これは、普通の日常を望む少年と、召喚された悪魔の瞬く間の日常の話。
修正案がございましたらお願いします。
朝。空には薄雲がかかっている。
「ふあーァ……ぅン゙ん゙っ」
妙な声と共に起き上がり、伸びをする。日曜日なので、学校はない。
「ゥおはよぉ、アシュた……」
そして、隣で微笑んでいるであろう彼女へと挨拶をしようとして――気づく。
「……ああ、そうだっけな」
そう。彼女はもういない。自分達の本来いるべき世界へと、帰ってしまった。
「さて、今日もまたやるかー…。っと、その前に朝食だな。しばらくやって無かったから…。未だに慣れねぇや」
切り替えるために、少年は一度全身に魔力を巡らす。
――少年は、魔術師であった。
――――――――――――――――――――――――
この世には、魔術が存在する。世界各地の伝承・神話を核とし、魔力を以て神代へと回帰する。物理学というこの世の法典を外れた、超常をもたらす外典の法。
魔術師は時に陰に潜み、時に白日のもとに力を行使する。その力は、いつしか大衆の畏怖と羨望の的となっていた。
そんな魔術師の少年、島津景。彼は―――――
才能が無かった。
否、【
魔術には、それぞれ主軸となる伝承、
そして、
だが彼は、最も重要な神秘枢と属性の整合性が取れていなかった。彼の
即ち、彼の
……だが、その護りすら、神は奪っていった。
中学2年生の秋、即ち2年前。家族旅行の途中、車で信号待ちをしていた両親と景の3人は、すぐ隣のビルで行われていた大規模な魔術の実験の失敗に巻き込まれた。
そこからは酷かった。
「やめてよ!」
「うるせぇ!無能が喋んな!!」
「はッ!雑魚がよ!かわいそーだから俺らでしゅぎょーにつき合ってやるよ!!」
両親という守護を失った彼は親戚から寄って
いじめの方法が陰湿かつ狡猾な為に、教師も対応が出来ず、
「キモッ」「死ねよ」「ざーこ」「カス術師」「寄るな!」「穢れる!」「カスが
その
誰も助けてくれない。
彼自身も周囲を拒絶し、助けられようとしない。次第に人も離れていく。
そんな状況で、彼は、周りに失望された魔術の鍛錬だけは、決してやめようとはしなかった。まるで、周囲を拒絶するための針を研ぎ澄ますように。まるで、自分を研鑽することで現実から逃避するように。
肉体を鍛えた。術式を鍛えた。術式の処理能力を鍛えた。あらゆる技巧を、技術を鍛えた。果たしてその努力は、確かに彼の力となった。同時に、自らの限界を視てしまった。そして―――
「もう…いいや。飽きた。つまんねえ」
――――プツン。と、何かが切れる音がした。
――――――――――――――――――――――――
「―――礎に血肉の贄、代償に肉無しの魄。今、杯に契りを注ぐ。」
そして、彼は魔術の秘奥にして禁忌、《悪魔召喚》に手を出した。
「満ち満ちよ、溢れ出よ。其の力にて主の御名を穢す。」
彼の
「冒涜者の冠を戴き、邪悪の三叉路を巡り、唯物論の王国を築け。」
その力は、持っているだけで、最高レベルの悪魔であるソロモン72柱の(完璧では無いにせよ)使役を可能とする程。
「基盤を砕き、美を破り、知恵を否定し、理解を拒み、炎の剣にて慈悲を刺す。」
「血よ、我が誓約に応えよ。敵対者へと門を開き、されど
《悪魔召喚》。その形態には、【請願契約】と【使役契約】が存在する。
彼が今行なっているのは【請願契約】。死後の魂を代償に悪魔に願いを叶えさせる。
「告げる。我は色欲にて勝利を食み、偽りなる栄華を貪る者。我が名、我が意に従い、其の契約を是すならば、我が魂は汝の下に。」
本来は召喚する悪魔の真名とその紋章が必要だが、彼はそれをしなかった。
もう、全てがどうでもよくなったからだ。最早、誰が呼ばれようと、どんな力を持っていようと、どんな性格であろうと、どうでもよかった。
「世の
立ちこめる禍々しい霧が、召喚陣へと
「汝、その絶なる
「ソロモン72柱、序列29位。
一人の女悪魔が
―――――――――――――――――――――――――
天使が顕現した。
それが景の第一印象だった。
『綺麗』というよりも『可愛らしい』という表現の似合うタレ目の童顔。
牙のように鋭利な犬歯が口から覗き、前頭部からは王冠を為すように組まれ上へと伸びる
紫紺の瞳には
そして、その肢体は黄金比を思わせる完璧な均整を保っていた。
きっと、彼女の容姿を嫌いになりきれる人間などいないのだろう。そう思わせる程の美貌が、彼女には備わっていて。
「あっ、あー…えーっと、真名なんて言っちまっていいのか?」
その美貌に当てられた景には、そんな変な台詞を吐くことしか出来なかった。
「え?
「え?」
「え?」
当たり前の反応である。まさか、「命は投げ捨てるもの」とばかりにやけっぱちで召喚術式を起動したなど、初対面で分かれという方が酷な話だ。
「あー……うん。なんかすまん」
「そうですね。呼ばれてみれば別に
「……すみませんでした…」
「全くです」
景は謝らざるを得なかった。悪魔側にしてみれば、呼ばれて応えて出てきてみれば召喚したはずの人に「誰だテメェ」扱いだ。怒られて然るべき行為だろう。
「まぁ、いいです。赦しましょう。何か事情があったのでしょう?」
だが、彼女は怒らなかった。慈愛を湛えた笑みで、彼を許した。
「女神か……」
「え?今なんと!?」
「うぇ!?いや、なんでもねぇ!」
何故か女神に食いつくアシュタレス。結構耳が良いらしい。
「むー……しかしなんでしょうか。普段より力が漲っているような気が……。少し陣を見せて頂いても?」
「いいぞ」
「そこをなんとk…??いいんですか?!」
「だからいいぞってば」
自分の術式は可能な限り秘匿するモノ。あっさりと承諾した景に、彼女は肩透かしを食らった気分だった。
「えぇ…では少々失礼致します。ふむぅ……」
そう断って召喚陣を解析するアシュタレス。そしてすぐに、その表情は戸惑いと呆れに彩られることとなった。
「えぇぇ…なんですかこれぇ…。式の根本はレメゲトンのもの、しかし大半が東洋型の属性で構成されている……。八卦炉の原理は使われていない。が、四象の術式は存在し、五行巴炉の術式もある……。まさか、【合祀型】…!?ぐっちゃぐちゃじゃないですか……」
呆れ返るアシュタレス。西洋型の魔術体系に東洋型の魔術属性をミックスして召喚術式の陣を構築しているのだから当然であろう。
「でも、それなら普通は起動すら不可能なはず…。何故こうまで力が漲っているのか……。もしかして、いやでも
「んん!えーっと、もういいか?」
「ひぅィ!はぃ、だぃじょぅぶです…」
「ビビりすぎだろ…」
解析に没頭しすぎて周りが見えなくなっていたらしい。彼女、なかなかに研究者気質だ。
「ふひぇ……もう大丈夫です、落ち着きましたので。それで、本題に入らせてください。悪魔召喚を行使したということは、何かしらの、『自力では叶わない願望』がある、ということですよね?」
…そうだ。悪魔を呼んだということは、自分だけでは到底叶いようもない願いがあるということ。彼も、元々そういうつもりで召喚したのだ。
「……あぁ」
「では
そして彼は、あろうことかその願いを「忘れた」と
「『忘れた』…ですか……!?呼んでおいて今更……!」
「あぁ、忘れた。
「承知致しました。では改めて、
「――契約者、島津景。悪魔アシュタレスにその心より
「その願い、承りました。履行に移ります。……って、え?なんですかそのめちゃくちゃアバウトな願い。どういうことなのでしょうか?
「それは俺にも解らん。何せ、お前を見た瞬間に頭の中になんとなくパッ、と浮かんだ願いだからな」
「えぇぇ……。了解しました。明日の朝、方法を考えて術式を構築しておきます」
なんとまあ、彼女はこの漠然とした願いを叶える方法を自分で考えると言い出した。ポンコツかもしれない。
「?……おう、わかった。頼む、ぞ?」
そして翌朝、PM5:43。
「んぐぅあぁぁぁぁ…………ふぃぃ〜」
「おはようございます。
「んゎあ、おはy……ふぇァ?」
景が伸びをして起き上がると、隣にアシュタレスが待機していた。
「
「えっ、えと、その……術式を構築し始めた直後に、『救いや幸せの定義って人それぞれでは?』と気付いてしまって……。どうすればいいか分からなくなってしまったので、『何が救いか分からないのなら、
「oh……なんか、重ね重ねすまん…」
どうも彼女は、深夜テンションに任せて術式を構築したせいで、召喚者の景から離れられなくなってしまったらしい。やはりポンコツだった。
「謝る必要なんか無いんですよ…。妾が悪いのです……。ふふふ……所詮悪魔に堕ちる女神なんてそんなもんですよ……。ふっ、うふふふふふ……」
「やめろォ!なんか俺の方にダメージが入る!」
ついに自虐を始めてしまったアシュタレス。何もしていない景がいたたまれなくなってフォローに入る。
酷い状況である。
「と、とにかくだな!術式は発動させちまったんだろ?ならもう仕方ねぇじゃねーか。これからまた挽回すりゃいいだろ?」
「ばい……。とりあ゙えず朝ご飯を゙作りま゙すね……」
「あいよ。そろそろ泣きやめ。……ってかお前料理出来んの?」
「失敬な!妾だって料理の一つや二つや八つくらい出来ますよ!」
「おぉう、じゃあ頼むわ。……なんでそこで数飛んだ?」
「気にしたら負けです!」
どうやらちゃんと料理は出来るらしい。フンスと気合いを入れながら台所へ向かっていった。
「さーて、材料は〜、っとあら、予想以上に少ない……まぁなんとかなるでしょう」
「大丈夫かぁ……?」
不安がる景。彼女の料理は当然初めてであり、何が出てくるかわからないのだから。
「朝ですしあまり重いものは避けるべきですね。えーっと」
「良し、これで行きましょう」
「これとこれと……あっ!」
「無事かー?」
「危なかった…無事ですー」
「良し良し、順調ですn……みぎぃゃあぁぁぁぁぁーー!!?!??」
「おい、本当に大丈夫か!?物凄い音がしたぞ!」
「すびばぜん……。ゴキブリが出現したので咄嗟に魔術で塵になるまで切り刻んじゃいました……」
「何気にすげーことしてんな、おい」
「あとはこれで…出来ました!パエリアとポテトサラダです!」
「おいこら、朝ご飯は重いものはナシって自分で言っといてこれかよ」
出てきたのは豪華なスペイン料理であった。
「いいじゃないですか。味見もしましたから、不味くはないと思いますよ?それに、ほら、もう時間がありませんよ?」
言われて時計を見れば、現在時刻6時53分。27分以内に食べてしまわなければならない時分になっていた。
「お前が張り切ってパエリアなんか作るからだろうがァァァ!!!あぁクソ無駄に美味ぇのがなんか腹立つ!!」
急いでパエリアとポテサラを掻き込む景。味わっている時間は無かったが、それぞれの食材が見事に調和しているだけでなく、優しさを感じさせる味が彼の口の中に広がっていた。
「あぁ宿題ヨシ、ノートヨシ、教科書ヨシ!イクゾー!!!!」
「あっ、お待ちください!」
支度を終え家を出ようとする景を呼び止めるアシュタレス。苛立たしげに景が振り向くと、笑顔を湛えてお辞儀をしているアシュタレスが目に入った。
「行ってらっしゃいませ、
「っっ…!……あぁ、行ってきます」
―――――――――――――――――――――――――
それから、日常に色がついた。無味乾燥な世界が、ゆっくりと変わっていく。白黒の濃淡の世界が美しい色彩に彩られる。見る価値もないはずの道端の花が、桃色と若草色に。気にするべきは天気だけだった空が、蒼い、碧い蒼穹に。
「へっ、無能がまたのうのうと。今更何しに来たんだか」
「っ…!学校なんだから勉強しに来たに決まってんだろ。性格カスは思考力もカスみてぇだな」
「んだとてめぇ!!」
「事実を言ったまでだぜ、カス沢カス矢君」
「そこまでになさい!!」
「
「なんだ、りり先輩か…。」
「なんだとは酷い言われようですね島津君。今日こそひっ捕まえて、今までの諸々についてお説教ですわ!」
「やべ」
同級生との諍いより、先輩とのやり取りが意識に残るようになった。あれほど苦痛だった学校も、言うほど辛くなくなった。
「島津ゥ!!地下借りて模擬戦すんぞぉ!!」
「うるせぇ
「円環のお断り申す!!」
「無駄にネタをぶっ込んでくるんじゃねぇ」
「だが断る!」
幾ら振り払っても
「センパイ♪何一人ジメジメとお昼食べてるんですかー♪もっと陽の当たるところで食べましょうよー」
「
「
「知らん。何故それを俺に?」
「いーえ?センパイなら何かしらの情報があるかなー、と。新聞部のネタ集めのついでです。って、先輩にしては随分豪華なお弁当ですねぇ?」
「てめぇの中の俺は一体どういうイメージなんだよ……。」
「可愛らしい針鼠です♪」
うるさい小悪魔後輩が関係ない話題を振ってちょっかいかけて来ても腹が立たなくなった。
心の荒野に降り続いていた雨は上がり、太陽が雲間から顔を出した。
「……ちょっといいかい?」
「なんだ?」
「い、今君がやってるそのゲーム……君、アニメ版知って、いや、見た事あるのかなぁ、って……」
「見てるから、見ておもしれぇと思ったからやってんだよ。てか声ちいせぇ。もう少し大きな声で喋れ」
「あっ、ごめん……それで、知ってるんだね?面白いと思ったんだよね!?あれさ、すごいよね、ストーリーもめっちゃ熱いし!何より語録が作れる程の名言ラッシュ!」
「おぉう、そうだな。俺は4話が好きだな。序盤でメインキャラ死亡と思いきや、まさかの強化フラグっていうね」
「あの話か!僕は2期10話の幼馴染みバトルが………」
「あれは嫌いなファンいねぇって!!あのシーンがまさか……」
高校に入って同じ趣味を持つ者と出会った。
草木なき荒野に緑が芽吹く。芽吹いた緑が姿を変え美しい森を為す。
「あっ!景!それはズルすぎるだろ!?」
「ふはははは!!勝てばよかろうなのだァ〜!!」
「協力しといてなんですけど
友に囲まれ、壮快に笑う景。そこに、かつての陰鬱さは無かった。
「捕まえましたわ!」
「げ」
「そう固くならないでくださいまし?今日は失踪事件増加に伴うパトロールの件ですわ」
「いいですよ」
「はい?え、了承してくださいますの?」
「えぇ。最近
「今までなら『なんでんな事しなくちゃならねぇんだ、しちめんどくせぇ』程度は言っていたはず…というか貴方、敬語使えたんですのね…」
「俺、そんな酷かった…!?」
そんな日常に不穏な影が迫っていたことにも気付かずに。
―――果たして、その影は丹念に研ぎ澄ました牙を剥いた。
「失踪事件の犯人!貴方ですね?
「会って第一声がそれかい?お兄さん傷つくぜ」
現在より3ヶ月前。景は、凛璃、アシュタレス、鳥葬機関
「いけると思った?残念!俺を捕らえるには程遠いんだよねぇ!」
「クソ、屍式程度…!」
「やめとけ。九相術式と悪霊左府の呪殺を同時に食らうか?」
「俺に着け、アシュタレス。ハーロットと悪霊左府にこの街を壊されたいか?」
「そんな!妾は従いました!何故…!」
「は?従ったらやめるとは言ってねぇ。戦力が欲しかったんでな」
あまりに身勝手な言い分。景は最早限界だった。
「クソが!よく聴けアシュタレス!〈2つ目〉だ!『上下関係みてぇな
「その願い、承りました。…さて、覚悟はよろしいですね?」
「クソクソクソざけんじゃねぇ!!何故俺が、なんで俺ばかりッッ!!ざけんなふざけんな巫山戯るなァァァ!!!」
「どんな事情があろうと、上位存在に楯突いたのは純然たる事実。魔界裁判には来てもらう」
「ローズマリーの花言葉、知ってます?……待ってて、必ず…。じゃあ、さよならです」
――――――――――――――――――――――――
そして今。景の隣に、アシュタレスの姿は無い。
「礎に血肉の贄、代償に肉無しの魄。今、杯に契りを注ぐ。」
あの時、景は将道をタコ殴りにして無力化し、アシュタレスは上司のネロ=ハーロットを悪霊左府とともに圧殺し、魔界に送還した。
「満ち満ちよ、溢れ出よ。其の力にて主の御名を穢す。」
菅原将道。彼は才能に溢れ、将来を嘱望される魔術師だった。だが、将道は才能にかまけて努力を怠り堕落し、周囲の侮蔑の対象となった。
「冒涜者の冠を戴き、邪悪の三叉路を巡り、唯物論の王国を築け。」
努力によって自らより才能で劣る者達が自分を超えてゆくのを目の当たりにし、彼は嫉妬に狂い、周囲の魔術師68人を惨殺し、挙句逆恨みで世界を破壊しようとしていた。
「基盤を砕き、美を破り、知恵を否定し、理解を拒み、炎の剣にて慈悲を刺す。」
彼は未だ連行されていったアシュタレスを忘れられずにいた。彼女の最後の笑顔が、彼女に手渡されたローズマリーが、彼を無謀な挑戦に駆り立てていた。
「血よ、我が誓約に応えよ。敵対者へと門を開き、されど
今までに彼が行った召喚は5回。様々な改良を加え、召喚陣を起動したが、その全てが失敗に終わった。
「告げる。我は色欲にて勝利を食み、偽りなる栄華を貪る者。我が名、我が意に従い、其の契約を是すならば、我が魂は汝の下に。」
今回行っているのは【使役契約】。今までの5回より強い反応に景は期待を膨らませる。
「72つの柱より、我に応えし断章よ、其は力を紡ぎ、理を上書き、此処に
暁に輝く光の柱は、朝焼けの薄闇に伸びてゆく。
「我は王なりし汝
力の奔流が、未だ薄暗い蒼空へと溶けてゆく。
「世の
その光の激流が消えた後に人影は―――無かった。
「はぁ…今回もダメか。……なぁ、アシュタレス。もう、会えないのか?」
諦観の溜息をつき、空を見上げる。悪魔が空になどいるはずもないのに。
「でもさ、もし俺の声が聞こえるなら、叶えてくれよ。『毎朝、隣で「おはよう」と微笑んでくれ』」
誰にも届くはずのない願いを口にする。そう。届くはずもないのだ。そう思い、立ち上がった時。
「その願い、承りました。これより履行に移ります。…内容は使役契約への変更でよろしいですね?」
背後から、懐かしい声が聞こえた。
「っっ!??」
驚愕と共に振り向くと、そこにはアシュタレスが悪戯っぽく笑って立っていた。
「な、んで」
「知りませんでした?請願契約は3つ目の願いを言うまで、双方の合意無しでは誰にも解除不能なんです。途中で解除しても魂は持ってかれるんで普通は途中d」
彼女が説明を終える前に、景は彼女に飛びつき、泣き喚いていた。
「うっ、ぐぅっ、ひっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「……全く泣き虫ですねぇ…気が済むまで胸を貸してあげます。」
――――――――――――――――――――――
そして。
「あぁぁぁ!時間!起こしてくれたっていいじゃねぇか!」
「忘れてました〜。朝ご飯とお弁当で〜す」
「あぁもう!相変わらず美味ぇよありがとう!!」
慌ただしく支度をする景。珍しく寝坊したらしい。
「行ってきます!っと危ねー朝のを忘れてた。おはよう、アシュタレス!」
景が元気よく挨拶をする。対するアシュタレスも笑みを返し、
「おはようございます、景君。今日も一日、行ってらっしゃい!!」
2月13日:匿名解除しました。(元名ハザード・フェニックス・ラムクラウド)