籠城を始めて約2、3時間が経った頃だった。
「アクア……。今日はたくさん使っちゃったし、そろそろ補給しておきたいの」
とシルヴァはアクアの手を握って言う。
「で、でも、キトルスちゃんがいるのに恥ずかしいよ」
「じゃ、着たままでしましょ。裸じゃなければ、少しはましでしょ。あと、教室の端でするのがいいわね」
頬を赤らめるアクアにシルヴァは提案する。
裸だとか、教室の端だとか、恥ずかしいだとかキトルスには全く意味が分からないが、ただ何を始めるのか興味をそそられた。
そして、2人は教室の端で
キトルスはその様子に釘付けとなり、しばらくあって一度目を逸らした。
しかし、興味が勝って、2人の戯れをついつい覗き見てしまう。
挙げ句、アクアに気付かれて彼女に恥ずかしい思いをさせる始末だった。
「シルヴァ。愛の形は人それぞれだが……その……試験中というのはちょっと場違いなんじゃないか?」
「仕方ないでしょ?こっちだって死活問題なの。まあ、そういう気持ちと半々だけどね。私はアクアの聖魔力がないと生きていけないんだから」
「ど、どういうことだ?」
「私の木、もうないの。命綱を失ったってこと。1年前のあの火災でね。それで、私はアクアの水の聖魔力を木属性に変えて何とか生き残ってるの。もちろん、あの子も良いって言ってくれているからやっているのよ」
「そうか。変なこと聞いてすまない」
「謝る程でもないわ。知らなかっただけだもの」
言われて、やっと合点がいった。
木と生死をともにする自らをその一部であると仮定し、水の聖魔力を注ぎ込み、木属性とすることで生き永らえる。ちょっとした魔力操作の応用だ。
話している内に、アクアは心を落ち着かせ、端から戻ってきた。大分褪せたが、頬はまだ赤い。
「この必勝法、皆に伝えたりできないかな。別に人数は決まってないんだし、蹴落とす必要なんてないよ」
彼女は真っ先に言う。
「優しいんだな、アクアは。それができるならそうしてもいいが、見てくれ」
そう言って指差したのは窓の方だった。
そこには待ち伏せるように羽ばたいている悪魔のような姿の
「それでも行くというなら止めはしないぞ。ここまで来て、そんなリスクを私は冒したくないってだけだ。だか、目の届く範囲でなら手助けをする。アクア、それが私のせめてもの気持ちだ」
とキトルスは言う。
「そっか。じゃあ、シルヴァちゃんは来てくれる?」
「ええ、アクアがいくなら私も。1人でなんて行かせないわ。その方がここで2人待つより得策だしね」
「シルヴァちゃん……」
安全な教室の中で三人組の解散が決まる。
と、その時だった。
突如、窓の外の
半球状に展開した無の空間のその中に、十腕の巨人が立っている。
やがて、景色は戻るが巨人という異物がその場に残されていた。
巨人はこちらに気付くと、頭を縦に裂いて、凶悪な口の奥から風の塊を解き放つ。
その塊はどういう訳か学舎の壁を吹き飛ばした。
「鏡域の外から来たってこと!?」
シルヴァは言った。先程の空間の変化、それがトリガーだと推し量る。
「それはマズいな。問答無用で鏡域内のものが壊されるぞ!」
キトルスはすぐに「グラヴィタス」を解除しバリケードを引き剥がした。
ドアを開けた瞬間、
そのまま、目の前の敵を斬りながら廊下を走り抜けるていると急に床が下がって足を取られる。
ゴゴゴゴゴゴ……!さらに、学舎そのものが後ろへ滑り出す。
「校舎を斬ったっての!?」
逃げ場がない。このままでは、瓦礫に押し潰されて不合格。シルヴァが学園に入りたい理由はもはやあの頃の憧れではない。復讐なのだ。森をあんな風にした倒すべき敵への復讐なのだ。憧れという諦めのつくものではなく、憎悪という心に深く沈んだ絶対の感情である。
「フロガスフェラ!」
シルヴァはまず火球で窓を砕く。
「行くわよ。生き残るにはあそこから出るしかない!生き残りましょ、3人で!」
とアクア、キトルスに強く言う。第一にシルヴァはアクアと一緒でないと意味がないし、徒党を組んだのだからキトルスもそれと同じだ。
2人は彼女に応える。
何とか窓にたどり着いて、そこから飛び出す。
だが、シルヴァたちがいたのは3階。
「掴まって、2人とも!」
言い出しっぺのシルヴァは言う。アクアとキトルスはすぐに彼女の腰に掴まり、シルヴァの方は足を壁まで伸ばして
「テオスポウス!」
聖魔力を装った足で2人ごと木に突っ込んだ。
その木がクッションとなって3人は軽傷で地面に降り立つ。
すぐに切られた学舎は崩れ、その奥にいた十腕巨人はこちらを向く。
3人にはあれがどれほどの力を有しているのかなど分かるはずもない。
だが、それでも倒す。平穏に二次選別を突破するにはそれしかないと理解した。