにはかなりの集中がいるはずだ。一切の雑念も許さないほどに」
「そのために立ち止まったのよ」
そう言って、床を蹴る。
「クッソ…!おらぁっ!」
レジーナは槍を右へ払うが、シルヴァは跳んでかわして、
「テオポウス!」
「何っ…!?」
両足で柄を踏みつけて、さらに飛び上がる。
「属性魔術はまだ拙いけど……たくさん撃てば目眩ましにはなるわよ、ね!」
空中のシルヴァの周りに小さい火球が数十現れる。
「フロガスフェラ!」
「火属性魔術……!そんなもの、どこで覚えた!?」
撃ち出された火球をレジーナは槍で次々払い落とす。
「頭にこびり着いてるの。森を燃やす大火の光景がね。精霊の森《ニュンペ・ヒューレ》の一件、あなたも知ってるでしょ?」
「そうか。あんた、あの地獄の生き残りか……!」
「えぇ、そうよ。ディストルテルム!」
槍が振り下ろされたその瞬間、シルヴァは体を前に回してレジーナを頭から斬る。
「ヴォルテクス!」
だが、レジーナもこの程度で動きを止めるツマリはない。腹へ重撃を入れる。しかも、ただの重撃ではなく飛撃との合せ技である。
「テオポウス!」
見切ったシルヴァは剣をレジーナの左胸に投げる。そし、柄の底を蹴る。シルヴァは壁に叩きつけられたが、より深傷を負ったのはレジーナの方であった。
最後の蹴りで剣は左胸を貫通していた。斬撃痕からの出血もあって、レジーナは限界に達したのだ。
彼女は剣が突き刺さったまま、倒れ伏す。
「勝負あり。勝者、
審判はそう告げる。同時にもう1人の男が歩みより、レジーナに刺さった剣を引き抜いた。
それを見て、審判は指を鳴らす。
すると、みるみる内にレジーナの傷は癒され、それどころか流れ出た血さえ彼女の体内へ戻っていくように見えた。その間に、自身が負った傷も完治していた。
安心したシルヴァは、審判が差し出した宝珠に触れ、闘技場を後にする。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
そして、アクアもオレイアスのアクリを相手に、見事、勝利をおさめていた。
アクアは弓、アクリは剣。弓は上端に接近戦の不利解消のため、刃を施された特注品で、矢筒も12本しか詰まっていないように見えるが、常にその本数を維持できるよう魔法が付与されている。
しかし、弓とアクリとでは相性は最悪であった。彼女の固有魔術「プロイベーレ」は目標に定めた飛び道具を打ち消す術である。
現状、一度に定められる目標は3つだが、その対象には魔法魔術も含まれる。
「うぐぅ……!?」
アクリの腹に4本の矢が突き刺さる。
アクアは矢を射ったのではない。指の間に挟んで、アクリの腹を殴ったのだ。
「そっか。矢を射ってもきかないから、直接お見舞いしてやろうってこと………けど、弱点が1つ。背中がガラ空き!」
アクリは剣を振り下ろす。アクアはそれを弓についた刃で処理。そのまま、剣をはたき落として弓を放棄。
空いた右手にも4本の矢を挟み、両拳で再び腹を殴った。
それが決定打となって、アクリはついに倒れた。
審判によるアクアの勝利宣言、2人は完全回復し、アクアは宝珠に触れる。
その先でシルヴァと二次選別「野戦」の説明に耳を傾ける。